魔界編

第33話吸血鬼族の王

 アナタはアイドルに『血を吸われた』ことがありますか?……俺はある。


 「ここが、『魔界』……」

 俺たちはドアを通り、だだっ広い丘の上に出た。

『魔界』……

 空は暗く、軽く雨が降っている。

 温度が少し高めで、魔粒子も地上より少し濃い気がする。

 見下ろすと、川以外に溶岩が流れているところがある……


 「なるほど、確かにこれは『過酷な環境』だな」

 「地上に比べ、魔粒子の流れも不規則・速くて読みづらく、『念話』などの念波系はまず使えないと思っていてください」


 近くにオルタナティブドアを出していたと思われる転移者が立っていた。

 「おいアンタ、大丈夫か?」

 目隠しをされ、足には重り、首には奴隷紋が……

 俺はその転移者の目隠しをとってやった。


 「あ、アナタは……ニンゲンですか?」

 「ああ、人間だ、そしてアンタと同じ転移者だ」

 「転移者……」


 目が少し虚ろで、元気がない……

 ひょっとすると薬とか魔法で言うことを聞かせていたのかもしれない。


 「今すぐ助けてやりたいが、奴隷紋があるからあまり遠くへは連れ出せない……必ず助けるから、待っていてくれ」

 「ああ……」

 返事も曖昧で、理解しているかどうか……


 「とりあえず移動しましょう、ここにとどまるのは危険です」

 俺たちは転移者をその場に残し、移動した。


 「今の丘は『邪尾族』の城の近くにあった丘です……

 だとするとここから西南の方角に半日も歩けば、『吸血鬼族の街』があった場所にたどり着けます」

 「よし、時間が惜しい、全員に『エアリアルエンチャント』をかける」


 全員に風のバフをかけ、西南に向かって走る。

 「ああ、思い出しました、私はまさしくこの道を通って、邪尾族の城へ……そして地上へ逃げ延びました」

 コウは完全に記憶を取り戻したようだ。


 「俺もコウの記憶の世界で、この風景を見た。

 あまり変わった様子はない、この分ならお前のいた吸血鬼族の街も、そんなに変わっていないんじゃないか」

 「だといいのですが……」


 二時間ほど走り、街らしきものが見えてきた……

 残念ながら、俺の想像は見事に外れることになる。


 「ここが、吸血鬼族の街……?」

 まるで地上の『名もなき村』や『魔獣島』の最初のころのようだ……

 スラム街さながらの風景に、俺もコウも絶句、あの記憶にある『吸血鬼族の街』の面影は微塵もない。


 「これが……私の故郷?こんなに廃れて……」

 過去の記憶の映像にあった王城も消えている。

 あの映像から一・二年くらいしかたっていないはずなのに……


 町の住民も俺たちにまったく関心がないのか、振り向きもせず、ボーっとしている……


 「コウ、早くこの吸血鬼族の街を復興させようぜ。このままじゃ、コウの両祖父母も両親も、そしてご先祖さまも浮かばれない」

 「そうですね……私、頑張ります!」


 「この吸血鬼族の街がある場所は、一応中立地帯となっています。が、場所が邪尾族の城に近いので、実質は邪尾族の管理下にあると言っていいでしょう……

 ここで国を興した後は、邪尾族と話合いをするのが得策かと」

 メルフィス、お前は何でも知っているな……



 向こうから、フードを被った老人が歩いてきた。

 「どちら様ですかな……この町に一体何の用で?」

 「この町の町長かい?」

 「一応……ワシが言うのもなんですが、ここには何もありませんよ」


 この町長、よく見ると片足が無く、左目も潰れ、体中傷だらけ。

 どうやらひどい拷問を受けたことがあるようだ……

 俺もコウも、その老人の顔に見覚えがある。


 「ここにはワシのような老いぼれと、死んだような目をした若者ばかり、

 もう町というのもおこがましいほどに廃れてしまっています……」



 町長にコウが近づき、話しかける。

 「町長、今のあなたはこの世の不幸を全て背負っているような顔をしていますね」

 「え!?」


 「ということは、この先のあなたの人生はずっと上がりっぱなし、全世界で最高の人生となるはず」

 「そ、そのセリフは……」


 「……私に、その手伝いをさせてくれませんか、大臣」

 「姫!?本当に姫さまなのですか!?

 立派に、美しく成長なさって……全く気が付きませんでした」

 「大臣は少しやつれましたね、ダンディだったお顔が台無しです」

 「だんでぃ……?

