第10話迷探偵アンジュ

 アナタはアイドルに『疑われた』ことがありますか?……俺はあったらしい。


 ◇場面は変わり、『マキア side』


 「うわあぁぁーーー」


 「マスタ――――!」


 マスターの足元が崩れて、そのままマスターは塔の地下へ落ちてしまった!

 助けなくては……あ、インカムから音が聞こえる。


 「……あー、……キア、聞こ……か?」


 「マスター、大丈夫ですか?」


 私はインカムで話したけど、調子が悪い


 「……ア、俺は大……だ。貴族達もこ……る、一緒……るから、……達も先に進……くれ」


 「わかりました。マスターも気を付けてください」


 「もう一つ、さ……百戦騎士をア……た時に、……を考えて……

 ……やらもう一……騎士がい……いつが……ーティの中に潜む計……い。

 ……に入り込……る可能性もあ……気を……ろ」


 「了解です、わかりました。」


 ブツッ


 インカムが完全に壊れてしまったようだ。


 「みなさん聞いてください、マスターは無事です。

 ですが、どうやら百戦騎士の一人が私達のこのチームに潜入しようとしているみたいです……ひょっとするともう潜入しているかもしれません」


 「えー、ど、どうするんだい?」

 ニビルさんがオロオロしながら、周りの人達の顔色を窺っている。


 「アンタがオロオロしてどうすんだい!他のメンバーがビビるでしょう!」

 ニビルさんの奥さん、豪快な人だ……


 「マスターはとりあえず先に進んでいてくれと言っていました。すぐに追いつくからと」


 「どうやらアタシの出番がきたようですねぇ」


 そう言いながらアンジュが、背負っていた大きなカバンをゴソゴソしている……


 「じゃーん!どう?」


 チェックのベレー帽に上着、半ズボン、口にくわえるパイプまで……全身探偵の格好になったアンジュがドヤ顔してる。


 「犯人さがしはこの『名探偵アンジュ』にお任せあれぇ」


 「アンジュどうしたのその服?」


 「こんなこともあろうかと、この間マスターのパソコンを使ってネット通販で買っておいたのぉ」


 「あきれた……」


 この間マスターのパソコンで何かやっていると思ったら、これだったのね。


 「この名探偵アンジュにかかれば、変装した百戦騎士さんなんて一発で暴いて見せるわ!『犯人は、いつも一人!』」


 「いや、そうとは限らないでしょう……」


 突っ込みどころが満載で頭痛くなってきちゃった……『名』探偵というより、『迷』探偵っぽいわね。


 「みんな大丈夫か?」


 「マスター!ご無事でしたか」


 奥の方の下り階段からマスターが戻ってきた。


 「他の人達は?」


 「下の階に置いてきた、その方が安全だと思ってな」


 「そうでしたか」


 「さっきも言ったが、変装した百戦騎士がこのパーティに潜入している可能性がある、どうやって見つけるかだが……」


 「まずは状況を整理してみましょう」


 「おお、アンジュ……その恰好……」


 「はいぃ、名探偵アンジュとお呼びください」


 またドヤ顔。


 「まずは捜査の基本、『アリバイ』から。

 アリバイというか、本人であるという証明ですねぇ。皆さん朝ごはんは何を食べましたか?」


 「私はカレーライス」


 「オレもカレーライス」


 「カレーライス食べた」


 「……皆さん同じカレーライス?どうしてでしょうか?」

 アンジュの頭の上に?マークが見える……


 「クエストの前にみんなで『やんやん亭』に行って、カレーライス一緒に食べたでしょ?忘れたの?」


 「ああ、そうでしたっけ?」


 「食後のデザートのミルクプリンもうまかったよな」


 さすがマスター、デザートまで覚えているとは……マスターの線は薄そう。

 となると、申し訳ないけどやっぱりニビルさんのチームが怪しいかな……


 一応ここでちょっと、ニビルさんのチームを紹介。

 まずリーダーのニビルさん、斧を使うウォーリアー。

 その奥さんは格闘家。

 女性ヒーラーのテミーちゃん、十五歳。

 場の盛り上げ役、男性吟遊詩人のシシファさん。

 モンスター、タンク役のホブゴブリン。

 この中ではニビルさんとシシファさんが怪しいけどなあ……


