第11話マップセイバー?

 アナタはアイドルに『バックハグ』したことがありますか?……俺はあった。


 ◇引き続き『マキアside』


 私達は気絶している百戦騎士『法螺吹のエリア』を、二階の柱に厳重に括り付け、そのまま先に進むことにした。


 「さてと、三階にはどうやって行く?」


 「まずはホブゴブリンに扉を開けてもらいましょう……奥に罠が仕掛けてある可能性もあります」


 「わかった」


 ニビルさんがホブゴブリンを先行させ、扉を開けさせた。

 ……三階に通じる階段が見えた、罠は無いみたい。


 「あとはこの通路に充満する魔粒子をどうするか……」


 「それは私の風魔法『ウイングクロス』で掻き出します、皆さん離れて」


 私は風魔法の詠唱を唱える……

 「大気の精霊よ、我が呼びかけに答え、満ち給え 風属性プログラム『ウイングクロス』!」


 私の手の中で風が巻き起こり、通路の赤い霧『魔粒子』を外へ掻き出す。


 「よっしゃ、今のうちだ!」


 全員で通路を駆け抜ける、階段を上がり三階へ。

 三階に着いたと同時に、薄暗い部屋にいくつもの怪しい光が……モンスターの眼だ!目の前には草原のダンジョンで戦ったあのマゼンタイーグルが沢山。


 「さすがは審判の塔三階、ボスクラスのモンスターがこんなに……」


 「感心している場合じゃないです、以前よりも強くなったこと、ここで見せてやりますよ」


 「よっしゃ!マキアさんに続くぜ」


 「剛腕薪割り斬!」

 二ビルさんの斧技!


 「トルネードナックル!」

 奥さんの水属性技!


 「ギョオオオーーー!」


 ノノアが詠唱を唱える

 「天の水辺より力を与えよ 水竜よ 天より舞い降り 瀑布となり給え!マゼンタイーグルの弱点はこれね 水属性アナグラム『カスケード』!」


 モンスターの頭上から大量の水が滝のように落ちてくる!


 とどめよ!『旋風斬り』二連!


 ズバズバッ!!


 「ギョ……オオ……」


 「マゼンタイーグルの方はあらかた片付いたかな」


 「先へ進みましょう、警戒は怠らないで下さい」


 「けーかい、けーかい~♪みんなでけーいかーいすれば~きーいっと~♪敵も~でーてこーなくなーる♪けーいかーいみんなーでけいかーいなんばーわーん~♪」

 え?シシファさんが急に歌いだした?


 「ああ、シシファは『音の民』っていう亜人でね、しゃべる言葉が全部歌になっちまうんだ」


 「全部歌に!?」


 「そう、だから吟遊詩人っていうクラスはあいつにピッタリってわけ。

 戦闘向きじゃないけど、歌には魔法にはない色んな効果もあるから、まあ、BGMだと思って聞き流していてくだせぇ」


 「どうぞみなさん~よ~ろ~し~く~ね~♪」


 「ハ、ハハハ……よろしくお願いします」

 確かになんか敵に遭遇しなくなったような気がする……


 「しっかしこの塔、まるで迷路みたいだな……俺一人なら絶対迷子になってるぜ」


 「アンタの方向音痴は筋金入りだからね~

 でもそのおかげでシシファやテミーに出会えたんだけど」


 「そうだったな、正規のルート通りだったら二人にはたぶん会えなかったからな……そう考えると俺の方向音痴もまんざら捨てたもんじゃねえな」


 「いやいや、方向音痴の冒険者はまずいでしょう……命にかかわりますよ」


 「まあ、そりゃそうだ。ガッハッハ」


 「しっ!みなさん止まって」


 目の前にあの『メタルマターゴーレム』が!


 「シンニュウシャハッケン、シンニュウシャハッケン ハイジョシマス」


 いきなりメタルマターゴーレムと戦闘に!


 「うおおおーくらえー」


 ニビルさんの攻撃!


 ガイン!


 「ぐあー硬ってー!」


 奥さんも必殺技で援護!

 「剛火正拳突き!」


 ガン!


 「いたたた……」


 ゴーレムも反撃してきた!


 「危ない!」


 咄嗟にゴーレムの攻撃を受けて吹き飛ぶ私!

