第35話魔脈の戦い

 アナタはアイドルに『翻訳』をしてあげたことがありますか?……俺はある。

 

 同盟締結の次の日……

 俺たちはすでに、魔角族の要所『魔脈』のすぐ横の草原に陣をとった。

 「ここが魔角族の『魔脈』か……」

 

 平地の上に簡易的な街が形成され、魔角族が常駐している。

 端から端まで、だいたい五キロメートルくらいあるだろうか……

 「おーいるいる……二千人くらいいるのかな?」

 

 「大規模サーチを使い、すでに我々の事は感知しているでしょう。

 魔法が得意な魔族ばかりを選抜して、防衛に当たらせているようですね」

 メルフィスには現実世界の『双眼鏡』を貸してやった。

 

 「だろうな、『魔脈』があれば魔力が枯渇することは無いんだからな。

 ん~、現実世界の古代中国の『赤壁の戦い』みたいになってきた……

 よーし、この戦いを『魔脈の戦い』と名付けよう。後世に残るかもしれない」

 

 「ギガンティックマスター、余裕があるように見受けられますが」

 「フッフッフ、わかっちゃう?

 とうとううちの『秘密兵器』の出番がやってきたかな……と思ってね」

 「『秘密兵器』……?」

 

 「俺のいる現実世界には、『EMP爆弾』っていう兵器があるんだ」

 

『EMP』……「electromagnetic pulse」の略で、『電磁パルス』のこと。

 パルス状の大電流を発生させることで、一時的に電子機器をマヒさせることができる。

 現実世界でも、色んな映画やアニメなどで取り上げられたことがある、必殺の秘密兵器だ。

 

 「『電磁パルス』ですか……しかし、魔界には電気系の兵器などありませんが」

 「わかってるよ……でもそれが電気じゃなくて、『魔法』だったらどうする?

 使えば魔法が一切使えなくなる秘密兵器なら?」

 「そんなこと想像もつきません……そもそも不可能では?」

 

 「それができるんだなぁ……名付けて『異世界版EMP』」

 「『異世界版EMP』……」

 

 

 「紹介します、うちの『秘密兵器』、ライカンスロープのララちゃんです」

 「ララ様!?アナタが『秘密兵器』なのですか?」

 「い、いや……わ、ワタシにもよくわからないのですニャ……」

 

 「ララのアドバンスドアーツ、『ハウリングヴォイス』は、相手の魔力回路や、周りの精霊に影響を与え、一時的に魔法を使用不可能にすることができるんだ」

 「そんな凄い技をお持ちだったとは……」

 

 「しかもその声に感情が乗ると、さらに威力が上がるらしい。それを利用して、新しいアドバンスドアーツを開発したんだ」

 「新しいアドバンスドアーツ……ですか?」

 

 「とりあえずフララは、これ見てて」

 俺はポータブルDVDプレイヤーで、『悲しい系アニメ』をララに見せる。

 「ううぅぅ、この子、一人ぼっちになって、かわいそう……」

 

 メルフィスはまだ『秘密兵器』の事を疑っているみたいだ。

 「ですが、ララ様の声量だとせいぜい数十メートルが精いっぱいでは?」

 

 「わかってる、そこでこの現実世界の最高アイテムの登場ってわけ」

 現実世界の最高アイテムその⑫『カラオケ装置』。

 魔導連邦サザバードで、音の民の島の音の民たちに貸し出したやつと同じもの。

 マイクと、音量を増幅するアンプつき。

 

 今回スピーカーは通常のものではなく、車のトランクを改造して設置した大型のスピーカー。これなら二キロメートルぐらいまで声が届くはず。

 

 

 「よーし、じゃあ魔角族に『宣戦布告』と行くかー。全員『耳栓』準備!」

 

 現実世界の最高アイテムその⑬『耳栓』。

 耳の穴を塞ぎ、外の音を遮断する道具。

 シリコンゴム製やプラスチック製、綿やグラスファイバ製など色んなタイプがあり、用途も工事現場や水泳用、射撃時など多種にわたる。

 

 「あー、あー、テステステス……魔角族のみなさん、聞こえますかーー?」

 ザワザワザワ……

 おー、ザワついてるザワついてる。

 

 「これから『魔角族』さんたちに『宣戦布告』しまーす!

