第26話異世界版クラウドファンディング

 アナタはアイドルと『観光』したことがありますか?……俺はある。


 「いやー、焦ったわ~」

 俺はサザバードの罰金を払いに、料金所的な建物に来ていた。


 「まさかサザバードの通貨が、ファルセインの百万分の一の価値だったとは……」

 つまり、一億サザンは百セインぐらいの価値ってことに。


 「サザバードの昔の国王が、『お金がないなら作ればいい』と言って、

 大量にサザン銀貨を作ったため、ドンドンその貨幣価値が下がっていき、

 今のこの状態だそうです」


 「確か、現実世界でもそういう国があったなぁ……」

 どこの世界でも、同じミスは繰り返されるのかもな。



 島を探索する前に、館長がスミレと話をしている。

 「そういやスミレ、父親から貰ったもう一冊の本はどうしたんだい?」

 「……ここにあります」

 スミレは懐から、もう一冊の真っ黒で不気味な本を取り出した。

 「おいおいスミレ、そんな不気味な本も持っていたのか……」


 「あのお父さんがくれた本なんて、私は使うつもりはありません!

 お父さんなんて大嫌いでした、いつも大好きだったお母さんをいじめて……」

  あのスミレが、めずらしく取り乱している……そんなに嫌いだったのか。


 「その本は悪魔や死人を操れると言われている魔導書、『ネクロノミコン』……

 祓魔師エクソシストだったお前の父親『ブックス』が、伝説の死人使い《ネクロマンサー》と戦った時に手に入れたモノさ」


 「奴隷になったときに取り上げられたのですが、すぐ戻ってきました……

 その後何度も捨てたのに、必ず私のもとに戻ってくるんです」


 「……スミレ、お前がここにいたころは、お前は父親にべったりだったよ。

 よほど父親が好きだったんだろうねぇ……

 『大きくなったらお父さんと結婚する』と、よく言っていたよ」


 「えっ……そんな……そんなはずは、私は……」

 「おそらく記憶を改ざんする魔法を使ったんだろう、確かそういう禁呪があったはずだよ。『ネクロノミコン』のチカラを借りれば可能だ」


 「じゃあお父さんがお母さんをいじめていたこの記憶は……偽りの記憶?

 でも、でもなんでそんなことを……?」


 「ブックスは言っていたよ、思春期を過ぎても自分にべったりな娘を見て心配だ、と。大人になっても好きな人ができないんじゃないかと本気で心配していた」


 「そんな理由で?私に嫌われるのがわかっているのに?どうして……」


 「『ネクロノミコン』のチカラを借りて禁呪を使っていたのなら、

 おそらく『ネクロノミコン』を開けば前の記憶が蘇るはずだよ」


 「……やってみます」

 スミレは『ネクロノミコン』を恐る恐る開いてみる……

 本を開いたと思ったら急にページが勝手に捲れていき、止まったと思ったら光りだした!これは……


 「あ、ああああ……

 な、なんで?私、なんでお父さんの事忘れていたんだろう……あんなに大好きだったのに」

 スミレの記憶の魔法が解けて、前の記憶が蘇ったようだ……


 「これがブックスの、お前のお父さんの願ったことなんだよ……

 男にはね、大好きな人にどうしても嫌われなくちゃならない時があるんだ……分かっておやり」


 「お父さん……」

 スミレはお父さんが大好きだったころの記憶を取り戻したようだ……これでよかったんだよな、きっと。

 『男には大好きな人にどうしても嫌われなくちゃならない時がある』か……

 俺にもスミレのお父さんの気持ち、なんとなくわかる。


 *****


 さっそく俺たちは気になる島に、観光も兼ねて探索をしに行くことに。

 図書館島の館長も、今回俺たちに同行するそうだ。


 幸い、メンバーが選んだ島はだいたい近場にあり、島と島は小さな橋で繋がっているため、今回は現実世界から人数分の自転車を持ってきた。


 チリンチリ~ン!

 「『異世界あいどる24』、出発だー」

 快調に自転車を走らせた……のもつかの間、二十分もしたら息切れが……

 山が多い地域だからなのか、坂道が多すぎる……


 「マスター、おっさきにぃぃ~」

 アンジュとライカがケンタウロスのクリスの背中に乗って俺たちを追い越していった。

 くっそー、その手があったか……



 延々と自転車をこぎ続けて約一時間後、やっと最初の目的地『マッスル島』に到着。

 「ぜぇ~ぜぇ~……

 今後はせめて、スクーターとか電動のモノにした方がいいかもな……」


 「ぎゃああーーー!た、助けてーー!」

 !?……先に着いていたアンジュ達の声だ、どうしたんだ?


