ファルセイン王国編

第17話ファルセイン城攻防戦①

 アナタはアイドルと『コール&レスポンス』したことがありますか?……俺はある。


 深夜のファルセイン城……

 さすがに深夜なので城門の警備は昼間よりは手薄そうだ。


 アナライズしてみる……

 「どうやらバグは明日裁判にかけるために、中庭の横にある収監部屋に監禁している様だ」


 さて、どうやって忍び込むか……

 「マスター、私が先に潜入して中の状態を探り、裏門を開きます」

 オルタナティブドアで現実世界の家で待機しているはずのカレンが、いつの間にか俺の横にいる……まいいか。

 「カレン、できるのか?」

 「はい、どうやら私は『アサシン系』の技は一度見ると使用できるようです。先ほどのレイブンの『隠密』が使えます」


 マジか?それ凄いな。

 カレンが先に潜入、裏門を開けてもらい、俺達も城内へ。


 「中には数名の警備がいますが、潜入は容易です」

 キナ臭いな……でも行かないわけにはいかない。


 そのまま中庭へ進み、警備の騎士の心を読む。

 「バグは収監部屋の一番奥にいるようだ」


 俺は警備の騎士を睡眠の魔法で眠らせ、バグのいる一番奥の収監部屋へ。


 「大丈夫か、バグ」(小声)

 「ギ、ギガンティックマスターさん……?助けに来てくれたのか」(小声)


 「当たり前だろ、さあ脱出するぞ」(小声)

 念のため一応アナライズしてみる……大丈夫、ちゃんとバグ本人だ。


 警備の騎士から鍵を拝借し、バグを外に出す。

 バグの救出には成功、あとは外に出るだけなんだが……こんなにあっさり抜けられるなんて、かなりキナ臭い。


 その時、城の外壁から無数の懐中電灯の明かりが俺達に注がれる!

 こんな大量の懐中電灯いつの間に……


 待っていたよ『ギガンティックマスター』……

 「私はファルセイン王国宮廷魔導士長『千迅騎士 あかつきのヴァイガン』。

 お前と同じ『四ツ星魔導士クアトログラマー』だ」


 「クッ……城壁の上、さっきまでいなかったのに、いつの間に……」

 城壁の上にはヴァイガンだけではなく、王国の騎士達がズラリと並んでいた。

 城には二百人からの屈強な騎士が常駐していると言っていた、なるほどそれくらいいそうだ……


 「そして、こちらにおわすお方がファルセイン王国・現国王『クライン・アル・ファルセイン五世』陛下であらせられる」

 ヴァイガンってやつの後ろから『いかにも』な王様が登場した。


 「……余がファルセイン王である、控えるが良い」


 ドーン!

 突然目の前の大きな扉が開き、中から煌びやかな鎧を纏ったやたらでかい大男が出てきた!


 「オレ様の名はパラディン『千迅騎士 きらめきのメギード』!

 貴様が噂のギガンティックマスターか……?フン、魔導士か……オレは魔法は好かん」

 人の顔見ていきなりその発言はどうかと思うけどね。


 「魔導士は、魔法が使えるからと、自分を鍛えることを疎かにする連中だ」

 「これはこれは、手厳しいですな」

 ヴァイガンってやつが答える……てことはこいつも嫌いなのね。


 あいつが王国最強の騎士、パラディン……

 パラディンの横にいる男、あいつ審判の塔で戦った『百戦騎士 とどろきのゴーガン』だ……


 「ゴーガン、貴様は邪魔だ。ヴァイガンのお守りでもしていろ」

 「はっ」

 パラディンの命を受け、ゴーガンはヴァイガンの方へ。



 クソッ、パラディンまで出てきたとなると……完全に奴らの作戦通りってわけか。

 「でも残念だったな、もうバグは救出している、あとはオルタナティブドアさえ通ってしまえば……」


 「フフフ、そいつをよく見てみるがいい」

 「えっ……お前、バグじゃない?誰だこいつ?」


 俺が抱えていたバグは、いつの間にか俺が見たことの無い男になってる!?