 いえ、姫さま、生きてお会いできるとは……長生きはするものですな」


 「私こそです大臣、よくぞ生き残っていてくれました、これで恩返しができます」

 「姫さま……まさか姫さまがここにいらっしゃったのは……」

 「はい、私が王になり、吸血鬼一族を復興させるためです」

 「おお、おお……」

 大臣は膝をつき、声を殺して泣いている……よほど嬉しいのだろう。


 大臣の声を聞きつけて、周りの住民も近づいてきた……

 さっきまでの呆けた顔をした者は一人もいない。


 「そこで大臣、お願いがある、コウが国を復興するのに協力してほしい」

 大臣の顔が急に険しくなる。

 「協力?ワシらに姫が国を復興するのに協力してほしいと?冗談ですかな?」

 「あ、いや、その……今までアナタたちを放っておいてしまったのは謝る、仕方のない事情が……」


 「ワシらは姫さまが王になるために生まれ、望みを叶えるために存在しているのです」

 「え?」

 「協力なんてとんでもない、姫さまが王になるというのなら、ワシらがそれを手伝うのはもはや『使命』!」

 「そ、そうなんですか?」

 さっきまでの覇気の無い大臣はどこに……?怖いよ大臣……

 「ワシらの命は姫さまのモノ、如何ようにもお使い下され!」


 大臣以下町民全て、コウの前でひれ伏してる……


 「みなさん、ありがとうございます」

 「姫さまがお戻りになられたのなら、先代の王より頼まれていたことがございます」

 「お父さんから……?」


 「『もし、姫が王位に就かず、空位になったのなら、城を魔法で湖の底に沈めよ』と……」

 「そんなことができるのか」


 「ですが、『姫が自分の意志で王位に就くと言ったのであれば、吸血鬼族のマオウクロニクルをかざすことで、城を地上へ戻せるように』と」

 「じゃあ吸血鬼族の王城は、今湖の底に……?」

「はい」



 大臣に案内され、街の奥にある、巨大な湖のほとりへ。

 「こちらでございます」

 パッと見何もありませんけど……


 「こちらで吸血鬼族の『マオウクロニクル』をかざせば、城が地上へ浮かんできます」

 「やってみます」

 コウは右手を掲げ、吸血鬼族の『マオウクロニクル』を顕現させた。

 パアアーー……


 ……城が出ない。

 「たぶん、コウの魔力が足りていないんだと思う……

 これからこの国の『魔王』になるんだから、それなりの力を示せってとこだろう」

 「でも、いったいどうすれば……」


 俺は腕を組み、しばし考える……

 「コウ、俺の血を直接吸え」

 「えっ」


 「コウの記憶の世界に行ったときに感じたんだが、

 吸血鬼が血を飲んで強くなるのは、血に含まれる『情報』だと思うんだ」

 「情報……?」


 「本人が魔法で記憶を失っても、ああいう形で記憶を保存しているってのは、吸血鬼にとって記憶や情報がとても大切だからだと思うんだ」

 「そうですね、私もそう思います……あれだけ鮮明に記憶していましたから」

 サキュバスのアユムも頷いてくれている。


 「血液にはその人の情報が含まれているって聞いたことがある。

 血を飲んで強くなるというよりは、血を飲んでその情報を得ることで、真の力を解放していく……というのに近いんじゃないかな」

 「確かに……魔力は身体の内側から溢れ出るという感じでした」

 コウも納得。


 「『情報』の量で吸血鬼の魔力が上がるのなら、現実世界の人間である俺の血液が一番有効だ。俺は『妄想力』も、その辺のやつとは比べ物にならないからな」

 「それは自慢になるのでしょうか……?」


 「でもマスター、コウは……」

 「わかっている、お前は『血液恐怖症』……直接飲めば血が噴き出すのを見ないわけにはいかない」

 「はい……今でも祖父母や両親が戦っていたのを思い出すと、震えが止まりません」


 「俺も『高所恐怖症』だった……でもマキアを助けるため勇気を振り絞ったら、飛べた」

 「『勇気』……?」


 「『恐怖』を克服できるのは『勇気』だ。勇気を持って俺の血を吸うんだコウ!」

 「『恐怖を克服するのは勇気』……わかりました、やってみます」


 俺は首筋を出す……緊張してきた。

 コウは俺の後ろに回り、深呼吸を……

 「すうぅーーー、はあぁーーー」


 ドキドキドキ……

 コウの手が震えているのがわかる……

 「勇気を持って、恐怖を克服する……行きます」

 カプッ……チューーー

 おおおー吸われてる吸われてる!


 ドクンッ!

