第34話同盟締結

 アナタはアイドルに『触れられないもの』と名付けたことがありますか?……俺はある。


 俺は今の戦闘で使い魔をやっていた四人をスカウトして、名前を付けさせてもらった。


 「『炎の精霊イフリート』のユカリです。炎のことなら任せて下さい」

 炎の上位精霊……その実力やいかに。


 現実世界の『日光 紫』は、あいどる24の『クールビューティ』。

 自分の歌い方を熟知しており、どんな歌もそつなくこなす。

 ちょっと健康オタクなところも好感度高し。



 「木の精霊トレントのジュリとココです、親子です」

 「違います」

 「……アハハハ」

 さすがの俺も苦笑い。


 現実世界の『守実 樹里』は、あいどる24随一の『アニメ・ゲームオタク』。

 大人っぽい雰囲気からは想像がつかないギャップ萌え。

 アニメ・ゲームの話をふると、永遠に終わらないので注意が必要。


 現実世界の『林 ここ』は、あいどる24の『美術・イラスト』担当。

 イラストを描くことが趣味で、グッズ開発の相談に乗ったりもするほど。

 将来の目標はファッションモデル。


 「妾は『メデゥーサ』のメメと申すもの……以後お見知りおきを」

 見たものを石にすることができる魔物『メデゥーサ』。

 魔力が戻ってから、本当のチカラはまだ見せていない……


 現実世界の『石動 芽々』は、あいどる24の『目ヂカラナンバーワン!』。

 自他ともに認める『ぶりっ子キャラ』。

 俺は勝手に『ぶりっ子の具現化』『ぶりっ子の化身』という通り名で呼んでいる。


 「彼女たちも『異世界あいどる24』の新しいメンバーだ。

 みんなそれぞれ事情があって使い魔をやっていたが、その実力は折り紙付きだ、みんなよろしく」

 「はい」


 「新メンバーの呼び名なんかがあったら便利なんだけど……みんな今まではなんて呼ばれていたんだ?」

 代表してユカリが応対する。

 「私たちは魔界の使い魔の中でも、『アンタッチャブル』と呼ばれていました……」

 「『アンタッチャブル』……『不可触民』か」


 現実世界のインドのカースト制度最下層の奴隷も、『不可触民・アンタッチャブル』と呼ばれていた。『触れてはいけないもの』という意味らしい。


 「俺は実は『アンタッチャブル』って言葉、そんなに嫌いじゃないんだ」

 「最下層の奴隷なのに……ですか?」


 「『触れてはいけないもの』なんて逆にかっこいいじゃん!

