アンタッチャブルズ編
第29話転移病
アナタはアイドルの『腕を治した』ことがありますか?……俺はある。
「いや~ファルセインとか、凄い久しぶりな気がする」
「そうですね、なんだかんだで二か月近く経ちますから」
そう言いながらドアをくぐる俺とメンバー達……
「なんだなんだ~?」
「これは、いったい……?」
ファルセインの俺の自宅に着くと、なぜか大勢のファルセインの住民たちが……
「皆さん、どうされたんですか?」
マキアが聞いてみたが、みんな恐怖に震えていて、誰も口を開かない。
少し探すと、『やんやん亭』のシェフと、従業員がいた。
「一体何があったんだ?」
「じ、実は、急に大勢の『魔族』が襲撃してきて……」
「まぞく……?」
まぞくって、あのファンタジーではお馴染みの、魔界とかに住んでいる種族のこと?なんでまたそんな急に……
「みんな慌てて逃げ出したんですが、なぜかこの建物だけは魔族も手が出せないみたいで」
あー、それは俺がこの建物に『結界』を張っていたからかな?
「勝手に入って失礼だとは思ったのですが、命からがらだったので……」
「ああ、それは別にいいよ、ケガ人とかはいないか?治療するよ」
俺は回復メンバーに指示して、住民たちを治療した。
「ここに入る前に、二人の転移者の方が私たちを誘導してくださって……今もその『魔族』と戦っているんです」
ガキーン
ズガガガガ!
外から戦闘の音が聞こえる。
「わかった、みんなはここにいて、俺は外を見てくる」
俺が外に出てみると、二人の転移者が戦っていた……『イチヒコ』と『テンマル』だ。
戦っている相手、あれが『魔族』……
屈強な体に爬虫類みたいな目、でっかい牙に、尻尾が生えてる!
もう一人、あれは魔物かな?下半身が蜘蛛みたいになってる……片腕がないけど?
「く、くそっ、下がれテンマル!こいつ魔力が半端じゃない」
「で、でもイチヒコ君だって、もう魔力が……」
「ギャーハハハ、『ニンゲン』にしてはやるようだな、だが魔族のオレ様から見たら、お前など所詮は下等生物、話にならんわ!」
魔族の前に魔法陣が展開……『炎』『地』『闇』『闇』
「プライグ・シーメイン・ガラルド
地下深く眠る地獄の業火 罪深き獣共に地獄の烙印を押せ……獄炎属性
おお?神の言霊と四重星魔術はデフォルトか!?
「あぶないイチヒコ君!『対魔力結界』!」
テンマルがイチヒコをかばって対魔力結界を張る!
バキーーーン!
「うわあああー」
テンマルの対魔力結界が割れて、テンマルが吹っ飛ばされた!
「テンマルーーーー!」
「ハハハ、そんな微弱な結界では、オレ様の魔法を防ぐことはできん」
「ちくしょう、こうなったら……」
ズキンッ!
「うっ……胸が……でもそんなこと言ってる場合じゃない!」
イチヒコの前に魔法陣が展開……『炎』『風』『風』
「天空の狭間 気高きモノよ 炎と風纏いて天より来たれ 地上に降り注ぎ 焦土と化せ くらえ……」
ポンッ
「えっ」
俺はイチヒコの頭に軽く手を置いた。
「よく頑張ったな、イチヒコ」
「し、師匠ぉ~~」(泣)
「ん?また『ニンゲン』か、今更数人増えたところで……」
「うっ、いたたた……」
「イチヒコ、胸を見せてみろ」
イチヒコの胸には、心臓のある場所から、木の根のような刻印が広がっている……
「やっぱり、お前『転移病』にかかっているな」
「『転移病』……?」
「ああ、前に『神魔』って奴に教えてもらったことがある……
転移者だけがかかる病気で、魔力が枯渇しているときにさらに魔法を使うと、お前みたいに心臓に刻印が浮かび上がる」
「心臓に、刻印……?」
「俺も、ほら」
俺は自分の胸もイチヒコに見せる……そこにはイチヒコと同じような刻印が。
「し、師匠にも?」
「これを放置して、また魔法を使うと、どんどん刻印が体を侵食していく。
体中に刻印が侵食すると、今度は色が青色から黄色、そして赤色になる」
「赤色になると、どうなるんすか?」
「赤色になると、理性を完全に失い、欲望と本能だけの化物になる……らしい」
「ば、化物……」
「だからお前はもう休め、これ以上魔力を消費するのは控えるんだ」
「で、でも魔族が……」
「あいつは俺に任せておけ」
魔族が胸で腕を組みながら近づいてくる……
「ん~、今聞き捨てならないセリフを聞いたな~、ニンゲンのくせに、オレ様の相手をするだと?」
「そうだ」
「フフフ、そのイチヒコだかって奴もそうだが、ニンゲンは出しゃばってくる奴が多い。どうせオレ様にやられてしまうのになぁ……」
「それはやってみないとわからないぜ」
「わかるに決まっているだろうが!貴様ら下等生物のニンゲンが、
オレ様たち『高等生物』の魔族にかなうわけないだろうがーーーー!」
ズアアアアアア!