 「うっ、ううぅぅ……」

 「コウ、大丈夫か!?」


 ザアアア……

 パアアア……

 あ……コウの髪の毛が、すべて銀色に……

 瞳も血のように赤く……


 「お、おおおおお!?ひ、姫さま、これは……まさか」

 大臣がブルブル震えている!?


 「これは、千年に一度生まれるという伝説の吸血鬼、『プライムヴァンパイア』……」

 「マジで!?」

 俺はコウをアナライズしてみた。

 「本当だ……種族が『ヴァンパイア』から『プライムヴァンパイア』に進化してる……」


 「おそらく、『勇気』がコウのレベルキャップのキーワードだったのでしょう……

 それに加えて、マスターの血液を飲んだことで種族進化を果たした、といったところでしょうか」

 アマネが説明してくれた。


 「スゲーな、コウ」

 「マスター、ありがとうございます。お陰で進化することができました」

 なんか……迫力というか、オーラが増したような気がする……


 「では……『吸血鬼族のマオウクロニクル』よ、ここに顕現せよ!」

 パアアアアア……

 「おおおお……」

 湖の上には十メートルはあろうかという巨大な『マオウクロニクル』が顕現している……


 ゴゴゴゴゴゴ……

 湖が噴水みたいに噴き出したと思ったら、真ん中から割れて、底から立派な王城が浮かんできた!

 「これが……吸血鬼族の王城?」

 カイエルやファルセインの王城のような派手さは無いが、洗練されたデザインの白亜の城だ。


 俺たちは大臣に連れられて、王城の中へ……

 城の中は、さっきまで湖の中にあったとは思えないほど綺麗な状態だった。

 一番奥の玉座に、コウが座る。

 右にはサキュバスのアユム、左には大臣を従えて座るその姿は、まさしく『魔王』……



 「ここまではうまくいったが……メルフィス、この後はどうする?」

 「ワタクシの『鏡魔法』で、魔界中にこのことを流布します」

 「お前、『鏡魔法』が使えるのか?」

 魔導連邦サザバードの館長が使った『鏡魔法』……魔族のメルフィスが使えるとは思わなかった……


 「バレン・ザナトゥース・ベーレ

 鏡よ鏡 反射し 写し 繋ぐ力を与えよ 全ての鏡よ我が声に応えよ

 鏡属性 四重星魔術クアトログラム 『ミラーコネクト』!」


 目の前にある鏡が光だし、その向こうからザワザワという気配を感じる……魔界中に繋がったようだ。



 「魔界のみなさん、ワタクシは執事魔族のメルフィスと申します。

 この度、吸血鬼の王族であられるコウ様が、吸血鬼族の国を再興なされたことをご報告いたします」

 鏡はコウを映し出す。


 「初めまして、前吸血鬼族の王、ガウスの娘、コウと申します。

 私は今日、この場をもって、吸血鬼族の国を復興することをここに宣言いたします」

 おおおーーパチパチパチ……


 「急に若造が国を興すとか、納得いかない方も多いと存じます、そこで……」

 コウが急に立ち上がる。


 「……文句がある奴は、『かかってこんかい!』」

 コウさーーん、あなた現実世界のプロレスとか見すぎなんじゃないですかーー!?


 「……メルフィス、あれでよかったのか?」

 「はい、百点満点です」

 「あっそう……」



 「しばらくすればこの国の周りにいる魔族が攻めてくると予想されます。撃退してこの国の価値を高めることを推奨いたします」

 「よし、みんな戦闘準備だ」

 「はい」


 俺たちは街の外に出て、入り口で待機。

 「本当に来るんでしょうか……?」

 マキアは心配顔。

 「今のところ作戦はメルフィスの読み通り、信じて待ってみよう」

 そう言っている間に、前方から土煙が……



 「ハッハーー!オレ様は『毒爪魔族』!オレ様の縄張りで勝手に国を興した奴はどこのどいつだ!?」

 「よーし、まず一人目が来たな。使い魔は……ん?あれって……」

 「あれは炎の上位精霊、『イフリート』ですね」


 「『イフリート』!?炎の上位精霊って、結構強い奴なんじゃないの?」

 「そうですね……アンテノーラ級の魔族の使い魔になるような、低級の精霊とは訳が違うはずです」

 「何かわけがありそうだな……」


 「へっへっへ……ニンゲンが混ざっているじゃないかぁ?

 まとめてオレ様の魔法の餌食にしてやるよ!」


 毒爪魔族の前に魔法陣が展開……『地』『地』『地』『地』

 「星神よ 自転公転の理を持って 悪しき者を滅せよ 星の力束ね 我が前で奇跡を起こせ 地属性クアトログラム『ジオメトリクス』!」


 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『炎』『炎』『炎』

 「ルーン・セイル・アールガイン

 太陽より生まれし炎の竜よ 我が前におん下りて 踊り狂え!