『強くて触れられない』『高貴すぎて触れられない』『美しくて近づけない』……

 アイドルとはかくあるべきだと思うんだ、そうだろ?」

 「あい……どる?」


 「だからお前たち八人はそのまんま、『異世界あいどる24』の『アンタッチャブルズ』と命名する」

 わーーーパチパチパチパチ。



 そんな話をしていたら……南の方から土煙が上がっている。

 豪華な椅子を設置した神輿に乗った女の魔族が、大勢の男性魔族に担がれながらやってきた。

 背中に黒い羽、口には牙、小悪魔的な格好をした魔族……


 「オーホッホッホ、アタシは『トロメア級』の『蝙蝠魔族』……

 アタシを出し抜いて吸血鬼族を復興するなんて言っているのは、どこのどいつかしらー?」


 俺とコウは顔を見合わせた。

 聞いたことのある声と喋り方、まさか……


 「げっ!?まさかお前……いや、貴女は、姫!?生きておいででしたか」

 ……あいつ、コウの顔を見て「げっ!?」って言いやがった。


 「久しぶりですね、ヴェルマリア……元気そうで何よりです」

 「まさか、吸血鬼族復興は貴女が……?」

 「そうです」


 「そ、そうでしたか……確かに貴女が復興するというのなら、筋は通りますわね……ですが、豪族であるアタシたちをないがしろにして復興とは、いかがなものかしら?」

 「ではどうしろと?」


 「アタシを貴女の国の重要な役職に就かせてもらおうかしら……

 何せアタシは『トロメア級』ですから、オーホッホッホ」

 「お断りします……また裏切られて、責任を擦り付けられても困りますから」


 「な、なんですってーー!」

 神輿を降りてきた蝙蝠魔族は怒り心頭、取り巻きの男性魔族に八つ当たりを始めた。


 「貴女は昔からいつも、そうやってアタシを上から見下して、気に入らないったらありませんわ」

 そう言いながら男性魔族をゲシゲシ踏みつける。

 「ぐっ……ぐはっ」


 「おやめください蝙蝠魔族さま、その者は先日も蝙蝠魔族さまの八つ当たりを受け、腕を骨折したばかり……蹴るなら私を」


 「ああ?『カイーナ級』のくせにアタシの意見する気ですの?」

 「いえ、滅相もない……」

 「おい、誰かこいつの『舌』を切りなさい」

 「えっ」


 「聞こえなかったのですか?こいつの『舌』を切り落とせ!

 そして骨折しているこいつは処刑よ……アタシの蹴りに耐えられず声を上げるなんて情けない」

 「そ、そんな」


 「早くしなさい!それともお前たちも、こいつらと同じような目に合いたいのかしら?」

 「ううぅぅ……すまん」

 そう言いながら、他の魔族たちが二人の魔族を押さえつけている……

 「オーホッホッホ、それでいいのよ、お前たち『カイーナ級』に人権などないのよ!恨むなら『カイーナ級』に生まれてきた、自分の運命を恨むのね……オーホッホッホ」


 「ヴェルマリア……アナタは変わっていませんね」

 今まさに舌と首を切られそうだった二人の魔族を、コウが助けていた。


 「今でもそうやって弱きものをいたぶって、貶めて、楽しんでいるのですね」

 「なんですの、偉そうにもう王様きどりですの?