凄まじい魔力の高まり……
俺は魔族をアナライズしてみた。
「紅蓮魔族」「男性」「レベル95」「基本属性 炎」
「HP480」「MP500」「腕力300」「脚力250」「防御力350」「機動力400」「魔力400」「癒力150」「運100」「視力2.0」
おー、よかったよかった、魔族でもアナライズはできるらしい。
……確かに言うだけはある、腕力も魔力も相当高い。
『千迅騎士』と同等ぐらいか……イチヒコが苦戦したのも頷ける。
「どれ、いっちょかましてみるか……」
俺はデトネーションブロウの構えをとる。
「フッ……一の獄・『
魔族の眼が光る……?
魔族は胸で腕を組んだまま……いくら何でも舐めすぎでしょ?
「いくぞ、『デトネーションブロウ』!」
俺は体ごと魔族に突進!
スカッ!
「なっ」
魔族は目をつぶったまま、俺のデトネーションブロウをギリギリで避けやがった。
「くっ、『デトネーションブロウ』!」
俺は数十発のデトネーションブロウを繰り出したが、ことごとく避けられる!
まるで俺の動きを読まれているような……
「フ、フハハハ!どうだ、これが魔族の『
貴様の二秒先の未来が見える」
「なんだって!?」
「どんなに攻撃しても、貴様の攻撃が当たることは無い、フハハハ」
「二秒先の未来か……」
「し、師匠……」
「ふぅーーー、二秒先か……ならいけるかな?」
俺はその場でストレッチを始める……
首を鳴らし、腕を伸ばす。
「何をしている……恐怖でおかしくなったか?」
俺は『怒り』で自分のレベルキャップを外せるということを知ってから、
実は現実世界であるところに通っていた……それは『アンガーマネジメント講座』。
通常は、怒りっぽい人が怒りを抑えるために受ける講習なんだけど、俺の場合は少し目的が違う。
俺の目的は『怒りのコントロール』。
ちなみに講習のお値段は、三か月で約三万円(通信制)。
「最初だし、三十パーセントってとこかな」
ストレッチをやめて、少し気を入れる……
オオオオオオ……
「師匠……さっきと、違う?」
「なんだ、何かしたのか……?一の獄『
魔族の眼が光る。
「なんだ?さっきと同じ未来じゃないか……ただ突っ込むしか能がないのか」
「行くぞ、『デトネーションブロウ』!」
ドガガガガガガッ!!
「なっ!がああああああ!」
「師匠!?は、速すぎる!」
俺のデトネーションブロウを食らった魔族は、そのまま吹き飛び、後ろの住宅を粉々にした。
「ガハッ……な、なんだ今のは、速すぎて、魔眼でも間に合わない……」
魔族はガードした両腕はボロボロに、たぶん内臓もいくつか壊れている……
「フム、降参した方がいいんじゃないかな?次食らったら死ぬよ」
俺は体についた埃を落としながら、魔族にそう言った。
「オレ様が降参……?下等生物のニンゲンに?舐めるなよ!」
魔族は足を引きずりながらも、もう一人の魔物の方へ……
「貴様、腕を出せ」
「お許しください……こちらの腕も取られたら、私はもう……」
「やかましい!使い魔のくせにオレ様に逆らうつもりか!貴様の代わりなぞ、いくらでもいるんだぞ」
魔族は無理やり魔物の腕をとり、噛り付く。
「きゃああああ!」
そのまま腕を引きちぎり、ムシャムシャ食べてしまった!
