第31話マオウクロニクル

 アナタはアイドルに『ずっとそばにいる』と誓ったことがありますか?……俺はある。


 俺とコウは、アユムの指示に従い、ベッドのようなものに横になった。

 「まずお二人には私の魔法で寝てもらい、私とマスターの精神をコウの精神へダイブさせます」

 「精神をダイブ?」


 「まあ簡単に言うと、三人で共通の夢を見る……といったところです」

 「共通の夢か……うん、よしやってくれ」


 アユムの前に魔法陣が展開……『風』『闇』『闇』

 「黄昏よ 彼の者を誘い給え 眠れ眠れ 永遠に覚めることの無い夢の世界へ……

 黄昏属性ハイアナグラム 『トワイライト』!」

 ポワワ~ン……

 「では行きます、アドバンスドアーツ『サキュバス・ダイブ』!」


 *****


 気が付くとそこは、真っ白な地平線がただ広がる広大な空間……

 俺とアユムだけがそこに存在している。

 「ここが、コウの精神の中……?」


 「ここはまだ入り口です、この先の扉を通ると、コウの『記憶』の世界に入ります」

 俺たちの前には白い扉が一つだけ……

 「まずはこの『白いドア』を通ります」

 俺は言われるがまま、白いドアを開ける。

 ガチャッ


 「わあ……」

 そこは現実世界と異世界が混ざったような町……?

 現実世界のビルもあれば、異世界の屋台なんかも並んでる。

 「ここがコウの最近の記憶の中です」


 空にはいろんな映像や文字が描かれていて、動いている。

 「この空にコウの記憶が、映像や文字として流れます」

 俺と初めて会った時の映像や、ファルセイン城で一緒に戦った時の映像なんかも流れている。



 「あの『ブシュ―』って吹き出す血を見ると手に力が入らなくなってしまい……」

 「んーー!おいしんですけどー、マジパネェっす、魔力アゲアゲ―!」

 「……からのー、もう一枚!小アルカナは……出たー炎属性『棒の5番』!」

 「煉獄属性ハイアナグラム 『インフェルノ』!」


 ……そんな前じゃないのに、なんか懐かしいな。


 「映像や文字の約八十パーセントはマスターのことですね……コウはマスターの事が大好きなようです」


 「そうなの?いや~なんか照れるな~」

 「最近は現実世界のコスメや食べ歩きがマイブームだと言っていました」

 確かに、色んなコスメを見に行ったり、美味しそうなスイーツをみんなで食べている映像が、そこかしこに流れている。


 「いや~コウはホント今の生活を一番満喫しているな」

 「今が楽しくて仕方ないといった感じですね」

 おっと、懐かしんでる場合じゃない、『マオウクロニクル』を探さなきゃ。


 「今いる場所は最近の記憶なので、おそらくここに『マオウクロニクル』はないでしょう。もっと過去の記憶に戻る必要があります」

 「どうすればいい?」

 「まずは『青いドア』を探しましょう、それが次の過去の記憶へ行くための扉です」

 「わかった」


 俺たちは手分けして『青いドア』を探す……

 「あった!」

 路地裏の行き止まりにあった『青いドア』を見つけた。


 「では行ってみましょう」

 俺とアユムは『青いドア』をくぐる……

 ギィィ……



 そこは生き物も、一滴の水も見当たらないような、広大な岩が点在する砂漠……

 カラカラに乾いた心を映すかのような世界……


 「ここは……?さっきまでとはまるで雰囲気が違う」

 「ちょうどここはコウが地上で奴隷になってしまった辺りの記憶だと思います」


 空は前と同じように、コウの過去の記憶が、映像と文字になって流れている。

 「あそこにコウが地上に来たばかりっぽい映像が流れている」

 俺が指さした方の空に、地上で目を覚ましたばかりのコウが映っている。


 「ここはいったい……私は……?」

 キョロキョロ周りを見回し、トボトボ一人歩き出すコウ。

 「そもそもコウはどうやって地上に来たんだ?

