魔導連邦サザバード編

第25話七長老

 アナタはアイドルと『キス』したことがありますか? 俺は……内緒。



 『魔導連邦サザバード』へ行く前に、俺たちは現実世界の夏を満喫することに。



 まずは海水浴。

 アイドル達の眩しい水着姿を見て、感涙する俺。

 「……生きててよかった」


 さすがにこれだけのアイドルを、あれだけの人数連れて行ったら、浜辺は騒然。

 海と言えばまず『スイカ割り』、代表してマキアが挑戦する。

 「いーち、にー、さーん……」

 みんなで目隠しをしたマキアを回す。

 「さあ、スイカはどこでしょう?」


 「フフフ、たとえ目隠しをしても、気の流れでスイカの位置はまるわかりです!ここだ!」

 ザシュ!

 マキアの剣で斬られたスイカは一㎝四方の細切れに……

 「こんなに細かく切ったら食べられないじゃん!これだから剣士ってやつは……」



 人魚のマリネが海に入っていった。異世界の海とはやっぱり違うんだろうか?

 「アドバンスドアーツ、『アクアウォール』!」

 マリネがいきなり魔法を!?

 「マスター、こちらの世界でも『精霊』はちゃんと存在していますね。魔力は小さいですが……」


 そうそう、俺は基本的に現実世界では魔法や技は使えない。おそらく精霊の力が弱すぎるからだと思う。

 異世界人は、体内の残留魔粒子を使用することで、多少使うことだできるようだ。


 「おおおー!スゲー、ここだけいい波が来てる!」

 地元のサーファー達が集まってきた。

 その後、マリネは地元のサーファー達に、『波乗りの女神』と呼ばれるようになっていた……



 次の日は夏祭りへ。

 アイドル達の浴衣姿を見て、また感涙する俺。

 「……母さん、産んでくれてありがとう」


 綿あめに、りんご飴、焼きそばにお面やヨーヨーで遊ぶメンバー達。

 「モミジ、お願い!」

 「風よ 切り裂くものよ 悪しき者より空を守り給え 風の竜よ舞い上がれ 風属性アナグラム 『極小ツイスター』」

 「やったー、入れ食いだー!」

 こらこら、金魚すくいで魔法を使うのはやめなさい!



 向こうでカズキとミユキが射的をやってるみたいだ。

 欲しい商品の的におもちゃの弓矢で当てると、それを貰えるようだ。


 「どれどれ、一体何を狙っているんだ?」

 「マスター、あれを見てください」

 あの商品は……まさか!『射手座サジタリアスのゾディアックビースト』の弓矢!?なんで現実世界のお祭りの屋台なんかに……?


 「なぜあれがここにあるのかはわかりませんが、千載一遇のチャンスです、必ず手に入れてみせます!」

 「ここはオレに任せてもらおうか」

 「おおカズキ、頼むぞ!」


 カズキがおもちゃの弓を構えて撃つ!

 ガチャン!

 的には当たったが、的は倒れずそのまま……

 「はいざんねーん、あと矢は二本だよ」


 う~ん、お祭りの屋台あるあるだな、高額な商品は簡単に取れないようになっているのか……

 ゴゴゴゴゴ……

 カズキの様子が変だ!


 「オレは元暗殺組織のヒットマン……組織のモットーは『絶対・即殺』!狙った獲物は絶対に手に入れる!」

 「カズキ、ちょ、まっ……」

 「アドバンスドアーツ、『百裂矢』!」

 ドカーーーン!

 「うわーーー」

 カズキの矢は屋台ごと的を吹き飛ばした!


 「どうだ!的は落としたぞ!」

 「バカやろう!店をめちゃくちゃにしやがって……これはやるからもう二度と来るな!」

 ……『射手座サジタリアスのゾディアックビースト』、まんまとゲット!