 奥の建物のドアが開き、アンジュとライカとクリスが飛び出してきた!

 「どうしたアンジュ、ライカ、クリス!?」

 二人が泣きながら建物の方を指さす、その方角には……

 マッチョな男の人が、パンツいっちょでポーズを決めながらこっちに近づいてくるーーー!?


 「キレテる、キレテるよー!肩にブルトーザー乗ってるんかい!」

 「ナイスバルク!」

 「腹筋がまるで板チョコだ!」

 まさかの自画自賛ーー!?


 「ようこそビルド魔法の島、『マッスル島』へ。ミーが『筋肉団長』でマッスル!」

 語尾がマッスルになる人なのね……


 「みなさん、ミーの筋トレを受けに来たマッスルね?」

 「いやっ、そういうわけでは……」

 「ノンノンノン、体力アップは、健康ややる気にも繋がる大事な要素。

 魔導士のアナタもぜひ一緒にやるマッスル!」

 「え~~~!?」

 結局俺まで一緒に筋トレをすることに……



 「まずは『ウォーミングアップ』マッスル!」

 俺たちはまずはウォーキングを十分程度。

 「ひえ~今自転車で走ってきたばっかりなのに~」


 「次は『ストレッチ』、体をほぐすマッスル!」

 「いたたたた!」

 俺は体の硬さには定評があるんだ……


 「次がメインの『トレーニング』マッスル!」


 「まず胸筋は『腕立て伏せ』!」

 「ぐおーーー」


 「お腹は『腹筋』!」

 「ひょえーーー」


 「太ももは『スクワット』!」

 「はひーーーー」


 「最後は『クールダウン』……川で水浴びして汗を流すマッスル」

 「えー水浴び!?せめてお風呂とかじゃなくて?」

 「お風呂はイチイチ水をためて、炎の魔法で沸かすのが面倒なので、今はやってないマッスル」


 「ちょーーっと待った!だったら俺にいい考えがある」


 俺の言ったいい考え……それは『温泉』だ。

 坂道が多いということは活火山がある、もしくは近いということだと思う。

 ということは地下に温泉がある可能が高い。



 ドワーフのヒメノに頼んでみる。

 「『地脈のハンマー』なら、水脈を掘り当てることができるはずだ、やってみてくれ」

 「わかりました」


 温泉が出てもいいように、周りを石垣で囲ってから、ヒメノが地面をハンマーでたたく。

 ズッドーーーーン!!

 ビキビキビキ!

 地面に地割れがおき、お湯が噴き出してきた!


 「アチチチ!」

 「やったー温泉だーー!」

 スゲーなヒメノ、一発で掘り当てちゃった。


 「源泉の温度はおよそ七十度……適温は四十度なので、施設の水を加えて温度を下げて……」

 「よし、入ってみよう」


 カポーン

 「う~ん……どうだい、いい湯だろう?」

 「確かに……これは素晴らしいマッスル」


 「これを目当てにここに足を運ぶ人も増えるかもしれない、トレーニングセンターかき入れのチャンスだ」

 「それは助かるマッスル……」


 「もう一つ、とっておきのアイデアがあるんだ」

 「もう一つ……?温泉の他に?」

 「俺の大好きなあれはこれから準備するから、後でのお楽しみだな」

 ギュピーーン!


 筋トレを済ませ、温泉で疲れを癒した俺たちは、次なる島へ。


 *****


 チリン、チリ~ン!

 お次はライカンスロープのララが来たいと言っていた『魔獣島』だ。

 ……おっと、久々だぜこの雰囲気。

 まるで最初に行った時の『名もなき村』を思い出す……


 さすが『大陸最貧国』……藁ぶきの家や、洞窟に住んでいる者もいる。

 食べ物も質素なものばかリ、向こうで横になっている人は死体じゃないのか?