 あと、どうしてこの前の記憶がないんだろう?」


 「次の過去の記憶に行けば分かります、次は『黄色のドア』を探してください」

 俺たちは『黄色のドア』を探す。

 探しながらも、空の映像と文字の流れは続く……


 「あ、人がいる……」

 映像のコウは焚き火をしている数人の人間に話しかける。

 「あの教えてください、ここはいったいどこなのでしょう?」


 「ん?なんだお前、この辺のやつじゃねぇな?」

 「へっへっへ……亜人の若い女、み~つけたっと」

 男たちの奥には、檻に入れられた若い女の子たちが……

 「人さらい……?」


 そのままコウは男たちにさらわれ、そのまま奴隷に……


 奴隷市場に着き、数十人の女性奴隷とともに広い空間の建物へ。

 そこには鞭を持った数人の女性が。

 「まずは売れやすいように『商品』を綺麗に洗わなくっちゃねぇ~」


 「水の精霊よ 我が祈りに応えよ 穢れしものを清め給え 水属性 基礎星魔術プログラム 『スプラッシュ』!」

 バシャーーーー!

 「キャーー!」

 「い、痛い、冷たいーー」

 「アーハッハ、アンタら奴隷に水を使うのはもったいない、これで十分さ」


 水の魔法で洗われた女性奴隷たちは、顔や見た目で選別され、それぞれの牢屋に監禁された。

 「ほらよ、晩飯だ」

 床に投げられたいくつかのパン、ところどころカビがついている……

 「ちなみにこれが一日分、お前たち全員の分だ。たくさん食べたきゃ他のやつの分を奪うんだね」

 「そ、そんな……」


 こうして奴隷になった一日目が終わる。

 次の日……

 「ほらアンタら、出るんだよ!」

 すぐ全員牢屋から連れ出される。

 奥で横になっていた女性奴隷が動かない。


 「ん?なんだい、もう死んでるのかい?早いねぇ……」

 その女性奴隷は死んでいた。


 「い、いやーー!こんなところで死にたくないーーー!」

 一人の女性奴隷が叫びながら逃げ出す!

 バシィッ!

 「ぎゃああ!」

 「アタシから逃げられると思っているのかい?舐められたもんだね」


 バシィッ!

 ビシィッ!

 「ひいいいい!」

 「やめて!やめてください、もう……」

 たまらずコウがその子をかばう。

 「フン、アタシたちに逆らうとどうなるか、これで分かっただろう」


 そう言って鞭を持った女性看守は、女性奴隷の死体の後始末をしに行った……

 「もう、もういや……こんなことがずっと続くなんて……お願い、私を殺して!お願いよ!」

 鞭打たれた女性奴隷は泣き崩れる……

 コウは何も言えず、ただ女性奴隷を抱きしめるしかできなかった……


 数日がたった日の夜……

 「な、なんだお前は!?」

 ドスッ!

 「ぐふっ……」

 ドサッ

 牢屋の外にいた女性看守が倒れた。


 ガチャッ!

