アンタッチャブルズ編

第29話転移病

 アナタはアイドルの『腕を治した』ことがありますか?……俺はある。


 「いや~ファルセインとか、凄い久しぶりな気がする」

 「そうですね、なんだかんだで二か月近く経ちますから」

 そう言いながらドアをくぐる俺とメンバー達……


 「なんだなんだ~?」

 「これは、いったい……?」


 ファルセインの俺の自宅に着くと、なぜか大勢のファルセインの住民たちが……

 「皆さん、どうされたんですか?」

 マキアが聞いてみたが、みんな恐怖に震えていて、誰も口を開かない。


 少し探すと、『やんやん亭』のシェフと、従業員がいた。

 「一体何があったんだ?」


 「じ、実は、急に大勢の『魔族』が襲撃してきて……」

 「まぞく……?」

 まぞくって、あのファンタジーではお馴染みの、魔界とかに住んでいる種族のこと?なんでまたそんな急に……


 「みんな慌てて逃げ出したんですが、なぜかこの建物だけは魔族も手が出せないみたいで」

 あー、それは俺がこの建物に『結界』を張っていたからかな?


 「勝手に入って失礼だとは思ったのですが、命からがらだったので……」

 「ああ、それは別にいいよ、ケガ人とかはいないか?治療するよ」

 俺は回復メンバーに指示して、住民たちを治療した。


 「ここに入る前に、二人の転移者の方が私たちを誘導してくださって……今もその『魔族』と戦っているんです」

 ガキーン

 ズガガガガ!

 外から戦闘の音が聞こえる。


 「わかった、みんなはここにいて、俺は外を見てくる」

 俺が外に出てみると、二人の転移者が戦っていた……『イチヒコ』と『テンマル』だ。

 戦っている相手、あれが『魔族』……

 屈強な体に爬虫類みたいな目、でっかい牙に、尻尾が生えてる!

 もう一人、あれは魔物かな?下半身が蜘蛛みたいになってる……片腕がないけど?



 「く、くそっ、下がれテンマル!こいつ魔力が半端じゃない」

 「で、でもイチヒコ君だって、もう魔力が……」


 「ギャーハハハ、『ニンゲン』にしてはやるようだな、だが魔族のオレ様から見たら、お前など所詮は下等生物、話にならんわ!」


 魔族の前に魔法陣が展開……『炎』『地』『闇』『闇』

 「プライグ・シーメイン・ガラルド

 地下深く眠る地獄の業火 罪深き獣共に地獄の烙印を押せ……獄炎属性 四重星魔術クアトログラム、『エグゾダス』!」

 おお?神の言霊と四重星魔術はデフォルトか!?


 「あぶないイチヒコ君!『対魔力結界』!」

 テンマルがイチヒコをかばって対魔力結界を張る!

 バキーーーン!

 「うわあああー」

 テンマルの対魔力結界が割れて、テンマルが吹っ飛ばされた!


 「テンマルーーーー!」

 「ハハハ、そんな微弱な結界では、オレ様の魔法を防ぐことはできん」

 「ちくしょう、こうなったら……」

 ズキンッ!

 「うっ……胸が……でもそんなこと言ってる場合じゃない!」


 イチヒコの前に魔法陣が展開……『炎』『風』『風』

 「天空の狭間 気高きモノよ 炎と風纏いて天より来たれ 地上に降り注ぎ 焦土と化せ くらえ……」

 ポンッ

 「えっ」


 俺はイチヒコの頭に軽く手を置いた。

 「よく頑張ったな、イチヒコ」

 「し、師匠ぉ~~」(泣)


