第16話エルフの呪印

 アナタはアイドルに『好きかどうか詰め寄られた』ことがありますか?……俺はある。



 「さあ、あとはお前だけみたいだぞ……どうする?」


 殺し屋集団を率いていた頭っぽいやつを取り囲みつつ、投降を促す……突然フードを取り、弓を構えだした!


 「!お前、あの時のダークエルフか!?」

 バグが叫んだ。


 その顔は女性、しかも現実世界のあいどる24『唐沢 香月』そっくり!

 唐沢 香月似のダークエルフは、そのまま弓をバグに向ける……


 バグは『対射撃結界』を張って待ち構える……

 その時、ダークエルフの弓の矢に何か魔法陣が……

 あれはまさか……?


 「バグ、危ない!」

 俺は思わずバグを抱えて横に飛んだ!

 ダークエルフの矢は村の木の幹の壁に当たったかと思うと、張ってあった『対射撃結界』を破壊し、壁にも穴をあけた!


 「そんな、結界が……?」

 バグがびっくりしてる、そりゃそうだ。

 なんか嫌な予感がしたんだよ、あれは結界を破壊する魔法陣か。


 「フッ、よくぞオレのこの『結界崩しの弓』を見切ったな」

 おっと、今度は『オレっ娘』か……現実世界の唐沢 香月にはそういうイメージ無いんだけどなぁ。


 現実世界の『唐沢 香月』は、ニコニコの笑顔が印象的な『笑顔の天才』。

 何事にも積極的で、頭の回転も速い、もう無敵なのでは?

 っていうか、あいどる24のメンバーが敵の殺し屋ってこと?戦うしかないのか?


 「待って下さい、彼女は私の親友なんです!」


 アマネが俺たちとダークエルフの間に割って入る。

 前に話していた、一緒にさらわれてアマネが心配していた親友が彼女の事らしい。


 「心配していたのよ……生きていてよかった」

 「オレはお前の親友なんかじゃない、お前の家族を殺したのは……オレだ」

 「!」


 驚きを隠せないアマネ……

 でもなんか変だな、今そんなこと言う必要はないのに……少し考えていることを見せてもらうよ、『アナライズ』!


 ◇ダークエルフの回想

 仲良しのエルフの子を誘って河原に遊びに来たオレ……

 そこで突然知らない男たちにさらわれてしまう。


 オレは目隠しをされ、言われるがままに連れて行かれた。

 ただただ怖かった……何かを手渡された。


 「お前、弓が得意なんだってな?ちょっと引いてみろ」

 オレは怖くて言われた通りに弓を引いた……


 「撃て!おら早く撃てよ!」

 急に怒鳴られてびっくりして弓を射った。


 ゴオオォォ……

 この音は何?少し焦げ臭い……?


 「よし、目隠しをとってやろう」

 目隠しが取れたオレの目に映ったものは……

 ゴウゴウと燃え上がる、エルフの子の家!?


 「い、いやああああぁぁぁーーー!」

 オレはその場で崩れ落ち、大声で泣き叫んだ。


 「あーあ、あの家族、お前の火矢で全員死んじまったよ。お前、もうあの村には戻れねえな」


 「そ、そんな……」

 「オレ様達の仲間にしてやる、ここでお前は生きるしかねえんだ」

 オレは背中に黒い羽根を持つレイブンと名乗るその男についていくしかなかった……


 〇そして現実……

 「アドバンスドアーツ『闇の手』!」

 ダークエルフの右手から黒い手が伸びて、アマネの首を絞める。


 「グッ……や、やめて、お願い……」

 「もう遅い、何もかも遅いんだ。オレはもう昔には戻れない!」


 「はああーー!」

 ガキィーン!

 バグがダークエルフに斬りかかり、それをダークエルフが短剣で受け止める。


 「ガハッゴホッ……」

 アマネは助かったようだ。

 「こいつに何を言っても無駄です!これ以上村を蹂躙されてたまるか!」

 バグが剣を構えて攻撃、ダークエルフも迎え撃つ!


 ドスッドスッ!