 「うーんでは思考を変えて、百戦騎士さんは何の目的で私達のパーティに潜入してきたのでしょうか……」


 私の考えはこう。

 「普通に考えて、マスターと私達を引き離して仲間割れをさせたり、隙があれば亡き者に……ってとこじゃない?」


 「だとするとこのままここで探り合っても、百戦騎士さんはきっと尻尾を出しませんね」


 「どっちにしても先に進むしかなさそうだな」


 私も他のみんなも、マスターの意見に首を縦に振った。

 とりあえずみんなで塔の二階へ上がり、さらに三階へ上る階段を探す。

 もちろんダンジョンだからザコモンスターも出現するので、倒しながら。


 「おっ、宝箱発見!」


 ニビルさんが宝箱を開ける。


 「あ、不用意に開けると……」


 プシュー!


 「うわっ!ど、毒ガス!?………」


 ニビルさんが口をパクパクさせて、体も痙攣してる?


 「これは『マヒ毒』だな、俺に任せろ……『パラライズケア』!」


 「た、助かった……ありがとう旦那」


 さすがはマスター、素早い対応。

 「あまり宝箱とか開けない方がいいですね」


 「す、すまねえ……気を付けます」


 そのまま進むと……いました、二階のボス。

 ということはおそらく三階の上り階段はその奥にあるはず。


 「あいつは『シアンホーク』だ。

 炎属性の『マゼンタイーグル』の上位種で、属性は『氷』だな」


 「ということは風属性の攻撃が効きそうね、水属性も入ってるから雷属性もいけるかしら?」


 二チームで同時攻撃!


 「エア・スラッシュ!」

 ニビルさんの風属性斧攻撃!


 「真空正拳突き!」

 奥さんの風属性の打撃!


「ギョオオオーーー!」


 効いてる!


 「……う~ん、アンタにしちゃあ連携がうますぎるような気がするんだけど……」

 奥さん、今言う?


 「ニビルさん、もうちょっと男前だったような気がします」

 ちょっとテミーちゃん?やめてあげて。


 「お前ら、ちょっと失礼すぎるぞ!」


 「今は戦闘に集中してください!」

 思わず私も突っ込んじゃった。


 シアンホークが羽を広げた!『魔氷の羽根』だ!


 「うわああーー」


 シシファさんとノノアが攻撃を受けちゃった!

 『魔氷の羽根』はダメージと一緒に状態異常も付加してくる攻撃……


 「あああああ」


 シシファさんとノノアが目を見開いて混乱している!?

 「シシファさん!ノノア!大丈夫!?」


 「『悪夢』状態だ、夢の中で混乱している。

 テミー、『ウェイクアップ』の魔法は使えるか?」


 「使えます、『ウェイクアップ』!」


 シシファさんとノノアは正常に戻った。


 「すいませんありがとうございますマスター、テミーちゃん」


 「よし、とどめを刺すぞ、マキア!」


 「はい!

 大地と大気の精霊よ 力満ち 天より地へ 天の鉄槌を落とし給え!雷属性アナグラム、『ボルト』!!」


 ガガガガガ!


 「ギャピ―――!」


 「とどめだ!

 ザン・セイン・トーン 風の竜よ舞い上がれ 風属性アナグラム 『ツイスター』!」


 ドドドン!


 ……シアンホークを倒した。

 シアンホークのいた場所から奥に通路があり、その先に扉が見える。


 マスターがその扉を指さして、

 「あの扉の先に三階の階段がある、行ってみよう」


 「よっしゃ」


 ニビルさんが進もうとしたその時……


 「ちょっと待って下さい」


 「どうしたのアンジュ?」


 「あからさま過ぎます……一本道の先にある扉って、罠を仕掛けるには最高の場所ですぅ」


 「まあ、アンジュさんがそう言うなら、まずホブゴブリンを先行させようか」


 ニビルさんはホブゴブリンに先に行くように命じた。すると……


 ブシュ―!


 「わわわ、何この赤い霧みたいの!?」


 「これは……『魔粒子』の霧だわ、しかも相当濃度が高い!みんな離れて!」


 危なかった、ホブゴブリンだから無傷で済んだけど、もし人間だったら……


 「いい推理だったなアンジュ、面目躍如ってとこか……じゃあさっそく三階に上がろう」


 「待って下さい、今ので私わかっちゃったかもしれません、百戦騎士さんが偽装してる人」


 「ええ!?」


 (私は今のところ全くわからないけど、迷探偵なのに本当にわかっているのかしら?)