 炎属性クアトログラム『プロミネンス』!」


 ズガガガガガ!!

「ほう、打ち消したか、中々やるではないか」

「『毒爪魔族』なのに魔法を使うのか?変な奴だな……」


 メルフィスが近づいてきた。

 「ギガンティックマスター、やむを得ない場合以外では、攻めてくる魔族は殺さない事を推奨いたします」

 「そうなの?」

 「この後味方になる可能性もありますし、人間に対し遺恨を残すのは得策ではありません」

 「わかった」


 毒爪魔族が魔力を集中している……

 「ではこれならどうだ……

 毒爪魔族に前に魔法陣が展開……『水』『水』『風』『風』『闇』

 「氷よ輝き舞え 氷竜よ敵を包め 氷神よ罪人に永遠の罰獄を

 ブレーベン・ドドレス・アクレイン・マージ

 ガイ・イン・トゥーザ・ファラン・ライン・ゲート……」


 「な!?五芒星魔術ペンタグラム!?まずい!」

 俺は全員に『エアリアルエンチャント』をかけた。

 「全員この場から離れろ!」


 「氷獄属性 五芒星魔術ペンタグラム 『コキュートス』!」


 ガガガガガガ……バキバキバキ!

 俺がいた場所を中心に、巨大な氷山が出来上がった……

 「あっぶねぇ……まさかペンタグラムを使うとは」


 「ハッハーー!まだまだ行くぞーーー」

 毒爪魔族の前に魔法陣が展開……『水』『水』『地』『地』『闇』

 「毒よ吹き上がれ 闇に落ちたるものに祝福を 欺瞞に満ちた世界を毒紫に染めろ

 ワット・アライア・マークス

 キーン・グレゴリオ・ファティマート・スーテイル・ガーガイン

 「毒沼属性 五芒星魔術ペンタグラム 『ベノムゾーン』!」


 「マジか!?ペンタグラムを二連続で!?」


 地面に黒い点が現れたと思ったら、急激に拡大して一面毒の沼に!

 「やばい、間に合わない!」


 「ザン・セイン・トーン 風の竜よ舞い上がれ

 風属性アナグラム 『弱ツイスター』!」


 「おお?おおおおー!?」

 メルフィスが風の魔法で俺とメンバーを空中へ回避させてくれた。

 「メルフィス、ナイス!」


 街の半分以上を埋め尽くすほどの広範囲毒魔法!

 吸血鬼族の住民たちが毒状態になって苦しんでいる……

 「あの野郎、なんて魔法を……」


 「おかしいですね……魔族で五芒星魔術ペンタグラムを使えるものは珍しくありませんが、

 二発も撃てば魔力が枯渇して動けなくなるはずです」

 「あいつはまだピンピンしているぞ?」


 「あれを見てください、毒爪魔族が持っている鞭が、使い魔のイフリートに巻き付いています。あれはおそらく魔界の装備アイテム、『魔脱まだつの鞭』……」

 「『魔脱の鞭』?また魔界の装備アイテムか?」


 「『魔脱の鞭』は、巻きつけた相手の魔力を奪うことができるエクイップメントアーツが使えます」

 「それでイフリートの魔力を奪って、五芒星魔術ペンタグラムをバンバン使ってたってことか」

 「そのようです」

 