 間に入り、双方の剣を生身で受ける俺……腕に剣が刺さってる。


 「い、痛って~……物凄く痛い……」

 「当たり前です!なぜ『対斬撃結界』を張らなかったのですか!?」

 アマネが回復してくれながら怒ってる。


 「このダークエルフの痛みを、ほんの少しでもわかってやろうと思って」

 「!……」


 「俺、心が読めるんだ、知ってた?……今この子の心は悲しみと痛みでいっぱいだ」

 ダークエルフの子も、バグも、構えを解いた。


 「ずっと後悔していた、本当はみんなに謝りたがっているんだ」

 ダークエルフの子は目に涙を浮かべ、アマネに話しかける。


 「アマネって名をもらったんだな……アマネ、オレと一緒に遊びに行かなかったら、さらわれて奴隷になることもなかった。

 オレに家族を殺されることもなかった、オレはお前やお前の家族に、恨まれて当然のことをしたんだ」


 じっと話を聞いていたアマネが口を開く……

 「いいえ、私は貴方を恨んではいないし、私の家族も貴方を恨んではいません」


 「嘘だ……そんなはずない」

 「……私達エルフは、恨みを持ちながら死ぬと、『エルフの呪印』という刻印を必ずその相手に刻みます」


 「『エルフの呪印』……?オレ達ダークエルフにはそんなの無かった……」


 「エルフの中でもごく一部の上位の者だけが使える秘術だそうです。

 貴方にはその『エルフの呪印』がありません」


 ダークエルフは自分の体を色々確かめている……

 「確かに、何かの刻印のようなものは見当たらない……」

 「だとすれば貴方は私の家族に恨まれてはいません」


 「でも、でも、確かにオレの放った火矢で、お前の家は火事に……」


 「それはおかしいな、俺が聞いたのは、アマネの家族は焼死ではなく、刺殺だったと聞いたぞ。死体には切り傷があったそうだ」

 バグが剣を納めながらそう言った。


 このダークエルフの件も、おそらく犯人が自分が殺した家族を、この子のせいにするためにわざと火をつけたのだろう。


 現実世界の『少年兵』の事件とまったく手口が一緒だ……


 現実世界の少年兵は、今現在でも、アジアやアフリカ、中東、中南米などの紛争地域で約二十五万人も確認されている。


 その多くは誘拐され、洗脳され、捨て駒のように扱われる……現実世界でも大きな社会問題の一つだ。

 こうすることで彼女は村に戻ることができなくなり、仲間となるしかなくなる。罪システムを使わなかったのはそのためか。


 「そんな……じゃあオレは今まで一体何を……」

 まあ、これで誤解も解けて一件落着っと……


 みんな安心して緊張が解けたその時――!

 ガキ――ン!


 後ろ側から短剣が俺を狙って刺してきた。

 俺はそれを『対斬撃結界』で受け止める……


 「全員の緊張が解けて、隙ができる……そろそろ来る頃だと思っていたよ」

 「くっ……貴様、なぜわかった?」

 何もない場所から突然黒ずくめの男が現れ、距離をとる。


 「お前が大陸一の殺し屋、レイブンだな」

 「……オレ様のアドバンスドアーツ『隠密おんみつ』は、気配は勿論、魔力でも感知できず、道端の石ころのように相手に悟られずにいられる技……なぜバレた?」


 「まあ、当然そういう技を持っているだろうと予測して、こっちも準備していたわけよ。この『サーモグラフィーカメラ』でね」


 現実世界の最高アイテムその⑧『サーモグラフィーカメラ』。

 サーモグラフィーカメラは、赤外線を検知して物体の温度を測り、その検知した赤外線を映像として表示する機器。


 「さすがのお前も、自分の体温までは消せなかったみたいだな」

 「クッ、おのれ……」


 おっと、逃がさねえよ!