 でもこういうことをしているのは、アタシだけではありませんわ……

 魔界中をごらんなさい、みんなしていることですの、アタシだけが責められる言われはありませんわ!」


 「そうですね、これこそがこの魔界の変えなければいけないところ……

 ですから私が、この魔界を変えてみせます」

 「そんなことできるわけないですわ!」


 「私にはできます……マスターと、私のこの技があれば」

 ズズズズズ……

 今まで感じたことがないほどの魔力の高まり……

 コウの目がさらに赤く光っている。

 「あなたには特別に見せてあげましょう……魔王となった私の『七獄しちごく』を」



 「お、お前たち、アタシを守りなさい!」

 蝙蝠魔族は、取り巻きの魔族たちを自分の前に立たせ、後ろに隠れている……

 「そ、そんな……蝙蝠魔族さま」


 「ご安心を、この技はダメージを与える技ではありません。

 そして、すでにヴェルマリア、私はアナタを『ロックオン』しています」

 コウの目には、蝙蝠魔族だけが映し出されている。


 「さあ、その身で受けなさい……吸血鬼族の七獄、『エナジードレイン』!」

 オオオオオオオ……

 「ひ、ひいいぃぃ」

 黒い魔粒子が蝙蝠魔族の周りに纏わりつき、そのままコウの元へ戻っていく……


 「ハ、ハハハハ……何もないではありませんか、焦って損しましたわ」

 「いいえ、しっかりと効果はありました。

 今の技でアナタのレベルを『三十』奪い、私に上乗せしました……

 残念ですが、アナタはもう『トロメア級』ではなく、『カイーナ級』に落ちてしまいました」


 「は?な、何を言っているんですの?そんなわけ……」

 「ならば、『トロメア級』の六獄りくごくを使ってみて下さい」


 「そ、そんなの簡単ですわ、四の獄・『黒曜コクヨウ』!……あれ?」

 蝙蝠魔族には何も起こらない……


 「お、おかしいですわ、三の獄・『堕天ダテン』!」

 し~ん……

 「そんなバカなことが……アタシ、本当に『カイーナ級』に……?」


 「蝙蝠魔族さま……いや、お前、本当に『カイーナ級』になったのか?」

 「ギクッ!」

 蝙蝠魔族の取り巻きの、男性魔族たちの様子が変だ……


 「俺の恋人は、お前より可愛いからという理由で処刑された……」

 「私の父は、お前の前を横切ったというだけで、両目と両足を潰され、今も家で寝たきりだ……」

 「今まではトロメア級だったから、命令には一切逆らえなかったが、本当にカイーナ級に落ちたというのなら……」

 「ち、ちょっと、落ち着きなさい……これは何かの間違いよ、そうに決まっているわ!」


 コウが蝙蝠魔族に囁く……

 「転移者たちの世界に『正負の法則』というものがあります。

『良いことがあれば悪いことが、悪いことがあれば良いことが交互に繰り返される。

 自分さえよければいい、と他人を不幸にする者は、必ずその報いを受ける』……

 まさに自業自得、アナタにかける言葉はありません」

 「そ、そん……」


 取り巻きの男性魔族たちが、みんなで蝙蝠魔族を連れていく……

 「な、なに?どこへ連れていく気?アタシを誰だと思っているの……」

 「いいか、絶対に殺すなよ……こいつにはこの世のすべての地獄を味わってもらうんだからよ……」


 「ま、待って……いや、いやあああああああぁぁぁぁーー」


 今の蝙蝠魔族の悲鳴、魔界中に響きわたったようだった……

 とりあえず一人目の豪族はクリアかな?



 「今までの戦いは全て、鏡の魔法『ミラーコネクト』で魔界中に中継していました。先ほどの七獄『エナジードレイン』は、魔族の立場からすると『脅威』そのものだったでしょう……」


 「そうだな、レベルや階級で全ての優劣が決まる魔族にとって、『エナジードレイン』は最悪最凶の技だろう。

 今のをリアルタイムで見たのなら、他の魔王や魔族が黙っているわけはない」

 メルフィスの作戦も、コウの『魔界を変えて見せる』っていうセリフも、

 なんか現実味を帯びてきた気がする……


 *****


 「さて、最後の豪族って奴も来るかな?」

 「来るでしょう……『魔剣魔族』はこの辺り一帯を仕切っている大物。その強さもかなりのものです」


 「やっぱり『魔剣』を使うのか?」

 「はい……『魔剣』は相手を呪ったり、斬った相手のチカラを削ぐことができます。魔剣魔族は、その魔剣を自分で作ることもできるのです」


 「自分に合った魔剣を作る……もしくは相手の嫌がる効果の魔剣を作ることも可能ってわけか、手強そうだな……」



 しばらくすると、北の方角から色んな武器を携えた魔族たちが現れた。

 「僕の街のすぐ近くで、好き勝手暴れているのは、君たちかな?」


 魔族たちの中から、屈強なドラゴンに乗っている魔族が話しかけてきた、こいつが『魔剣魔族』……?

 「お、おまっ……」

 俺とメンバーたちは、思わず吹き出しそうになった口を押さえた……

 そう、魔界の実力者、『魔剣魔族』はなんと俺の『弟』にそっくり!

