第19話ファルセイン城攻防戦③

 アナタはアイドルに『殺す』と言ったことがありますか?……俺はある。


「さあギガンティックマスター、次は貴様だ」

リョウを倒したゴーガンが、槍を構えながら俺に向かって歩いてくる……


「テメー、よくもリョウを……」

「女のくせにでしゃばるからこうなるのだ……」


「いいえ、それは違います」

バラバラになった氷塊の中から、リョウが出てきた!


「なっ……何!」


「私だからこそ、あなたに『でしゃばる』必要があるのです。私も奴隷という地獄から復活した『りさいくる』だから!」


 「リョウ、一体どうやって……」

 「自分で自分の足元に『床落とし』をして、ゴーガンのブリザードブレスを回避しました。この中庭に地下があって助かりました」


 おいおい、なんちゅう戦闘センスだ……


 「熱属性アナグラム『マグマサークル』!」

 ゴンッ!


 「うおおおぉぉーー……ってあれ、燃えてない?」

 ゴーガンに放ったマグマサークルの炎がすべて消えてる?

 リョウが自分で熱の力を吸収したのか?


 「私達の『怒り』と『慟哭』を受けろ!アドバンスドアーツ『キュウビ』!」

 ドンッ!

 「うおおおぉぉーー!」


 リョウがゴーガンを倒した!

 「地獄より舞い戻った『りさいくる』の力、思い知れ!」


 *****


 カスミはこの勝負、まだ諦めてはいない。


 「……ギガンティックマスターに対するその忠誠心、見事だ。

 その忠義に敬意を表し、私も最大の奥義で答えよう」


 カスミも立ち上がり、盾を構える。


 「ヴァイガン様」

 「うむ……雷雲を携えしもの 大気を震わせ 大地を穿て 秩序を乱すものに罰を 雷よ落ちよ 落雷属性ハイアナグラム『メガボルト』!」


 ヴァイガンがライゴウに雷の魔法を当てた!あれ死んじゃうんじゃ……


 「ライゴウは亜人『雷の民』。

 雷の民は帯電体質、雷のエネルギーを貯めて魔法の威力を高めることができる」

 そ、そんなことできるやつがいるの?


 「この状態で唱える紫電属性魔法は、威力が二倍になる……ただし、相手に当たらなければ、その魔法が術者に帰ってくる『諸刃の剣』。

 お前は受け止めることができるかな?」


 「カスミ、危険だ、俺に任せろ!」

 「いいえ、私は絶対にあきらめません」


 「いい度胸だ……では喰らえ!紫電改属性『ハイパーローリングサンダー』!」


 地面から紫色の雷の束が収束して一本の大きな雷に!そのままカスミに襲い掛かる!

 「カスミーー!」


 「私は……マスターの、異世界あいどる24の盾になると決めたんです!私はもう逃げない!スミレ、来て!」


 「うん!」


 「アドバンスドアーツ『絶対防御鉄壁』!『絶対零度氷壁』!」

 「赤の百五十三番、『フェニックスウォール』!緑の九十九番、『真空の大断層』!」


 四つの属性の壁が一つに融合し、光り輝く『神の壁』に!?


 「レゾナンスアーツ、『アマノイワト』!」


 レゾナンスアーツとは二人一組で放つ協力技だ!


 ライゴウのハイパーローリングサンダーが直撃するも、跳ね返した!

 跳ね返った雷はそのままライゴウへ!


 「……お、お見事……」

 カスミとスミレがライゴウを倒した!


 カスミとスミレが俺のところへ駆け寄ってくる、そして二人の頭なでなで。

 「えへへ、ありがとうございます」


 *****


 膝をついて俯いているアンズを上から見下ろす百戦騎士のジン。

 アンズの口から血が出てる、毒が回っているのか?


 「くらえ!」


 ガシッ!