 俺たちは『吸血鬼族』と『邪尾族』と地上の『人間』の混合部隊でーっす。

 これからそこの『魔脈』を攻略するため、攻撃を仕掛けますんで、よろしく」

 

 「ザワザワ……なんだ今のは?本当に攻めて来る気なのか……」

 

 ララは『悲しい系』DVDを見て、泣く寸前……

 「ううぅぅ……ヒック、ヒック、こ、この子、か、かわいそう……」

 俺はマイクをララの口元に持っていく。

 

 「よし、泣いていいぞララ、新アドバンスドアーツ『大号泣』!」

 「う、う、う……うわああああぁぁぁぁーーーーーんんん!!」

 「わああぁぁぁーーーんん!!」(エコー)

 「ああーーん!」(エコー)

 

 「な、なんだ!?これは……泣き声!?」

 とてつもない大きな泣き声が、魔角族の魔脈中に響く。

 「ア……ガッ……」

 バタッバタッ……

 魔角族の兵の約四分の一、階級が低く、抵抗力の小さい兵は、白目をむいて倒れていく。

 

 「凄い……これが『異世界版EMP』の威力ですか」

 「どうだい凄いだろう?メンバーのみんなも感じるかい?ララの声に反応して、精霊や魔力の源がみんな魔脈から離れていくのを……」

 「……」

 「……」

 あれ?誰も反応しない……

 あそうか、全員耳栓しているんだった……効き目がありすぎるというのも考えもんだな。

 

 俺はメンバーに『手話』で指示を出す。

 「魔法が主力のメンバー、兵たちは後方支援に、

 物理攻撃メンバーと兵たちは突撃だ、俺に続け!」

 「うおおおーーー」

 

 

 「くっ、なんだ?詠唱が……魔法がうまく発動しない!?」

 「精霊を介して発動させる装備やアイテムも、反応しなくなったぞ……いったいどうなっているんだ!」

 

 おお、魔角族の兵たち、慌ててる慌ててる……

 「わあああああーーー!」

 ガキーーン!ズガーーーン!

 魔角族と邪尾族兵が激突!

 

 「よーし、暴れてこい!『異世界あいどる24・アンタッチャブルズ』!」

 「はい!」

 

 

 VSスライムのマロン

 

 スライムのマロンが俺のところに。

 「マスター、私の技は『変身』なのですが、

 魔族の人はみんな想像力が乏しく、いつも何に変身したらいいのか迷ってしまい……」

 「そういうことなら俺に任せろ!俺の『妄想力』は半端じゃないぜ」

 「よろしくお願いします」

 

 マロンはそう言うと、ピョンっと俺の頭の上に。

 「ん~~~、キテます、キテます!アドバンスドアーツ、『イマジネーショントレース』!」

 

 マロンはそのまま空中に浮かんでいく。

 「マスター、その『妄想力』頂きました!変身!」

 ポワポワポワ!

 

 「バオオオオオオオ!」

 「なんだ、あれは!?白い……ドラゴン!?」

 

 そう、おれが妄想したのは……湯気のドラゴン、名付けて『ロウリュウ』!

 「行け!マロン!」

 「バオオオオオオン」

 「ギャーー」

 「熱いいぃぃ!」

 

 ドラゴンになったマロンが通るだけで、高温火傷になってしまう……さらに!

 「スチームブレス!バアアアアア!」

 「ウギャアアアー!」

 口からは高温の『湯気のブレス』……マロン、かっこいいぞ!

 魔角族の兵はたまらず逃げ出した。

 

 「マロン、どうだ俺の妄想力は?」

 「最高です、マスター」

 

 

 VSセイレーンのミライ

 

 数分経ち、戦いは激化してきた。

 「ぎゃあああ」

 「怪我人は治療します、こちらへ」

 後方でアラクネのジュンとセイレーンのミライが治療に専念している。

 腕を斬り落とされた魔族が運ばれてきた……

 

 「これは……酷い」

 今は魔法が使えないので、アイテムなどで体力は回復できるが、大怪我は治せない……応急処置をして、魔法が使えるようになってから治療するしかない。

 

 「とりあえず私の糸で腕を繋ぎます、我慢してください」

 アラクネのジュンは、指から糸を出し、斬られた腕を縫合する。

 「応急処置は完了しました、でも痛みまでは……」

 「うううぅぅ……激痛で、気を失いそうだ……」

 

 セイレーンのミライが魔族の前でオロオロしてる……

 「なんだお前、オレは痛みで気が立っているんだ、邪魔だからどっかにいけ!」

 

 「どうしたミライ、俺が翻訳してやる」

 俺はミライをアナライズ。

 「(私の歌で、みんなの痛みを和らげ、回復速度を速めることができるかもしれません)」

 「……是」

 「よしミライ、やってみてくれ」

 「……是」

 

 「(アドバンスドアーツ、『1/fの揺らぎ』!)」

 「はあーーーーーー♪……」

 ミライのせせらぎの様な高音の歌声……

 