「二の獄・『
シュウウウウ……
なんと魔族のダメージが瞬時に回復してしまった。
「ふう……オレ様たち魔族は光属性である回復の魔法は使えないが、この『
俺は魔族の言葉を全シカトして、腕を食われた魔物のところへ。
「貴様、俺の話を聞いているのか!?」
「う、ううぅぅ……」
「大丈夫か?今治療してやる……『エクスヒーリング』!」
パアアア……
魔物の腕は復活した。
「ああ……ありがとうございます……なんとお礼を言えばいいのか」
あれ、この魔物……現実世界の『あいどる24』のメンバー、『松宮 純』にそっくり……
「すまない、もう片方の腕は時間がたちすぎて、復活は無理みたいだ」
二・三時間以内なら、回復魔法で欠損した体も復活させることが可能だったのだが……
「おい貴様、オレ様を無視するとはいい度胸じゃないか……
貴様はただ殺すだけでは物足りん、バラバラにしてオレ様が食ってやろう!」
「やってみろよ、やれるもんならなぁー!」
俺の前に魔法陣が展開……『光』『炎』『風』
「ミリタリス・ビー・オージャ・ダナドゥ 我 光弾を操り敵を屠るものなり 光弾属性ハイアナグラム ヴァーミリオンレイ!」
ドキュキュキュ!
「フハハハ、光弾属性の魔法か!そんなものオレ様の『
ビタッビタッ!
俺は光弾を、当てるのではなく、魔族の周りに停止させた。
「師匠、凄い……あれだけの数の光弾を、相手の周りに停止させるなんて……」
「な、なんだこれは?当てるのではないのか!?」
「二秒先の未来がなんだって?……この状態でも全部避けられるのかな?」
魔族の周りはほとんど隙間なく光弾で埋まっている。
「に、逃げ場がない!?」
「使い魔だか何だか知らねぇけど、偉そうに……お前の代わりだっていくらでもいるってこと、忘れんじゃねぇ!」
「な、何?ちょ、ちょっとまっ……」
「光弾よ、敵を屠れ!」
周りの光弾が一斉に魔族に注がれる!
ドドドドドド!
「ギャアアア!」
さすがの魔族もボロボロになり、その場に倒れた。
「く、くそっ……下等生物のニンゲンに、このオレ様が……下等の、くせに」
イラッ
「重力属性ハイアナグラム、『グラビトン』!」
ドシン!
「ゲフゥ!」
魔族は地面にめり込んでこと切れた……
「かとーかとーうるさいんだよ、他に言うことないのか?」
「師匠、いいんすかやっつけちゃって……」
「あ、やべっ」
気が付いたときはすでに遅し……
「魔族の情報を聞き出すつもりだったのに……」
俺はたぶん、あの魔物の腕を食べたことに『怒り』を感じてしまい、三十パーセントより多めに出力を上げてしまったらしい……
「う~ん、コントロールの方はまだまだだなぁ……」
俺は魔物の方へ行き、話しかけた。
「腕が治ってよかったな。お前のご主人は死亡した、お前はもう自由だ」
「あの、ありがとうございます……」
そう言って魔物はどこかへ消えていった。
イチヒコ達から聞いた情報では、魔族たちはファルセインの『東門』と『西門』を破って侵入しているらしい。主力部隊はそのまま王城へ向かったそうだ。
「周りの村も襲撃されているかも……他の人たちが心配だ、メンバーを四つに分けて行動する」
「はい」
「まずファーストとシスターズは『名もなき村』へ……俺のオルタナティブドアですぐ行けるはずだ。もし魔族がいたら、バグたちを援護してくれ」
「わかりました」
「ナイトメアウェイカーズとオッドアイズは『東門』へ。騎士たちと協力して門の修復も頼む」
「お任せください」
「『西門』はイレギュラーズが行ってくれ。住民の避難も忘れずに」
「心得ました」
「俺は王城へ行く」
「マスター一人でですか?」
「ああ、まあ、イチヒコ達にもついてきてもらうし、王城にはメギード王とリイナもいるから大丈夫」
「わかりました、くれぐれもお気を付けください」
「よし、各自散開、終了したら王城へ」
こうして俺たちは各チームに分かれ、行動することに。
*****
◇ファースト・セカンドチーム リーダー『マキア』side
私たちはマスターのオルタナティブドアを通り『名もなき村』へ。
バキーーン!
「うおおおお!」
……戦闘音が聞こえる。
「くそっ、あの爆弾を何とかしないと、近づけやしない」
「こっちも防御するので、手いっぱいでござる!」
あれはバグさんと……ベンケイさん!?