 「よし、俺はイフリートを助けに行く、ここはお前一人で何とかしろ」

 「えっ」

 俺はメルフィスを一人残し、イフリートの元へ。

 メルフィスは『魔眼』と『結界』、『魔法剣』を駆使して何とか凌いでいる。



 「おいお前、大丈夫か?」

 近くで顔を見ると、あいどる24の『日光 紫』にそっくり……

 毒爪魔族に魔力を吸われ、ぐったりしている。


 「私はあの魔族に逆らうことができないのです、

 私の『真名マナ』を知られてしまって……」

 「『真名マナ』……?」


 「魔族や精霊が生まれながらに持っている『真の名前』のこと……

 この『真名マナ』を他人に知られると、その者に逆らえなくなるのです」


 「そんな大事なものをなんであいつに教えたんだ?」

 「仕方なかったのです……私の母が病気になってしまい、治すにはあの毒爪魔族が持っている薬を飲むしかないと言われ……

 私の『真名マナ』を教えれば薬を分けてくれる約束で……」


 「で、その薬はもらえたのか?」

 「はい、でも結局母はこの間……」


 「う~ん、なんか都合がよすぎる……あいつをアナライズしてみるか」

 毒爪魔族をアナライズすると、案の定、イフリートの母親を病気にしたのは毒爪魔族だった。


 「お前の母親は病気じゃなくて、毒爪魔族の、毒の実験台にされていたようだ。

 病気に見せかけて、少量の毒を定期的に飲まされていたようだな……」

 「そんな、では私はいったい……でも、もう遅いです、

 真名マナを知られている以上、私は一生あの魔族には逆らえません」


 「そうか……お前の事情はわかった。

 今の話でちょいとイラついてきたし、俺も俺の事情であいつをボコらせてもらう、

 その鞭を外すのはもうちょっと待っててくれ」


 そう言うと俺は毒爪魔族の元へ。

 「メルフィス交代だ、後は俺に任せろ」


 「またお前かニンゲン?イフリートに巻き付いた鞭を無理やり取らなかったのは正解だったな……

 無理やり取ったら、イフリートをお前もろとも自爆させようと思っていたからなぁ、あいつは俺の命令には絶対に逆らえない……へっへっへ」


 「汚ねぇやり方で、あの子の真名マナを手に入れたからだろ?」

 「おお?なんか文句があるのか?手に入れてしまえばこっちのもんなんだよ!」

 「文句はねぇよ……ただ、お前の真名マナも俺に教えてもらおうか……」

 「お前はバカか?教えるわけねぇだろう!」


 「ギガンティックマスター、たとえアナライズでも、魔族の真名マナはちょっとやそっとでは読めません」

 「ちょっとやそっとじゃなきゃいいんだろ?心の底から俺にひれ伏せさせればどうだ?」

 「それならば可能です」



 俺はストレッチを始める……

 「ん?なんだ……何かのおまじないか?」


 コオオオオオオ……

 「怒り五十パーセント!」


 毒爪魔族に前に魔法陣が展開……『水』『水』『風』『風』『闇』

 「氷よ輝き舞え 氷竜よ敵を包め 氷神よ罪人に永遠の罰獄を

 ブレーベン・ドドレス・アクレイン・マージ

 ガイ・イン・トゥーザ・ファラン・ライン・ゲート……

 氷獄属性 五芒星魔術ペンタグラム 『コキュートス』!」


 俺の前に魔法陣が展開……『風』『風』『地』『地』『光』

 轟雷 天雷 雷鳴 稲妻 天の怒りをこの地に 神鳴り《カミナリ》よ 轟け!

 ギラル・ギオウガ・イービス・クロテイン

 ビレイド・クアンタ・シー・ギルベルト

 万雷属性 五芒星魔術ペンタグラム 『テラボルト』!」


 ガガガガガガ!!


 「なに!?五芒星魔術ペンタグラムを打ち消しただと!?」

 「まだまだこんなもんじゃねぇぞ!」

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『水』『風』『地』『光』『闇』

 「スー・シュー・ゴウ・レイ・ファシオン

 炎神 水神 風神 地神 光と闇の王をいただきて すべての者に安息と死を……

 六極炎属性 六芒星魔術ヘキサグラム 『ヘキサゴンフレア』!」


 「へ、六芒星魔術ヘキサグラム!?ニンゲンが!?」

 数十メートルの巨大な火球が、毒爪魔族に襲い掛かる!

 「うおおおおおお」


 ズガガガガガ!!


 ギガンティックフレアで、街の入り口に巨大なクレーターが……その中心に毒爪魔族がいた。


 「ぐ、ぐううう……」

 「自分の腕を食べて、『悪喰アクジキ』を発動しています」

 「そうか、ならまだいけるな」

 俺はガントレットを構えて毒爪魔族に突撃する!


 「く、くそ!体が動かない……」

 「デトネーションブロウ・ファランクス!」

 もの凄いスピードで拳撃を繰り出し、あたかも古代ギリシャで活躍した重装歩兵の無数の槍のように、デトネーションブロウを毒爪魔族にブチ当てる!

 ドガガガガガ!!

 「ぐぼああああ!」


 「てめーみたいなやつがいるから、魔界も、地上も、現実世界も、

 いつまでたっても平和にならないんだよ!」

 「ひ、ひいいぃぃぃ!」

 「反省しろーーーーー!!」

 「た、たすっ」

 ドガガアアア!