 アンズは避けようともせず、毒手を素手で掴んだ。


 「なっ……貴様はバカか?毒手を避けもしないとは……残り三十秒が十五秒に減ったぞ」


 アンズは毒手を掴んだまま立ち上がり、悲しい顔でジンを見つめる……

 「……大変だったでしょう、辛かったでしょう、もう大丈夫です。こんなモノは必要のない世界をマスターがきっと作ってくれます」


 「何を言っているんだ貴様は、そんなもの作れるわけがないだろう!

 それにお前に命はあと十秒、もう終わりなんだ!」


 「大丈夫、ボクのことは必ず仲間が助けてくれる、だからアナタはボクが助ける。これこそが『宝林寺活人拳』の神髄」


 アンズは構え、気を練る……

 「『宝林寺活人拳 奥義『練気 宝竜掌打』!」


 練り上げられた気の力を、掌底に込めて放つ一撃!

 「グフッ……」

 勢いよく吹き飛び、仰向けに倒れるジン。


 「勝負には負けたが、生き死にの戦いに勝ったのは私のようだな……お前の命はあと五秒だ」


 「アマネちゃん、お願い」

 「承知しました」


 吹き飛ばしたジンの場所に歩いてきたアンズ、その先にはアマネが!

 「アドバンスドアーツ、『アマネフィールド』!」


 アマネフィールドの浄化効果でアンズの体内の毒は完全に浄化された……

 「バ、バカな、十年かけて作り上げた私の毒手が……浄化されていく……

 あーなんかそんなのどうでも良くなってきた……」


 「からの!

 美しき光の精霊 光の屈折により 見えざるものを見せ給え 彼の者に幸運あれ 光術属性ハイアナグラム 『カレイドスコープ』!」


 アマネの光術属性魔法『カレイドスコープ』は、『アマネフィールド』内の限定領域で、相手の心の中にいる一番会いたい相手を、光の屈折を利用して、ホログラムのように再現・表示することができる幻術の魔法だ。


 その気になれば相手が嫌がる悪夢のような幻術もできるのだが、それをしないのがアマネらしい。


 「あああ、父上、母上……会いたかった……」

 百戦騎士ジンは目の前に現れた両親の幻に、涙を流しながら跪いている……


 「アナタのご両親も、おそらくアナタに復讐など望んではいません。ご両親の望みはただ、アナタの幸せ、それだけです」


 スゲーなアンズ、まるで天使に見えるぞ……

 こんなコンボを喰らったら、俺でもただでは済まない……アマネが敵じゃなくて本当よかった。


 *****


 「アマネちゃん、こっちもお願い!」

 アリソンの戦闘奴隷の攻撃を何とか凌いだカレンが、戦闘奴隷ごとアマネの結界に入ってきた。


 「はい」

 アマネの前に魔法陣が展開する……『光』『地』『水』

 「あまねく精霊たちに申し上げる 光 地 水に力の恩恵を 木々に活力を 森に実りを与え給え 森属性ハイアナグラム、『フォレストーション』!」

 たちまち城内の中庭が草木で覆われる!


 「アドバンスドアーツ『木の葉隠れ』!」

 カレンの姿が森の中に消えた!?戦闘奴隷達も戸惑ってる……


 「ええいどうした?探せ探せ!」

 戦闘奴隷全員で森の中を探す……見つかった!


 ザシュ!


 カレンの姿が消える……『ファントムシフト』だ!

 「こっちでした」

 その後ろにカレンが!


 「それは織り込み済みだ」

 さらにその後ろから戦闘奴隷が斬りかかる


 スカッ

 また『ファントムシフト』だった!

 「ベロベロバー」

 またさらにその後ろにカレンが!


 「……だと思ったよ」

 その下にもいた!


 スカッ

 「えっ」

 それも『ファントムシフト』!?ウソでしょ?


 「本物はこっち」

 「ぐはっ」


 スゲー、どんどん戦闘奴隷が減ってく……アリソンの歯ぎしりが聞こえてきそう。


 「くそーならば戦闘奴隷二十名追加だー!」

 また戦闘奴隷が増えたー……ってあれ?カレンはどこに……


 チョンチョン

 アリソンが振り返るとそこにはもう一人のアリソン!?