大きい体の魔族が一人と、大勢のガイコツ……それに、スライム?
「お前、邪魔だ!役に立たないのなら今すぐ食っちまうぞ!」
「ひいいい……」
あのスライムはどうやら使い魔みたい……
「あのスライム、助けてあげて」
「どうしたの?ミユキ」
「私今現実世界の『ASMR』にはまっていて……スライムのあの子の音、聞いてみたい!」
『ASMR』……『Autonomous Sensory Meridian Response』の略称で、
主に聴覚からの刺激によって得る、ぞくぞくする感覚のことらしい。
動画サイトなどから流行して、咀嚼音や自然音、効果音などいろんなジャンルがあり、『スライムの音を聞く』というのもその一つ、なんだけど……
「あのねぇ……」
今そんな場合じゃないのに。
「あの大勢のガイコツさんの中から助け出すのは至難の業かと」
ミイナ?真面目に答えなくても……
「フフフ、私なら可能です、この『透明薬バージョンⅡ』ならば!」
「え?シイナ、とうとう完成したの?」
「はい……今お見せしましょう」
そう言ってシイナは瓶に入った薬を体にかけた。
バシャーー
みるみるシイナの体は透明に……なってない!?
「ええーーー、服も皮膚も透明になったのに……骨だけ残ってる!気持ち悪い~~」
「あちゃ~~もうちょっとだったのに、何か足りなかったんですねぇ……」
目の前には、もうシイナかどうかもわからないただのガイコツが、頭を抱えて悩んでいる……
「あ、でもその格好なら、あのガイコツの中でも全然目立たないよ」
ミユキ、ポジティブすぎ!
シイナはその格好のまま、ガイコツの集団の中へ。
大きい魔族のそばにいたスライムに話しかける。
「スライムさんスライムさん、アナタ私たちの仲間になりませんか?」(小声)
「え、この状態から抜け出せるのなら、どこへでも……」(小声)
「では私の頭に乗ってください」(小声)
スライムを頭に乗せたまま、シイナが戻ってきた。
「シイナ、スライムさんを救出して、ただいま戻りました!」
シイナとミユキ、こんなところで敬礼とかしなくていいから!
「誰だ!?おでの食料を奪ったやつは!?」
あーあ、魔族にバレちゃったし。
「あ、アナタたちは……マキアさん!?」
「あ、バグさん、助けに来ましたよ……ベンケイさんまでいるとは思いませんでした」
「せ、拙者だって、受けた恩くらいは返すでござるよ!」
「……」
……ジロウさんは相変わらずか。
「グフー、ニンゲンの援軍か……
おでは『爆弾魔族』、おでの爆弾でおめぇら全員木っ端微塵にしでやる……お前ら、かかれ!」
魔族の号令を受けて、ガイコツ達が襲ってきた!
「では私の新装備、お見せしましょう」
シャキーーーン!
そう、二刀流なのだ!
「フフフ、材料を現実世界の『タングステン合金』から少し軽量の『モリブデン合金』へ変更、大きさもほんの少し小さくし、より回転率を上げています」
シイナ、ドヤ顔してるようだけど、今ガイコツだよ……
「さらに、飾りの部分に『風の魔力石』と『雷の魔力石』を装着、最初からエンチャントされている状態で使えます!」
これで雷の魔法を使わなくても、『ハイブリット高周波ソード』を使用可能、ナイスシイナ!
「さあ、行きますよー、はあああーー!」
私たちは全員でガイコツの集団へ突っ込む!
「アドバンスドアーツ、『風纏い・旋風斬り』!」
ズババババーーー
無数の真空の刃で相手を斬り裂く!
「アサルトモード!」
ミユキの弓が巨大なアーチェリーに!
「『サジタリアスシュート』!」
ズガガガガ!
ガイコツの集団は半分以上バラバラに……
「お、おのれ~よくもおでのスケルトン軍団を……おでの爆弾をくらえーー!」
魔族が大量の爆弾を投げてきた!
「『飛翔扇』!!」
ドドドドドド!
爆弾はミイナの飛翔扇で、全て爆発した。
「お、おのれ~~~」
「私たちとアナタでは、大分相性が悪いみたいですね」
「おでを舐めるなよ~、触れたものを爆弾に変えるこの必殺技で、おめぇたちを吹き飛ばしてやる……アドバンスドアーツ、『ダイナマイトハンド』!」
魔族が腕を振り上げて突撃してくる!