 「おお?これは……痛みが引いていく……」

 

『1/fのゆらぎ』とは、スペクトル密度が周波数fに反比例するゆらぎのことらしい。つまり一定のリズムではなく、『ゆらぎ』を伴うリズムのこと。

 人は『波の音』や『焚き火』など、ゆらぎのあるものを聞くとリラックスする……

 ミライのこの技は、この『ゆらぎ』のリラックス効果を、歌と体内の魔粒子で増幅することができる。

 

 「ミライ助かったわ、ありがとう」

 「……是」

 「アンタ、さっきは怒鳴ってすまなかった……痛みが和らいだよありがとう」

 「……是」

 

 「よかったなミライ、喉の調子もよさそうだ」

 「……是」

 声帯が炎症していたミライは、現実世界の医者の弟に診てもらい、 ネブライザー、消炎鎮痛剤、ステロイド剤などで回復済み。

 

 ミライが、少し顔を赤らめて、俺の方を見てる……

 「ん、なになに、(この人がそばにいてくれれば、私はずっと幸せかも……)だって?」

 「い、否……否ーー!」

 「あー、ゴメンゴメン、あんまり深読みしすぎるのも良くないのかな……」

 

 

 その時、俺たちの近くまで魔族が攻めてきた!

 「オレは『戦慄魔族』!」

 「オレは『旋律魔族』!」

 「二人合わせて、『戦慄の旋律魔族』とはオレたち兄弟のことだ!」

 「『せんりつ』と『せんりつ』?ややこしいなぁ……」

 

 「オレ達兄弟の技を受けてみろ!」

 「アドバンスドアーツ、『アイトキボウノウタ』!」

 ボエ~~~~♪

 これは?ファルセイン攻城戦の時にマキアが使った技……?

 酷い音痴……味方を鼓舞する技なのに、音痴だと効果が逆になるのか?

 ある意味本当に『戦慄の旋律』だ……

 

 これを聞いていたミライが、魔族の前に立つ。

 「あー、あ~、あー……」

 「ミライ……?『チューニング』しているのか?」

 「(チューニング、完了しました)」

 

 ミライは、相手の固有周波数を把握して、『共振』を起こすことができるのだ……

『絶対音感』のさらにその上、名付けて『超域ちょういき絶対音感』!

 

 「(アドバンスドアーツ、『ハイイロの歌』!)」

 「ああああああーーーー♪」

 

 「うおっ、なんだこいつ?オレ達の歌に歌をかぶせてきやがった!」

 「な、なんだ?体が……震えて……」

 

 ミライの『ハイイロの歌』は、歌声に乗せた共鳴周波数の振動波で、対象の原子の結合を破壊する。相手は原子レベルで分解されて粉々になるという恐ろしい技……

 

 「ガハッ……」

 戦慄の旋律兄弟は、鎧や武器は粉々に、自身も体中から血を吹き出しその場に倒れた。

 「私たちの時にこんな技使われたら、やられていたかも……」

 カスミが旋律兄弟を見て囁く……

 「喉が炎症していて、逆に助かったのかもな……」

 

 

 VSラミアのコマチ

 

 ラミアのコマチの前に、翼の生えた魔角族が……

 「私の名は『獄鎖ゴクサ魔族』……お前、毒蛇の魔物『ラミア』だな?」

 あの魔族、獄鎖というだけあって腕からたくさんの黒い鎖が伸びてる……コマチでは荷が重いか……?

 

 「技は『毒の牙』しかなかったはず……毒なんてアイテムでもすぐ治療できる、お前の技なんて怖くも何ともないな」

 「くっ……」

 

 「しかもこの鎖があれば、お前に触れなくても掴めるしなぁー」

 ジャララララッ!

 そう言うと、獄鎖魔族はコマチに鎖を巻きつけた!

 「くっ……」

 「三の獄・『堕天ダテン』!」

 獄鎖魔族はそのまま空を飛んで、コマチを空中へ!

 「キャーー」

 「コマチーー!」

 

 「このまま地面に叩きつけてやる!」

 獄鎖魔族がコマチを地面に放り投げる!

 俺は後先考えずに走り出し、コマチをキャッチ!背中から地面に叩きつけられた。

 ドカッ!