 牢屋の扉が開く……

 「私の名前は『カレン』。私の主、ギガンティックマスターの命により、みなさんを助けに来ました」


 「えっ、私たちを?一体どうして……」

 「私の主、ギガンティックマスターは、この世界の奴隷や人さらいを一掃するため戦っている人です。さあ、こっちへ」


 コウと女性奴隷たちは、カレンの誘導のもと、建物の外へ。

 「ああ、私たち、本当に助かったの?」

 「ええ、これからみなさんを一旦ギガンティックマスターのいる『名もなき村』へ移送します。その後、故郷へ帰宅するなり、村に移住するなり、ご自由にして構いません」


 「でも私たち、持ち物を全て奪われて、何も持っていなくて……」

 「大丈夫です、盗られたものはできる限り取り返します。この後生活できるだけの支援も用意していますのでご安心を」


 「そんな、何から何まで……どうしてそこまでしてくれるんですか?」

 「我が主、ギガンティックマスターの指示ですから、お気になさらずに」


 「ギガンティックマスター……無償でこんなことをするなんて、一体どんな人なの……」

 コウ、俺は今ここにいるよ。

 この後名もなき村で俺と出会い、俺にメンバーとしてスカウトされるわけか……


 「しかし、やっぱり想像を絶するところだな、奴隷市場ってのは。アユムもこういう感じだったのか?」

 「はい、ほとんど似たようなものでした。カレンさんが来なかったら、今頃私もコウもどうなっていたか……」


 「こんな過酷な過去があったなんて、今の笑顔いっぱいのコウからは想像もつかなかった……いや、こんな過去があったからこそ、今を精一杯笑顔で過ごしているのかもな」

 「私もそう思います」


 少し進むと、砂漠の真ん中にぽっかり『黄色のドア』が立っていた。



 俺たちは次の扉、『黄色のドア』をくぐる……

 ガチャッ……バタン。


 今回は少しおもむきが違う……?

 城内のようだが、ファルセインでもカイエルの城でもない……?