「はああー、『ハイブリッド高周波ソード』!」
ズガガガガ!
「ぎゃああああーー」
魔族は吹っ飛んだ。
「く、くそ~、こうなったら最後の手段……」
魔族は自分で自分を触る……
パアアア……
「これでおでは自分を爆弾に変える『自爆モード』になった……
おでを攻撃すればその衝撃でおめぇたちごとこの場でドカン、だ」
「なんですって?」
それは……マズい。
「おめぇたちさえ倒せば、あとはスケルトンどもでこの村は全滅だ……ブエッヘッヘ残念だったな」
その時、ミイナが魔族に近づく。
「安心してください、私のクラスは『投擲士』。
私が手に掴んだものは、なんでも投げることができます」
「へっ?」
ミイナは魔族を掴むとそのままブンブン振り回し始めた。
「アババババ……」
「なんという腕力……」
ブンッ!
魔族はミイナに投げられて、そのままスケルトン軍団の中心へ……
「マズい!今衝撃を加えたら……」
「みなさん、木の壁の中へ!私たちは結界を!」
魔族が地面に落ちる……
「ち、ちぐじょーーー!」
ズドドドーーン!!
魔族はスケルトン軍団ごと木っ端微塵に……
「ふう、これで大丈夫ですね、村に入りましょう」
「おいおい、マキアさん達、また強くなってないか……?」
「勘弁してほしいでござる……」
「……」
*****
◇ナイトメアウェイカーズ・オッドアイズチーム リーダー『カスミ』side
私たちはファルセインの『東門』に到着、ん?あれは……
「お前たち、もっと前へ、住民が避難するまで持ちこたえろ!」
騎士たちを指揮しているのは、審判の塔でマスターに変装していた百戦騎士の『エリア』さんだ。
「エリアさん、エリアさんがここの担当なのですか?」
「お前たちは……審判の塔の時の」
「てっきり敵の魔族に変装して、逃げだしていると思っていました」
「私を見くびるなよ、こう見えても百戦騎士、逃げるのは住民が避難した後だ!」
「最後はやっぱり逃げるんですね……」
「ぐへへへ、性懲りもなくまーたニンゲンが増えたか……
ワシは『瘴気魔族』。ワシの体からでるこの瘴気にふれれば、どんなものでも腐らせることができる」
その瘴気魔族の周りにはゾンビがうじゃうじゃ……
「だからゾンビが兵なんですね?」
「ぐへへへーー、そうだ、ゾンビはどんなに腐っても平気だからなー!」
シュワワワ……
魔族の体から瘴気が発生してきて、周りの作物を腐らせていく……
「あああ、私の畑が……」
「ばあさん、命があるだけめっけもんだ……あとは彼女らに任せておけ」
ええ!?丸投げ?
「ぐーへへへ、ワシに近づけるもんなら近づいてみろ!」
「ん~確かにあの瘴気じゃあ、近づいて直接攻撃するのは難しそうね……」
ん?瘴気魔族の近くに、下半身が蛇の女性の魔物が……
「そこにいる魔物はアナタの使い魔なの?そのままだとその子も腐って死んじゃいますよ」
「ぐへっ、こんな使い魔、死んだら死んだでどうでもいい」
なんてことを……魔族ってみんなこうなのかしら?
「ねぇカスミ、私ちょっと試したいことがあるんだけど……」
「リョウ……?試したいことって?」
リョウは魔導士のモミジとなんか打ち合わせをしている……
「モミジ、雷の魔法は使える?」
「一応『
リョウは自分の槍の『床落とし』を構える……
「実は『
この『無色の魔力石』は、どんな魔法も威力を倍にして、槍にエンチャントしてくれる」
「ふむふむ、それでモミジの魔法を槍にエンチャントするつもりなのね?」
「そう」
「ぐへへへ、このまま近づいて、まずはお前たちの装備を腐らせるとしよう……ぐへへへ」
う、この変態魔族め……
「モミジ、行くわよー!『床落とし』!」
リョウは床落としを空高く放り投げた!
槍はそのまま魔族に向かって、凄い勢いで落ちてくる……
「ぐへーへへ、そんな槍、空中で腐って終わりだ」
「モミジ、お願い!」
モミジの前に魔法陣が展開……『風』『風』『地』
「雷雲を携えしもの 大気を震わせ 大地を穿ち給え 秩序を乱すものに罰を 雷よ落ちよ 落雷属性ハイアナグラム『メガボルト』!」
ガガガガ!!