 「ぐふっ」

 

 「マスター!」

 「ハーハッハ、バカめ、自分が毒状態になったら世話がない」

 俺は毒にかかりながらもコマチを抱きしめる。

 ジュウウウ……

 「ぐっ……」

 

 「マスター、私に触ると毒が……」

 「俺は大丈夫だ、それよりお前が無事でよかった」

 「私、初めて誰かに抱きしめられました……この体のせいで親にも抱きしめられたことがなかったのに」

 「そうなの?」

 そう言ったコマチの顔は、少し照れたように微笑んでいた。

 

 「なんだちゃんと笑えるじゃないか」

 「私は醜かったので、親にずっと笑うなと言われていました……すみません」

 醜いって……ちょっと顔にウロコとかがついてるだけなのに。

 

 「大丈夫だコマチ、

 この世に笑っちゃいけない人なんていない……俺が許す、これかもずっと『笑顔』でいること。これは命令ね」

 「マスター……ありがとうございます、私、少し救われたような気がします」

 

 コマチが少し微笑む……その時!

 パアアア……

 「こ、これは……まさか」

 クリスやコウの時と同じ光……コマチも進化するのか!?

 

 「あれ?」

 気が付くと俺の腕にコマチはいなく、代わりに皮のようなものが……

 「これって……コマチの『皮』!?」

 

 見上げると、眩しい光の中にコマチが……顔や腕のウロコとかもなくなってる!

 「これは……『神獣進化』、コマチは『ラミア』から神獣の『ナーガ』に進化したようです。どうやら『笑顔』がレベルキャップのキーワードだったようですね」

 アマネが説明してくれた。

 

 神獣『ナーガ』……

 インド神話に登場する蛇の神。

 上半身が人間で下半身が蛇、頭が七つあるなど、色んな姿で描かれることが多い。

 仏法の守護神にして、天気を制御するチカラがあるという……

 

 「コマチ……お前ナーガに進化したのか」

 「そうです、ありがとうございますマスター、しかも脱皮したことで、醜かった顔や腕も普通の肌になりました」

 

 いや、言うほど醜くはなかったけどな……でも神獣ナーガか、さっきまでとはオーラが違う。

 いつの間にか降っていた雨は止んで、コマチの周りにいくつもの虹が出現している。

 

 「この魔界に、虹が出るなんて……なんて不吉な」

 魔族たちが騒いでる……魔界の虹って不吉の前兆なのか?

 

 

 獄鎖魔族が襲ってきた!

 「『ナーガ』など所詮ラミアの上位種ぐらいだろうが!また鎖で空中に放り投げてやる!」

 

 「私とマスターに近づくな!アドバンスドアーツ、『乱気流タービュランス』!」

 「うおおおぉぉ?」

『堕天』で空を飛んでいた獄鎖魔族は、乱気流に巻き込まれ、地上に落下。

 

 「アドバンスドアーツ、『硫酸雨アシッドレイン』!」

 ザアアアアァァ……

 「なんだこの雨は……鎧や武器が、溶けていく!?」

 硫酸の雨って……魔角族たちはパニックに。

 

 ポツッ、ポツッ……

 空から小さな氷の粒が降ってきた……これは、『ひょう』?

 「こんな小さな氷で、私たちに攻撃してるつもりか?まったく効かねぇなぁ!アーハハハ」

 獄鎖魔族が、コマチをバカにするように笑い出す。

 

 その時、隣にいた魔族が、獄鎖魔族の肩を叩く。

 「お、おい……あれを」

 「ああ?……な、なんだありゃーー!?」

 魔族が指さした空には、直径十メートルはあろうかという氷の塊が、魔族めがけてゆっくり落下してきていた。

 

 「アドバンスドアーツ、『氷瀑ひょうばく』!」

 「うわあああああ」

 ズ・ズズズーーーーン!

 そのまま巨大な氷塊に押しつぶされ、魔族たちは沈黙した……

 

 「天気を制御するチカラ……凄い威力だな」

 「マスター、天気を変更したいときはいつでも私に言ってくださいね」

 

 

 VSイフリートのユカリ

 

 イフリートのユカリが、魔角族兵の前に立ちはだかる。

 

 「アドバンスドアーツ、『炎の剣』!」

 ゴオッ!

 ユカリが手をかざすと、ユカリの手が炎に包まれる!

 

 「この炎は私の体の中の魔粒子を使っているので、精霊や外界の魔力は関係ありません」

 ユカリが構えると、炎は真っ赤に燃え上がる!

 

 「『赤炎剣せきえんけん』!」

 ボアアアッ!

 「ぎゃああー!」

 ユカリの真っ赤な炎の剣に斬られて、魔角族兵が燃え上がる。

 

 「この野郎!」

 後ろから魔角族兵が!

 

 「『黄炎剣こうえんけん』!」

 バオオオオ!