 「ここはどの辺の記憶だ?」

 「おそらく、地上に来る前……コウの魔界での記憶かと」

 空にコウの記憶が流れる……


 玉座に座るコウと、大臣のような恰好をした老人が映っている。


 「姫、ご両親が亡くなり、吸血鬼族の王家の血筋は、もはや貴女だけとなりました」

 「私は……私は王になどなりたくありません」

 「……」

 大臣も困ってる。


 「オーホッホ、姫、王になりたくないのなら、その王位アタシに譲るってのはどうかしら?」

 なんか凄い身なりの女の魔族が出てきたな。


 「ヴェルマリアさま、貴女は姫のかなりの遠縁、さすがに王位は……」

 「あら、このまま空位にして、他の一族に侵略されてもいいのかしら?」

 「そ、それは……」


 「姫、ご安心あそばせ、アタシが王になればこの国はもっと豊かになり、アナタのお父上もきっとお喜びになるわ、オーホッホ」

 あー、あの女魔族、そのまま王位に就いちゃったよ……


 「さあ、アタシのために腕によりをかけて料理を作るのよ!」

 「オーホッホ、アタシに似合う豪勢なドレスを作りなさい!」

 「アタシの誕生日に優雅なダンスを踊れないものは死刑よ」

 ……女魔族の豪遊が始まった、まあそうなるわな。


 「アタシに逆らう隣国は侵略してしまいなさい!」

 「オーホッホ、連戦連勝よ、アタシの国は最強よ!オーホッホ」



 「ヴェルマリア様、西の砦が侵略されました」

 「なんですって!?兵士たちは何をしていたの?死刑になさい!」

 「周りの隣国は連合して、我が国は四方八方から攻撃を受けています、このままでは……」


 「将軍たちは何をしているの?出撃させなさい」

 「それが……我が国の将軍の半数はすでに他国に高額で引き抜かれておりまして、今いるものが出撃すると王城の警備が……」


 「高額で引き抜かれた……?一体何をしていたのですか!?なら、さらに高額で引き抜き返しなさい!」

 「お言葉ですが、我が国にそのような余裕はなく……

 前王が亡くなってから、我が国は消費ばかりが増え、収入は減るばかり、兵士も国民も他国への流出が止まりません」


 「なっ……で、ではこの国は、ここはどうなるのですか?」

 「……この王城が陥落するのは時間の問題かと」


 その言葉の通り、数日で王城は陥落、ヴェルマリア達は捕らえられた。

 「この国の王はお前か?」

 「い、いいえ違います!アタシは代行を頼まれただけで……王はあの娘です」

 指さした方にはコウが。

 「そ、そんな」


 「お前が吸血鬼族の王か、お前の首を我が王がご所望だ」

 「私は王位をヴェルマリアに譲りました、私はもう王ではありません」

 「いいえ、アタシは吸血鬼族の『マオウクロニクル』を持っていません、アタシは王ではないですわ」


 「おい、手を見せてみろ」

 コウの右手の甲には、吸血鬼族の『マオウクロニクル』が……

 「やっぱり貴様か、他人に罪を擦り付けようとするとは、誇り高き吸血鬼族も地に落ちたものだな」

 「ち、ちがっ」

 「こっちへ来い!貴様は明日公開処刑だ、自国の牢屋で恐怖に震えているがいい!」


 ガシャーン!

 コウはそのまま牢屋の中に。

 「うっうぅぅ……どうしてこんなことに、私はこれでもう死んでしまうの?