 「ん?また『ニンゲン』か、今更数人増えたところで……」


 「うっ、いたたた……」

 「イチヒコ、胸を見せてみろ」

 イチヒコの胸には、心臓のある場所から、木の根のような刻印が広がっている……

 「やっぱり、お前『転移病』にかかっているな」

 「『転移病』……?」


 「ああ、前に『神魔』って奴に教えてもらったことがある……

 転移者だけがかかる病気で、魔力が枯渇しているときにさらに魔法を使うと、お前みたいに心臓に刻印が浮かび上がる」


 「心臓に、刻印……?」


 「俺も、ほら」

 俺は自分の胸もイチヒコに見せる……そこにはイチヒコと同じような刻印が。

 「し、師匠にも?」


 「これを放置して、また魔法を使うと、どんどん刻印が体を侵食していく。

 体中に刻印が侵食すると、今度は色が青色から黄色、そして赤色になる」


 「赤色になると、どうなるんすか?」

 「赤色になると、理性を完全に失い、欲望と本能だけの化物になる……らしい」

 「ば、化物……」


 「だからお前はもう休め、これ以上魔力を消費するのは控えるんだ」

 「で、でも魔族が……」

 「あいつは俺に任せておけ」


 魔族が胸で腕を組みながら近づいてくる……

 「ん~、今聞き捨てならないセリフを聞いたな~、ニンゲンのくせに、オレ様の相手をするだと?」

 「そうだ」


 「フフフ、そのイチヒコだかって奴もそうだが、ニンゲンは出しゃばってくる奴が多い。どうせオレ様にやられてしまうのになぁ……」

 「それはやってみないとわからないぜ」


 「わかるに決まっているだろうが!貴様ら下等生物のニンゲンが、

 オレ様たち『高等生物』の魔族にかなうわけないだろうがーーーー!」

 ズアアアアアア!

 凄まじい魔力の高まり……


 俺は魔族をアナライズしてみた。

 「紅蓮魔族」「男性」「レベル95」「基本属性 炎」

 「HP480」「MP500」「腕力300」「脚力250」「防御力350」「機動力400」「魔力400」「癒力150」「運100」「視力2.0」


 おー、よかったよかった、魔族でもアナライズはできるらしい。

 ……確かに言うだけはある、腕力も魔力も相当高い。

『千迅騎士』と同等ぐらいか……イチヒコが苦戦したのも頷ける。

 

 「どれ、いっちょかましてみるか……」

 俺はデトネーションブロウの構えをとる。


 「フッ……一の獄・『魔眼マガン』!」

 魔族の眼が光る……?


 魔族は胸で腕を組んだまま……いくら何でも舐めすぎでしょ?

 「いくぞ、『デトネーションブロウ』!」

 俺は体ごと魔族に突進!

 スカッ!

 「なっ」

 魔族は目をつぶったまま、俺のデトネーションブロウをギリギリで避けやがった。


 「くっ、『デトネーションブロウ』!」

 俺は数十発のデトネーションブロウを繰り出したが、ことごとく避けられる!

 まるで俺の動きを読まれているような……


 「フ、フハハハ!どうだ、これが魔族の『魔眼マガン』のチカラだ!

 貴様の二秒先の未来が見える」

 「なんだって!?」


 「どんなに攻撃しても、貴様の攻撃が当たることは無い、フハハハ」

 「二秒先の未来か……」


 「し、師匠……」


 「ふぅーーー、二秒先か……ならいけるかな?」

 俺はその場でストレッチを始める……

 首を鳴らし、腕を伸ばす。


 「何をしている……恐怖でおかしくなったか?」



 俺は『怒り』で自分のレベルキャップを外せるということを知ってから、

 実は現実世界であるところに通っていた……それは『アンガーマネジメント講座』。

 通常は、怒りっぽい人が怒りを抑えるために受ける講習なんだけど、俺の場合は少し目的が違う。

 俺の目的は『怒りのコントロール』。

 ちなみに講習のお値段は、三か月で約三万円(通信制)。


 「最初だし、三十パーセントってとこかな」

 ストレッチをやめて、少し気を入れる……

 オオオオオオ……


 「師匠……さっきと、違う?」

 「なんだ、何かしたのか……?一の獄『魔眼マガン』!」

 魔族の眼が光る。

 「なんだ?さっきと同じ未来じゃないか……ただ突っ込むしか能がないのか」


 「行くぞ、『デトネーションブロウ』!」

 ドガガガガガガッ!!