 「なっ……」

 戦闘奴隷達が戸惑っている……


 「私はアサシン系の技は一度見ると覚えられるようで……これは百戦騎士エリアさんの『模写』です」


 「お、お前……」

 「ハーミットさん、私にはアナタが持っていなくて、私が持っているものがあります……それは『ギガンティックマスター』です」


 ズバッ!

 カレンがアリソンを倒した!


 「……」

 「ぐふっ、最後ぐらい、何か言ってくだ……さい……ガクッ」


 スゲーアリソン倒しちゃった……ってあれ?カレンは?


 「……ヴァイガン、覚悟」

 え?カレンいつの間にヴァイガンの後ろへ?

 ガキ――ン!


 ヴァイガンが『対斬撃結界』でカレンの攻撃を防いだ!

 「私は『暁のヴァイガン』……またの通り名を『未来(さき)読みのヴァイガン』。私に奇襲は通じんよ」


 そうか、こいつアナライズで相手の心を読んで、数秒先の行動を予測しているのか……

 「地の力の根源たるタイタンよ 地底より目覚め 地上の悪しき者を淘汰せよ 地属性アナグラム『メガシェイク』」


 「キャアアーー!」

 「カレンーー!」

 カレンがやられたーー!


 チョンチョン

 俺の後ろにはカレンが……

 「うわっビックリしたー、お前いつの間に……」


 「アドバンスドアーツ『うつせみ』です、覚えておいてよかったです」

 どんだけ凄いんだお前は……だけどこれでヴァイガンには迂闊に攻撃できなくなったな……


 *****


 ……城門のところでマコトとさっきの騎士十名くらいが集まっている……大丈夫なのか?

 「こいつ、なにが『最大最強無敵無敗の技』だ、ビビらせやがって……城門に追い詰めた、もう逃げられないぞ」


 「フフフ、私がワザとアナタたちを城門におびき寄せたと気づかんとよ?」

 「嘘つけ!もうだまされないぞ」


 「すらごとやなかよ、今見しちゃるね……

 我が魂の声に答えしものよ その大いなる力を貸し給え 我に共鳴する者よ 集え 共鳴属性ハイアナグラム 『スタンピード』!」


 騎士達がビビッて目を閉じる……

 「な、何だよ、やっぱり何もないじゃ……」


 ドドドドド……

 「何だ?この音は」


 ドカーン!

 「パオ―――ン!」


 城門を破って大量の動物たちが城内へなだれ込んできたー!?

 「みんな!来てくれたとよ!」


 これ全部マコトが呼んだの?騎士達全部吹っ飛んでいったよスゲー

 「マスター、マコトさんのお陰で城門が開きました、退路確保できます」


 *****


 「やった、城門が開きましたマスター!」

 「よし、全員撤退だ!」


 ヴァイガンから距離をとった。あとはマキアとファースト・シスターズだけど……


 「フフフ、そうはいかぬよ」

 ヴァイガンの前に魔法陣が現れた……『地』『炎』『風』

 「大地におわす 地の神よ 我に大いなる星の力与えん 力の紋章もちて 星の中心となり 我と其に偉大なる影響力を示さん 磁界属性ハイアナグラム、『ホライゾン・吸引』!」


 こ、これは……百戦騎士アイアスの時にノノアが使った魔法?

 す、吸い寄せられる!


 「磁界属性魔法はこういう使い方もできるのだよ……」

 「くそっ、ヴァイガンから距離をとれない」


 コンニャロー、ならこれでも食らいやがれ!

 俺の前に魔法陣が展開、『炎』『炎』『水』『風』

 「イル・ガル・ノーヴァ・クロス

 紅蓮よ 灼熱よ 煉獄よ 爆炎の龍の名のもと 我が命に応えよ 破壊の力を外から内へ 灰燼も残さず 焼き払え 爆縮属性クアトログラム『インプロージョン』!」


 ヴァイガンの前にも魔法陣が展開、『水』『水』『風』『地』

 「氷の王 白き精霊に懇願する 物質の動きを止め 万物の命を等しく奪え 全てが停まった世界で 我、終焉を拒むものなり……冷却属性クアトログラム『チルドレーション』!」


 ガガガガ!!