 「くっ、パワーも申し分ないわね」


 「すまねぇマキアさん、大丈夫かい?」


 「私は大丈夫です、お二人の武器ではあのメタルマターの体にダメージを与えるのは厳しいです、少し下がりましょう」


 「お、おう」


 「メタルマターゴーレムを倒すには、雷の魔法か、私のメタルマターソードでの攻撃が一番有効です、ノノア!」


 「うん、すみません、任せて!」


 ……ノノアが詠唱を唱えている時に、シシファさんがなんか歌ってるー!?

 「おお~大気よ~ふるえ~♪大地よ~それ~に~答えよ~♪いかづち~の~チカラを~高めよ~~♪」


 「大地と大気の精霊よ 力満ち 天より地へ 天の鉄槌を落し給え!雷属性アナグラム『ボルト』!」


 ガガガガ……


 メタルマターゴーレムが止まった!?魔法一発で?

 とにかくとどめを!


 「はああーー!旋風斬り!」


 ジャキーン!


 「ふう、倒せたわね。それにしてもノノア、メタルマターゴーレムの動きを一撃で止めちゃうなんて、アナタいつの間にそんなに強くなったの?」


 「いや、それが、なんかいつもより威力が増してる感じが……ごめんなさい」


 「そりゃたぶん、シシファの歌の効果だな」


 「はい~♪雷の~威力を高める~歌を歌い~ました~ラララ♪」


 「そうだったんですね、すみませんありがとうございます」

 ノノアがお礼を言っている傍からシシファさんが……


 「エームピー♪エームピー♪おーおーマジックポイントー♪い~ずみのよ~にわ~きあがれ~♪エームピー」


 「え?あのちょっとシシファさん?」


 「あれ?MPが回復してる……まさか」

 ノノアがびっくりしてる……私のMPまで回復してる!


 「『MP回復の歌』だな。シシファがこれを歌っている間、全員のMPが徐々に回復していくぜ」


 さすがにこれは魔法にもないわ、歌って凄い……恐るべし吟遊詩人。


 ガシャン、ガシャン。


 ビックリした、奥にまだメタルマターゴーレムが歩いている……一体だけじゃなかったのね。というか、よく見たらその奥にもまだたくさんのメタルマターゴーレムが!


 「おいおい、さすがにあの数は無理だぜ、どうするマキアさん?」


 「ちょっと待って下さい、あのメタルマターゴーレム、動きに規則性があります。すぐ横の私達にも全く気付かず、音にも反応していない」


 「ん?そりゃどういう事だい?」


 「つまり、このメタルマターゴーレム達は『巡回』している『警備員』のようなものです。あの目から出ているライトに当たらなければ、戦闘せずに通り抜けられるはずです」


 「マキアさん、よくそんなこと知ってるな」


 「以前、マスターのやっていたゲームを見たことがあります。

 『すてるすあくしょんげーむ』と言っていました」


 「??よくわかんねぇが、とにかくマキアさんの言った通りにしてみよう。

 ようはメタルマターゴーレムの前に立たなきゃいいんだ」


 私達はできるだけ一塊になって通路を移動することに。

 メタルマターゴーレムに見つからないように、後ろをついて行ったり、くぼみに隠れてやり過ごしたりして進んでいった。


 「おっ、あの通路の先はゴーレムが巡回していない。ゴールみたいだな」


 「よし、一気に駆け抜けましょう」


 私が合図してみんなで一気に駆け抜ける!……やった、メタルマターゴーレム地帯を突破したわ!……って、あれ?テミーちゃんは……


 「ああ、テミーが!」


 振り向くとテミーちゃんが通路の真ん中で転んで動けなくなってる!?

 もう横からゴーレムが近づいてるのに!


 「まずい!今テミーが発見されたら周りのゴーレムも集まってきて、通路を塞がれちまう!ヒーラーのテミー一人じゃゴーレムには太刀打ちできねぇ」


 「あ、あああ……」


 テミーちゃんが恐怖で震えている、あれじゃあ立って走ってくるのは無理かも……どうする!?


 「テミーちゃん、ごめん!

 大気の精霊よ、我が呼びかけに答え、満ち給え 風属性プログラム『ウイングクロス』!」


 私は咄嗟に風の魔法でテミーちゃんを奥へ吹き飛ばした!


