第30話天下三分の計

 アナタはアイドルに『恩返し』を受けたことがありますか?……俺はある。


 俺はイチヒコとテンマルを連れて、王城を目指す。

 途中のザコ魔族を蹴散らしながら、玉座の間に入ると、数人の騎士たちと大臣が倒れている……

 その奥には、二人の魔族とメギード王、リイナが対峙している。


 「メギード王、これ以上は危険です、一旦下がり、増援を待ちましょう」


 「リイナ大臣、お前がいて大分助かったが、ここで下がるわけにはいかぬ……お前だけはこのオレ様が命に代えても必ず守る!……決まった」(小声)


 「いいえ結構です、メギード王はご自分のことを第一にお考え下さい」

 「え~~、上手く伝わってない……?」


 メギード王のやつまさか……

 いや、メギード王の名誉のため、アナライズするのはやめておこう……


 「メギード王!リイナ!」


 「おお、ギガンティックマスター殿!」

 「マスター!」


 リイナが走ってきて、俺に抱きついてきた!

 「マスター、怖かったです~、でも絶対来てくれると信じてましたよ」

 ……リイナさん、後ろでメギード王が泣きそうな顔してますよ。


 「ふう、またニンゲンか……倒しても倒しても、ウジ虫のように湧いてくる」

 この魔族、衣服や雰囲気からして、どうやら司令官クラスっぽいな……


 「一応聞くが、魔族が人間界に一体何の用で来たんだ?」

 「フッ、貴様らのようなウジ虫に話すことなど何もない」

 「なるほど、目的は強いニンゲンの拉致、もしくは強力な武器防具などの奪取か……」

 「な、なぜわかった!?」


 「『黒杖魔族』さま、彼はどうやら転移者のようです……心を読まれました」

 「くっ……それぐらいわかっている!いちいち報告するな!」

 「申し訳ありません」


 執事みたいな魔族が怒られている……あれも使い魔なんだろうか?

 「アンタらの目的を叶えることはできそうもないが、『強いニンゲンのスカウト』や『強力な武器防具の売買』なら可能だと思うが、どうだ?」


 「聞こえなかったのか?ウジ虫の提案など聞く耳持たぬわ!」

 「う~ん、交渉決裂か……じゃあ戦うしかないかな」

 「ほう……ウジ虫の戦闘力がどれほどのものか見てやろうハハハ」


 「で、俺が相手するのはどっちだい?」

 「な、なんだと!貴様の相手は私に決まっているだろう!」

 「あ、そう」

 俺のアナライズだと、あっちの執事っぽい魔族の方が強そうなんだけどな……


 「たかが『カイーナ級』ごときを倒したからといっていい気になるなよ……魔界の『アンテノーラ級』のチカラを見せてやる」



 「よし、まずは様子見……」

 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『風』『風』『風』

 「マナ ポーズ レイブ セード

 太陽の風 太陽の波 その摩擦で全てを消し去れ 太陽の力もって地上を守る盾となれ……」


 ん?俺が詠唱を唱えている時に、黒杖魔族って奴の杖が光ってる……

 黒杖魔族の前にも魔法陣が展開……『水』『地』『地』『地』

 「ギアトール アギトール

 力の円錐 魔の六角錐 地のことわりに反するものに罰を その切っ先で我が敵を刺し貫け」


 「な、なんだ?黒杖魔族じゃなくて、あの『杖』が詠唱を唱えている……!?」

 俺はそのまま魔法を放つ!

 「太陽圏属性 四重星魔術クアトログラム 『ヘリオスフィア』!」


 黒杖魔族の杖も魔法を放ってきた!

「尖塔属性 四重星魔術クアトログラム 『オベリスク』!」


 ドガガガガガ!!

「くっ、打ち消された?なんだ今のは?」


「フハハハ、この杖は『木霊(コダマ)の杖』、相手の魔法を打ち消す魔法を、

 自動詠唱するエクイップメントアーツ、『リバースエコー』が使えるのだ」


「なんだそりゃ!」

「私には魔法は通じんぞ」


 魔界にはそんなトンデモアイテムがあるのか……じゃあ直接攻撃しかない!

「はあああ」

 俺はガントレットを構える……


「フッ……一の獄・『魔眼マガン』!」

 魔族の眼が光る。


「『デトネーションブロウ』!」

 スカッ!