 間違いない、こいつ弟のドッペルゲンガーだ。


 「ギガンティックマスター、メンバーのみなさん、どうかしたのですか?」

 事情を知らないメルフィスはキョトン顔。

 「弟のドッペルゲンガーは、魔界にいたんだな……」


 「君たちがここで国を興せば、すぐ近くの僕たちの街は、必ず戦争に巻き込まれる。僕は魔界の王が誰になろうと知ったことじゃない……

 だから君たちが国を興す前に倒してしまえばいい、そう判断した」


 なるほど……争いごとが嫌いな『弟』と同じような考え方だ。

 魔族とはいえ、弟と同じ顔したこの魔剣魔族と戦うのは、少し気が引ける……

 まてよ、生まれ育った環境などは違っても、基本的な性格や弱点なんかは変わらないはず……


 「ちょっとカマをかけてみるか……」

 俺はみんなの武装を解き、一人魔剣魔族の前に歩いていく。


 「俺は『転移者』だ、アナライズでお前のことは何でもわかる。

 お前はたぶん乗り物が苦手だったはずだ、そのドラゴンの乗り物は大丈夫なのか?」


 「な、なんでそんなことを……!?」

 「ザワザワ……そう言えば魔剣魔族さま、前の車輪付きの乗り物はすぐに降りていたな……」


 「虫とかも苦手だったと思うが、その足元の虫は平気なのか?」

 「え!?どこどこ?うえ~~!」

 「ザワザワ……今のリアクション、本当に虫が苦手だったのか……」


 「好みの女性はボーイッシュな子、短髪で背の低い子だったよな?」

 「そ、それは……」

 「ザワザワ……そう言えば最近の側近は、みんな短髪で背の低いボーイッシュな子ばかり……」

 「待て待て待て、それは今関係ない!」


 うーん、やっぱり現実世界の弟と、中身はほぼ一緒みたいだな。

 「お、おいアンタ!デタラメなことばっかり言うんじゃない!」

 「いいのかそんなこと言って、二歳までおねしょしていたことバラしちゃうぞ」

 「な、な、な……」

 「ヒソヒソ……やっぱりあの噂は本当だったのか……魔剣魔族の母どのに相談されたことがあった……」(小声)


 「お、お前!もう怒ったぞ……僕が本気になれば、『魔剣』のチカラを使って、

 こんな街廃墟にすることだってできるんだからな!」


 「なんだと?」

 ゴゴゴゴゴ……

 「うっ……な、なんだこの威圧感」


 「おい『魔剣魔族』、俺を本気で怒らせるな……」

 「う、ううぅぅ……なんだ?なぜかこの人は本気で怒らせてはいけないような気がする……」

 「ザワザワ……魔剣魔族さま……」


 「わ、わかった……僕たちの街を戦争に巻き込まないと約束するのなら、建国を認めよう……どうだ?」


 「よし、それでオーケーだ」

 俺と魔剣魔族は固く握手を交わした。



 「凄いですギガンティックマスター……あの魔剣魔族を説き伏せてしまうとは。

 一体どんな魔法を使ったのですか?」


 「いや、今回のは魔法じゃなくて……そうだな、『威厳』かな」

 「『威厳』……ですか?」

 「そう、『威厳』」

 俺はドヤ顔。


 *****


 魔剣魔族が自分たちの街に戻るのとすれ違いに、またドラゴンの乗り物に乗った魔族が街にやってきた。

 「お?また魔族が襲撃に来たんじゃないか?」

 「いえ、あれは……」


 今まで来た豪族や、町の要人とは違う、ちゃんと鎧を装着した兵士……?

 「来たようです、『邪尾族』の兵が」

 「フム……あの映像を見て、どんな反応かな?」


 邪尾族の兵士は、移動用のドラゴンから降りると、書状を開きながら話し出す。

 「我らが邪尾族の王が、吸血鬼族の王と『同盟』を結びたいとご所望です」

 よしきた、『同盟』のお誘いだ。


 「ひいては、吸血鬼族の王と、その配下のものを、邪尾族の城へ招待したいとのことです」

 「予想通り来たな、メルフィス」(小声)

 「はい、ここまでは順調です」(小声)


 「ワタクシは執事魔族のメルフィスと申します、王のご招待、謹んでお受けします」

 俺たちはその邪尾族の兵に連れられ、邪尾族の王城へ


 魔界に来たときに通ってきた丘を過ぎ、その先にある邪尾族の王城……

 禍々しい漆黒の城壁、やたらデカく、権力を見せつけるような城だ。


 そのまま巨大な門をくぐり、広間を抜け、俺たちは玉座の間へ。


 巨大な扉を開け、玉座の間に出ると、何百人という魔族たちが俺たちを待っていた。

 「ガフッガフッガフッ……」

 「グルルルル……」

 「ニヤニヤニヤ……」


 突然魔族たちの真ん中がザァーーと開き、玉座まで道ができた……

 俺たちはその道を歩いて、邪尾族の王の前へ。

 「こいつが、邪尾族の王……」(小声)