 「きゃあああ」


 テミーちゃんはゴロゴロと転がって、ゴーレムの目線からは外れたみたい……無事でよかった。


 ゴーレムをやり過ごしてからテミーちゃんを助けに。

 「ごめんねテミーちゃん、痛かったでしょう?」


 「いいえ、大丈夫です。おかげで助かりました」


 ケガらしいケガは無いみたい、よかった。

 「このまま先に進みましょう」


 私達は三階の階段を探すため先に進んだ。

 歩いているとテミーちゃんとミユキの会話が聞こえてくる。


 「さすが『マップセイバー』のマキアさん、『地図の守り人』っていう通り名のとおりですね」


 「え……『マップセイバー』?」


 「そうですよ、町ではマキアさんのことみんなそう呼んでます」


 「あー、それ聞き違いだね、本当は……」


 ギャオオオオ!


 「キャーー!」


 「な、何?」


 目の前には十メートルはあろうかという巨大な『亀』が、上行きの階段を背に立ちはだかっている


 「こいつは……金剛亀ダイヤモンドタートル!?」


 「この三階のボスってことね?」


 「こいつの甲羅のかけらがひとかけらでも手にはいりゃあ豪邸が立ちますぜ。

 ただとんでもなく硬いから、倒すのは相当骨が折れるって話だ」


 「どっちにしてもこいつを倒さないと先に進めないんだから、みんなで総攻撃します!」


 「おう!」


 素早いアンジュが速攻をかける!

 「はああー!『かかと落とし』!」


 ガキィン!


 弾き飛ばされるアンジュ。


 「何これぇ?かったーい!メタルマターゴーレムより硬いよぉきっと」


 マジで!?じゃあメタルマターソードでもダメージは与えられないかも……


 「じゃあ魔法なら……すみません私に任せて。

 赫き炎の精霊よ 爆炎となりて 敵を焼き尽くし給え 炎の渦よ 舞い上がれ!炎属性アナグラム『パイロバーン』!」

 ノノアの炎の魔法が発動!


 「ブオオオオーーーン」


 効いてる?そうかマスターが言ってたっけ、ダイヤモンドは炭素だから炎に弱いって。


 「炎属性ならいけそうね、全員炎の技と魔法で攻撃しましょう」


 ズズズズ……


 え?ダイヤモンドタートルの首や足が甲羅の中に入っていく、これって……


 「ああ、ダイヤモンドタートルが『完全防御態勢』になっちまった」


 「すみません、もう一度私が……

 赫き炎の精霊よ 爆炎となりて 敵を焼き尽くし給え 炎の渦よ 舞い上がれ!炎属性アナグラム『パイロバーン』!」

 もう一度ノノアの炎の魔法!


 ブワッ


 えっ、炎がはじかれた?なんで?


 「甲羅の部分に、薄いけど『対魔力結界』が張られているわ……『完全防御態勢』になると出るのね、これだと効果薄いかも」

 目の良いミユキが教えてくれた。


 「じゃあ私がやるしかないわね」


 シャキィ―――ン……


 「出た!そいつが噂の『マキアカリバー』!」


 「マスター、使わせてもらいます……

 大地と大気の精霊よ 力満ち 天より地へ 天の鉄槌を落とし給え!雷属性アナグラム 『ボルト』!!」


 バシィ!


 「はああーー!くらえ『ハイブリッド高周波ソード』!」


 ギキーン!


 うそでしょ?ちょっとヒビが入ったくらいって……


 「マキアさんの必殺技でダメならもうお手上げだな……

 仕方ない、ダイヤモンドタートルが『完全防御態勢』を解くのを待つしかないか」


 「いいえ、もう一つ試したいことがあるわ。みんな下がってて」

 私はみんなをダイヤモンドタートルから少し下げて、剣を構える。


 (マスターに教えてもらったこの必殺技ならきっと……)