 虫がたかっている……


 「この島は亜人『獣の民』が統括しているんだが、特に特産物もなく、島は疲弊している。獣の民は体力があるから、労働力として他の島や国によく出稼ぎに出るが、騙されやすく奴隷位に落ちやすいんだよ」

 館長も後ろからついてきた。


 ララは、俺の後ろに隠れながらついてきている。

 俺はララに案内してもらって、七長老の一人、『酋長』に会いに。


 洞窟の奥には、犬っぽいケモ耳のおじいさんが座っていた……酋長らしい。

 「ようこそ魔獣島へ、こんな何もない所にわざわざやってくるなんて、

 物好きなお人ガウ……」


 「酋長、久しぶりに来たけど、また寂れたね……アンタも前よりやつれている」

 「図書館島の館長ガウか?……

 今年も数十名の餓死者が出たガウ、来年は多分数百名出るガウよ……

 明日どころか今食べるものもない有様ガウ……」

 「私が思っていたより深刻だねぇ……」



 「ここの奥に、結構大きな建物が見えたが……」

 俺が酋長に聞いてみた。

 「あれは『魔獣研究所』……数十年前に建った研究所ガウが、もう何年も活動していないガウ。

 人間の研究員が一人いるガウが、何をしているのガウか……」


 俺たちはその研究所へ行ってみる。

 ボロボロの建物の奥には、研究員らしき人間の男性が一人、何かの実験をしていた。

 「あっ、これは気づきませんで……ここの研究員で、人間です」


 研究員の話によると、

 元々、色んな魔獣の生態を調べるために作られた研究所で、以前は十数人研究員がいたが、今は廃れて自分一人に。

 予算は全部獣の民を救うために使ってしまい、研究自体もままならない状態らしい。


 俺と館長で、現状解決のために話し合ってみる……

 「ここの現状を何とかするには……俺は『動物園』を作るのがいいと思うんだ」

 「『どうぶつえん』……?」


 「動物園とは『生きた野生動物』を展示しながら、飼育・研究をする施設のこと。

 きちんと安全を確保しながら、展示・公開することで入場料を得ることができる」


 「なるほど、研究と資金稼ぎを同時にできるということか……」


 「そのためには資金が必要だ、

 現実世界の『クラウドファンディング』みたいなことができればいいんだけど……」

 「『くらうどふぁんでぃんぐ』?」


 「クラウドファンディングとは、起案者を支援してくれる人から、

 少額ずつ資金を調達するシステムの事だ」

 まあ、モチロン現実世界ではネットを使って集めるんだけどね。


 普通に俺が資金を出してもいいのだが、それでは一時良くなるだけで、根本的な解決にはならない。

 やはり、自分たちの事は自分たちで解決するのが一番いい。

 クラウドファンディングで百億サザン(約五千万円)ぐらい集まれば、動物園建設が可能だろう。


 「フム、大陸中の民に少しずつ資金を提供してもらう、か……具体的にはどうしたらいい?」


 「具体的なやり方としては、

  ①サザバード中の住民に説明できる『館内放送』的なものが必要

  ②資金の回収方法

  ③返礼品

 ……こんなとこかな」



 「①は図書館によく来る『鏡の民』の魔法を使えば、鏡を通信装置のようにできるよ」


 「おお、じゃあそれで説明すればいいな」


 「②も鏡の民の魔法なら、鏡と鏡を亜空間で繋げて、

 鏡にお金を入れれば資金を回収することができるようにもなる……

 どっちの魔法も、私の持っている『鏡の本』に載っているから、今ここで使用できるね」


 「③は後からゆっくり考えればいいし……これならいけそうだ、『異世界版クラウドファンディング』!」



 俺たちはさっそく行動開始!


 ……でもやっぱり、そんなにうまくはいかなかった。

 館長が鏡の本を読むと、鏡がテレビ電話のようになって、サザバード中の鏡と繋がったようだ。


 「サザバードの全国民、ちょいと失礼するよ、七長老の館長だ。

 全国民に話を聞いてもらいたくて、鏡の魔法を使ったよ……詳しくはこの人から聞いておくれ」


 「あー、コホン、ギガンティックマスターと言います、転移者です。

 話というのは他でもありません、魔獣島の事です」


 俺はサザバード国民に魔獣島の現状と、

 打開策として『動物園』と『クラウドファンディング』の話を説明した。


 しーーーん……

 サザバード国民からの反応は無し……

 まあそうだよな、他の世界から来たやつの言葉なんて、信用できなくて当然か。


 「マ、マス、ター……あの、わ、私に……私に話をさせてください!」

 ララ!?自閉症のララが……大丈夫か?