 「カスミ!」


 「はい、『絶対零度氷壁』!」」

 レイブンの体を巨大な氷塊が包む。


 「こ、これは!?」

 これで簡単には動けないだろう……


 「やはりお前だったか……カラスハネトの『クロウ』」

 バグがレイブンを見てそう言った。カラスハネト……前に言っていた亜人ハネトの裏切り者か。


 「アマネとダークエルフの子をさらったのも、ここの場所を王国に漏らしたのも、お前がやったのなら話は全て繋がる」


 「ああそうだよ、オレ様が全部やった、組織のためにな」


 「お前まだそんなことを……昔からいつも自分本位で他人を蔑ろにしてきたな」


 「当たり前だ、何が『力は弱き者を守るために使え』だ!冗談じゃない、オレ様はこんなどうしようもないやつらを助けるために、厳しい修行に耐えてきたんじゃない、自分のために鍛えてきたんだ!」


 「そういう邪な考えを持つから背中の羽根が黒くなり、『カラスハネト』と呼ばれるんだ!」


 「邪で上等だ!オレ様にとって他人とは『守る者』じゃなく『利用する者』なんだよ!」

 レイブンは大鎌『デスサイズ』を取り出して、氷壁を破壊しようとしている。


 「ダークエルフ!ギガンティックマスターを攻撃しろ!」


 「……断る、オレはもうアマネを裏切るのは嫌だ」


 「貴様!組織を裏切ったらどうなるかわかっているんだろうな!」


 ダークエルフは動かない。


 「くっ、この役立たずめ!ならばこれでどうだ!

 赫き炎の精霊よ 爆炎となりて 敵を焼き尽くせ 炎の渦よ 舞い上がれ 炎属性アナグラム『パイロバーン』!」



 うおっ、こいつ自分にアナグラムを使いやがった、すげー根性……

 炎の魔法で氷を溶かし、デスサイズで破壊して脱出した。


 「闇よ 暗黒の底に眠る 破壊の力を呼び起こせ…… 

 これでもくらえ!闇属性アナグラム『ダークネススフィ……」


 俺の掌の上には巨大な火球が……

 「極炎属性クアトログラム、『ギガンティックフレア』!」


 「あ、あああ、ああああ……」

 レイブンは闇の魔法ごとギガンティックフレアに飲み込まれていった……


 *****


 アマネの横にはうなだれているダークエルフが……


 「死ぬ前にお前に謝ることができてよかった……」


 「何言ってるの、あなたは死んでなんかいないわ」


 「いや、オレのいたこの組織は、そんな甘いもんじゃない……オレの体の中には『魔蟲まちゅう』が仕込まれているんだ」


 「『魔蟲まちゅう』……!?」


 「この魔蟲は、オレが裏切ったとわかると、体から毒を放出する仕組みだ……

 体内のどこにいるのかわからないし、自由に動き回るから魔法でも殺せない」


 「そんな……せっかく誤解が解けてわかり合えたのに」


 んーこんな時に大変不謹慎だが、泣いてるアマネも非常にかわいい。


 「マスター、何とかなりませんか」


 「ん~こいつはちょっと無理かな……」


 「そんな……」


 「……この世界ではね」


 「えっ」


 「俺のいた世界、現実世界なら何とかなるかもしれない」


 「何を言っている、魔法でもどうしようもないんだぞ……」

 ダークエルフが真剣な眼差しで訴えてくる。


 「それがなんとかなっちゃうんだなー、現実世界、なめんなよ」

 俺はその場でオルタナティブドアを開き、みんなを連れて弟の病院へ。


 *****


 「どうだ?」


 「うーん、レントゲンだけじゃ不安だから、CTとMRIもやっておいた方がいいね」


 「頼む、あと動きを止めるためにその虫に放射線を強めにかけてほしいんだど、できる?」


 「ああ、放射線科の人に頼んでみるよ」


 こうしてダークエルフの魔蟲は、レントゲン・CT・MRIで居場所がまるわかり。

 どうやらお腹の、小腸のあたりに潜んでいるらしい。


 強めの放射線をかけてもらい、動けなくしてから、また異世界へ。

 「さてと、俺の魔法の出番だな」


 俺はレントゲンやCTの写真を見ながら位置を確認し、

 ダークエルフのお腹に手を添える……


 「ちょっとズキッとするかもしれないけど、我慢してくれ」

 ダークエルフがコクリと頷く。


 「爆発属性アナグラム バーストロア!」

 「うっ」

 ダークエルフのお腹が一瞬光っておさまった……成功かな?