 「マスター、その人は審判の塔でマスターの変装をしていた百戦騎士のエリアって人です!」


 「なっ、そんなバカな、俺はちゃんとアナライズして心を読んだのに?」

 「エリアには催眠術をかけて、身も心もバグという奴になりきってもらっていた」

 「お前……こいつ自分の部下だろ、そこまでするか……」


 「これでお前は正式に『侵入者』として裁かれることになる……

 こういうのを日本の諺ではなんというのかね?『飛んで火にいる夏の虫』……かな」


 この野郎、随分余裕あるじゃねえか……

 「いーや違うね、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』だ!」


 「……確かそれは日本ではなく中国の諺だと思うが?」

 えっそうなの?やべっ恥ずかしい……


 「どうやらあのヴァイガンってやつが参謀のようだ……

 あいつの考えていることがわかれば……『アナライズ』!……えっ、アナライズ……できない?」


 「フフフ、私にアナライズしても無駄だ」

 「お前……転移者か!?」



 このまま攻め込まれたら分が悪い、とりあえずあオルタナティブドアを開き、異世界あいどる24全員を呼び出す……

 「みんな緊急事態だ、周りを囲まれてる……脱出も困難、全面戦争になりそうだ」


 みんなビビってる……そりゃそうだ、これが現実世界だったら、警察と自衛隊の集団に喧嘩売っているようなもんだ……


 どうする……このままオルタナティブドアで逃げるのも選択肢に……

 でも開けている時にドアを壊されたら……あーもう、こんな時に俺の優柔不断が!


 その時、マキアが振り向き、急にクラップをし始める……

 それに呼応するように、ミユキ達、シスターズ、ナイトメアウェイカーズ、オッドアイズ、イレギュラーズも順番にクラップをし始めた。

 周りの騎士達は様子を見ている……


 「みんな!……私達は奴隷として理不尽を体験しました。

 でももう、私達は理不尽を恐れない!

 私達の後ろにはギガンティックマスターがついています!

 目の前にいるのは正義と平和の象徴なんかじゃない!

 奴隷売買を斡旋していた、まさに理不尽そのもの!

 私達はもう理不尽なんかに絶対に負けない!」


 マキアスゲー、まるで『民衆を導く自由の女神』みたいだ……


 「アドバンスドアーツ、『アイトキボウノウタ』!」

 マキアが歌いだした……その声は切なくも儚くて、でも胸に、心に響く歌声。

 チカラと勇気が体の中から湧いてくる……これが歌の力……


 「『みんなー、盛り上がる準備はできてるんだろうなーー!行くぞーー!』」

 「おおおーー!」

 俺も一緒になって叫んでいた、マキアすげー!



 「マスター、指示を下さい」


 「……わかった、パラディンはマキア、お前に任せる。行けるか?」

 「はい、任せて下さい」


 「よし、ファースト・シスターズはマキアの援護、ヴァイガンは俺が抑える、ナイトメアウェイカーズとオッドアイズは俺のサポートを頼む」

 「はい」


 「イレギュラーズは城門入り口にいる騎士達を何とかして退路を確保してくれ」

 「わかりました」


 「イレギュラーズが退路を確保するまでの時間稼ぎができればいい、全員無理はするな、誰一人として欠けることは許さない、これは命令だ」

 「はい!」



 ヴァイガンってやつの両脇に二人の男が立っている


 「紹介しよう、こっちは『百戦騎士 ひらめきのライゴウ』、魔導士だ。

 こっちは『百戦騎士 殺気さっきのジン』、裏林寺殺人拳の使い手だ」

 ナイトメアウェイカーズのアンズの顔色が変わった……


 「ハーミット」

 「はっ」


 ヴァイガンの前に黒ずくめのローブの男が現れた。

 「このハーミットにお前の情報を集めてもらっていた」


 「私は百戦騎士『札付ふだつきのハーミット』……以後お見知りおきを」


 「ふーん、お前隠密だったんだな。お店の時とは全然違うな、アリソン」

 「!……やはり気づいておいででしたか、旦那様」

 ハーミットの正体は奴隷市場の店主、アリソンだった。


 「裏ボスのゴーレムを放ったり、酒場で話を聞いたりしていたのもお前か」

 「そうでございます、まさかレイブンまであんなあっさりやられるとは……腕の一本くらいとれると思ったのですが……」


 「もう一人、お前の情報を集めてくれた者がいる……『百戦騎士 呟きのジロウ』」

 「えっ……あいつは今名もなき村で監禁している、情報を渡せるはずない」


 「そのためにこういうものも利用するのだよ」

 ヴァイガンが懐から出したのは……携帯電話だ!


 「監禁されてからもSNSで常時情報は得ていたよ」

 「SNSって……あいつの『呟き』って、そういう意味もあるのか?」

 「戦いは情報を制した者が勝利する……戦争の定石だ」



 ガキ――ン!

 「おっと、貴様にはこの我が決闘を申し込む!」

 百戦騎士ゴーガンがオッドアイズリョウに決闘を申し込んできた!

 「いいでしょう、受けて立ちます」


 「マスター、あのジンという百戦騎士はボクに任せて下さい」

 ナイトメアウェイカーズアンズが真剣なまなざしでジンってやつを見据える……


 「……では、あのハーミットという男は私が」

 ナイトメアウェイカーズカレンがアリソンの方へ、アリソンのあのにやけた顔が不気味すぎる……


 「『大地と大気の精霊よ 力満ち 天より地へ 天の鉄槌を落せ!雷属性アナグラム ボルト』!」

 百戦騎士ライゴウの雷の魔法が飛んできた!