 「ぐあああー!」

 

 おお、ユカリの手の炎の色が赤から黄色に……温度を上げたのか。

 確か赤い炎の温度は約千五百度……それが約三千五百度を超えると黄色く変化する。もうマグマよりも温度が高いってことだ。

 

 

 「フッ……『炎使いか』、我らが何の対策もしていないとでも?」

 ユカリの前に現れた魔族……あいつの装備、まさか『マゼンタイーグルの衣』か!?魔界にも普通に存在しているんだな……

 

 「『赤炎剣』!」

 ボアアアッ!

 「ハハハ、効かん効かん」

 

 「くっ……ならば、『黄炎剣』!」

 バオオオオ!

 「グオッ……フフフ、残念だったな」

 

 マジか、三千五百度もある炎の剣でも、ダメージがないのか!

『マゼンタイーグルの衣』……俺が言うのもなんか変だが、優秀すぎる。

 

 「ガハハハ、炎の攻撃しか持たないお前では、私を倒すことはできん。水や氷の技があるなら別だがなぁー!」

 イフリートに水や氷の技があるわけがない。

 ユカリには下がってもらうしか……ん?あの顔、ユカリはまだ諦めていない?

 『アナライズ』!

 

 (あの技を使うことができれば……でも今の私の魔力では到底……)

 ユカリのやつ、何かとっておきがあるみたいだな……

 

 「ユカリ!お前のとっておきを使え!」

 「マスター、しかし……」

 「大丈夫だ、お前ならやれる」

 

 「……分かりました、やってみます」

 コオオオオオ……

 ユカリが魔力を高める、手の炎の色が赤から黄色へ……

 「はああああ」

 さらに温度を上げている……これは!

 

 「な、なんだ?炎の攻撃は無駄だと言って……」

 「行きます!アドバンスドアーツ、『烈火 白炎剣びゃくえんけん』!!」

 ユカリの手の炎の色が、黄色から白色へ!

 白色の炎の温度は約六千五百度……太陽の表面温度すら超える!

 

 ズバアアアッ!

 「グガアアアアア!」

 さすがの『マゼンタイーグルの衣』も、六千五百度の炎の剣を受けてはひとたまりもない! 魔角族の兵は体中が燃え上がり、その場に倒れた。

 

 「やった、やりましたマスター……えっ、これは?」

 ユカリのもう片方の手には、鞭の柄の部分が巻き付いている……

 その鞭の先端は俺が掴んでいた。

 「まさか、これは……『魔奪まだつの鞭』?」

 

 「ハハハ、やったなユカリ……お前は大丈夫だって言っただろ?」

 「『魔奪の鞭』を逆にして、私にマスターの魔力を送っていたのですね……なんて無茶を」

 「でもこれでお前の最大魔力量も上がった、あとは魔力回復したら、自分一人でも『白炎剣』を使えるようになるはずだ」

 「マスター、すみません、ありがとうございます……」

 

 

 VSトレントのジュリ&ココ

 

 「くらえ!」

 魔角族の攻撃!

 ドカーーーン!

 

 土煙が晴れると……トレントのジュリが防いでる!?

 「フッフッフ、その程度の攻撃では私は倒せませんよ」

 さすがはトレント……鋼鉄並みのボディで、ほとんどダメージを受けていない。

 

 「相手はトレントか……オラに任せとけ」

 魔角族の中から、でっかい斧を持った、でっかい魔族が出てきた。

 「オラの名前は『蛮斧ばんふ魔族』……これでもくらえ!魔法斧『パイロアックス』!」

 ズガガガガ!

 「きゃあああ!」

 

 やばい!木の精霊トレントは、炎が弱点だ。

 「ジュリ、下がれ!」

 「そうはいかんゾ」

 まずい、魔族に回り込まれた、このままじゃ……

 

 「そうれ、まずは一人目!」

 ガキイイィィ-ン!

 「なに!?」

 

 「私にお任せを」

 おお、イフリートのユカリが助けに入った!

 「ありがとう、助かりました」

 

 「ジュリ、アナタにはこれをプレゼントします……『フェニックスウォール』!」

 ボオオオオオ……

 「これは……?」

 「この『フェニックスウォール』はずっとジュリの前に張り付き、ジュリを守ってくれます。これでもう炎の攻撃はジュリには効きません」

 

 あの技って、ファルセインの攻城戦でスミレが使った技?そんな凄い技だったのか……

 「よーし、これがあれば蛮斧魔族なんかには負けないわ……ココ、あの技行くわよ!」

 「え~……」

 

 ジュリとココは、二人で肩を抱き、気力を高める!

 「行くよ!はああああ!」

 そのまま二人で魔族に突撃!