 「マスター、あんなあからさまに罠が仕掛けていそうな場所に、ニビルさんを先に行かせようとしましたね」


 「え?そ、それは……」


 「ちょっと待ってアンジュ、ニビルさんも、シシファさんやノノアも、マスターが適切な処置をしたから回復したのよ」


 「そう、引っかかっているのはそこなの。

 マスター、宝箱の罠やシアンホークの状態異常技が、『マヒ毒』と『悪夢状態』だとなぜわかったんですか?」


 「いや、それは見ればわかるだろ?ニビルの時は痺れて痙攣していたし、シシファとノノアの時は目を見開いて混乱してたし……」


 「麻痺の毒と沈黙の毒、そして暗闇の状態異常と悪夢の状態異常……どちらも一見すると症状が全く同じで、専門家の人でも見わけが難しいそうです」


 なるほど……ニビルさんの時は口もパクパクさせていた、『沈黙状態』の可能性も確かにあった。

 シシファさんとノノアの時も『暗闇』のせいで混乱していたとしても不思議じゃない……


 「魔粒子の扉や即死級の罠はスルーして、探索の影響が少ない罠は信用を得るためわざと開けさせて助ける……これって常套手段ですよねぇ。

 この『審判の塔』は王政が管理している場所、百戦騎士さんならどこに何の罠があるのかわかるはず」


 「……」


 「もう一つ、証拠があります」


 「え、証拠?」


 「朝ごはんを食べた時、デザートに『ミルクプリン』を食べたとおっしゃいましたね?」


 「あ、ああ」


 「マスターはあの時、デザートは食べていません」


 「!!」


 「マスターはカレーライスを食べ終わった後、最近『だうんろーど』した『そーしゃるげーむ』に夢中でした。

 その隙にアタシがマスターのプリンをこっそり食べてしまったので、マスターはデザートの事は知らないはずです」


 「……」


 「しかもマスターのプリンは『ミルクプリン』ではなく、一人だけ『抹茶プリン』でした。食べた張本人が言うのだから間違いありません」


 「アンジュ、アナタね……」


 「一連の行動を加味して、一番偽装した百戦騎士さんの可能性が高いのは……マスター、アナタです!」


 「!」


 「……」


 「なぁーんちゃって、そんなわけないですよねぇー……」


 「チッ……まさか貴様のようなふざけたやつに正体を暴かれるとは……」


 「えっ」


 「えっ」


 「えーっと……フッフッフ、私の推理力を甘く見ないで下さいねぇ」


 (あ、アンジュ開き直った、切り替え早っ)


 「いかにもオレ様が百戦騎士『法螺吹ほらふきのエリア』だ。

 オレ様のアドバンスドアーツ『模写』をよくぞ見抜いた」


 マスターにそっくりのその男性は、杖を捨ててダガーを抜いた……

 アサシンタイプね。私もメタルマターソードを構える。

 一応マスターに『マキアカリバー』の封印は解除してもらっているけど……


 「これだけの人数を相手に逃げ切れるとでも思っているのですか?」


 「フフフ……無理だろうな。

 だからお前を人質にして脱出させてもらう!」


 ギキーン!


 「ぐわっ」


 「素早いですね……でも速さだけなら『瞬のアイアス』って人の方が速かったし、チカラはさっきの『轟のゴーガン』って人に遠く及びませんね」


 「クッ……報告通り熊のように強い女だな」


 「ちょっと!誰ですかそんなこと言ってるのは!?」


 「こうなったら最後の手段、このままギガンティックマスターの姿でいれば……

 お前達の愛しいマスターを、お前達が殺すことはできまい?」


 考えましたね……


 「確かに、敬愛するマスターを私達が殺すことはできません……

 でも、半殺しにすることは可能です」


 「え」


 「え」


 「え」


 「えーーーー!?」


 「いつもいつも可愛い女性に言い寄られるとすぐ鼻の下を伸ばして……」


 「ちょ、まっ……」


 「反省してくださーーーーーい!!」


 「ギャアアアー!」


 ……アンジュが手を合わせて拝んでる。


 「なまんだぶなまんだぶ……」


 「アンジュさん、なんだいそれ?」


 「可哀想な人を見たらこうするみたいですぅ……マスターの現実世界の人がそうしてましたぁ」


 「そうか、じゃあ俺もやっておこう……なまんだぶなまんだぶ……」



 ☆今回の成果

  初期生アンジュ 探偵装備一式

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