 「なっ!がああああああ!」


 「師匠!?は、速すぎる!」

 俺のデトネーションブロウを食らった魔族は、そのまま吹き飛び、後ろの住宅を粉々にした。


 「ガハッ……な、なんだ今のは、速すぎて、魔眼でも間に合わない……」

 魔族はガードした両腕はボロボロに、たぶん内臓もいくつか壊れている……


 「フム、降参した方がいいんじゃないかな?次食らったら死ぬよ」

 俺は体についた埃を落としながら、魔族にそう言った。


 「オレ様が降参……?下等生物のニンゲンに?舐めるなよ!」

 魔族は足を引きずりながらも、もう一人の魔物の方へ……


 「貴様、腕を出せ」

 「お許しください……こちらの腕も取られたら、私はもう……」

 「やかましい!使い魔のくせにオレ様に逆らうつもりか!貴様の代わりなぞ、いくらでもいるんだぞ」


 魔族は無理やり魔物の腕をとり、噛り付く。

 「きゃああああ!」

 そのまま腕を引きちぎり、ムシャムシャ食べてしまった!


 「二の獄・『悪喰アクジキ』!」

 シュウウウウ……

 なんと魔族のダメージが瞬時に回復してしまった。


 「ふう……オレ様たち魔族は光属性である回復の魔法は使えないが、この『悪喰アクジキ』で、瞬時にダメージは回復できる……さあ、もう同じ手は二度も効かんぞ」


 俺は魔族の言葉を全シカトして、腕を食われた魔物のところへ。

 「貴様、俺の話を聞いているのか!?」


 「う、ううぅぅ……」

 「大丈夫か?今治療してやる……『エクスヒーリング』!」

 パアアア……

 魔物の腕は復活した。


 「ああ……ありがとうございます……なんとお礼を言えばいいのか」

 あれ、この魔物……現実世界の『あいどる24』のメンバー、『松宮 純』にそっくり……


 「すまない、もう片方の腕は時間がたちすぎて、復活は無理みたいだ」

 二・三時間以内なら、回復魔法で欠損した体も復活させることが可能だったのだが……


 「おい貴様、オレ様を無視するとはいい度胸じゃないか……

 貴様はただ殺すだけでは物足りん、バラバラにしてオレ様が食ってやろう!」


 「やってみろよ、やれるもんならなぁー!」

 俺の前に魔法陣が展開……『光』『炎』『風』

 「ミリタリス・ビー・オージャ・ダナドゥ 我 光弾を操り敵を屠るものなり 光弾属性ハイアナグラム ヴァーミリオンレイ!」

 ドキュキュキュ!


 「フハハハ、光弾属性の魔法か!そんなものオレ様の『魔眼マガン』にかかれば……」

 ビタッビタッ!

 俺は光弾を、当てるのではなく、魔族の周りに停止させた。


 「師匠、凄い……あれだけの数の光弾を、相手の周りに停止させるなんて……」


 「な、なんだこれは?当てるのではないのか!?」

 「二秒先の未来がなんだって?……この状態でも全部避けられるのかな?」

 魔族の周りはほとんど隙間なく光弾で埋まっている。

 「に、逃げ場がない!?」


 「使い魔だか何だか知らねぇけど、偉そうに……お前の代わりだっていくらでもいるってこと、忘れんじゃねぇ!」

 「な、何?ちょ、ちょっとまっ……」


 「光弾よ、敵を屠れ!」

 周りの光弾が一斉に魔族に注がれる!

 ドドドドドド!

 「ギャアアア!」


 さすがの魔族もボロボロになり、その場に倒れた。

 「く、くそっ……下等生物のニンゲンに、このオレ様が……下等の、くせに」

 イラッ

 「重力属性ハイアナグラム、『グラビトン』!」

 ドシン!