 おじいちゃん、お父さん、おばあちゃん、お母さん……」


 真夜中……一人の影がコウの牢屋の前に。

 「姫さま、お迎えに上がりました」

 「あなたは……大臣?どうやってここへ?」


 「……衛兵に金を渡し、このワシに眠らされたとウソをついてもらう手はずです」

 「そんな、そんなことをしたらアナタが……」

 「ワシの事は気にせず、さあ早く、他の者が気づく前に……」

 大臣とコウは牢屋を出て、城の外へ。



 「姫、ここから先は貴女一人で、逃げる手はずは整っております」

 「アナタはどうするの?」

 「ワシはここで追っ手の行く手を阻み、時間を稼ぎます」


 コウは走り出すが、すぐ止まり、大臣のところへ引き返す……

 「この先の人生も、こんなことが続くなら、もういっそのことここで死んだほうが……私はこのまま生きていても、ずっと不幸が続くのでは?」


 「……姫さま、貴女の境遇を考えれば、そうお考えになるのも無理はありません。ですが、死んだほうがいいなどと考えるのはおやめ下さい」

 「でも……」


 「……地上の転移者から聞いた話で、『正負の法則』というものがあります」

 「『正負の法則』……?」

 「人生は『正』と『負』がバランスを保って成り立っているという考え方です。

 良いことがあれば悪いことが、悪いことがあれば良いことが、交互に繰り返されます……『自分さえよければいい』と他人を不幸にするものは、必ずその報いを受けます」

 「報い……ですか?」


 「失礼ながら姫さまは今、人生のどん底……この世の不幸を全て背負っているようなお顔をなさっております」

 「……」

 「ということは、この先の姫さまの人生はずっと上がりっぱなし、全世界で最高の人生となるはず。

 今死んでしまわれたら、それを享受することができなくなってしまいます」

 大臣はコウの肩に手を置き、微笑む。


 「姫、希望を捨ててはなりません、この先貴女の事を救ってくれる方が必ず現れます……貴方はその方と一緒に笑い、時に勇気を持って進み、人生を謳歌なさるのです」

 「大臣……」

 コウはコクりとうなずく。


 「隣国の『邪尾族ジャビぞく』は、地上の転移者を捕縛して、その能力を使い地上への道を開いていると聞き及んでおります。

 そこから地上の人間界に逃げ延びてください、人間界ならば追手が来ることはありません」

 「でも……でも」


 「どうしても過去の記憶が辛くて、前向きになれないとおっしゃるなら、地上に出て、これをお使い下さい」


 「あれは……『ネクロノミコン』!?スミレの持っていたネクロノミコンはコウの持ち物だった?……いや、そもそも『ネクロノミコン』は一冊ではない……?」


 「さあ姫さま、もう追手が来ます、ワシの努力を無にしないで下さい」

 「大臣……お互い命があれば、必ずアナタを救いに来ます」

 そう言ってコウは走り出す、隣国の『邪尾族ジャビぞく』の国へ。


 コウが着いたときにはもう日が昇り、朝も過ぎていた……

 大臣に言われたように、衛兵には見つからないように裏口へ。

 裏口には吸血鬼族の男が立っていた。

 案内され、転移者のいる部屋へ……


 転移者は目隠しをされ、足にはおもり、首には奴隷紋が……

 吸血鬼族の男が、部屋の衛兵に金を渡し、衛兵が転移者の耳元で何かを話している……

 転移者が手をかざすと、目の前に『ドア』が出現した。


 「……このドアをくぐれば地上に出られる、大臣に頼まれたから仕方なくやったが、できればアンタはもう二度と魔界に来ないでくれ……アンタの周りはいつも不幸になる」

 「……」


 コウの目からは、涙がとめどなく流れる。

 ドアを通り抜けると、一瞬で地上の森の中に出た。

 振り返ると、ドアはもうない……


 「う、ううぅぅ……私は、本当にこのまま生きていていいの?私のために、いろんな人が傷ついて、死んだりして、なのに私はのうのうと……」

 コウは持っていたネクロノミコンを見つめる……

 「せめて、過去の記憶が消えれば……心が、軽く……」

 コウは本を開き詠唱を唱えた。

 「アー・ゴイル・イー・ラクナス

 記憶の底 記憶の淵 その領域に触れしもの 記憶の痕跡を上書きする力を その者の記憶を改ざんせよ 記憶改ざん属性 禁呪、『メモリーシフト』!」

 パアアアアア……


 コウはそのままその場に倒れ、気絶してしまう……


 「……コウが魔界の王家の人間で、なぜ地上に来たのか、なぜ記憶がないのか、

 全ての事情がわかった……けど、これは悲しすぎるよ」

 「そうですね……私もすべて聞いていたわけではなかったので、ちょっと衝撃でした」


 「今の記憶には『マオウクロニクル』は無かったな、次の記憶へ行こう」

 城の玉座の裏にあったドアを発見、俺たちは『赤いドア』をくぐる……



 ガチャッ……ギイィィ、バタン。

 「ここは……?魔界の街……なのか?」

 扉の向こうは、見たことのない街の風景……建物がすべて燃えている。


 空の映像と文字は、一面『戦争』をしている映像が流れている……

 「これは……吸血鬼族と吸血鬼族?同族で戦争をしているのか?」


 片方の老人は眼が赤く、牙も生えている。

 もう片方の男性も同じく、目が赤く牙が生えている。


 お互いに斬り合ったり、噛みついたり、そこら中が血で染まっている……

 奥に見える小さな女の子……もしかしてあれはコウ?


 「やめてーーー!、お願い、おじいちゃんもお父さんも、やめてーー!」

 この戦争、コウの両祖父母と両親の戦争なのか!?

 なんでそんなことに……



 「お父さん、この子は絶対に吸血鬼族の王などにはしません!」

 「まだいうかこの愚か者が!代々受け継がれてきた吸血鬼族の王位を、ここで絶やすわけにはいかんのじゃ!」


 「そう言って私を吸血鬼族の王にしましたね?

 しかし、王になっても不幸ばかり……この子にはそんな思いは絶対にさせない!」


 「ここで王位が途絶えたら、先祖になんと申し開きするつもりじゃ!

 吸血鬼族も滅亡してしまうのじゃぞ!」


 「王がいなきゃ滅亡してしまう一族なんて、無くなってしまえばいい!」

 「この愚か者がぁ、この子はワシらに預け、お前は死んで詫びろ!」


 ズバアアア!

 バシイィィ!

 「いやあああ、もうやめてーー!」


 「さあ姫、今のうちに私と安全なところへ……」

 「そうはいきません、お義母さま!」


 ガキィィン!

 「くっ、おのれ……この子が王になることが幸せなことだと、まだわからないのですか?」

 「いいえ、王になって幸せになどなれません、お義父さまを見ればお分かりになるでしょう?」

 「おだまりなさい!あの人は幸せでした!」


 「おばあちゃんも、お母さんもやめて!私のために、二人が殺し合うなんて……」

 これは、コウを王にするたの戦争……なのか?