 「姉御、これは姉御に差し上げます、使ってください」

 「カズキ……」


 最近カズキはミユキに弓の使い方を教えてもらっていて、ずっとミユキの事を『姉御』と呼んでいる。

 これでゾディアックビーストも三体目か……


 「ゲームをしていた時は一つも見つからなかったのに、ここにきて急に集まりだした気がする……」

 ミユキがサジタリアスの弓を確認しながら話し出す。

 「これはあくまで私の憶測ですが、ゾディアックビーストはお互いに引き合うチカラがあるのではないでしょうか?」

 「お互いに引き合うチカラ……」

 「ひょっとすると、今後ゾディアックビーストが全て集まらなければ対応できない事態が迫っているのかもしれません」



 そのまた次の日、

 イチヒコに現実世界の『花火師』を紹介してもらって、異世界で花火イベントをすることに。

 花火師の人にはちゃんと説明をして、オルタナティブドアを通り、ファルセイン大陸の砂浜へ。


 みんなで花火の打ち上げを待っていたら……

 「マスター、こっちに特等席があります、一緒に見ませんか?」

 マキアに誘われた。


 俺はマキアとみんなから少し離れた場所で二人きり、砂浜で隣同士で座った。

 浴衣姿のマキア……あまりに綺麗で、横顔をずっと見つめていた。


 「マスター、そんなにジーっと見つめないでください……恥ずかしいです」

 「ご、ごめん……」


 照れて少し赤くなった顔もまた……

 マキアも俺の方を見つめる、この沈黙ナニ?エッ?

 目をつぶるマキア……

 こ、これって……まさか……キキキキ、キス……!?

 ドキドキドキドキ……

 色神の祠に行った時より、心臓の鼓動が……

 ドキドキドキドキ……

 顔が……近い……唇が……近づいて……


 ドテーーーーーン!

 「キャー、いったーい!ちょっと、押したの誰?」

 「私じゃないとよ、ミユキが……」


 後ろの小屋の陰から、アンジュやマコトやミユキ達が出てきた。

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 「ひっ!」

 「お前ら……いつからそこにいたーーーー!」


 「まずい!マコト!」

 「アドバンスドアーツ、『逃げ霧』!」

 「だから俺にはそれは効かねーって言ってんだろーがー!」


 俺の前に魔法陣が展開……『光』『炎』『風』

 「ミリタリス・ビー・オージャ・ダナドゥ 我 光弾を操り敵を屠るものなり 光弾属性ハイアナグラム『ヴァーミリオンレイ』!」

 ドキュキュキュ!

 「わあー!ホントに撃ったーーー!」

 ドカーーーン!!

 「キャーーー!ヒエーーー!」


 ……その後、みんなで花火を鑑賞して、俺たちの現実世界の夏は終了した。


 *****


 その後、俺たちはファルセインの砂浜で、カイエル海上保安局の船と待ち合わせをしていた。


 ファルセインからサザバードまで、陸路をマイクロバスでいけば一週間で着けるが、クルーザーで海路なら、約一日で行ける。


 到着したクルーザーにみんなで乗り込み、いざ『魔導連邦サザバード』へ。



 一日航海して、クルーザーはサザバードの港についた。

 「ここはメインの『図書館島』じゃないっす、島と島の間が狭くて、クルーザーじゃ通れないんでさぁ……

 ただ陸路で繋がっているから、半日も歩けば着きやすぜ」


 「わかった、あとは歩いていく、ここまでありがとう」

 俺たちはカイエル海上保安局員たちと別れ、図書館島まで歩くことに。



 道中歩きながら、『魔導連邦サザバード』の特徴を聞いてみた。

 「その名の通り魔法が盛んな国で、亜人の方が多く住んでいます。

 百八の島からなる連邦国家で、その国旗には『国鳥サザバード』の絵が描かれています」


 「サザバードって実在するんだ?」

 「はい、絶滅の危機に瀕していますが、二十羽ほど存在しています。何せ国鳥なので、殺してしまうと罰金が科されます」


 「罰金……」


 「百八ある島国がそれぞれ独自の生態系・魔法体系を有しており、私たちも知らない魔法が存在していると思います」

 「ふ~ん……現実世界の『ガラパゴス現象』みたいなもんか」


『ガラパゴス現象』……

 エクアドルの県の一つで、周りを海に囲まれた絶海の孤島。

 それにちなみ、市場が外界から隔絶された環境下で、独自の発展を遂げたため、世界標準の流れから外れてしまうことを指す。


 「それぞれの島国に『おさ』が存在しますが、その中でも実力者七名で組織された『七長老』と呼ばれる方が、連邦を統括しています」

 「『七長老』か……まずはその人たちに会うのが先決だな」



 しばらく歩くと、四羽ほどのダチョウみたいな鳥の群れが……

 「さっそく現れました、あれが『国鳥サザバード』です」

 「何かあったら面倒だ、迂回していこう」


 俺たちがサザバード達を迂回しようとしたとき……

 ボワワワ……

 地面からなんか黒いもやが出てきた!?

 その黒いもやはだんだん形を成していき、黒い鎧を着た騎士になった!