 「ゲフゥ!」

 魔族は地面にめり込んでこと切れた……


 「かとーかとーうるさいんだよ、他に言うことないのか?」

 「師匠、いいんすかやっつけちゃって……」


 「あ、やべっ」

 気が付いたときはすでに遅し……

 「魔族の情報を聞き出すつもりだったのに……」


 俺はたぶん、あの魔物の腕を食べたことに『怒り』を感じてしまい、三十パーセントより多めに出力を上げてしまったらしい……

 「う~ん、コントロールの方はまだまだだなぁ……」


 俺は魔物の方へ行き、話しかけた。

 「腕が治ってよかったな。お前のご主人は死亡した、お前はもう自由だ」

 「あの、ありがとうございます……」

 そう言って魔物はどこかへ消えていった。



 イチヒコ達から聞いた情報では、魔族たちはファルセインの『東門』と『西門』を破って侵入しているらしい。主力部隊はそのまま王城へ向かったそうだ。


 「周りの村も襲撃されているかも……他の人たちが心配だ、メンバーを四つに分けて行動する」

 「はい」


 「まずファーストとシスターズは『名もなき村』へ……俺のオルタナティブドアですぐ行けるはずだ。もし魔族がいたら、バグたちを援護してくれ」

 「わかりました」


 「ナイトメアウェイカーズとオッドアイズは『東門』へ。騎士たちと協力して門の修復も頼む」

 「お任せください」


 「『西門』はイレギュラーズが行ってくれ。住民の避難も忘れずに」

 「心得ました」


 「俺は王城へ行く」

 「マスター一人でですか?」

 「ああ、まあ、イチヒコ達にもついてきてもらうし、王城にはメギード王とリイナもいるから大丈夫」

 「わかりました、くれぐれもお気を付けください」

 「よし、各自散開、終了したら王城へ」


 こうして俺たちは各チームに分かれ、行動することに。


 *****


 ◇ファースト・セカンドチーム リーダー『マキア』side


 私たちはマスターのオルタナティブドアを通り『名もなき村』へ。

 バキーーン!

 「うおおおお!」

 ……戦闘音が聞こえる。


 「くそっ、あの爆弾を何とかしないと、近づけやしない」

 「こっちも防御するので、手いっぱいでござる!」

 あれはバグさんと……ベンケイさん!?


 大きい体の魔族が一人と、大勢のガイコツ……それに、スライム?

 「お前、邪魔だ!役に立たないのなら今すぐ食っちまうぞ!」

 「ひいいい……」

 あのスライムはどうやら使い魔みたい……


 「あのスライム、助けてあげて」

 「どうしたの?ミユキ」

 「私今現実世界の『ASMR』にはまっていて……スライムのあの子の音、聞いてみたい!」

『ASMR』……『Autonomous Sensory Meridian Response』の略称で、

 主に聴覚からの刺激によって得る、ぞくぞくする感覚のことらしい。

 動画サイトなどから流行して、咀嚼音や自然音、効果音などいろんなジャンルがあり、『スライムの音を聞く』というのもその一つ、なんだけど……


 「あのねぇ……」

 今そんな場合じゃないのに。

 「あの大勢のガイコツさんの中から助け出すのは至難の業かと」

 ミイナ?真面目に答えなくても……


「フフフ、私なら可能です、この『透明薬バージョンⅡ』ならば!」

 「え?シイナ、とうとう完成したの?」

 「はい……今お見せしましょう」


 そう言ってシイナは瓶に入った薬を体にかけた。

 バシャーー

 みるみるシイナの体は透明に……なってない!?

 「ええーーー、服も皮膚も透明になったのに……骨だけ残ってる!気持ち悪い~~」

 「あちゃ~~もうちょっとだったのに、何か足りなかったんですねぇ……」

 目の前には、もうシイナかどうかもわからないただのガイコツが、頭を抱えて悩んでいる……


 「あ、でもその格好なら、あのガイコツの中でも全然目立たないよ」

 ミユキ、ポジティブすぎ!


 シイナはその格好のまま、ガイコツの集団の中へ。

 大きい魔族のそばにいたスライムに話しかける。


 「スライムさんスライムさん、アナタ私たちの仲間になりませんか?」(小声)

 「え、この状態から抜け出せるのなら、どこへでも……」(小声)

 「では私の頭に乗ってください」(小声)

 スライムを頭に乗せたまま、シイナが戻ってきた。


 「シイナ、スライムさんを救出して、ただいま戻りました!」

 シイナとミユキ、こんなところで敬礼とかしなくていいから!