「くっ、避けられたか……さっきの『紅蓮魔族』だかって奴と同じことができるのか」


「フム、かなりの威力だな……ここまで来たということは紅蓮魔族を倒してきたということ。

魔眼マガン』と『悪喰アクジキ』をもってしても負けたわけか……

 警戒するに越したことは無い」


 そう言ってその魔族は構えをとる。

「三の獄・『堕天ダテン』!」

 魔族が叫ぶと、背中から真っ黒な羽根が生えてきた!

 魔族はそのまま空中へ。


「フフフ、魔法が使えない以上強力な遠距離攻撃はないとみた。

 ここからなら私の魔法の方が有利だな」


 あの魔族の羽根……羽根のチカラで飛んでいるのではなく、羽根が重力を操作して浮かんでいるようだ。

 羽ばたいていないのに、縦や横の動きが俊敏すぎる。


 「フフフ、では改めて食らうがいい……」

 黒杖魔族の前に魔法陣が展開……『水』『地』『地』『地』

 「ギアトール アギトール

 力の円錐 魔の六角錐 地のことわりに反するものに罰を その切っ先で我が敵を刺し貫け」

 尖塔属性 四重星魔術クアトログラム 『オベリスク』!」


 ズドドドド!

 地面から無数の先が尖った塔が飛び出してきた!

 「うわあああ!」


 「マスターー!」

 「く、くそっ……さすがに『神の言霊』を使われると、速い……」


 遠距離物理攻撃……俺の『デトネーションブロウ』の衝撃波で、離れた敵を撃つことは可能だが、

 初動で方向がわかりやすく、何より衝撃波のスピードが遅い……

 二秒先の未来が見えるあの魔族にこの技を使うのは、避けてくれと言っているようなもんだ。


 「ハハハハ、どうやら手詰まりのようだな……ウジ虫は地上で這いつくばっているのがお似合いだ」

 「そう言って飛んでいるアンタは、まるでハエのようだな」

 「なんだと!」


 「ハエの落とし方は知っているぜ……ハエよりもっと速い武器で撃ち落とす!」


 俺の前に魔法陣が展開……『炎』『風』『光』『闇』


 「フハハハ、バカめ、私に魔法は通じないとまだわからんのか?」

 「いえ、黒杖魔族さま、これは……攻撃の魔法ではない?」


 「カイン ガロン ヅア ベルデルタ

 我に物質の分解・構築の力を与えよ 理路整然 万物の理のもと 物質を作る力を

 練金属性 四重星魔術クアトログラム 『アルケミー』!」


 この魔法は自分で錬金術を生成する魔法……

 俺はこの魔法で、周りにある材料で磁石を作り、自分の目の前にレールのように配置、金属の弾体を生成した。


 「さらに、左手の『雷の魔力石』を発動!」

 シイナの改造で、俺のガントレットにも『炎の魔力石』と『雷の魔力石』が装着されているのだ!

 ヒュイイイイイン……


 「こいつが異世界式レールガン……名付けて『超電磁キャノン』だ!」

 バシューー!!

 ドンッ!

 「グフッ!ガハッ!」

 魔族のどてっぱらにデッカイ風穴を開けてやった!


『レールガン』……

 物体を電磁気力により撃ち出す兵器のこと。

 磁石に電気を流すことにより、磁場の相互作用によって弾を推進させる。

 初速はマッハ三以上、現実世界のコンクリートに巨大な穴を開けるほどの威力がある。


 「バカな……速すぎて、『魔眼マガン』でも、何も、見えなかった……」

 ドサッ


 「お?おおおーーー!」

 俺は反動で後ろの壁に激突しそうに、ヤバい!

 ボヨ~ン!


 その時、現実世界のハンモックのようなものが、俺を受け止めてくれた。

 「た、助かった……けどいったい誰が?」


 周りを見渡すと……さっき助けた『松宮 純』似の魔物の子だ!