 「一応確認のためもう一度病院で写真を撮ろう」


 そのまま戻り、もう一度レントゲンとCTで確認。


 「うん、大丈夫、もうさっきの虫みたいなものは無くなっているよ」

 弟にそう言われ、喜ぶアマネ達。ダークエルフは目に涙が浮かんでる。


 「もう大丈夫だ、これでお前も自由だな」


 「オレは、まだこれからも……お前の親友で、いいのか……?」


 「当たり前でしょ、これから、一生そうだよ」


 「あ、ありがとう……ううぅぅ」


 *****


 ◆場面変わって薄暗い建物の中。


 「くっ……左腕が……疼く……」


 壁に腰掛け、左腕をおさえ、うずくまる男の影……レイブンだ。


 「アドバンスドアーツ『うつせみ』を使って、手下と入れ替わらなかったら死んでいた……」


 レイブンの左腕には、真っ黒な呪印がびっしりと刻まれている……

 「クソックソッ!ギガンティックマスターめ、覚えていろ……」


 *****


 〇夜が明けて朝。

 居残り組も起きてきた。


 「マスター、おはようございます~」


 「おう、おはよう。今寝てるけど、新しくメンバーにもう一人加入したから。あとで紹介する」


 「はい……昨日の夜、何かありました?」


 「あー、うん、まあちょっと、ね」


 そうそう、あのダークエルフは、元から名前がなかったので、俺が『カズキ』と名前を付けた


 カズキは子供のころ男として育てられてきたため、一人称が『オレ』になっている。幼馴染のアマネと将来結婚する約束をしていたらしく、今でも結婚する気でいる。どうやら今でもアマネの事が大好きらしい。



 俺が自分の部屋で書類の整理をしていたら、アマネが訪ねてきた。

 「どうした、アマネ」


 「マスター聞きたいことがあります、マスターは私の事をどう思っているのですか?」


 「えっ、頼もしい仲間だと思っているけど……」


 「そう言う事ではありません、私の事を好きかどうか、もし好きならどれくらい好きか聞きたいのです」


 アマネがそう言いながら、俺に詰め寄ってきた。こんなかわいい顔して意外に大胆なのね……


 「い、いや、嫌いなわけないじゃん?す、好きだよ……」


 「では、どれくらい好きなのですか?ライクですか?ラブですか?」


 「あ、いや、それは、その……」


 「ちょっと待ったーー!」


 カズキが勢いよくドアを開けて入ってきた!ナイス!

 「今、アマネにいやらしい事をしようとしただろう!」


 はあ!?何言ってんだカズキ!


 「……オレ達はマスターの四天王だ、マスターの命令には絶対に服従する、でも、アマネにいやらしい事をするのは……」


 イヤイヤイヤ、ちょっと待て、何か勘違いしていらっしゃるようで……

 「アマネにいやらしい事をするなら、オレにしろ!……マスターなら……我慢する……」


 そう言いながら服を脱ぎだすカズキ……

 「ちょっちょっ、ちょっと待てって、そんなことしないよ!」


 「えー、しないんですか……なーんだ……」

 なんでアマネが残念そうにするわけ?


 バーン!……また勢いよくドアが開く、今日ってそういう日なのか?


 「ギガンティックマスターさん、大変だ!バグが王国に連れて行かれちまった!」

 「なんだって!一体どうして?」


 「バグが王国に反旗を翻す反乱軍の首領の疑いがあるっていって無理やり……」

 ……こいつは完全に冤罪、俺をおびき寄せるための罠に違いない。


 俺はみんなを集めて聞いてみた。

 「バグが王国に連れて行かれた、みんなどうする?」


 みんな覚悟が決まっている目をしている……

 「そうだな、見捨てるわけにはいかないよな……よし、バグを救出するためファルセイン城に潜入する」

 「はい」


 「当然罠が敷かれているとみていいだろう、全面戦争になる可能性もある」

 俺もできれば全面戦争は避けたい……


 「だから行くのはファースト・セカンドと俺だけにする、残りはオルタナティブドアの前で待機だ」

 「わかりました」


 「決行は夜だ、できる限り穏便に済ませたい」

 俺たちは準備を整え、夜に奇襲をかけるべく、ファルセイン城へ向かった……



 ☆今回の成果

  『ダークエルフ』カズキ(26)が仲間に

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