 「なんだなんだ!?」


 「あれは、『呪霊騎士カースドナイト』です!」

 マキアが剣を構えながら説明してくれた。

 「『呪霊騎士カースドナイト』!?何それ?」

 「昔このあたりにあった亡国の騎士でしょう……恨みを持って死ぬと呪いの騎士となり、現世を彷徨うそうです」

 「それにしても、こんな真昼間から……」

 「確かに昼間は活動しないはず、呼び起こした者がいるはず……」


 呪霊騎士カースドナイトは、そばにいたサザバード達に乗って、馬のように操り始めた。

 「このまま呪霊騎士カースドナイトを攻撃すると、サザバードも倒してしまいます!」

 「そんなこと言っている場合じゃないだろう!」

 呪霊騎士カースドナイトたちは剣を抜き、俺たちに襲い掛かろうとしている。


 緊急事態だ、俺の魔法で何とかする……不死族に効く魔法はこれだ!

 俺の前に魔法陣が展開……『光』『炎』『炎』

 「インカー・リュー・ガリオン

 聖なる炎で 邪悪なる力を退けよ 聖炎属性ハイアナグラム『ピュリフィケイト』!」


 バオオオオオ!!

 「グガアアア……」

 聖なる炎に焼かれ、呪霊騎士カースドナイトたちは消滅した。


 「あー、やっぱりサザバード達は助けられなかったか……」

 焼け跡にはサザバードたちの屍が……


 「仕方ない、俺たちでおいしく頂こう」

 みんなでサザバードを試食。

 「うまい!外はパリパリで中はジューシー、現実世界でもこれだけうまい『手羽先』は中々ないぞ」

 「でもあのタイミングで呪霊騎士カースドナイトに会うなんて……私たち監視されているかもしれません」

 「確かに……用心するに越したことはないな」



 俺たちは腹ごしらえを済ませ、また歩を進める。

 休憩しながらも約六時間後、目的地『図書館島』の大陸大図書館にたどり着いた。

 「やっと、着いたー……」

 メンバーも俺ももうへとへと。


 そこへ和装っぽい服装をしたおばあさんが一人、近づいてきた。

 「ようこそ『大陸大図書館』へ。私はここの館長だよ」

 「『館長』……てことはひょっとして『七長老』?」

 「そう、私は『七長老』の一人さね。

 『異世界あいどる24』のギガンティックマスターとその一行だね。

 メギード王からの親書は届いているよ」


 館長に案内されて、大図書館の中へ。

 数えきれないほどの本が、建物の中にびっしり……

 頭のよさそうな学者風の人や、見るからに学生っぽい人が、自由に本を読んでいる。


 「この図書館を管理している私たちは、亜人『本の民』。

 本の民は本に書いてあることを言葉にして発すると、それを現実にすることができる能力があるんだよ」


 「えっ、それって凄すぎない?もう万能のチカラじゃん?」


 「それがそうでもないんだよ……

 その事象に対して、術者に等価の反動があるんだ。

 つまり、より大きな事象を起こそうとすると、その分大きな反動が返ってくる」


 「なるほど……世界を変えてしまうほどの事象を起こせば、

 世界を変えてしまうほどの反動が、術者に返ってくるってことか」



 「ほえ~これは凄い……ここは天国ですか?」

 アルケミストのシイナは、開いた口が塞がらないほど感銘している。

 「マスター、ちょっと私ここで研究させてください!」

 そう言ってシイナは、そこら中から本を借りてきてテーブルで研究を始めた……これは数日は帰ってこれなさそうだな。



 「館長、実は相談があるんだが……」

 「フム、中央島までの空路の話かい?」

 「よく分かったな」

 「だてに年は取っちゃいないよ……中央島へ行きたいってことは親書に書いてあったし、海路が得意なカイエルからわざわざ来たのなら、空路を頼ってってことだろ?」

 「おっしゃる通りで……」


 「結果から先に言うと、行くことは可能だよ。うちには『グリフォン』と『ハーピー』を主力とした、『サザバード空艇師団』があるからね」

 おおー、グリフォンか……かっこいいんだろうなー。


 「問題があるとすれば……中央島付近の気流の流れかねぇ、あそこは風を読むのが難しいんだ」

 「それは多分大丈夫だと思う」

 「えっ」

 「俺の携帯電話のアプリに、確か風の強さと方角を表示できる『お天気アプリ』が入っている」


 異世界に来ると、お天気アプリの地図は、異世界用の地図になる。

 ホントこの異世界でこの携帯電話を使えるようにしたやつ天才だな。

 モチロン中央島付近の地図も表示できる。

 俺はお天気アプリで中央島付近の風の流れを表示して、館長に見せた。


 「ほお~これは凄いねぇ……これならグリフォンでも中央島まで行くことが可能だよ」

 まあ、問題はこれだけではないんだけど……


 とりあえず俺たちは一旦外に出て、グリフォンの飛行がどんなものか試すことに。


 「キエェェーーー!」

 おおーこれがグリフォンか、かっけー!