 「君が助けてくれたのかい?ありがとう」

 松宮純似の魔物の子は、首を横に振りながら……

 「助けてもらったお礼をしたくて……」


 「このハンモックみたいなものは……」

 「私は蜘蛛の魔物、『アラクネ』です……糸を操る技が得意なんです。

 片腕だったので強度が足りませんでしたが、間に合ってよかったです」

 「そうだったのか、君を助けてよかったよ」


 「あの……お願いがあります、私も連れて行ってくれませんか?魔界に帰っても、私の居場所は無くて……」

 思いつめた顔……きっと何かあるのだろう。

 「わかった、君さえよければ俺たちの仲間に入ってほしい」

 「ありがとうございます」


 現実世界の『松宮 純』は、あいどる24の次期エース候補。

 目鼻立ちくっきりの『ザ・アイドル顔』、なのにトークもいける。

 天は彼女に二物を与えてしまいました……


 「ふう、とりあえず片付いたかな」

 「マスター、まだ執事魔族が……」


 執事魔族は両手を上に上げている。

 「ワタクシは降参します、戦うつもりはありません」


 「そうか、俺はアナライズで相手の心が読める、逃げようとしても無駄だぞ」

 「わかっています」


 「このまま魔界へ帰れば、お前は裏切り者として処罰される可能性が高いぞ」

 「えっ」


 「それより俺たちに協力してくれれば、魔界へ戻れるように助力しよう」

 「……わかりました協力いたします、何なりとお聞きくださいませ」

 「一応名を聞いておこうか」

 「ワタクシは執事魔族、名を『メルフィス』と申します、以後お見知りおきを」



 「じゃあ魔族の事と魔界の現状を聞きたい……

 その前に俺の他の仲間の集合と、ここの後片付けを先にやってからだな。

 メギード王、広めの会議室を用意してくれ」

 「わかった」


 こうして俺たちはメギード王が用意してくれた会議室で、メンバーの集合を待つ……

 待っている間、メルフィスが紅茶をいれてくれた。


 「どれどれ……おいしぃ!メルフィス、なかなかやるな」

 「お褒めにあずかり、光栄です」

 暫くして全員帰還した。


 「みんなよくやってくれた、これからこの味方にした執事魔族に、魔族の事と魔界の現状を聞くことにする。俺たちは魔族の事を知らなすぎるし、情報が著しく少ない」

 「わかりました、その前に……」


 ん?なんか、知らない奴が数名いる……

 「ミユキの頭に乗っているの、もしかしてスライム?」

 「はい、元使い魔のスライムです」


 「私がどうしてもこの子の音が聞きたくて、独断で仲間にしちゃいました」

 ミユキは確か『ASMR』にハマっていたな……

 「まあ、ミユキがそうしたならそれでいいさ、よろしくなスライムくん」


 「このままだと話しづらいと思うので、人型になりたいと思います」

 「え、人型に変身できるの?」

 「はい」

 そう言うとそのスライムは、ミユキの頭から降りて変身、人間の姿になった。

 「ほえ~凄いな……」

 「あくまでこの姿は私のイメージなんですが……」

 その顔はあいどる24の『和泉 真論』そっくり。


 現実世界の『和泉 真論』は、あいどる24愛に溢れた次世代歌姫。

 性格はドジっ子で妹キャラ、もう守らずにはいられない!?