 「私はライカンスロープの……ララと、い、いいます、み、皆さん、聞いてください……私は、この性格のせいで……昔ここでいじめにあって、いました……」

 ララ……震えてる……頑張れ!


 「こんな所……無くなってしまえばいいと、思ったこともあります……

 いじめられて、奴隷になったときは……悲しかったし、苦しかった……

 でも、ここまで育ててもらったのは……感謝しているし、おかげで、ギガンティックマスターにも出会えました……」

 ララの手にチカラが入る……


 「私は……ここが無くなるのはやっぱり、嫌です!

 マスターの言う、『動物園』ができれば……きっとここは良くなると信じています……皆さん、ご協力を、よ、よろしく、お、お願いします!」


 シーーーーン……

 誰も反応しない、やっぱりだめか……

 と思ったら、一人の女の子が鏡の前に来た。


 「あの……ほんのちょっとでもいいの?」

 「モチロン、その気持ちが大事なんだよ」

 「私、猫さんが好きなの……だから、猫さんのために貰ったお小遣いをあげます。十サザンしかないけど……」

 「あ、ありがとう……とっても、うれしいです」

 ララ、やったな。


 チャリン!

 女の子が鏡にお金を入れると、俺たちの鏡の所にそのお金が出てきた。


 「ぼ、僕も……お金は無いけど、野菜をいっぱい貰ったから……」

 「ワタシも!……家を建てる時、獣の民には手伝ってもらって助かったんだ、だから……」

 「オレ……昔獣の民をいじめたことがあって……今は本当にすまなかったと思ってる、罪滅ぼしさせてくれ!」


 女の子の寄付をきっかけに、たくさんの人から支援金が集まってきた。

 みんなきっかけが欲しかったのかも。


 なんだかんだで最終的に十億サザンの資金が集まった。

 目標には届かなかったけど、ギリギリいけるか……?

 ここは『獣の民の島』……労働力は腐るほどある。



 俺は酋長に提案してみる。

 「アナタたち獣の民は魔獣と会話ができる。

『一日三食つきで、一週間に一回の健康診断を受ける仕事はどうだ?』と言って、指定した魔獣をスカウトしてくれないか」

 「そんな簡単なことでいいなら、すぐやるガウ」


 この感じなら、数日もあれば『動物園』が完成しそうだ。


 *****


 チリン、チリ~ン!

 三つ目、百戦騎士ライゴウの故郷、『雷の民の島』。


 ビリビリビリビリ……

 「ん?なんだ?島に入った途端、なんか微小の低周波治療器を受けているような……」


 バサッバサッ

 館長もあとからグリフォンでやってきた。

 「どうだい、少しびりびりするだろう?この島は島全体が帯電質で、いつでもこの状態なのさ。だから観光客どころか、他の島の民も近寄ろうともしない」


 「そりゃあ『大陸最貧国』にもなるか……」

 少し歩くと、小さめの宮殿のような建物にたどり着いた。


 「オレはこの『雷の民の島』の首長だ……お前がギガンティックマスターというやつだな。この島で、お前達をよく思っている者はいない……用が済んだらすぐ出ていくがいい」


 館長が俺の耳元で小声で話しかける。

 「さっきも言ったが、お前たちが倒した雷の民『ライゴウ』は、この島の出身……

 亜人で百戦騎士になれるのは十年に一人と言われていて、ライゴウはこの島ではまさに英雄扱いだったんだよ」(小声)


 「ライゴウさんと戦ったのは私です」

 カスミがたまらず首長に話す。


 「……こんな小娘に雷の民の英雄ライゴウが負けるはずがない、どんな汚い手を使ったのか……ライゴウはお前たちと戦った後、責任を感じ騎士団を抜け、旅に出たらしい……今も行方はわからない」