 私はマスターと、特訓した時のことを思い出していた……


 ◇マキア回想シーン


 「マキア、お前に必殺技を授ける」


 「必殺技……ですか?」


 マスターは、高周波ソードでも斬れない巨大な岩に悪戦苦闘していた私にそう言ってきた。


 「そう、この必殺技は体の力を脱力させてから、攻撃が当たる瞬間にすべての力を開放して当てることで一撃の破壊力を極限まで高めた……」


 ……私の頭の上に?マークが並んでいく……


 「あー、お前は良くも悪くも直感と感覚で覚えるタイプだもんな……言葉で説明するより、一度やって見せよう」


 そう言ってマスターは二人羽織りのように後ろから私に覆いかぶさり、剣を持つ私の手にマスターの手を添えた。


 「いいか、呼吸を合わせて。目も閉じて、俺と一つになる感覚で」


 「スー……ハー……」

 「スー……ハー……」


 私は言われた通りにマスターと呼吸を合わせる。

 心臓の音も聞こえてきて、鼓動も重なる……

 本当にマスターと一つになったような感覚になってきた。


 「まずは脱力、体の力を抜くんだ。脱力すればするほどその差で威力が上がる」


 体の力を抜く……こんな感じでいいのかな……


 「いいぞ……自分の体の周りに『風』が纏わりついているのがわかるか?それを操るんだ、足元から螺旋を描くように……」


 現実の、今の私ともリンクする……

 「自分の、体に纏わりついている風を操る……足元から、螺旋を描くように……」


 練習のときのマスターはさらに……

 「足首、ふくらはぎ、ひざ、太ももへ……

 同時に、体の中の『気』の力、そして『魔力』も足元から螺旋状に上げていくんだ」


 私は足元から風と気の力と魔力が螺旋状に上がってくる感覚を感じていた。

 「そのまま、腰、お腹、胸、肩、二の腕……」


 現実の今の私も、風と気の力と魔力を上へ上げていく……

 (肩、二の腕、肘、手首……そして剣に)


 私の風と気の力と魔力が剣に伝わったのを感じる。

 そしてさらにマスターは……


 「よし、そのまま前に、回転しながら目標に近づき……」

 (回転しながら目標に近づき……)


 「剣が当たる瞬間にすべての力を開放する」

 (あたる瞬間に開放……)


 私はブツブツ言いながら、ダイヤモンドタートルに近づく。


 「この技を使うときは必ず技名を叫ぶこと、これは命令ね」


 「えー」


 「えーじゃない」


 私は少し眉をしかめる……

 回転しながら剣を巨大な岩に振り下ろす。

 現実の私も、回転しながら剣をダイヤモンドタートルに振り下ろす。


 「おーぎ!『マキアインパクト』!」


 振り下ろした剣が当たる瞬間にすべての力を開放する……

 凄まじい光

 凄まじい爆音

 凄まじい衝撃


 辺り一帯は煙でよく見えない

 「ゴホッゴホッ……え……?ちょっ、マキアさん……『ダイヤモンドタートル』が……いない!?甲羅のかけらも一つもない!?」


 「あー、えへへ、やりすぎちゃったかも」


 私の目の前は、ダイヤモンドタートルどころか、審判の塔三階の三分の一が吹き飛んでいて、外から光が差し込んで辺りを照らしていた。


 「マキア……お前、またやったなー!」


 ちょうど下りの階段からマスターが出てきていた……この状況、これはまずい。


 「ご、ごめんなさーい」


 一目散に逃げる私、マスターも追いかけてきたー!


 「待てマキアー!」


 「あーあの感じは間違いなくマスターですね、推理するまでもなく」

 アンジュがパイプをくわえながら説明した。

 最初に一緒に来ていた女性奴隷の四人も上がってきていて、この状況に驚いている。


 「フフフ……テミーちゃん、さっきの話の続き」


 「え、あ、はいミユキさん」


 「『マップセイバー』ていうのはたぶんテミーちゃんの聞き違いね。

 マキアの本当の通り名は『マップシェイバー』よ」


 「マップ……シェイバー?」


 「そう、直訳すると『地図削り』ね」


 「ち、地図削り!?」


 「以前にも平原のダンジョンで今の技を練習がてらマキアが独断で使ったんだけど、その時もダンジョンの半分を消し飛ばしちゃったのよ」


 「ダンジョンを半分消し飛ばしたって……」


 「その後マスターとマキアは王政の地図省の人に呼ばれて、こってり叱られたらしいの。『今まで書いた地図をまた全部書き直さなきゃならなくなった』って」


 「はあ……でしょうね」


 「その時に地図省の人が付けた通り名が『地図削り《マップシェイバー》』ってわけ」


 「そ、そうなんですね……」


 「マキア―――!あれほど使うときは注意しろと言ったのに……また地図省の人に怒られるだろーが!」


 鬼のような形相をしてる今のマスターは、間違いなくあの百戦騎士さんやダイヤモンドタートルよりも恐ろしい……



 ☆今回の成果

  初期生マキア 『おーぎ アイカインパクト』習得

  マゼンタイーグルの羽根を手に入れた

  メタルマターを手に入れた

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