 「誰だ!?おでの食料を奪ったやつは!?」

 あーあ、魔族にバレちゃったし。


 「あ、アナタたちは……マキアさん!?」

 「あ、バグさん、助けに来ましたよ……ベンケイさんまでいるとは思いませんでした」

 「せ、拙者だって、受けた恩くらいは返すでござるよ!」

 「……」

 ……ジロウさんは相変わらずか。



 「グフー、ニンゲンの援軍か……

 おでは『爆弾魔族』、おでの爆弾でおめぇら全員木っ端微塵にしでやる……お前ら、かかれ!」

 魔族の号令を受けて、ガイコツ達が襲ってきた!


 「では私の新装備、お見せしましょう」

 シャキーーーン!

 錬金術師アルケミストのシイナが開発した私の新装備、その名は『マキアカリバー風神』と『マキアカリバー雷神』……

 そう、二刀流なのだ!


「フフフ、材料を現実世界の『タングステン合金』から少し軽量の『モリブデン合金』へ変更、大きさもほんの少し小さくし、より回転率を上げています」

 シイナ、ドヤ顔してるようだけど、今ガイコツだよ……


 「さらに、飾りの部分に『風の魔力石』と『雷の魔力石』を装着、最初からエンチャントされている状態で使えます!」

 これで雷の魔法を使わなくても、『ハイブリット高周波ソード』を使用可能、ナイスシイナ!


 「さあ、行きますよー、はあああーー!」

 私たちは全員でガイコツの集団へ突っ込む!


 「アドバンスドアーツ、『風纏い・旋風斬り』!」

 ズババババーーー

 無数の真空の刃で相手を斬り裂く!


 「アサルトモード!」

 ミユキの弓が巨大なアーチェリーに!

 「『サジタリアスシュート』!」

 ズガガガガ!


 ガイコツの集団は半分以上バラバラに……

 「お、おのれ~よくもおでのスケルトン軍団を……おでの爆弾をくらえーー!」

 魔族が大量の爆弾を投げてきた!


 「『飛翔扇』!!」

 ドドドドドド!

 爆弾はミイナの飛翔扇で、全て爆発した。

 「お、おのれ~~~」

 「私たちとアナタでは、大分相性が悪いみたいですね」



 「おでを舐めるなよ~、触れたものを爆弾に変えるこの必殺技で、おめぇたちを吹き飛ばしてやる……アドバンスドアーツ、『ダイナマイトハンド』!」

 魔族が腕を振り上げて突撃してくる!


 「はああー、『ハイブリッド高周波ソード』!」

 ズガガガガ!

 「ぎゃああああーー」

 魔族は吹っ飛んだ。


 「く、くそ~、こうなったら最後の手段……」

 魔族は自分で自分を触る……

 パアアア……

 「これでおでは自分を爆弾に変える『自爆モード』になった……

 おでを攻撃すればその衝撃でおめぇたちごとこの場でドカン、だ」

 「なんですって?」

 それは……マズい。


 「おめぇたちさえ倒せば、あとはスケルトンどもでこの村は全滅だ……ブエッヘッヘ残念だったな」

 その時、ミイナが魔族に近づく。

 「安心してください、私のクラスは『投擲士』。

 私が手に掴んだものは、なんでも投げることができます」

 「へっ?」

 ミイナは魔族を掴むとそのままブンブン振り回し始めた。

 「アババババ……」

 「なんという腕力……」

 ブンッ!

 魔族はミイナに投げられて、そのままスケルトン軍団の中心へ……

 「マズい!今衝撃を加えたら……」

 「みなさん、木の壁の中へ!私たちは結界を!」


 魔族が地面に落ちる……

 「ち、ちぐじょーーー!」

 ズドドドーーン!!