 俺の最後の一撃は、毒爪魔族の顔の横の地面を撃ち、巨大な穴をあけた。

 「あ、ああああ……」

 「……お前の真名マナを教えてもらおうか」

 「こ、断る……」

 「そうか、○○〇というのか」

 「な、なぜ!?」


 「どうやら今ので完全に心が折れたようですね、毒爪魔族」

 後ろからメルフィスが歩いてきた。


 「お前はもう俺の命令には逆らえない……そうだろ?」

 「は、はい……」


 「よし、じゃあイフリートの鞭をほどけ、そしてイフリートの真名マナの事は忘れるんだ、いいな?」

 「わ、わかりました……」

 毒爪魔族は俺の命令通り、イフリートの鞭をほどいた。


 「ギガンティックマスター、やはりアナタならこの魔界を……」

 「ん?」

 「……いえ、何でもありません」


 「本当にイフリートの真名マナ、忘れたんだろうか?」

 「それは大丈夫でしょう、真名マナを使って命令されると、本能や無意識下であっても逆らうことはできません」


 俺は日光 紫似のイフリートのそばへ。

 「もう大丈夫だ、お前の真名マナも忘れさせた。お前はもう使い魔じゃない」

 「ありがとうございます、こんな日が来るなんて……」

 炎の上位精霊イフリート……後でスカウトさせてもらおう。


 *****


 「お、さっきのやつとは反対方向から土煙が……さっそく二人目かな?」


 「我が名は『灼熱魔族』、この魔界の王は邪尾族王さまただ一人……それ以外は断じて許さん」

 「頭が燃えちゃってるよ……完全に炎系の魔族だな。使い魔は……樹木の魔物?」


 「あれは、木の精霊『トレント』ですね。

 灼熱魔族の前に一人、灼熱魔族の後ろにも一回り小さいトレントが一人います」


 「トレントって強いのか?」

 「強いです、体が鋼鉄のように固く、魔法も効きづらいです……

 逆に動きが遅いのと、炎に弱いことぐらいしか弱点がありません」


 「フム、攻撃にも防御にも使える……使い魔としては優秀だな」


 その時、使い魔のトレントが俺に突っ込んできた!

 「『対打撃結界』!」

 ドカッドカッドカッ!

 バリーン!

 「マジか!三発食らっただけで結界が割れちまった」


 「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 ん……?このトレント、謝りながら攻撃してる……何か事情がありそうだな。

 しかもこのトレント、あいどる24の『守実 樹里』によく似ている……

 俺はトレントの攻撃を防御しながら、目でマキアに合図して、手と指で支持を送る。


 「なるほど、どうやらあのトレントは娘さんを人質に取られているようです」

 「マキア様?『念話』は使えないはずなのに……なぜそんなことがわかるのですか!?」

 「マスターのいる世界で教わった『手話』です……

 耳が聞こえない人たちと会話するための方法で、手と指で言葉と同じことを伝えることができます」

 「そんなことが……ギガンティックマスターのいた世界は、ワタクシ達の世界よりも文明が進んでいるのですね」


 「マスターの指示です、マスターが気を引いているうちに、私とメルフィスさんで、もう一人のトレントを救出してくれとのことです」

 「わかりました、よろしくお願いします」


 マキアとメルフィスがもう一人のトレントの方へ動き出した……

 ちゃんと手話が伝わっているな……ん?あれは……?


 「シャアアア」

 「これは……魔界の魔物、『バジリスク』ですね」

 でっかい蜥蜴みたいな魔物が、二人の行く手を阻んでいる……

 「どうやら万が一に備えて、バジリスクを護衛に連れてきていたようですね」

 灼熱魔族に気づかれず、魔物を倒して、トレントを救出できるのか……?


 「一の獄・『魔眼マガン』!」

 メルフィスの目が光る。

 「あー、いけませんね……このまま突っ込むとワタクシもマキア様も、バジリスクの『毒の霧』で、やられてしまいます」

 「そんな、じゃあどうしたら……」

 「ワタクシにいい考えがあります」


 そう言ってメルフィスはメンバーの中から、ラミアのコマチを連れてきた。

 「コマチさん、よろしくお願いします」

 「お任せください」

 コマチはそのままバジリスクの元へ。

 「ジャアアアア!」

 バジリスクの『毒の霧』がコマチに!

 「ジャアア?」

 「申し訳ありません、私は体中に毒を仕込んでいる『毒蛇の魔物』。私には毒の攻撃は一切効きません」

 コマチはそのまま下半身の蛇の尻尾でバジリスクを締め付けると、灼熱魔族の方へ。バジリスクは灼熱魔族に向けて毒の霧を吐いた!