 館長が一体だけ借りてきてくれた。


 「お世辞にも乗り心地はいいとは言えないよ、覚悟しておくれ」

 俺はマキアと一緒に、試し飛行をさせてもらった。


 バサッバサッ

 勢いよく走り出したと思ったら、急に浮かんであっという間に空へ。


 「……」

 「マスター、どうしたんですか?顔色が……」


 「……頼む」

 「えっ?」

 「た、頼む、降ろしてくれーーー!怖いーーーー!」

 「えーーー!?」

 「た、高いーーーー!キ〇タマ縮まるーーーー!」

 「ちょっとマスター、アイドルの前でそういうこと言わないで下さい!」


 そう、何を隠そう俺は『高所恐怖症』だったのだ……



 「いつもはあんなに強いマスターが、まさか高い所が苦手なんて……意外です」

 「仕方ないだろう、現実世界では俺はただの普通の人間、弱点くらいあるよ」


 「マスター、高い所が苦手なら、初めからそう言ってくれればいいですのにぃ」

 「だって『高所恐怖症のマスター』なんてかっこ悪いじゃん。俺はお前たちの前では常にかっこつけていたいんだよ」



 「フム、高い所が苦手ならグリフォンはまず無理だねぇ。

 高所に慣れる方法を探すか、別の手を考えるか……どっちにしても、今すぐって話にはならないねぇ」


 「面目ない……」

 情けなくて涙が出そうだ……


 「高所に慣れる方法って言っても、催眠術をかけるぐらいしか思いつかないなぁ……サキュバスのアキラに頼めばできるだろうけど、万が一途中で解けたりしたら最悪だ」


 「では別の手を考えますか?」

 「ここまで来て別の手ってのもなぁ……」


 館長が何か大きな紙を持ってきた。

 「まあ、特別急ぐ旅でもないんだろう?別の手を探しながら、このサザバードを観光するってのはどうだい?個人的に頼みたいこともあるんだ」

 そう言いつつ、持っていた紙を広げた……サザバードの地図だ。


 「聞いたと思うけど、このサザバードは百八の島からなる連邦国家。

 全ての島に行くことはまず無理だけど、気になる島があるなら行ってみるといい」


 メンバー達にも、各々気になるところがあるか聞いてみた。


 ライカが近くの島を指さして叫んでる。

 「私はこの『マッスル島』が気になります!」

 「そこは『ビルド魔法』っていう、身体強化に特化した魔法を扱う島だね。七長老の一人、『筋肉団長』がいるよ」

 マジか、体育会系は苦手なんだけどなぁ……


 「あの……わたし……ここが、あの……」

 ライカンスロープのララが指さしたのは『魔獣島』。

 「ここはララの生まれ故郷じゃないのか?」

 コクりとうなずくララ。

 「いじめられた思い出もあるだろうに……いいよ、行ってみよう」


 「私はここがチョー気になります!」

 バンパイアのコウが指さしたのは『魔占術の島』。

 「ここは色んな占い師が集まる島だね、七長老の『占術長』が統括しているよ」


 「あ!マスター、『音の民の島』があります」

 マキア、さすがアイドル、目ざといねー。たぶん音の民シシファの故郷だな。

 「そこは亜人『音の民』の島だね、七長老の一人、音楽学校の『学長』がいるよ」


 「この端っこの方にある島……『雷の民の島』?」

 この島はカスミが見つけた、たぶんこの島って百戦騎士ライゴウの……

 「『雷の民の島』は、『魔獣島』と並んで、『大陸最貧国』のうちの一つ。

 英雄ライゴウがファルセイン国で百戦騎士になって、大いに盛り上がっていたんだが……」


 「館長さん、この『砂漠の民の島』って……」

 砂の民モミジは、この島が気になるようだ。

 「アンタは確かファルセインで『砂の民』って呼ばれているんだったかい?

 だったら『砂漠の民』には会っておいた方がいい、砂のスペシャリストだよ」


 メンバーからの要望はこんなもんかな?


 「あと私からも一つ頼まれごとをいいかい?