 

 「く、くそっ、四の獄『黒曜』……」

 

 「レゾナンスアーツ、『親子の絆アターーーック』!」

 「いや、親子じゃないからーーーーー!」

 ドガアアアアアーーン!

 「うぎゃああああ!」

 

 蛮斧魔族は吹き飛んでいった……

 鋼鉄並みの硬度を持つトレントは、ただ突撃するだけでも立派な必殺技になる。

 「このまま放っておいたら、いったい何体吹っ飛ばされるかな……」

 

 

 VSメデゥーサのメメ

 

 「わらわの敵はどちらでしょう……」

 メデゥーサのメメ……眼を見ると誰でも石化してしまうので、

 現実世界の『アイマスク』で眼を隠している。

 ちなみにメメのお気に入りは『目が燃えている絵のアイマスク』。

 

 魔力の元である髪の毛を剃られ、使い魔にまで落ちてしまっていたが、現実世界の便利アイテムで、見事復活を遂げた。

 

 現実世界の最高アイテムその⑭『ウィッグ』。

 おっさんが着けたりする『かつら』とはちょっと違い、『ウィッグ』はファッションで着ける人が多い。

 今では医療用、コスプレ用など、用途も幅広い。人毛を使用するのでお値段は少し高め。今では現実世界の奥様方の、御用達アイテム。

 

 

 「アドバンスドアーツ、『ストーンヘンジ』!」

 メメは、自分の石のついた首輪を投げると、それが巨大な石柱に!

 ドカッドカッドカッ!

 「ぐわああああ」

 

 「お前ら下がれ、ここはこの『厄盾やくじゅん魔族』様が相手してやろう!」

 真っ黒で巨大な盾を持った魔族が出てきた。

 「アドバンスドアーツ、『ストーンヘンジ』!」

 ガキィィーーン!

 「クックック、ワレの自慢のこの『厄盾』があれば、その程度では効きはせん」

 「くっ、妾のストーンヘンジが……」

 

 「大昔ならいざ知らず、今は魔法の『リ・フェノメノン』や、解石のアイテムなどがある……いくら伝説のメデゥーサといえど、石化など怖くも何ともないわ!」

 「そうですか……ではメデゥーサの眼の真の力をご覧に入れましょう」

 「なに!?」

 

 そう言いながら、メメは『アイマスク』をずらしていく……

 「ゴクリ……」

 厄盾魔族たちが、唾を飲み込んだ音が聞こえる……

 「お前たち、『石化回復薬』の準備、少しでも魔法が使えるやつは『リ・フェノメノン』の準備だ」

 

 「アドバンスドアーツ、『メデゥーサ・アイ』!」

 カッ!……ザアアア……

 

 厄盾魔族たちは一瞬で石化した……と思ったら、次の瞬間砂になって風に飛ばされていった。

 あれだけ粉々になったら、再生はもう不可能だ……

『風化』……これがメデゥーサの眼の真の能力。

 アイテムや魔法で回復……なんてレベルの話じゃない。

 

 「マスター、妾はこの『燃える目のアイマスク』はもう飽きましたのじゃ、違うのが欲しいのじゃ」

 「わかったよ、今度一緒に買いに行こうか」

 「次は猫ちゃんの目をしたアイマスクがいいのじゃ」

 

 

 VSアラクネのジュン

 

 「こ、こいつら恐ろしく強いぞ……後退だ、後ろへ下がれ」

 魔角族の兵が後退し始めた……その時、

 「まったく情けない、弱者は見るに耐えん……消えろ」

 キュウゥゥン、バシュッ!

 

 魔角族の兵たちの首が宙を舞った!なんだ……この異様な気配は?

 「フフフ、我は『妖糸魔族』……次に死にたいものは前に出ろ」

 

 「気を付けてくださいギガンティックマスター、『妖糸魔族』が現れました」

 「『妖糸魔族』?」

 

 「破壊と殺戮を好み、雇われて戦闘に参加する傭兵、いわゆる『戦争屋』です」

 「魔界の戦争屋か……」

 

 「そんな糸、俺の灼熱で燃やしてやるぜ!」

 灼熱魔族が妖糸魔族に攻撃を仕掛ける!

 

 「ほう、生きがいいな、我の『操り人形』にしてやろう……

 アラクネ流操糸術そうしじゅつ、『デッドエンドマリオネーション』!」

 キュイィーーン!

 妖糸魔族の指から糸が飛び出し、灼熱魔族の体中に突き刺さる!

 

 「な、なんだこれは?体が、いうことを……効かない?」

 「我の糸で貴様の神経網を掌握させてもらった……貴様の体は我の自由自在だ」

 妖糸魔族が指で糸を動かすと、灼熱魔族が味方の邪尾族兵に襲い掛かってきた!