 「ジャアアアア!」

 「ぶわっ!な、なんだ!?ど、毒が」

 その隙に子供のトレントは逃げだした。


 「さすがはトレント、状態異常にも強いですね……それに比べてアナタは毒状態に……大丈夫ですか?」

 「ぐううぅぅ……なんだ貴様は?これでもくらえ!」

 灼熱魔族の前に魔法陣が展開……『炎』『炎』『水』『水』

 ジルベール・オー・ノートス

 炎竜よ 水竜よ 相反し 反発し 収束し 融合せよ 破壊の力よ 我が敵をこの世から消し去れ 大爆発属性 四重星魔術クアトログラム 『エクスプロードロア』!」

 ズドドドドド……


 キュウイイィィン……

 「なっ!?」

 「『対魔力結界』です、アナタの魔力を吸収させて頂きました。では、マキア様、どうぞ」

 メルフィスが横にずれると、後ろにはマキアが……

 「おーぎ、『マキアインパクト』!」

 ドガガガガガ!!

 「ぎゃああああ」


 「トレント、お前の娘は救出した、もう戦う必要はない」

 「本当ですか!?」


 守実 樹里似のトレントはもう一人のトレントの元へ。

 「よかった、心配したのよ……本当に、よかった……」

 安心したのか、抱きしめながら、その場で泣き崩れた。


 俺も戦闘態勢を解除し、マキアとメルフィスの元へ。

 「二人ともよくやった、連携もなかなか様になっていたぞ」

 「お褒めにあずかり、光栄です」

 「メルフィスさんの機転で助かりました」

 「そうだな、コマチもありがとう」


 俺はそのままトレント達の方へ。

 もう一人のトレントも、あいどる24の、『林 ここ』によく似ている……

 「二人とも無事でよかったな、お前もお母さんに会えて安心しただろ」


 「いえ、お母さんじゃありません」

 「えっ?」

 「えっ?」

 「えーーーっ!?」


 「いつも私の事を子ども扱いして……私も困っていたんです」

 「だって……可愛いから、つい……」

 「おいおい……」


 *****


 「おっと、連続でまた来た、今度は結構な大群……っていうかあれは獣の軍勢?」


 「ワタシの名は『害獣魔族』……この魔界で新しく国を興すなんて、そんな面白そうなこと、ワタシは許可した覚えはないぞ!」


 「あれ全部『害獣』なの?スゲーな……

 あの下半身が蛇になってる魔物、ひょっとして『メデゥーサ』じゃないの?」


 「確かに……目を布で無理やりふさいでいますし、間違いありません」

 「でも『メデゥーサ』と言えば、ゲームなら中ボスクラスのモンスター……魔王の側近でもおかしくないくらいなのに」


 「頭を見てください、髪の毛を全て剃られています……

 メデゥーサの髪の毛は魔力の根源だと聞いたことがあります」

 「それであの魔族に逆らえなくなっちゃったってことか……」

 「おそらく『支配』の魔法で、言うことを聞かせているのではないでしょうか」


 「じゃあさ、髪の毛が戻ったらあの魔族の使い魔なんてやらなくて済むんじゃない?」

 「それはそうですが、髪の毛を生やす魔法なんて聞いたことありません」


 「私なら、何とかできるかもしれません」

 え?スライムのマロン?

 「マジで?」

 「私は自分がイメージしたものならなんでも変身することができます」


 「よし、じゃあ俺と一緒に行こう!」

 俺はマロンを連れてメデゥーサの元へ。



 「ギャーハッハッハ、そんな無防備に向かってきていいのか?

 メデゥーサの目を見たら石化してしまうんだぞ……おい、見せてやれ!」

 害獣魔族が自慢げに話す。


 「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 「お前も謝りながら戦うのか……」

 メデゥーサは俺の予想通り、あいどる24の、『石動 芽々』と瓜二つ!


 メデゥーサが目隠しをとると、俺やマロンの体が徐々に石化していく……

 バキバキバキ……

 「リ・フェノメノン!」

 魔力が小さいせいか、石化のスピードはそんなに速くない……

 これなら俺の解石の魔法でも間に合う。


 俺とマロンは、メデゥーサの石化を解石しながら近づく。

 「ううぅぅ、ごめんなさい、わらわのせいで……」


 「大丈夫、私に任せてください」

 そう言って、マロンは俺の手からピョンっとメデゥーサの頭に乗り移る。

 「変身!」

 ポワポワポワ……

 なんとマロンはメデゥーサの髪の毛に変身した!

 「スゲー!」

 「なんと、妾の髪の毛が、戻った……?」


 「一時的なものですが、髪の毛が戻ったとイメージすれば、魔力も戻るかと」

 「ありがとう、これならあの害獣魔族にかけられた『支配』の魔法も解ける……はああ!」

 バキイィィン!