 邪尾族王……

 五メートルはあろうかという巨大な体躯に、腕が四本、額には第三の眼が……

 「あれが『邪眼ジャガン』か」(小声)


 玉座の後ろには、立派な十本の尻尾が動いている……

 邪尾族は、尻尾の数・色・形で階級が決まるらしい。

 ほおづえをつきながら、俺たちを睨みつけている。


 「そこの女、お前が吸血鬼族の新しい王か?」

 「そうです、名はコウといいます」


 「そっちのニンゲン……お前は『六芒星魔術ヘキサグラム』を使っていた奴だな?」

 「ああ……アンタが邪尾族の王だな?」


 「ニンゲン!我らが王になんと無礼な!」

 横にいた大臣風の魔族が、腰にある剣の柄を握る……

 「構わん……魔族とニンゲンは元々敵対関係にある、今更媚へつらってきても、かえって気味が悪い」

 大臣風の魔族は、納得いかない顔をしながらも、剣を納める。



 「我々邪尾族が地上に放った先行部隊は、ことごとく作戦失敗に終わったようだが、吸血鬼族の王と、『六芒星魔術ヘキサグラム』を使えるニンゲンと同盟を結べるのなら、それで良し、というところだな」


 俺はちょっと試しに、邪尾族王をアナライズしてみた。

 ザッザザァーーーー……

 まるでテレビの砂嵐のように、ステータス画面が乱れて内容がまるで確認できない。


 邪尾族王の口が、ニヤリと微笑む

 「余に『アナライズ』しようとしても無駄だ……この『邪眼ジャガン』で、精神系の技は全てジャミングできる」

 「他の魔族を読心しようとしても無駄だぞ、邪尾族王さまのジャミングは、この部屋全体に広がっているからな」

 さっきの大臣風の魔族が、得意げに話す。



 「さて、吸血鬼族の王よ、お前が国を興した目的は何だ?」

 コウは俺と顔を見合わせ、そしてメルフィスとも顔を見合わせ、お互いに頷く。

 「私の目的は……吸血鬼族の国を復興させることにより、この魔界に拮抗状態を作り、魔界統一戦争を長引かせる、もしくは地上侵攻をやめさせる、というのが目的です」


 ザワザワ……「なんと、そんな理由で……」

 ザワザワ……「自分の欲のためではないのか……」


 「なるほど……おおかた魔族の地上侵攻を防ぐために、裏でニンゲンが糸を引いているのであろう?」

 (げっ……バレてる)