 くっ……四重星魔術でもダメージをほとんど与えられない。

 この世界の魔法の属性には相克関係があり、水は炎を、風は水を、地は風を、炎は地を打ち消す仕組みになっている。

 ヴァイガンの野郎、俺の魔法の属性に合わせた魔法で、威力を打ち消してやがる……


 くそっ、こいつマジで強い……


 *****

 

 実はこの後のことを俺はよく覚えていない……

 なので、マキアやミユキなど、色んな人の話を総合した話になる。



 ギーン!ガキーン!

 マキアとパラディンはお互いを牽制しつつ、大技を使う隙を窺っている。


 突然パラディンがマキアから距離をとり、不敵な笑みを浮かべる……

 「その美貌、、その胆力、そしてその強さ……気に入った、オレ様の女になれ。何不自由のない生活を約束してやる」


 急に何言いだすんだ、あの大男!?……マ、マキアは?


 マキアは深いため息をついた後、厳しい眼差しでまっすぐにパラディンを見据えた。

 「……『何不自由のない生活』なんていう不自由、私には必要ありません。

 私はマスターのおそばにいられる……ただそれだけでいいのですから」


 「あんな優男やさおとこのどこがいいのか……あんな男にお前達を守ることができるのか?

男は、『力』と『権力』だ!

 力がなければ惚れた女を手に入れることもできん。

 権力がなければ惚れた女を幸せにすることもできん」


 「いいえ違います、どんなに巨大な力と権力を持っていても、

 そこに『思いやり』と『優しさ』がなければ、それはただの『暴力』と『支配』でしかありません」


 マキアの鬼気迫るような真剣な眼差し……

 「奴隷の時の私を見たら、アナタは見向きもしなかったでしょう……私はギガンティックマスターだから救われました。アナタでは私を救えない!」


 「言うわ!手に入らぬのならば滅するだけ、今までのようにな」


 「マスターが言っていました、私達『異世界あいどる24』は、マスターのいた世界の『あいどる24』というアイドルグループの分身なのだと……

 そしてこうも言っていました、アイドルとは、みんなに愛を分け与え、自身も愛に生きる存在なのだと……アイドルの半分は『アイ』でできている!」


 マキアは自分に『エアリアルエンチャント』をかけ、剣を構える。


 「私は『異世界あいどる24』初期生筆頭ファースト・エースのマキア……

 『アイドルなめんな!』」


 「来い!」


 マキアは剣を鞘に納め、腰の位置に……この構え、『居合斬り』だ!


 「ノノア!」


 「来て!マキア!」


 マキアがノノアの前に来るとノノアが詠唱を唱え始めた。

 「磁界属性ハイアナグラム『ホライゾン』反発属性!」


 ドンッ!


 ノノアのホライゾンを推進力にして、マキアが物凄い勢いでパラディンめがけて飛んでいく!

 パラディンのあの構えは……


 「うおおぉぉ――!『パラディンブレイク』!」

 「ハアアァァーーー!『マキアインパクト』!」


 ガキイィィー―――ン!


 もの凄い衝撃!互角……?いや、それでもまだマキアが押されている!?


 「おおおお―――!」


 「アンジュ!ミユキ!来て!」


 「行くよ!あなたのハートにオンユアマーク!レディゲット!アドバンスドアーツ『シューティングスター』!」


 「ノノア!アタシもお願いぃ!」

 「ホライゾン反発!」


 ドンッ!


 「はあぁぁ――!『アンジュストライク』!」

 二人の必殺技がマキアに!……マキアの背中に『対射撃結界』と『対打撃結界』が浮かんでいる!


 バキイィィ――ン!


 まさか、二人の技の威力もプラスして!?


 「ハアアァァーーー――!!」

 「クッ、グアアアァァ――!」


 や、やった!パラディンを吹っ飛ばした!