 ……間一髪カスミが『対魔力結界』で防いでくれた。

 「テメー、マスターに当たったらどうすんだコラ―!」

 カスミさん……怖いって……



 「当然、私の相手はお前がしてくれるのだろう?ギガンティックマスター。

 この王国最強の魔導士を決めようじゃないか」


 「まるで戦闘狂だな、こっちはそんなの興味ないっての。

 バグが無事ならまた後で助けに来る、悪いけど時間だけ稼いで、さっさと退却させてもらうぜ」


 まずはちょいと様子見ってとこか……

 俺の前に魔法陣が表示される……『光』『炎』『風』

 「ミリタリス・ビー・オージャ・ダナドゥ 我 光弾を操り敵を屠るものなり」


 俺とほぼ同時に、ヴァイガンの前に魔法陣が表示される……『水』『地』『地』

 「地の王に従えしものよ あらゆる障害より 我を守る盾となれ」


 こいつ、俺と同じタイミングで詠唱を……

 「光弾属性ハイアナグラム『ヴァーミリオンレイ』!」

 「障壁属性ハイアナグラム『バリアウォール』!」

 ドドドドドン


 俺の光弾を土の壁で防いだ!

 「おい、転移者にはアナライズができないんじゃなかったのか?」

 「フフフ、お前の考えていることは大体わかるよ、そのための情報収集だったからな」


 お互いに相手を牽制しつつ、隙を窺う……

 「お前は戦闘の前半、まだMPに余裕があり、相手に確実に魔法を当てたいとき、八十六%の確率でこの魔法を使う」

 「そ、そこまで……?」


 「私は現実世界にいた時は大学の教授でね、昔心理学もかじっていたのだよ。

 それよりいいのかギガンティックマスターよ、このままではあと三十七手で終了だ」



 ひと際豪華な鎧を着たパラディンが、マキアに近づく。

 「オレ様の相手はお前か?名を聞いておこうか……」

 「私は異世界あいどる24・ファーストのマキア」


 「ほう、お前が噂の『マップシェイバー』か……会ってみたいと思ってはいたが、まさかこんな小綺麗でか細い女だったとはな」


 パラディンが剣を抜く……あれが『エクスカリバー』……

 「先ほどの口上と歌……見事であった。どうやらオレ様のあずかり知らぬところで、また王が悪巧みしているらしいな。

 だが、それとこの戦いは別だ……剣を抜くがいい」


 マキアもマキアカリバーを鞘から抜いて構える……


 「『大地と大気の精霊よ 力満ち 天より地へ 天の鉄槌を落し給え!雷属性アナグラム ボルト』!」

 バシイィィ!


 「あなたに手加減は必要ありませんね……最初から全開でいきます!」

 パラディンは不敵な笑みを浮かべ、全く動く気配はない。


 「『ハイブリッド高周波ソード』!」

 ガキィー―ン!

 「ぬうううん!」

 「キャアァァ――!」


 な……マキアが押し負けた?

 「どうしたマップシェイバー、そんなものか?」


 そんなバカな……マキアカリバーはタングステン合金製、

 まともに打ち合えば相手のアダマンタイトの剣はボロボロになるはず……


 振り向くとヴァイガンがドヤ顔で説明しだした。

 「驚いているようだな……あの剣はこの私ヴァイガンが開発した『レアアダマンタイト』製だ。

 従来のアダマンタイトを十倍に圧縮して作った特注品……お前も欲しければ作ってやるぞ、あれ一本で城が建つがな」


 アダマンタイトの十倍って……

 マキア、本当に勝てるのか……?


 クッ、こっちの状況は思わしくないぞ……イレギュラーズの方はどうなっているんだ?


 *****


 「『闇の手』!」

 ダークエルフのカズキが構える弓に無数の黒い手が……全部の手に矢を持ってる!

 「オレの百本の闇の手で撃つ弓矢を受けてみろ!

 アドバンスドアーツ、『百裂矢』!」


 「重騎兵隊、前へ!」

 ガカカッ!

 巨大な盾を持ったでかい騎士三人が、カズキの百裂矢をなんとか防ぎやがった。


 「フハハハ、どうだ、中々の威力だったが我々には効かん!」

 「おおー凄い。じゃあこれはどうかな?『闇分身』!」


 な……カズキが、十人に増えた!?