 魔族はスケルトン軍団ごと木っ端微塵に……

 「ふう、これで大丈夫ですね、村に入りましょう」


 「おいおい、マキアさん達、また強くなってないか……?」

 「勘弁してほしいでござる……」

 「……」


 *****


 ◇ナイトメアウェイカーズ・オッドアイズチーム リーダー『カスミ』side


 私たちはファルセインの『東門』に到着、ん?あれは……


 「お前たち、もっと前へ、住民が避難するまで持ちこたえろ!」

 騎士たちを指揮しているのは、審判の塔でマスターに変装していた百戦騎士の『エリア』さんだ。


 「エリアさん、エリアさんがここの担当なのですか?」

 「お前たちは……審判の塔の時の」


 「てっきり敵の魔族に変装して、逃げだしていると思っていました」

 「私を見くびるなよ、こう見えても百戦騎士、逃げるのは住民が避難した後だ!」

 「最後はやっぱり逃げるんですね……」


 「ぐへへへ、性懲りもなくまーたニンゲンが増えたか……

 ワシは『瘴気魔族』。ワシの体からでるこの瘴気にふれれば、どんなものでも腐らせることができる」

 その瘴気魔族の周りにはゾンビがうじゃうじゃ……

 「だからゾンビが兵なんですね?」


 「ぐへへへーー、そうだ、ゾンビはどんなに腐っても平気だからなー!」

 シュワワワ……

 魔族の体から瘴気が発生してきて、周りの作物を腐らせていく……

 「あああ、私の畑が……」

 「ばあさん、命があるだけめっけもんだ……あとは彼女らに任せておけ」

 ええ!?丸投げ?


 「ぐーへへへ、ワシに近づけるもんなら近づいてみろ!」

 「ん~確かにあの瘴気じゃあ、近づいて直接攻撃するのは難しそうね……」

 ん?瘴気魔族の近くに、下半身が蛇の女性の魔物が……


 「そこにいる魔物はアナタの使い魔なの?そのままだとその子も腐って死んじゃいますよ」

 「ぐへっ、こんな使い魔、死んだら死んだでどうでもいい」

 なんてことを……魔族ってみんなこうなのかしら?



 「ねぇカスミ、私ちょっと試したいことがあるんだけど……」

 「リョウ……?試したいことって?」

 リョウは魔導士のモミジとなんか打ち合わせをしている……


 「モミジ、雷の魔法は使える?」

 「一応『三重星魔術ハイアナグラム』までなら使えるけど……」


 リョウは自分の槍の『床落とし』を構える……

 「実は『錬金術師アルケミスト』のシイナに、『床落とし』に『無色の魔力石』を装着してもらったの……

 この『無色の魔力石』は、どんな魔法も威力を倍にして、槍にエンチャントしてくれる」


 「ふむふむ、それでモミジの魔法を槍にエンチャントするつもりなのね?」

 「そう」


 「ぐへへへ、このまま近づいて、まずはお前たちの装備を腐らせるとしよう……ぐへへへ」

 う、この変態魔族め……


 「モミジ、行くわよー!『床落とし』!」

 リョウは床落としを空高く放り投げた!

 槍はそのまま魔族に向かって、凄い勢いで落ちてくる……


 「ぐへーへへ、そんな槍、空中で腐って終わりだ」

 「モミジ、お願い!」

 モミジの前に魔法陣が展開……『風』『風』『地』

「雷雲を携えしもの 大気を震わせ 大地を穿ち給え 秩序を乱すものに罰を 雷よ落ちよ 落雷属性ハイアナグラム『メガボルト』!」

 ガガガガ!!


 モミジが唱えたメガボルトは、空中の床落としに直撃!

 そのまま雷を纏った巨大な槍に……

 「レゾナンスアーツ、『巨神おとし』!」


 「こ、これは……」

 私は急いで盾を構える。

 「一人レゾナンスアーツ、『アマノイワト』!」

 私は巨大な神の盾を作り、みんなを防御した!


 「ぐへ?ぐへぇぇーーー!?」

 巨大な雷の槍は瘴気魔族を貫いた!

 バリバリバリバリ!!

 「キャアーー!」

 凄まじい電撃が辺り一面にほとばしる!