モミジが唱えたメガボルトは、空中の床落としに直撃!
そのまま雷を纏った巨大な槍に……
「レゾナンスアーツ、『巨神おとし』!」
「こ、これは……」
私は急いで盾を構える。
「一人レゾナンスアーツ、『アマノイワト』!」
私は巨大な神の盾を作り、みんなを防御した!
「ぐへ?ぐへぇぇーーー!?」
巨大な雷の槍は瘴気魔族を貫いた!
バリバリバリバリ!!
「キャアーー!」
凄まじい電撃が辺り一面にほとばしる!
「ぐ、ぐへええええ……」
バタンッ……
雷の槍を受けて、真っ黒こげになった瘴気魔族は、その場に倒れた。
周りのゾンビも同様に真っ黒こげで、動く者はいない。
「ちょっと、リョウ!こんな高威力で広範囲の技だったなんて、私が咄嗟に『アマノイワト』で防いだから助かったけど……」
実は私の盾も、『
四枚の盾にそれぞれ四属性の魔力石を装着して、一人でも『アマノイワト』を出せるように改良してくれていたのだ。
「ゴメーーーン!まさかこんなに威力が出るとは思わなくて……」
「あーあ、私の畑が雷で焼けちまった……」
「あーーー、おばあさん、ごめんなさーーーーい(泣)」
「まあ命が助かったんだ、良しとするよ」
「あ、あの……」
さっきの使い魔の女の子、咄嗟に私の『アマノイワト』で一緒に助けちゃった。
「助けていただいてありがとうございます……
本当は笑顔でお礼が言いたいんですが、私は笑うことを禁止されているので、すみません」
笑うことを禁止……?
「あと、私はラミアという魔物なんですが、私に触れると毒状態になってしまいます、気を付けてください」
下半身が蛇の魔物ラミア……確か『毒の牙』が必殺技だったはず。
「私たちと一緒に行きましょう、マスターならきっと魔界へ帰る方法を考えてくれるわ」
……とりあえず『東門』はこれで大丈夫でしょう。
後日、リョウが一人でおばあさんの畑を全部耕し直したらしい……
「マジメか!」
*****
◇イレギュラーズチーム リーダー『アマネ』side
ファルセインの『西門』に近づくと、聞いたことのある声が……
「みんな我の後ろに、我を援護しろ!」
この声……百戦騎士のゴーガンさんだ。
「ゴーガンさん!」
「おお、お前たちは……援護に来てくれたのか?」
「はい」
「助かる……相手の魔族が強力で、攻めあぐねていたのだ」
目の前には巨大な鉄槌を持った魔族が……
「ガハハハ、ワタシは『戦槌魔族』。
新しくまたニンゲンが加わったか、いいぞぉ、いくらでも増えるがいい」
そう言いながらその魔族は、その戦槌を地面に叩きつけた。
ズダーーーーン!ビリビリビリ……
凄い威力……
その戦槌魔族の後ろには、羽根の生えた魔物……ハーピー……いや、ひょっとしてあれは『セイレーン』?
『セイレーン』はギリシャ神話に登場する海の魔物。
その歌声で船乗りたちを誘惑して、遭難させるらしい。
「もしあの人がセイレーンだったら、歌の攻撃は厄介ね……」
「コオラ使い魔!歌の攻撃をせんか!」
「……是」
セイレーンが前に出る。
「ラ……ら~、ララ、ら~」
う……ひどいかすれ声、病気なのかしら?
「なんだ貴様、歌も歌えんのか?歌の歌えないセイレーンなど、盾にしかならんわ」
そう言ってセイレーンを自分たちの前へ……
「否……否」
セイレーンが嫌がっている……それはそうね。
「ほう、そちらにも『ハンマー』を持った奴がいるではないか。
どうだ、ワタシとハンマー勝負と行こうじゃないか」
「えっ?ひょっとしてドワーフの『ヒメノ』のこと言ってる?」
私が振り向いてヒメノを見ると……え?まったく見てない。
ヒメノはまるで独り言のように、地面に向かって喋っている……
「フムフム、そうなんだ、それじゃあ仕方ないね」
「ヒメノ、いったい誰と喋っているの?」
「ああ、地面からなんか声がすると思って、話しかけたら会話できたから、つい……」
「地面から声が……?」
「貴様ら、ワタシをシカトするとはいい度胸だ……目にものを見せてくれる」
戦槌魔族が気力を高めている……
「おおおおおお、アドバンスドアーツ、『
ビキビキビキ!