 「ハァ、ハァ、ハァ……や、やった……?」


 「フ、フハハハハ。このオレ様が、剣の勝負で片膝をつくなど何年振りか……まだこの国に、このオレ様と互角に戦えるものがいるとは思わなんだ」


 何で嬉しそうなんだあいつ?


 「炎虎襲来 其の者 赤き衣纏いて 剛力を携え 炎の如く攻める力となれ 炎属性アナグラム『ブレイズエンチャント』!」

 「ま、魔法?パラディンって魔法が嫌いなんじゃなかったの?」


 「確かに魔法は好かん、だが使わないと言った覚えはない……さあ、ラウンド2と行こうか」


 あいつ、まだ強くなんのか……本当に人間かよ?



 ◇マキアside


 ヒイィィーーン……

 『星と命の勾玉』で作った指輪が共鳴している……?


 (……この違和感は何?

 まさか装備者の命に危険が迫っているから……?だとしたらマスターが危ない?)


 私はマスターの方を確認した。

 (でも周りには何も……いや、視覚に頼っちゃダメ、感じるの……もし私がマスターに攻撃を仕掛けるのなら……きっと、あの位置……いた!?まさか、あれはレイブン?)


 レイブンが弓を構えている……

 「あの方向は……マスターを狙ってる!?しかもあの弓『結界崩しの弓』……さすがのマスターも、あの矢を喰らったらただでは済まない!」


 レイブンは弓を引き終わり、今にも矢を放ちそう……

 「でも、マスターもレイブンも私からは遠すぎる……間に合わない!」



 〇俺side


 マキアは咄嗟に俺とレイブンの間に飛び込んできた!

 「マスター―――!」


 「死ね!ギガンティックマスター!」


 レイブンの矢が俺に向かって飛んでくる!虚を突かれて俺は全く防御していなかった、その時!


 ドスッ!


 俺とレイブンの間に飛び込んできたマキアの胸にレイブンの矢が!

 「マ、マキアーーーーー!!」


 音もたてずその場に倒れこむマキア。俺は一目散にマキアのもとへ駆け寄る!

 「マキア!マキア!マキア――!!」


 矢はマキアの胸、心臓のあたりに突き刺さっている……血が止まらない!

 「ヒーリング!ヒーリング!……俺の全魔力を回復に!ヒーリング!!」


 マキアが受けた傷は瞬時に回復した。矢も抜いて、その傷も完治させた……なのに……なのに、マキアが目を覚まさない!


 「マキア!傷は完全に治した、毛細血管から神経まで全部繋げた!何で目を覚まさない?目を覚ましてくれ!マキアーー!」

 泣きながら叫ぶ俺の後ろに、剣を構えるパラディンが近づく。


 「たかが女一人死んだだけでその取り乱しよう……やはりお前は優男だな」


 「マキアー!マキア―!」


 「これでこの戦闘も終わりだ……死ねギガンティックマスター!」

 パラディンの剣が俺に振り下ろされる……


 ガキイィィン!


 カスミが『対斬撃結界』で俺を守ってくれた!

 「マスター、防御態勢をとってください!このままでは……」


 「マキア!目を開けてくれ!マキア!」

 その時の俺はマキアを助けることに必死で周りの声が全く聞こえていなかった。


 「女!邪魔をするな」

 「キャアーー」


 カスミが吹っ飛ばされた……

 パラディンがまた剣を構えるが、他のメンバーが駆けつけてきて攻撃を防いでくれている。


 俺は意識の戻らないマキアに人工呼吸と心臓マッサージを繰り返していた。


 「マキア!マキア!帰ってこい、頼む死ぬなマキア!」

 そう言いながら号泣していた俺は相当情けない姿だったと思う……


 ミユキとアンジュとノノアも駆け付けた。

 「マスター、マキアは私達に任せてください。この状況を何とかできるのはマスターしかいません」


 「で、でも……わかった。マキアの事頼む」


 シスターズのリイナも駆け付けた。

 「マスター、オルタナティブドアを開けておいてください」

 「わかった……オルタナティブドア!」

 俺はドアを出して、そのまま振り返る……王だ、こんな状況にしたのはファルセイン王のせいだ!