 「だからってそれを俺たちのせいにするのはお門違いだ。

 俺たちは正々堂々と戦い、全力でぶつかり、お互い納得しての勝敗だった……恥じるようなことはしていない」


 「我々がライゴウにどれだけ期待していたか知らないくせに……

 勝利した側なら、後からなんとでも言えるよな」


 「その辺にしておきな首長、ここで揉めても何の利益にもならないよ」

 「……」

 館長が仲裁してくれた。

 首長はそのまま建物の裏手に消えていった……



 「しかし、こんな電気しかない島じゃあ、救いようがないねぇ……」

 「いや、こんなに簡単に救える島は、たぶん他にないだろう」

 「えっ」


 「あ、マスター、私わかっちゃいました。以前『名もなき村』で使用した『そーらーぱねる』と『ちくでんち』を使うんですね」

 「そうだ、現実世界ではその電気こそ、喉から手が出るほど欲しいからな」

 ここで『ソーラーパネル』と『蓄電池』を設置したら、かなりの利益が見込める。

 電気を吸収すれば、島のビリビリもなくなるし、一石二鳥だ……


 「……でもここはちょっと保留だ」


 「え~マスター、ひょっとしてさっきの事、根に持っているんですかぁ~?ちっちゃいって言われちゃいますよ~」

 「ちげーよ、お前、俺の事なんだと思っているんだ?」


 *****


 チリン、チリ~ン!

 四つ目は『砂漠の民の島』、砂の民モミジが行ってみたいと言っていた島だ。


 ムムム……一面砂だらけで、とてもじゃないけど自転車での移動は無理っぽい。

 「こっから先はこの動物に乗って移動だよ」

 俺たちはラクダのような、カバのような、不思議な動物の背に乗って移動することに。


 観光用なのだろうか、ガイドのような人がいて、その動物を誘導してくれている。

 日差しが強くとにかく熱い。ガイドのような人がストールみたいのを被れと渡してくれた。


 「私はグリフォンで先に行っているからね」

 館長、ズルい……


 一面砂漠の島をゆっくり三十分ほど歩いていくと……その先にオアシス的な街が。


 先に着いていた館長が、砂漠に民の長を紹介してくれた。

 「ようこそ『砂漠のオアシス』へ。こちらが統括している砂漠の民の『オアシス長』だよ」


 館長の横にいたおじさんは、頭にターバンを巻き、褐色の頬にひび割れみたいなのがある。

 「『異世界あいどる24』の方々だね、館長から話は聞いているよ」


 「この亜人『砂漠の民』は、砂の魔法や特技に特化した種族でね、ノノのいた『砂の民』ってのも、この砂漠の民を見て名前を付けたんじゃないかと思うよ」

 それだけ砂の扱いが上手だってことだな。


 「この島の悩みは『水不足』と『暑さ』なんだけど、

 砂漠の民はとにかく暑さに強くてね、たいして苦にならないらしいんだよ」


 「水も多くはないが、このオアシスの湖の水で、暮らしは事足りてはいる」

 オアシス長からの返答、なんとも逞しい種族だな……



 オアシス長が、モミジを見て、近づいてきた。

 「いい風を纏っているな……お前には『砂の魔法の素質』を感じる」

 おおスゲー、そういうのやっぱりわかっちゃうんだ。


 「そのペンダント……お前の母親の名前はひょっとして『エノール』か?」

 「母を知っているのですか!?」


 確かにモミジは初めて会った時から首にペンダントをつけていた。

「このペンダントは……奴隷になったときに私も奴隷商に一度盗られてしまいましたが、石にも飾りにも、全く価値がないとわかると、すぐ返してくれました」


 「だろうな……そのペンダントにはまっている石は、この砂漠の民の秘宝『砂漠の涙』。特別な魔力石で、我々砂漠の民の魔力でしか効果を発揮しない」

 「そうなんですか!?」


 「お前の母『エノール』は、数年前砂漠の民を疫病から命がけで救ってくれた救世主だったのだ」

 「確かに、母は医者でした……でもそんな話初めて聞きました」


 「そのペンダントは、砂漠の民を絶滅の危機から救ってくれたお礼に、我々がエノールに贈ったもの。私たちの魔力を注いでやれば、お前は『砂漠の守護神』の加護を得ることができる」

 「『砂漠の守護神』……?」


 「エノールには『一番大切な自分自身を守るために使え』と言ったんだが、

 お前が持っているということは、どうやらエノールには自分自身よりも大切なものがあったようだな」

 「お母さん……」


 「さっきも言ったが、お前には『砂の魔法の素質』を感じるな……

 実はお前の母『エノール』に、砂漠の民秘伝の魔法を教えようとしたのだが、エノールには才能がなくてな。覚える前にファルセインへ帰ってしまった」


 「お母さんは魔法は得意ではなかったと思います」


 「モミジ、お前の首飾りに魔力を注ぎ、砂漠の民秘伝の魔法を授けたい……

 どうだろうギガンティックマスター、モミジをしばらく私に預けてくれないか?」


 砂漠の民のオアシス長からの申し出、俺は快く頷いた。


 *****


 チリン、チリ~ン!