 「うわああ、やめろ灼熱!オレ達は味方だぞ……ぐあああ」

 「く、くそっ、体が勝手に……みんな、オレから離れろ!」

 

 「ハーハッハッハ、貴様ら全員、同士討ちをさせてやろう」

 「くっ、あいつだ、あいつが灼熱を操っているんだ!みんなであいつを倒せ!」

 「おおーー!」

 邪尾族兵たちが、妖糸魔族に襲い掛かる!

 ニヤッ……

 

 バシャアアアァァン!

 「な、なんだ?糸が絡まって……動けない!」

 「フフフ、アラクネ流操糸術そうしじゅつ、『エントラップメントウェブ』!」

 邪尾族兵たちは全員、妖糸魔族が仕掛けた蜘蛛の巣の罠にかかっている!

 

 「くそっ、もがけばもがくほど、糸が絡まって……」

 「ハハハハ、死ね、『ギロチンストリンガー』!」

 邪尾族たちの首に糸が絡んでいる……

 キュンッ!バシュッバシュッ!!

 邪尾族兵と灼熱魔族の首が宙を舞う……

 「んん~これだから戦争はやめられん……楽しいのぉ」

 

 「あいつ、殺しを楽しんでやがる……」

 「これ以上被害を増やすわけにはいきません、私が相手をします!」

 「マキア、危険だ」

 「大丈夫です、この距離なら……」

 マキアが気力を高める……

 「はああ、おーぎ『マキアインパクト』!」

 ズガガガガ!

 

 「やった、倒しました」

 「マキア!後ろだ!」

 「えっ?」

 「今のが五の獄、『幻夢ゲンム』だ、覚えておくといい」

 攻撃が当たったと思ったのは幻術で、本体は別の場所に……『うつせみ』に酷似している。

 「しまっ……」

 

 「『デッドエンドマリオネーション』!」

 「きゃあああ!」

 「しまった、マキアが……」

 

 「フハハハ、どうだ、この技が決まった以上もうこの女の体は我の自由。さあ、その手で愛する者たちを八つ裂きにするのだ!」

 「そ、そんな……」

 「くそっ、マキア……どうする?」

 その時!

 

 「アラクネ流操糸術、『デッドエンドマリオネーション』!」

 「なんだと?」

 俺たちの後ろから糸が飛び出し、マキアの体中に刺さった!

 「アナタの『デッドエンドマリオネーション』を、私の『デッドエンドマリオネーション』で上書きしました……マキアさん、もう大丈夫です」

 「ジュン!」

 

 「貴様は……フッ、生きていたのか」

 「お久しぶりです、師匠」

 「えっ?妖糸魔族って、ジュンの師匠なの?」

 「黙っていて申し訳ありませんマスター、

 妖糸魔族は、捨て子だった私を育ててくれた、父親ともいえる存在で、師匠でした」

 「そうだったのか……いや、でも助かったよジュン」

 

 ジュンは右腕が欠損していたが、現実世界の『義手』を装着している。

 しかもただの義手ではない……

 現実世界の最高アイテムその⑮『筋電義手』。

 筋肉の微弱な電位で動かすことのできる最先端の義手。

 しかしこの電位で細かい動きを再現するのは至難の業で、今でもオープンソースでの開発が進められている。

 

 

 「久しぶりだな、二年ぶりか……

 我の技を上書きしてその者を助けるとは、未だにまだその甘い性格は治らぬか……ニンゲンなんぞに拾われるとは、貴様にピッタリだ」

 

 「私のことは何と言っても構いません、ですがマスターのことを悪く言うのはおやめください」

 

 「貴様は本当にできの悪い弟子だった……

 二年前、殺しができない貴様に、カイーナ級の家族が飼っていた『犬』を殺せと命じたが、貴様は殺すことができなかったな。それで使い魔に落ちるとわかっていたのに……」

 「……」

 「安心しろ、あの後我がしっかりあの家族ごと殺しておいたわ」

 「!……なんてことを」

 

 「そのチカラと技のキレ、貴様には一目置いていたのだがな……非情になれぬその性格では、我を超えることは不可能……」

 「私は、別に師匠を超える必要はありません……

 自分と、自分の大切なものを守ることができれば、それでいいのです」

 

 「我の糸は敵を罠にはめ、動きを封じ、首を落とすためにある」

 「私の糸は音楽を奏で、傷を塞ぎ、絆を、運命を紡ぐためにあります」

 

 「フッ、甘い考えだ、仲間など持つからそうなる……自分が最強なら仲間などいらぬ」

 「いいえ逆です、仲間がいるなら、最強なんていらない!」

 

 「貴様と話していると頭がおかしくなりそうだ……もういい、我自らその首叩き落としてやろう」

 キュウゥゥン!