 どうやら害獣魔族の支配から解放されたようだ。


 「くそっ、まさかそんな方法でメデゥーサの魔力を戻すとは……」

 さすがにこうなることは予想していなかったようで、焦っているのが手に取るようにわかる。


 「お前たち、行け!」

 魔族のそばにいた害獣たちが、一斉に襲い掛かってくる!

 「シャアアア!」

 メデゥーサが一喝!害獣たちはビビッて委縮してしまっている。

 「魔力さえ戻れば、害獣たちなど恐るるに足りぬ」


 「くっ、メデゥーサめ……だがワタシにはまだ『切り札』がある」

 害獣魔族が懐から出したのは、一枚の『カード』……

 黒い竜の絵が描かれている、まさか……


 「クククク……このカードは選ばれしものに力を授ける『魔界のカード』。

 しかも最強と名高い『審判のカード』だ……」

 「『審判のカード』……ん~魔界にあったんだな」


 「その能力は最強の神のドラゴンを召喚し、敵を殲滅するチカラ!

 どんなに足搔こうとも、貴様らは終わりだ!ハーハッハッハ」

 「最強の神のドラゴンねぇ……」


 「この廃れた吸血鬼族の街とともに、消えてなくなれ!

 召喚!『ジャッジメントドラゴン』!」

 「やっぱり……」

 ガガガガガガ!!


 空中に黒い巨大な穴が開き、中から黒いドラゴンが出現した!

 「うおおおおおーーー!久しぶりのシャバじゃーーーー!

 ワシの必殺技の餌食になるのは、どこのどいつじゃーーー!」


 「よっ、久しぶり、元気だった?」

 「なんじゃおぬし、ギガンティックマスターではないか?魔界で何をしておるのじゃ?」

 「えっ……えっ……」

 害獣魔族は訳が分からいといった感じでキョロキョロしている……


 「それがいろいろあって……今魔界で国興しの最中なんだ」

 「フムそうか……いや、そんなことよりおぬし、もっと遊びに来んかい!

 ワシは審判の塔から動けぬから暇なんじゃ!」

 「ああ、悪い悪い、今度ちゃんと行くから」

 「約束じゃぞ」


 ずっと見ていた害獣魔族が、ばつが悪そうに話しかける……

 「あの……ジャッジメントドラゴン、召喚のほうは……」

 「ん……?ああ、ギガンティックマスターはワシの友人じゃ、倒すのは無理、この召喚は無かったことに」

 「えっ……」


 「というか、今回で召喚はもうお終いじゃ、カードはギガンティックマスターに渡してくれ」

 そう言うと、『審判のカード』は勝手に害獣魔族の手から、俺の元へ飛んできた。


 「ギガンティックマスターよ、ワシは暇なんじゃ、おぬしがワシを召喚しろ、よいな?」

 「わかった、わかったよ」

 「約束じゃぞ、ではさらばじゃ」

 キュウウゥゥーーン……

 ジャッジメントドラゴンは帰っていった。


 「えっ、えっ?あ、あ~~……」

 名残惜しそうに手を伸ばす害獣魔族……なんか可哀想になってきた。

 俺は害獣魔族の肩に手を置き、軽く頷いた。


 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『炎』『水』『水』

 「ジルベール・オー・ノートス

 炎竜よ 水竜よ 相反し 反発し 収束し 融合せよ 破壊の力よ 我が敵をこの世から消し去れ……」

 「ですよねーーーーー」


 「大爆発属性 四重星魔術クアトログラム 『エクスプロードロア』!」

 ドガアアアアアン!!

 「ぎゃああああ」


 チ~ン……とりあえず害獣魔族は戦闘不能にしておいた。


 「ふう、大体落ち着いたんじゃないか?」

 「そうですね……油断は禁物ですが、一段落はしたと思われます」


 「最終的にはどうなればいいんだ?」

 「邪尾族と同盟を締結して、魔角族と戦うのというのが、一番理想的なのですが……」

 「邪尾族と共闘か……」


 「そのためには、この地域で最も実力がある有力者、『トロメア級』の二人の『豪族』を攻略する必要があります」

 「二人の豪族……名は?」


 「北の『魔剣魔族』、南の『蝙蝠魔族』……この二人を攻略できれば、邪尾族側から何らかのアクションがあると予想されます」

 「よし、とりあえずその二人を攻略することが目標だ」

 「はい」



 ☆今回の成果

  イレギュラーズ コウ 種族『ヴァンパイア』から『プライムヴァンパイア』へ進化

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