 こんなことが昔本当にあったってことか。


 「王とは国民あってのもの……王が国民のために身を削るのは当然じゃ!」

 「他の一族との軋轢、魔王としての重責……そんなものをあの子に強いるのですか!あの子はそんなことをするために生まれてきたんじゃない!」


 「お義母さま、あの子の人生はあの子のもの!私はあの子を普通の女の子として育てたいんです!」

 「何を言いますか、王家に生まれた時点であの子は王になるために生まれてきたということです!あの子には吸血鬼族を率いていく義務があるのですよ!」


 両祖父母、両親だけじゃなく、他の兵士たちも二手に分かれて戦っている……

 まさに国を二つに分けた戦争だ……



 コウの祖父と父親はお互いに嚙みつき合い、血飛沫をあげて絶命した。

 祖母と母親も、お互いを剣で突き刺し、血だまりの中で果てた……

 「ああああ、ああああ……いやあああ!」


 血まみれになりながら、一人泣く少女……

 いつの間にかその少女は映像ではなく、俺たちの目の前にいた。


 「これだけの血飛沫、血だまり……自分のせいで、大好きな人たちが死んでいった……いくら吸血鬼といえど、血が怖くなるのも当然か」


 「ぐすっ、ぐすっ、わ、私のせいで……おじいちゃんも、お父さんも……

 おばあちゃんも、お母さんも、私のせいで……ごめんなさい、ごめんなさい……」

 少女は泣き続ける、その目には一生分かと思うくらいの大量の涙が溢れている。


 俺は静かに少女に近づき、そっとその少女を抱きしめた。

 「もう泣かなくていい、お前は悪くない」

 「でも……でも……」

 「おじいちゃんも、お父さんも、おばあちゃんも、お母さんも、誰も悪くない……

 この戦争で悪いやつは一人もいなかった……」

 「ううぅぅ……ぐすっぐすっ、うわあああん……」


 「祖父母はお前を王にすることで幸せにしたかった、

 両親はお前を王にしないことで幸せにしたかった……

 どちらもお前の幸せを願っての事だった……

 でも本当の幸せは、どちらもお前のそばにいるということだったのに……」

 「お父さん、おじいちゃん、お母さん、おばあちゃん……」


 「俺はずっとお前のそばにいると誓おう、死が二人を分かつ、その時まで……」


 子供だったコウが、いつの間にか大人に戻っている……

 俺に抱きしめられながら泣いている。

 「ううぅぅ……おじいちゃん、お父さん、おばあちゃん、お母さん……

 マスター、私、ううぅぅ……」



 コウの後ろに、『黒いドア』が出現した。

 「これは、まさか……」

 俺は泣いているコウをアユムに託し、そのままその黒い扉を開ける……


 その先には光り輝く家紋のようなエンブレムが……

 「これが……?」

 「そうです、それが吸血鬼一族の『マオウクロニクル』です」

 アユムがコウを支えながら教えてくれた。


 俺は『マオウクロニクル』を持ち、コウに渡す。

 「これは……」

 「これは吸血鬼族の『マオウクロニクル』……お前が王族だという『証』だ。

 これがあれば、たくさんの人間の命を救うことができるかもしれない」


 「王族の、証……命を、救う……?」

 「ああ、お前にとっては辛い過去、忘れたい過去だっただろう……

 でも俺たちは出会えた。メンバーもいる、お前はもう一人じゃない。

 それをもって一緒に帰ろう」


 コウは涙を拭き、真っ赤な目でニッコリ笑う。

 「はい……わかりました」


 「アユム」

 「はい、ではみんなで帰りましょう……『サキュバス・サルベージ』!」

 キュウゥゥゥーーン……キラン


 ☆今回の成果

  アユム アドバンスドアーツ『サキュバス・ダイブ』『サキュバス・サルベージ』習得

  コウ 吸血鬼族の『マオウクロニクル』を手に入れた

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