 「ちなみにこの分身は全部本物だからね、百裂矢×10、いくよ!アドバンスドアーツ『千裂矢』!」

 「ぐわああ―――!」

 たった三人の騎士で耐えられるはずもなく、重騎士兵達は吹っ飛んでいった……



 「マスター、例のもの、いただきます」

 実はヴァンパイアのコウにはあるものを渡してある……『輸血パック』だ。


 俺たちの血液を定期的に輸血するのを条件に、弟に頼んで支給してもらった……

 これならコウも吹き出す血を見なくても、血を摂取できるはず。


 「チュー――」

 ……まるで『パウチ』のように輸血パックを飲むコウ。

 「んーー!おいしんですけどー、マジパネェっす、魔力アゲアゲ―!」


 ヴァンパイアって血を飲むと『ギャル化』するんだっけ?


 「私の武器は『カード』。一枚引っきまーす!……大アルカナは『月のカード』!」

 コウは出たカードで魔法や技を決めるみたいだ。


 コウの魔法陣に属性が表示される……『闇』『水』『風』

 「黄昏よ 彼の者を誘い給え 眠れ眠れ 永遠に覚めることの無い夢の世界へ……黄昏属性ハイアナグラム 『トワイライト』!」


 周りの騎士達は寝息を立てて寝だした……

 「……からのー、もう一枚!小アルカナは……出たー炎属性『棒の5番』!」


 魔法陣に属性が表示される……『闇』『炎』『地』

「地獄の王とその眷属よ 血の盟約に従い 地獄より禁断の炎を召喚せよ 煉獄属性ハイアナグラム 『インフェルノ』!」


 「ギャアーー!あちちち!」

 寝てる間に地獄の炎に焼かれる……なんちゅうコンボだ、怖っ



 「ホーッホッホ、女王様とお呼びっ」

 ……この声は、女王様のコスプレをしている、サキュバスのアユム!?


 「アドバンスドアーツ『ナイトメアキッス』!」

 アユムが投げキッスをすると、周りの騎士達の目がハートに……


 アユムのアドバンスドアーツ『ナイトメアキッス』は精神支配系の技。

 目がハートの騎士達は同士討ちを始めた……

 「ホラホラ、ご褒美が欲しかったらキチンと働きなさい」


 恥ずかしがり屋のアユムに自信をつけさせようと、現実世界の『コミケ』に連れて行った。そこで大変感激したアユムは、そのままそこにいた『コスプレイヤー』の人に弟子入り。


 戻ってきたアユムはメイクにコスプレばっちりで、自信に満ち溢れた表情だった……

 「女王様へのご褒美が足りないわ……お仕置きよ!」

 そう言われて鞭打たれる騎士達……なんか嬉しそう。



 そうだ、ケンタウロスのクリスは?あいつはケガしてるから来るなって言っておいたはずだが……いた!騎士達に囲まれてるー?

 「あわわわ……」

 「なんだこいつ、亜人のケンタウロスか?」


 「骨折したばかりの頃は『死んで当然』って目で見られていて、絶望しかなかった……でもマスターが『ケガをして心が弱っている時は甘えていいんだよ』って言ってくれた……」

 クリス、震えている……


 「私はもう後ろは振り向かない、前だけ見て進むんだ、マスターと一緒に……マスターこそが、私の『希望』なんだ!」


 カチャッ!

 この音!クリスのレベルキャップが外れたのか?ノノアの時と同じだ。

 クリスの体が光りだす!


 えっ?クリスの足……八本ある!?


 「私達亜人は、レベルキャップが外れた時、稀に『進化』をするものが存在します……進化したケンタウロスは翼の『ペガサス』か角の『ユニコーン』が普通なのですが……八本足のケンタウロスの進化は、私も初めて見ました」

 アマネもビックリしている。


 どうやら今の感じからすると、『希望』がクリスのキーワードだったみたいだ。


 確か北欧神話の最高神オーディンの愛馬が、八本足の『スレイプニル』……

 どの馬よりも速く走り、空も飛び、死者の国にも行けるという……

 っていうか、足が八本もあったら一本ぐらい使えなくても全く影響はない。


 「全員でこいつを押さえつけろ!」

 騎士たちが数人でクリスを押さえつけようとしている!


 「キャー!私のお尻、触らないでーー!アドバンスドアーツ『クリスギャロップ』!」


 騎士たちはみんなクリスに蹴飛ばされて飛んで行った……クリスのお尻ってやっぱりそこなのね。



 ☆今回の成果

  イレギュラーズ カズキ(26)装備 メタルマターボウ 狩人の衣

  イレギュラーズ コウ(26)装備 タロットカード 闇のタキシード

  イレギュラーズ アユム(24)装備 スパイクウィップ 女王のコスチューム

  イレギュラーズ クリス(25)装備 メタルマターレガース 魔獣の衣

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