 「そっちの下半身が蛇の魔物は……?」

 「私も元使い魔のラミアです……笑うことができませんが、お許しください」


 蛇の魔物ラミア……その顔はまさに、あいどる24の『伊山 小町』。

 笑えないってどういうことだろう……まいっか。


 「よろしく、ラミア」

 俺が握手をしようと手を差し出すと、ラミアは申し訳なさそうに、

 「私に触れると毒状態になってしまいます、申し訳ありません」

 「あ、そうなんだ……」

 握手もできないのか……


 現実世界の『伊山 小町』は、あいどる24のフードファイター担当。

 あんなに細い体なのに、いったいどこに入っているのだろう……

 可愛さとカッコよさが同居する、魅力的な女の子でもある。


 「そっちにいるのは、ハーピー……?いや違うな、海の魔物セイレーンか?」

 「……是」

 こっちはあいどる24の『船水 未来』に瓜二つ……7


 「この子はこんな風に『是』と『否』しか話せないようで、しかも喉がガラガラで歌えないみたいなんです」

 「ふむ、そうか……まあ、魔界へ帰る方法なら俺が何とかする、安心しろ。

 喉も大丈夫、現実世界ならきっと何とかなる、俺に任せとけ」


 ん?ヒメノとクリスが腹抱えて笑ってる?……まいっか。


 「あ~、お前『是』と『否』しか喋らなかったから、今まで結構ひどい目にあってきたんだな」

 「!?……是」


 「フフ、マスターは転移者で、アナライズを使って相手の心を読むことができるのよ」

 「これからは俺がお前の『翻訳者』になってやるよ、思ったことは全部俺に話せばいい」

 「……是」


 現実世界の『船水 未来』は、あいどる24の『ピッチの女王』。

 正確な音程・ピッチで歌うのが上手で、彼女に任せておけばピッチで困ることは無い。実は隠れ『あざとい女王』との噂も……


 「ではメルフィス、説明を頼む」

 「かしこまりました」


 「まずは魔族のことについて教えてくれ」

 「はい、『魔族』とは、この地上の地下にある『魔界』で生まれ育ったもののことを言います。過酷な環境に適応するため、強靭な肉体と高い魔力を持っているのが特徴です」


 「それは戦った時に感じた……最初の相手ですら『千迅騎士』並みの戦闘力があった」

 「せ、千迅騎士並みの戦闘力……」

 ザワザワザワ……


 「しかし、この地上の地下に、そんな空間があるとは……」

 「いえ、誤解のないように説明しますと、魔界は『位相』を変えて浮かんでいる状態なのです」

 「?」

 「簡単に言うと、存在している次元が違うということです」

 この異世界の人たちにはさらに難しいんじゃ……



 「また、魔族には成長や経験値といった概念が無く、生まれた時のレベルが一生そのまま固定となります」

 「成長しない……?では強くなることも、他に何かを覚えるという事もないのか?」

 「はい、ありません」

 生まれた時の才能が、その後の優劣を決めてしまうってことか、それって……


 「ゆえに、自分たちが特別な存在だと思いがちになります」

 「だろーな……」

 今まで会った魔族たちの言動を思い出すと……納得。



 「あと『使い魔』とはなんだ?」

 「『使い魔』とは、魔族の命令に忠実に従う召使い……いえ、この地上の言葉で言うなら『奴隷』に近い存在です」

 「奴隷か、確かにそんな扱いだったな」


 「使い魔は基本的に主人より低い階級のものがつくため、使い捨てや、消費アイテムのような扱いを受けます。

 相手の攻撃を受ける盾や、魔力や体力を回復するためのにえ用などに使われることがほとんどです」


 「魔族がダメージを回復するために、使い魔の腕を食べていたな」

 「『悪喰アクジキ』と言います……何かを『食べる』ことで自身の自然治癒力を爆発的に上げる技です」


 「お前も使い魔だったはず……でもアナライズしたらお前の方が能力が上だった」

 「それは、ワタクシが魔族と人間のハーフだからです」

 「『魔族』と『人間』のハーフ……?」


 「私の母親は魔族でした……人間だった父親は、そうとは知らず恋に落ち、私が生まれました」