 「ぐ、ぐへええええ……」

 バタンッ……

 雷の槍を受けて、真っ黒こげになった瘴気魔族は、その場に倒れた。

 周りのゾンビも同様に真っ黒こげで、動く者はいない。


 「ちょっと、リョウ!こんな高威力で広範囲の技だったなんて、私が咄嗟に『アマノイワト』で防いだから助かったけど……」


 実は私の盾も、『錬金術師アルケミスト』のシイナが、

 四枚の盾にそれぞれ四属性の魔力石を装着して、一人でも『アマノイワト』を出せるように改良してくれていたのだ。


 「ゴメーーーン!まさかこんなに威力が出るとは思わなくて……」

 「あーあ、私の畑が雷で焼けちまった……」

 「あーーー、おばあさん、ごめんなさーーーーい(泣)」

 「まあ命が助かったんだ、良しとするよ」


 「あ、あの……」

 さっきの使い魔の女の子、咄嗟に私の『アマノイワト』で一緒に助けちゃった。


 「助けていただいてありがとうございます……

 本当は笑顔でお礼が言いたいんですが、私は笑うことを禁止されているので、すみません」

 笑うことを禁止……?

 「あと、私はラミアという魔物なんですが、私に触れると毒状態になってしまいます、気を付けてください」


 下半身が蛇の魔物ラミア……確か『毒の牙』が必殺技だったはず。

 「私たちと一緒に行きましょう、マスターならきっと魔界へ帰る方法を考えてくれるわ」


 ……とりあえず『東門』はこれで大丈夫でしょう。

 後日、リョウが一人でおばあさんの畑を全部耕し直したらしい……

 「マジメか!」


 *****


 ◇イレギュラーズチーム リーダー『アマネ』side


 ファルセインの『西門』に近づくと、聞いたことのある声が……

 「みんな我の後ろに、我を援護しろ!」


 この声……百戦騎士のゴーガンさんだ。

 「ゴーガンさん!」

 「おお、お前たちは……援護に来てくれたのか?」

 「はい」

 「助かる……相手の魔族が強力で、攻めあぐねていたのだ」


 目の前には巨大な鉄槌を持った魔族が……

 「ガハハハ、ワタシは『戦槌魔族』。

 新しくまたニンゲンが加わったか、いいぞぉ、いくらでも増えるがいい」


 そう言いながらその魔族は、その戦槌を地面に叩きつけた。

 ズダーーーーン!ビリビリビリ……

 凄い威力……


 その戦槌魔族の後ろには、羽根の生えた魔物……ハーピー……いや、ひょっとしてあれは『セイレーン』?

『セイレーン』はギリシャ神話に登場する海の魔物。

 その歌声で船乗りたちを誘惑して、遭難させるらしい。


 「もしあの人がセイレーンだったら、歌の攻撃は厄介ね……」


 「コオラ使い魔!歌の攻撃をせんか!」

 「……是」

 セイレーンが前に出る。

 「ラ……ら~、ララ、ら~」

 う……ひどいかすれ声、病気なのかしら?


 「なんだ貴様、歌も歌えんのか?歌の歌えないセイレーンなど、盾にしかならんわ」

 そう言ってセイレーンを自分たちの前へ……

 「否……否」

 セイレーンが嫌がっている……それはそうね。


 「ほう、そちらにも『ハンマー』を持った奴がいるではないか。

 どうだ、ワタシとハンマー勝負と行こうじゃないか」


 「えっ?ひょっとしてドワーフの『ヒメノ』のこと言ってる?」

 私が振り向いてヒメノを見ると……え?まったく見てない。

 ヒメノはまるで独り言のように、地面に向かって喋っている……


 「フムフム、そうなんだ、それじゃあ仕方ないね」

 「ヒメノ、いったい誰と喋っているの?」

 「ああ、地面からなんか声がすると思って、話しかけたら会話できたから、つい……」

 「地面から声が……?」


 「貴様ら、ワタシをシカトするとはいい度胸だ……目にものを見せてくれる」

 戦槌魔族が気力を高めている……

 「おおおおおお、アドバンスドアーツ、『烈震衝れっしんしょう』!」

 ビキビキビキ!

 地面にたくさんの亀裂が!