 さっきも言ったけど、このサザバードは百八の島からなる連邦国家。

『七長老』のこの私でさえ、全ての島を監視することはできていない」


 百八もあればそりゃあ、まぁ……

 「これはあくまで噂なんだが、どうやらこの島国のどこかに、『暗殺組織』の本部があるらしいんだ」

 「『暗殺組織』……!?」

 俺と元暗殺組織のカズキが聞き耳を立てる。


 「しかも私たち七長老の中に、その暗殺組織を手引きしている者がいるらしい」

 マジか、だったらあのレイブンもそこに戻っている可能性が高い……


 「身内を疑うのはやぶさかではないが、私はこの『呪術の島』にいる『呪術長』が怪しいと思っている」

 呪術……この島に来た時の『呪霊騎士カースドナイト』のことも気になっていた。


 「私たちが探ると怪しまれてしまうが、他所から来たアンタ達なら探りを入れることができる……頼まれてくれんかね?」


 「モチロンやる、やらせてくれ!」

 俺が言う前にカズキが返事した。



 「あともう一つ、個人的なことを聞いてもいいかい?」

 「?」

 「そこにいる、本を持っている女の子……そう、お前だよ」

 館長はスミレを指さして、自分の方へ呼んだ。


 「お前の母さんの名前は『アメリア』じゃないかい?」

 「!……なぜ母さんの名前を知っているんですか!?」

 「やっぱりそうかい……面影があの子とそっくりだよ。

 お前の持っているその魔導書は、代々私の家系の娘に受け継がれる本なんだ……私はその魔導書の二代前の所持者だよ」


 「えっ、それって……」

 「そう、アメリアは私の娘、お前は私の孫ってことになるねぇ」

 「そんな……私の、おばあちゃん……?」


 「スゲー、スミレ、お前って亜人『本の民』だったんだ?」

 「正確には本の民のハーフだね。父親は人間で、クラスは『祓魔師エクソシスト』だった……」

 「『祓魔師エクソシスト』……?」

 「悪魔を祓ったり、悪霊付きを治したりする専門のクラスさね……スミレの父親は旅の祓魔師エクソシストで、たまたまこの図書館島に流れ着いたのさ」


 「それでスミレの母親と恋に落ちて、そのまま結婚ってわけか……」


 「それがそううまくいかなくてね……

 この島は昔、今よりも差別感情が激しくて、余所者の血が入ることを良しとしなかったんだ」

 スミレが手に持った本をギュっと握りしめる……


 「人間と結婚したアメリアと私たちは、周りから迫害されてね、

 しかも生まれた娘は『災厄眼』持ちだった……」

 スミレは目を潤ませながらも、まっすぐ館長を見つめている。


 「アメリア達は私たちにも危害が加わってしまうと、自分たちは夜逃げ同然でファルセインに移住していったんだ」

 「そんなことがあったのか……」

 「その後、風の噂でアメリア達が盗賊に殺されてしまったと聞いて、その時は本当に悲しかったよ」

 スミレは涙をポロポロ零しながらも、話を聞いていた。


 「スミレ、お前のことが心配だったんだ……生きていて本当に良かった」

 「おばあちゃん!うわ~ん……」

 耐えきれなくなったスミレが館長に抱きつく。


 「ここに来るまでに、大変な思いをしただろうに……ギガンティックマスター、この子の母親に代わってお礼を申し上げる、ありがとう」


 「いやいやいや、俺はただ仲間に誘っただけで……それに俺の方もスミレに助けられているよ」

 天涯孤独だと思っていたのに、まさかこんな所に身内がいたなんて……よかったな、スミレ。



 「そういえばアンタたち、ここに来るまでに国鳥サザバードを殺さなかったかい?」

 あ、忘れていた、サザバードを殺してしまったことを……


 「サザバードには数が減るとすぐ知らせが来る特別な魔法がかかっていてね、平原にいた四体が消えたから、もしかしてと思ってね」


 「俺がやりました、すみません……」

 「やっぱりそうかい、まあ仕方なかったんだろう……で、どうだった?食べたんだろう?」


 「食べた、そりゃあもう美味かったよ、外パリの中ジュワ、最高だった」

 「だろう?昔サザバードはそのうまさで乱獲されてね、それで数が激減したのさ」

 あのうまさ……気持ちはわからなくもない。


 「サザバードは繁殖力も高くて、昔はそこら中にいたんだけどねぇ……あの肉がもう食べられないなんて、はっきり言って不幸だね」

 「俺もそう思う」


 「でもまあ規則だからね、罰金はかかってしまうよ」

 「お支払いします、おいくらでしょう?」


 「えっと……この国の通貨で、一羽一億サザンだね」

 「い、一億!?」

 俺はその場で倒れこんでしまった。

 「俺、やっちまったかも……」



 ☆今回の成果

  ミユキ装備 射手座サジタリアスのゾディアックビーストの弓

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