 「えー、魔族と……」


 「母親はすぐに魔界へ帰り、ワタクシを産み、そのまま魔族として育てました。

 ワタクシの階級は、魔界で最下級の『カイーナ級』だったので、すぐに『使い魔』として働くことに」

 なんか現実世界でも、そういう話ありそうだなぁ……


 「ですがワタクシは魔族と人間のハーフ、『成長』と『レベルアップ』することができます」

 「なるほど、それであの魔族よりもステータスが高かったのか」

 「特に使い魔は、激戦の最前線での戦闘が多かったので」


 「その『カイーナ級』というのはなんだ?」

 「魔界にはその魔族のレベルによって階級があり、『カイーナ級』『アンテノーラ級』『トロメア級』『ジュデッカ級』と高くなっていきます」


 「現実世界の『神曲』の地獄の階層が、そのまま階級になっているのか……」

 「基本的に下の階級の魔族は、自分より上の階級の魔族に逆らうことはできません」

 「完全な『カースト制度』だな……」


 「魔族は闇属性の魔法は得意ですが、光属性の魔法は使えません。あと、人間の使う『結界』も使用できません……が、

 その代わり魔族だけが使える特殊な技『六獄りくごく』があります」

 「『六獄』……なんかそんなの使ってた」


「『一の獄』から『六の獄』まであり、それぞれ『魔眼』『悪喰』『堕天』『黒曜』『幻夢』『暴帝』という技を使います。

 使える技の数は階級により増えます、カイーナ級は『悪喰』まで、アンテノーラ級は『黒曜』まで、などです」

「最初に戦った『紅蓮魔族』はカイーナ級で、今戦った『黒杖魔族』はアンテノーラ級ってわけか」


「ちなみに、魔界の『魔王』は、魔王だけが使える特別な技『七獄しちごく』というのが存在します。

 各魔王ごとに威力や効果が異なり、どんな技かは謎に包まれています」



「魔族の事はだいたいわかった、目的も『強いニンゲンの拉致、もしくは強力な武器防具の奪取』というのもわかっている。そもそもなぜ今地上に魔族が侵攻してきたんだ?」


 「実は魔界は今、『魔界統一戦争勃発』の一歩手前なのです」

 「『魔界統一戦争』?」


 「はい……元々魔界は十ある王家が、互いに牽制し合って均衡を保ってきましたが、数年前に突如淘汰され、現在は二王家に」

 「そんな突然に……?何か切っ掛けがあったのか?」


 「特別な切っ掛けはありませんでしたが……

 今までの魔界は十王家のうちのどれか一つが、必ず突出した魔王が生まれていました」

 「突出した魔王……」


 「はい……他の九王家は、その突出した魔王を恐れ、反乱などは起こさず大人しくしていたので、

 特に統一戦争などは起こらなかったのですが……」

 「今回の十王家にはその突出した魔王が生まれなかったと?」

 「はい、そのようです」


 「突出した魔王がいなくなった途端、戦争が始まったってわけか……魔族ってのは血の気の多い連中ばっかりなんだな」

 「東の大国『魔角族マヅノぞく』、そして西の新興王家『邪尾族ジャビぞく』……

 今はこの二大王家が、魔界の覇権を得るために争っています」

 「『魔角族マヅノぞく』と『邪尾族ジャビぞく』か……物騒な名前だな」


 「ちなみに私たちは『邪尾族』の先兵になります」

 そう言えばこの執事魔族のメルフィスにも尻尾が生えてる。



 「どちらの王家も、近々起こるであろう大戦に備えて、軍備を増強しようと躍起になっているところです」

 「それで地上の戦力を利用しようとしたわけか」

 「はい、大方の予想ですと、『魔角族』の戦力を十とすると、『邪尾族』の戦力は七から八……『邪尾族』の方が若干不利な状況であります」


 「大戦後はどうなる?」

 「どちらの王家が勝利するかはまだ分かりませんが、統一後はおそらく『天界』に攻め込むでしょう」

 「『天界』……」


 「はい、魔界と同じく、天界もこの地上のはるか上空に、位相を変えて浮かんでいます。魔界と天界は今までも幾度となく戦闘を繰り返してきた、いわば『宿敵』……天界侵攻は魔族の悲願でもあるのです」