 俺の体は完全に怒りに支配されていた……この時の俺はまさに鬼の形相だったと聞いている


 「ヌウゥゥーン!」

 「キャアーー」


 メンバーを払いのけてパラディンが俺の目の前に立ちはだかる。

 「良い顔つきになったな……どこへ行くつもりだ?」


 「……どけ」


 「フッ、残念だがその願いが聞き届けられることはない。ハアアァァーーー!」

 パラディンは両腕をパンプアップして、必殺技の体勢をとる。


 「パラディンブレイク!」

 ガシッ!


 「な、何ーー―!?オレ様のパラディンブレイクを、片手で!?」

 俺は素手でパラディンの剣を掴んでいた。


 「……何を勘違いしている、俺は『お願い』したんじゃない、『命令』したんだ……どけっ!」

 バキィッ!!


 「なっ!?」


 そのまま素手で剣を折った。


 「……グラビトン」

 ドシィ!

 「ぐあっ!」

 俺の重力魔法でパラディンは膝をつく……まるで俺にひれ伏しているかのように。


 「お前、デカすぎだ……頭がたけーんだよ」


 「くっ、オレ様は……この王国の、皇子、だぞ」


 「……知ったことか」

 俺は下に向けていた手の平をパラディンの方に向けた。

 「念動属性魔法、『サイキック』」


 ドンッ!


 「うおおおー」


 念動魔法で吹っ飛び、壁にめり込むパラディン……

 俺が威力を上げると、さらにパラディンは壁にめり込んだ。


 「ガハッ!」


 俺はそのままパラディンのところへ歩いて行き、目の前で止まった。


 「……バーストブロウ」

 ドドドドドン!!


 二十発以上のバーストブロウを浴びせ、さすがに膝から崩れ落ちるパラディン。

 「ぐふっ……」


 ゴンッ!

 俺が手をかざすと、パラディンの体は炎に包まれた。


 「ぐおおお……な、何だこの炎は……?レジスト……できない?……ぐあああああ」

 悶え苦しんでいるパラディンを置き去りに、俺はファルセイン王の方へ歩き出す。


 「いけませんマスター」

 俺の前にカスミが割って入る。


 「『王殺し』は重罪です。いかにマスターでも奴隷位になってしまう可能性があります」


 「どけ」


 「どきません、私はマスターが奴隷になるのを見るのは嫌です!」

 「どけ!どかないのならたとえお前でも殺す!」

 俺はカスミの髪の毛を掴んでそう言い放った……カスミは恐怖におびえながらその場に座り込む。


 そのまままた王に向かって歩き出す俺を止めようと、

 騎士達が攻撃してくるが、全員ことごとく炎に包まれる……


 「ヴァイガンよ、だ、大丈夫なのか……?」

 ファルセイン王が心配そうにヴァイガンに尋ねる。

 「陛下、ご安心を。ここまで計画通りです」


 ビビッてヴァイガンの後ろに隠れるファルセイン王、ヴァイガンは不敵な笑みをこぼす……

 「さあここまで来いギガンティックマスター、あと四手でチェックメイトだ」


 「ゴンッ!」

 「ギャアアー!」


 俺は騎士達を燃やしながらヴァイガンと王のもとへ近づく……

 「あと二手……」


 「ゴンッ!」

 「あと一手……」


 ザッ……俺はヴァイガンと王の目の前まで来た。

 「ファルセイン王ーーーー!」

 「ひ、ひいいぃぃ……」

 「……チェックメイト」


 俺は詠唱を唱え始める……

 「フハハハ、ギガンティックマスターよ、切り札は最後まで取っておくものだぞ!さあ、ご自慢のギガンティックフレアで自分が燃えるがいい!」


 ヴァイガンの前に魔法陣が展開……『水』『水』『風』『地』

 「星の力宿りし精霊よ 美しき水面にうつる月の如く 我に全てを包み込み跳ね返す 水鏡を与えよ 反射属性クアトログラム『グラムレフ』!」


 俺の前に超巨大な魔方陣が現れ、属性が表示される……『炎』『水』『風』『地』……『光』『闇』


 「なっ……む、六つ!?六芒星魔術ヘキサグラム、だと……?」

 驚き、目を見開くヴァイガン。


 「スー・シュー・ゴウ・レイ・ファシオン

 炎神 水神 風神 地神 光と闇の王をいただきて すべての者に安息と死を……

 ……このボロっちぃ城ごと、この世界から削除デリートしてやるよ!