 五つ目は音の民シシファの故郷、『音の民の島』だ。


 島に入った途端、いろんなところから音楽が流れてくる……

 よく聞くと、洋楽風だったり、演歌っぽかったり、ジャズやゴスペルチックな音楽なども流れている。


 俺たちは島の中央に位置する、『音楽学校』へ入っていった。


 「ようこそラララ~わ~たしがこの学校のぉ~ラララ『学長』で~す~♪」

 ……予想はしていたけど、やっぱりこういうノリか。


 「俺たちは『異世界あいどる24』って言います。以前シシファって音の民と、一緒に冒険をしたことがあるんだけど……」

 「おお~シシファですか~♪」

 「知ってるんっすね?あいつ有名人だったのかな?」

 

 「シシファは~『立派な吟遊詩人になりたい~』と言ってこの島を出て行きました~」

 まあ、立派かどうかは置いといて……ちゃんと吟遊詩人になってたから夢は叶ったんだな。


 「シシファは~お調子者だったから~心配で~、元気そうで、な~に~よ~り~♪」

 ……この島に、お調子者以外の人が存在するのかどうか、甚だ疑問である。



 バサッバサッ

 グリフォンに乗って館長が現れた。

 「どうだい、面白い島だろう?でも『音の民』は、普段は普通の会話もままならないから、吟遊詩人以外とくに有用なクラスがなくてね……

 ここの『音楽学校』も赤字続きなのさ」


 「そ~なんで~す、こう見えて、意外に落ち込んでいるので~す♪」


 「そ~なんですね~~♪」

 「……マスター、引っ張られてますよ」

 またもやアイドルに突っ込まれる俺。



 ここはもうあれだな、現実世界の日本が誇る大発明、『カラオケ』。

 この音の民の島なら簡単にできるだろう。


 俺はオルタナティブドアで現実世界から『マイク』と『スピーカー』、そして『カラオケセット』を持ち込んだ。

 「これを使えば、簡単にカラオケ施設を作ることができる。

 この世界特有の歌なんかもあるだろうから、自由に使ってみるといい」


 ここでカラオケが流行れば、ファルセインやカイエルの貴族なんかも遊びに来るかも。


 *****


 チリン、チリ~ン!

 六つ目は『魔占術の島』、ヴァンパイアのコウが興味津々だった島だ。

 俺たちが訪ねたのは『占いの館』。

 七長老の一人、『占術長』が出迎えてくれた。


「ここには色んな占いがあると聞いてきたんだけど……」


「ああ、手相、星占い、亀甲占いから風水まで、何でも揃っているよ」

「タロットカードもありますか?」

 コウが前のめりで質問する。


 「モチロンあるよ、カードはありきたりのものだけどね」

 「そうですか……失くしたカードがあるかと思ったんですが……」

 そう言って自分のタロットカードを見せるコウ。


 「これは!……『魔界のタロットカード』だね?」

 「そうです、昔数枚失くしてしまって……」

 「あたしもつい最近まで持っていたよ、確か『愚者』のカードだったね……」

 「本当ですか!」

 「でも怖くなって手放してしまったのさ」

 「怖くなって……?」


 占術長は立ち上がると、後ろの棚にあった本を持ってきて開いた。

 そこには、二十二枚のカードを操る魔人と、それと戦っている人間の絵が描かれていた。

 「これは昔実在した、魔界の『魔王』の絵さ、ここに書かれているのが『魔界のタロットカード』……」

 「えっ、『魔界のタロットカード』って、もともと魔王の持ち物だったの?」


 「そうさ……魔界のタロットカードには意思があり、カードが認めた者がこのカードを所持すると、特別な能力を得ることができると言われている」

 そんな凄いカードだったのか……


 「カードに認められれば能力を得ることができるが、やはりその見返りに、犠牲や対価が必要になる。アタシは怖くなってね」

 「まあ、魔王が使ってたっていうんだから、何かあるよな」

 「今はどこにあるのかは、さっぱり……すまんね」


 カードはなかったけど、『魔界のタロットカード』の秘密がわかったから、収穫はあったな。

 危険みたいだし、やはり見つけ次第手に入れて、コウが保管するのがいいだろう。



 この占いの館は、毎年一定数の貴族や一般人が占いをしに訪れているようで、それなりに繁盛しているようだ。

 ここの島は特に問題などはないみたい、次の島に行ってみよう。


 *****


 チリン、チリ~ン!