 「魔界と天界の戦争か、我々の想像を絶する話になってきたな……」

 メギード王がみんなの意見と言わんばかりに話す。


 「魔族が天界に攻め込めば、その時に通り道である地上もやはり侵攻の対象となります……つまり、どちらにしても近い未来、地上は絶滅するでしょう」

 「そんな……」

 ザワザワザワ……

 周りの大臣や騎士たちもざわつき始める。


 「なるほど……魔族のこと、地上侵攻の理由、それは分かった。

 お前の個人的な意見でいい、どうすれば魔族の地上侵攻を防ぐことができる?」


 「ざっくりですが、私が考える回避策は

  ①人間が魔界を制圧

  ②魔界の戦争を長引かせる

  ③のっぴきならない事情を作らせる

 こんなところでしょうか……」


 俺の考える回避策とほぼ一緒だな……

 「③の、のっぴきならない事情とは、もはや戦争をしている場合ではないというぐらいの、危機的状況を作ることを言います」


 「う~ん、①と③は現実的ではないなぁ……」

 「私もそう思います……今の地上の戦力を総結集しても、魔界制圧は不可能と考えます」

 「そんなに……ザワザワザワ」


 「メギード王はどう思う?」

 「オレ一人の意見では……他の国の王とも相談しなくてはなんとも」

 「だろうな……しかし、そんな時間的余裕はなさそうだぞ」

 「そうですね、今回の戦闘での生き残りが魔界へ戻り、戦況を報告したら、邪尾族の王がどう出るか……」


 「報復のため大群で地上に攻めてくるか、もしくは無視して統一戦争をおっぱじめるか……

 どっちにしても、地上からするとマイナス要因しか無いわけだが」


 シ~ン……

 静まり返っちゃった、まあ仕方ないけど。



 俺の考えを話してみるか……

 「みんなは『天下三分の計』って知ってる?」

 「『天下三分の計』……確か古代中国の『蜀』が使った戦法ですね」

 「そうだ、さすがは博識のリイナだな……俺のいる世界の、古代中国稀代の名軍師、『諸葛亮孔明』が考案した戦法だ」


 『天下三分の計』……

 古代中国、北の曹操率いる『魏』と、南の孫権率いる『呉』が天下を争っていた時代に、

 劉備玄徳が孔明より授かった、天下を取るための作戦。

 劉備が国を興し、勢力を分散して拮抗状態を作り出し、天下を取るための時間稼ぎをするという案だ。


 「まあ、ざっくり言うと、国が二つしかないから決着をつけたがる……

 小さくてもいいからもう一つ国を作り、三国になればお互いに共闘したり、警戒したりで、わざと冷戦状態を作る……という戦法だ」



 「なるほど……ギガンティックマスターのいる世界で、昔実際に行った戦法なのですね?だとするとその成功率は高い……

 ではそのもう一つの国の国王は、ギガンティックマスター、貴方様がなるということですか?」


 「いや、俺はそういうの向いてないから。別のやつを探すつもりだ」


 「でしたら、うってつけの方がいらっしゃいます」

 そう言いつつ、メルフィスはメンバーの方へ……


 「ヴァンパイアのコウさん、どうやら貴女は魔界の魔王の血筋のようですね」

 「えっ」

 メルフィスのご指名は、どうやらコウのようだ。


 「ワタクシには分かります、十あった王家の一つ、『吸血鬼族』の王家の末裔……それが貴女です」

 「わ、私が、王族……?」

 コウはキョトン顔。


 「なるほど、コウを王にして、『吸血鬼族』の国を復興させる作戦か」

 「その通りです……元々あった国を復興させるので、反発も少ないかと思われます」

 「俺たち人間が乗り込むんだからな……俺たちはコウの手下って「てい」で行けばいいんだな」



 「具体的に必要なことは、

  ①魔界に行き、国を興す土地の選定

  ②国民の選定

  ③『マオウクロニクル』の発現……以上になります」


 「『マオウクロニクル』?」

 「『マオウクロニクル』とはその国の魔王が持つエンブレムの事……これを所持できるのは王家の魔族、つまり『魔王』のみ」

 その王家の『家紋』みたいなものなのかな……


 「吸血鬼族のマオウクロニクルをこの場に顕現できれば、王家の者としての証明となります。

 魔王ならば自分の記憶の中にあるマオウクロニクルを、光の文字を使って空中に描くことができるはずです」


 あー、それは無理かなー、だってコウは……

 「私は人間界の奴隷になる前の記憶をまったく覚えておらず、その『マオウクロニクル』というものも、いったい何のことやら……」


 「なんとそうだったのですか、それは困りましたね……」

 し~ん……また静まり返っちゃった。


 「これはまた、現実世界の技術の出番かな……その名も『逆行催眠』だ」

 「マスター、『逆行催眠』とは……?」


 「俺も現実世界のテレビ番組とかで見ただけなんだけど、本来は、体の不調なんかを訴える人を催眠術にかけて、過去に戻り、過去の自分に会い、自分を許すことによって解放されるという『催眠療法』の事なんだ」


 「『催眠療法』ですか……それを使えばコウは『マオウクロニクル』を思い出すことができる……」

 「う~ん、確定ではないけれど、本人は全く覚えていない事、つまり潜在意識を引き出して行うものだから、本人が忘れていても、追体験することで思い出せるんじゃないかな」


 「話を聞く上では、かなりの技術が必要そうですが……」


 「催眠術の応用だから、サキュバスのアユムにもできると思うんだけど……」

 「催眠術にかけて、過去の記憶に遡る、ですか……」

 さすがのアユムも頭を抱えている……


 「直接コウの精神に『ダイブ』して、探すという方法なら可能かも」

「本当か?」


 「ですが大変危険な行為ですので、私一人ではちょっと……」

 「モチロン俺が同行する、できるか?」

 「はい、それならば」


 「よし、じゃあ俺とアユムで、コウの『マオウクロニクル』を見つけ出す。

 これが今回の魔族地上侵攻を防ぐ『鍵』となるだろう……

 みんな、成功を祈って待機していてくれ」


 「はい」

 「たのんだぞギガンティックマスター殿」

 「マスターお気をつけて」



 ☆今回の成果

  俺 『超電磁キャノン』習得

  執事魔族 メルフィスが仲間に


  『アラクネ』のジュンが仲間に

  『スライム』のマロンが仲間に

  『ラミア』のコマチが仲間に

  『セイレーン』のミライが仲間に

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