 六極炎属性 六芒星魔術ヘキサグラム……『ヘキサゴンフレア』!」


 振り上げた俺の掌の上には十数メートルにもなる巨大な火球が浮かび、それを振り下ろす……


 「クッ、風属性魔法、ウイングクロス!」

 ヴァイガンは王に風の魔法を使い、自分の後ろに弾き飛ばした。


 「自分の全魔力を『対魔力結界』に!」

 見たこともないくらいの巨大な対魔力結界を何重にも張るヴァイガン……


 「うおおおおおーーー!」

 凄まじい爆風と共に、煙が城内に充満して何も見えない。



 微かにミユキの声が聞こえる……

 「ゴホッゴホッ……マスター!ご無事ですか!?……こ、これは……!?」


 煙が晴れてくる……美しかったファルセイン城はヴァイガンの後ろ側を残し、破壊され粉々に……ヴァイガンの対魔力結界のおかげで、ヴァイガンの後ろ側だけは破壊されずに済んでいる。

 ファルセイン王も辛うじて助かったようだ……


 「ゴホッ、ガハッ、ヒュー、ヒュー……」

 ヴァイガンは……結界を張っていた両腕は吹き飛び、横っ腹から肋骨が何本か飛び出している。

 正直生きているのが不思議なくらいだ。あと数秒もすれば死ぬだろう……


 「アービル・ドム・ソドム

 闇の皇子と呪いの王 古の契約の元 其の者の骨を石に 肉を石に 血を石にせよ……石化属性 禁呪 『フェノメノン』!」


 パキパキバキバキバキ……

 俺が魔法を唱えると、ヴァイガンはみるみる石になっていった。

 俺はそのままファルセイン王のところへ……

 「ひ、ひええぇぇ、た、たすっ」


 ファルセイン王は助けを求めるように左手を出してきた……俺はその手首を掴んだ。

 「ぎゃああ、あ、熱いぃぃ!」


 掴んだ手首から煙が出ている……どうやら今俺の体は超高温になっているようだ。

 そのまま左手で王の首も掴む。

 「ぎゃあああ!」

 王の首からも煙が……このまま掴んでいれば王も死ぬだろう……その時、


 「マスター!マキアの、マキアの意識が戻りました!」


 「何!?」

 俺は王をその場に投げ捨て、すぐさまマキアのところへ飛んで行った


 「マキア!マキア!」

 「……マス、ター、無事で、よかった……」


 「マキア、マキア、よかった……でもどうやって?」

 マキアの胸には何か機械のようなものがついていた、これは……AEDか!


 現実世界の最高アイテムその⑨『AED【自動体外式除細動器】』

 automated extemal defibrillator略してAED 心臓に電気ショックを与え、正常なリズムに戻すための医療機器だ。

 「弟さんの病院に行って借りてきました」


 「リイナ、あ、ありがとう、助かった……よしみんな撤収だ!ドアを通って弟の病院へ」

 「はい」


 「誰かカスミを、カスミも回収してくれ、頼む」

 こうして俺達は全員で弟の病院へ。


 ボロボロになったファルセイン城に、静寂が戻る……


 ☆今回の成果

  ファーストミユキ 『シューティングスター』習得

  オッドアイズカスミ・スミレ 『アマノイワト』習得

  ナイトメアウェイカーズアンズ 奥義『練気 宝竜掌打』習得

  イレギュラーズアマネ 三重星魔術『カレイドスコープ』習得

  ナイトメアウェイカーズカレン 『木の葉隠れ』『模写』『うつせみ』習得

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