 「うわあああ」


 ゴーガンさんがひび割れに落ちそうになったけど、ギリギリ助かった。

 「なんて威力だ……」


 「ガハハハ、どうだニンゲン、これが魔族のチカラよ」

 「うん、ありがとう魔族さん、お陰でこの子たち地上に出られるって!」

 「『この子たち』……?」


 ゴゴゴゴ……

 なに?この地響き?


 ドバアァー!

 「ガオオオオーン!」

 「うわぁぁーー、こいつら、溶岩の精霊『マグマドラゴン』だーー!」

 地面のひび割れから三体の『マグマドラゴン』が飛び出してきた!


 マグマドラゴンは地底に住んでいる溶岩の精霊……

 人間の言うことは全く聞かず、現れたら逃げるしかない。


 「ヒメノ、あなた『マグマドラゴン』と話をしていたの?」

 「そうみたい、お腹減ったって言ってる」

 「えっ?マグマドラゴンの喋っていること、わかるの?」

 「うん」


 「まさかヒメノ、あなた『エレメンタルトーカー』だったなんて……」

『エレメンタルトーカー』……精霊と話ができる伝説の種族。

 どうやらヒメノはそれらしい。

『地脈のハンマー』を持ったことで炎の才能に目覚め、『炎の天才』から『エレメンタルトーカー』に。


 「『人間はお腹減ったって言ってもエサくれないから嫌い』って言ってる」

 「なるほど、それで人間たちの言うことは聞かなかったのね」

 「マグマドラゴンのエサは『魔力のこもった炎』なんだって。

 だから私が『ボルケーノトリガー』でマグマドラゴンにエサをあげてみる」


 そう言うとヒメノは地脈のハンマーを構えて気力を高める……

 「はああ、アドバンスドアーツ『ボルケーノトリガー』!」

 ドガガーーン!

 地面から溶岩流が噴き出した!

 そこにマグマドラゴンが飛びつく!


 「マグマドラゴン喜んでいるみたい、『おいしいおいしい』って言ってる」

 「ヒメノ、そのままマグマドラゴンであの戦槌魔族、倒せないかしら?」

 「聞いてみる……『いいよ』だって」


 ヒメノは地脈のハンマーで溶岩を操り、マグマドラゴンを誘導している。

 「いっくよーマグマドラゴンちゃんたち……

 三体のマグマドラゴンを融合して一体の巨大な炎の竜に!名付けて、『レイジングドラゴン』!」


 マグマドラゴンは回転しながら一体の竜になり、そのまま戦槌魔族に突っ込む!

 「な、な、な、なんだこれはー!?ワタシとのハンマー勝負は……」

 ズドドドド!!

 「ぎゃああああ……」


 戦槌魔族とその部隊は全滅……

 「凄いわヒメノ、『炎の天才』から『炎に愛されるもの』へ……って感じね」

 ヒメノは無邪気にマグマドラゴンたちとじゃれ合っている……


 あ、さっきのセイレーンは無事だったみたい、最初の地割れの時に空を飛んで逃げていたのね。

 バサッバサ

 セイレーンが降りてきた。

 「あなた大丈夫?さっきの魔族に利用されていたのでしょう?喉も調子が悪いみたいだし……」

 「是……」


 「大丈夫大丈夫、きっとマスターがなんとかしてくれるよ。

『魔界へ帰る方法なら俺が何とかする、安心しろ』とか言ってね」

 ヒメノのそのセリフってマスターのモノマネなの?


 「そうそう、そのガラガラの喉とかも、

 『大丈夫、現実世界ならきっと何とかなる、俺に任せとけ』ってね」

 クリスまで調子に乗っちゃって、もう……


 「おーい」

 向こうからゴーガンさんが走ってきた。

 「ゴーガンさん、魔族の方は片付いたので、みんなで一緒に門の修復に取り掛かりましょう」


 「何から何まで……もういっそのことお前たちが百戦騎士をやっていいと思うんだが」



 ☆今回の成果

  マキア装備 『マキアカリバー風神』と『マキアカリバー雷神』

  リョウ・モミジ レゾナンスアーツ『巨神おとし』習得

  ヒメノ アドバンスドアーツ『レイジングドラゴン』習得

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