 妖糸魔族がジュンに近づき、その糸をジュンの首に巻き付ける……

 

 「死ぬがいい、『ギロチンスト……』」

 バシャン!

 「な、これは……?」

 「アラクネ流操糸術、『エントラップメントウェブ』……

 以前の師匠なら、私のこの技にかかることなんてなかったのに」

 

 「くっ、こんな糸ぐらい簡単に……なんだこれは?切れない?」

 「私の糸は普通の糸ではありません、メンバーのライカさんにもらった、マスターのいる世界の『アラミド繊維』製。怪力の魔族でも、簡単には切れません」

 「おのれ小癪な……」

 

 「師匠が弱くなったのか、私が強くなったのか、それはわかりません……

 ですが私は師匠から『卒業』します……自分の、大切な人たちを守るために!」

 

 ジュンが構えると、糸が束ねられ、弓の形に。

 そのまま右手を引くと、光る矢が装填される……

 

 「師匠……私は、今、ここで、アナタを超えます」

 「おのれおのれおのれー!」

 

 「アラクネ流操糸術奥義、『ストリンガーデストラクション』!」

 バシュン!!

 

 「くっそおおおおおお!」

 ズガガガガ!

 

 やった、ジュンが妖糸魔族を倒した!

 

 

 ◆魔角族side

 

 「魔角族皇子シャルド様、たった今『妖糸魔族』が倒された模様です」

 「なんだと、魔法が使えなくなったとき用の切り札だったのに……」

 「すでに魔力なしで戦えるものはごくわずか、撤退をお考えになった方が……」

 

 「ふざけるな、ここを取られたら戦況は邪尾族の方に傾いてしまう…… たとえ最後の一人になろうと、必ずここは死守してみせる!

 「ですがこのままだと、敵がここに攻めてくるのも時間の問題かと」

 

 「オレは『闇のエレメンタルトーカー』だ……たとえ精霊たちがここから離れても、『会話』ぐらいはできる。

 魔界の地中に生息する、闇のエレメント『ダークマタードラゴン』は、地表の魔力を感知して、その状況を計ることができる」

 

 「おお、ではダークマタードラゴンはなんと?」

 「敵側の中にいくつか大きな魔力があるが、その中でも一番大きい魔力の持ち主が、あの軍を統括しているようだ。

 そいつを倒すことができれば、今の状況をひっくり返すことができるだろう」

 「一番大きな魔力の持ち主、ですか?」

 

 「どうやらそれは、あそこに見えるニンゲンのようだな……あいつさえ倒せば、あんな急造の軍など物の数ではない」

 

 「しかし、あのニンゲンの周りには相当な手練れが集まっています、我々だけではさすがに……」

 「オレにはアドバンスドアーツ『影足えいそく』がある。

 影を亜空間で繋げ、やつの死角から攻撃すれば、避けることはできまい」

 シャルドは腰の鞘から黒いダガーを抜く。

 

「オレには必殺のこの『三重殺さんじゅうさつのダガー』もある……

 このダガーは一撃で『打撃』『斬撃』『射撃』の三属性を同時に発動することができる。初見でこのダガーを回避することは不可能だ。

 しかも一度刺されば取れず、回復を阻害する音波を出し続ける」

 魔角族皇子シャルドは、ダガーを構え、目標を『ギガンティックマスター』に定め、攻撃を開始する。

 

 「アドバンスドアーツ、『影足えいそく』!」

 シャルドは自分の影に飛び込むと、そのまま吸い込まれ、一瞬で『ギガンティックマスター』の影まで移動した!

 

 「えっ」

 予想外、しかも死角からの攻撃に、『ギガンティックマスター』は反応が遅れる。

 

 「死ねニンゲン!エクイップメントアーツ『三重殺トリプルマーダー』!」

 「マス……」

 「!……ッ」

 

 ザシュッ!!

 

 

 ☆今回の成果

  スライムのマロン 『イマジネーショントレース』を習得

  セイレーンのミライ 『1/fのゆらぎ』『ハイイロの歌』を習得

  ラミアのコマチ 『ナーガ』に神獣進化

  イフリートのユカリ 『炎の剣』を習得

  トレントのジュリ&ココ 『親子の絆アタック』を習得

  メデゥーサのメメ 『メデゥーサ・アイ』を習得

  アラクネのジュン 『アラクネ流操糸術』を習得

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