地面にたくさんの亀裂が!
「うわあああ」
ゴーガンさんがひび割れに落ちそうになったけど、ギリギリ助かった。
「なんて威力だ……」
「ガハハハ、どうだニンゲン、これが魔族のチカラよ」
「うん、ありがとう魔族さん、お陰でこの子たち地上に出られるって!」
「『この子たち』……?」
ゴゴゴゴ……
なに?この地響き?
ドバアァー!
「ガオオオオーン!」
「うわぁぁーー、こいつら、溶岩の精霊『マグマドラゴン』だーー!」
地面のひび割れから三体の『マグマドラゴン』が飛び出してきた!
マグマドラゴンは地底に住んでいる溶岩の精霊……
人間の言うことは全く聞かず、現れたら逃げるしかない。
「ヒメノ、あなた『マグマドラゴン』と話をしていたの?」
「そうみたい、お腹減ったって言ってる」
「えっ?マグマドラゴンの喋っていること、わかるの?」
「うん」
「まさかヒメノ、あなた『エレメンタルトーカー』だったなんて……」
『エレメンタルトーカー』……精霊と話ができる伝説の種族。
どうやらヒメノはそれらしい。
『地脈のハンマー』を持ったことで炎の才能に目覚め、『炎の天才』から『エレメンタルトーカー』に。
「『人間はお腹減ったって言ってもエサくれないから嫌い』って言ってる」
「なるほど、それで人間たちの言うことは聞かなかったのね」
「マグマドラゴンのエサは『魔力のこもった炎』なんだって。
だから私が『ボルケーノトリガー』でマグマドラゴンにエサをあげてみる」
そう言うとヒメノは地脈のハンマーを構えて気力を高める……
「はああ、アドバンスドアーツ『ボルケーノトリガー』!」
ドガガーーン!
地面から溶岩流が噴き出した!
そこにマグマドラゴンが飛びつく!
「マグマドラゴン喜んでいるみたい、『おいしいおいしい』って言ってる」
「ヒメノ、そのままマグマドラゴンであの戦槌魔族、倒せないかしら?」
「聞いてみる……『いいよ』だって」
ヒメノは地脈のハンマーで溶岩を操り、マグマドラゴンを誘導している。
「いっくよーマグマドラゴンちゃんたち……
三体のマグマドラゴンを融合して一体の巨大な炎の竜に!名付けて、『レイジングドラゴン』!」
マグマドラゴンは回転しながら一体の竜になり、そのまま戦槌魔族に突っ込む!
「な、な、な、なんだこれはー!?ワタシとのハンマー勝負は……」
ズドドドド!!
「ぎゃああああ……」
戦槌魔族とその部隊は全滅……
「凄いわヒメノ、『炎の天才』から『炎に愛されるもの』へ……って感じね」
ヒメノは無邪気にマグマドラゴンたちとじゃれ合っている……
あ、さっきのセイレーンは無事だったみたい、最初の地割れの時に空を飛んで逃げていたのね。
バサッバサ
セイレーンが降りてきた。
「あなた大丈夫?さっきの魔族に利用されていたのでしょう?喉も調子が悪いみたいだし……」
「是……」
「大丈夫大丈夫、きっとマスターがなんとかしてくれるよ。
『魔界へ帰る方法なら俺が何とかする、安心しろ』とか言ってね」
ヒメノのそのセリフってマスターのモノマネなの?
「そうそう、そのガラガラの喉とかも、
『大丈夫、現実世界ならきっと何とかなる、俺に任せとけ』ってね」
クリスまで調子に乗っちゃって、もう……
「おーい」
向こうからゴーガンさんが走ってきた。
「ゴーガンさん、魔族の方は片付いたので、みんなで一緒に門の修復に取り掛かりましょう」
「何から何まで……もういっそのことお前たちが百戦騎士をやっていいと思うんだが」
☆今回の成果
マキア装備 『マキアカリバー風神』と『マキアカリバー雷神』
リョウ・モミジ レゾナンスアーツ『巨神おとし』習得
ヒメノ アドバンスドアーツ『レイジングドラゴン』習得
新規登録で充実の読書を
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