 「だとしたら……何か問題でも?」

 「……問題はない。余は地上などどうでもいいからな、この『魔界統一戦争』に勝利することが最優先だ」


 邪尾族王は立ち上がり、玉座を降りてきて、俺たちの前へ。

 「このままいけば、我ら邪尾族の敗北は目に見えている……

 余は利用できるものは何でも利用する、たとえそれがニンゲンであってもだ」

 そう言って、邪尾族王はまた玉座に戻る。


 「そのため我らと『同盟』を……ともに魔角族を倒すために!」

 「……わかりました」

 「うむ、ではここに『邪尾族』と『吸血鬼族』の同盟締結を宣言する!」

 わあああぁぁーーーパチパチパチ


 とまあ、ここまではうまくいったけど……


 メルフィスが前に出てきた、邪尾族王に提案があるようだ。

 「同盟の証として、ワタクシたちで『魔脈』を攻略しましょう」

 「!……ほう」

 ザワザワ……あの『魔脈』を……

 なんだ?急に周りがザワザワしだしたな。


 「あの『魔脈』を攻略できたのなら、お前たちの望みは全て叶えてやろう。

 余の兵を千人貸してやろう、好きに使うがいい」

 「ありがとうございます邪尾族王」



 こうして俺たちは邪尾族の玉座の間を後にした……


 「ふう、緊張したなぁ……でも計画通り、何とかなったな」

 「申し訳ありませんギガンティックマスター、ワタクシの独断で、『魔脈』を攻略することになってしまい……」


 「それは構わない、邪尾族たちのあの反応……あれで一気にこちらに流れが傾いたからな。それよりメルフィス、邪尾族の王は野蛮で粗暴な性格って言ってなかったか?」

 「申し訳ありません……おそらくあの大臣が参謀となり、邪尾族王に知恵を授けているのでしょう。ワタクシが以前見かけた時には、あの大臣はいませんでした」


 「だとすると、邪尾族王を丸め込むってのは難しそうだな」

 「そうですね、今後どのような手を使ってくるか……」


 「それはそうと、『魔脈』ってのは何だ?」

 「『魔脈』とは、地上で言う『地脈』と同じようなもので、魔界の地下を循環している魔力エネルギーのことです。

 この『魔脈』の上にいると、絶えず魔力が供給され、魔力切れを起こすことがありません」

 「『魔奪の鞭』でイオナの魔力を奪っていた、『毒爪魔族』みたいになれるってことか」


 「そうです、しかも自分の実力以上の魔法を使うことも可能となります」

 「魔導士にとっちゃ、夢のような場所だな」



 「この魔界の丁度中央付近に、巨大な『魔脈』が存在し、その上に敵側の『魔角族』の要所があります」

 「なるほど、俺たちでその要所を攻め落とそうって寸法か」


 「どちらにしても、この『魔脈』を攻略しないことには、邪尾族の敗北は必須。

 このままの状態で『魔角族』に攻め込まれれば、我々も無事では済みません」


 「逆を言えば、そこを攻略できれば吸血鬼族と俺たちのお株は爆上がり、『天下三分の計』も成就しやすくなる……と」

 「その通りです」


 「そうと決まれば『善は急げ』、さっそく部隊を編成、作戦を立てて、ちゃちゃっと攻略しちまおう」

 「油断は禁物です、『魔脈』を統括している司令官は、『魔角族』の王の息子、つまり魔角族の皇子です」

 「魔角族の皇子が司令官?」


 「はい、魔界全土でも三本の指に入るほどの魔力の持ち主で、魔角族王と同じ『ジュデッカ級』です。『闇に愛されしもの』という異名を持ち、『闇のエレメンタルトーカー』でもあります」

 「そんな奴が、魔力が無限に湧き出る『魔脈』の上にいたら、もう無敵じゃん!?」


 「ですので、今まで邪尾族も手が出せなかった要所なのです」

 「そんなの俺たちで何とかできるのか……?」



 ◆邪尾族王side


 邪尾族城の玉座の間、今は人払いをして邪尾族王と大臣の二人……

 「あれが前の吸血鬼族王ガウスの娘か。

 小賢しいニンゲンの言うことなどを真に受けおって……」


 「ですがあの『七獄・エナジードレイン』は、我々魔族にとって脅威に他なりません」

 「確かにそうだ……」

 「加えてあのニンゲン、『六芒星魔術ヘキサグラム』を使えるものは、魔界でもほとんどいません」

 「なぜニンゲンが……忌々しい」


 「あのまま放置しておけば危険極まりないですが、味方として利用するのであれば、こんなに有益なものはいないでしょう」


 「そうだな、しかも自ら『魔脈』を攻略すると言ってきた……これは願ってもない」

 邪尾族王が指を鳴らすと、女性の魔族が酒が入ったグラスを持ってきた。


 「やつらが『魔脈』を攻略できたのなら、それはそれで良しとして、

 失敗したとしても、魔角族と吸血鬼族は相当疲弊するはずです」

 大臣も女性魔族から酒のグラスを受け取る。


 「我々はそのうしろに本隊を率いて、魔角族と吸血鬼族共々潰してしまえばいい。フフハハハ」

 「利用するだけ利用して、その後で亡き者にすれば、我ら邪尾族は安泰です」

 邪尾族王と大臣、二人とも持っていた酒を飲み干す。


 「魔界の王『魔界王』の称号……もうすぐ我が手の中に!

 フハハハハハ……」



 ☆今回の成果

  コウ 七獄『エナジードレイン』習得

  『邪尾族』と同盟締結

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る