 最後の島は『呪術の島』、一応館長に頼まれた島なんだけど……


 「私は館の外にいる、何かわかったらすぐに知らせておくれ……

 くれぐれもよろしく頼むよ」

 丸投げかよ!


 俺たちはカラスが飛ぶ不気味な館に足を踏み入れた……

 ギイィィ……

 古い木の扉を開けると、煙が充満している薄暗い部屋に……


 中で俺たちを待っていたのは、黒いフードを被った、まさに『魔女』。

 大きな窯で何かを煮込んでいる……


 「あ、えーっと、『異世界あいどる24』というんだけど……この島の長かな?」

 ギロリ……睨まれた。

 「呪術の島の長、『呪術長』だよ……」


 「呪術長……えーっと、凄い館だね、その、それは今何を作っているの?」

 俺ってこんなに話すの下手だっけ?


 「これは……ワシに逆らったやつを煮込んでおるんじゃよ」

 「えっ!?に、人間を……!?」

 「ウソじゃ」

 「おい!」


 「これはワシの晩めしの野菜の煮込みスープじゃ」

 その格好でその鍋……本気にするだろ!


 「どうせ館長あたりに、ワシが怪しいから確認してくれとか言われたクチじゃろう。ワシは相手の心が読めるからのぉ」

 「マジで?」

 「ウソじゃ」

 「おーーい!」

 笑ってるし……なんとも食えない婆さんだ。


 でもクラスが『呪魔導士』というだけあって、それっぽいアイテムや本が部屋中に……どんな魔法を使うんだろうか?



 ドゴーーン!!

 その時、外で爆発音が!館長が誰かと戦っている!?

 俺たちは急いで外に出る。



 「くっ……私としたことが、油断したねぇ」

 膝をつく館長の前には、見覚えのある男が……


 「よう、待っていたぜ」

 「お前は……大陸一の殺し屋レイブン!?なぜこんなところに!」

 「呪いのチカラが集まるこの場所に、お前が来るのを待っていたんだ!」


 ファルセイン城で行方不明だったレイブン……やはり生きていたか。


 呪術長も、音を聞きつけ外に出てきた。

 「呪術長、アンタやっぱり暗殺組織を手引きしていたんだね!?」


 館長と呪術長の二人に、俺が割って入る。

 「違う、呪術長は手引きなんかしていない!それどころか呪霊騎士カースドナイトを使って、余所者の中に暗殺組織の人間がいないか監視してくれていたんだ!」


 「なんだって!?」

 「アナライズで心を読んで確認した、俺が保証する」


 呪術長は、俺の話なんかお構いなしに、レイブンに話しかける。


 「呪霊騎士カースドナイトの中に、ワシの操作を受けつけないやつが何体かいた……アンタの仕業だね」

 「そうだ、ギガンティックマスターがこの国に入るのを確認するために、数体奪わせてもらった」


 「お前、暗殺組織の者だな!?なぜ私の島の住人を殺したんだ!話が違うぞ!」

 怒鳴りこんできたのはなんと『雷の民の島』の首長!?


 「オレ様のこの『愚者のカード』は、罪を犯せば犯すほどチカラが増す……

 罪を加算するために、一番近くにいたやつを殺したまでだ」


 「『愚者のカード』だって!?」

 確かに、レイブンのベルトに酒を持っている男が描かれたカードが見える……

 占術長が以前持っていたという『魔界のタロットカード』だ。


 「くそっ、こんなことならお前たちなんかに協力するんじゃなかった……」


 「館長、暗殺組織を手引きしていたのはあの『雷の民の島』の首長だ……アナライズする必要もなかったな」


 「そ、そうだったのかい……呪術長、疑ってすまなかった」


 「フン、呪術は所詮憎しみから生まれる邪悪なもの。疑われるのは慣れっこさ……

 でもね、その『呪い』から弱きものを一番守ることができるのも、ワシら『呪魔導士』なのさ」


 「わかったよ、心にとどめておこう」


 「呪術長、館長、話は後だ……あいつ前に戦った時とは何か違う、気をつけろ!」



 「話は終わったか……?じゃあそろそろ死ね!」



 ☆今回の成果

  マッスル島に『温泉施設』

  獣の民の島で『クラウドファンディング』と『動物園』

  音の民の島に『カラオケ店』

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