悪魔の記憶ⅳ

※時空名『アナザーアース』

 名もなき悪魔の、あったかもしれない可能性。


 黒百合のアトリエとはまったく別の世界の、別のリリルカの物語。

 ダークなお話です、ご注意ください。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 



「パワーはすごいけど、行動が問題外ね」

「う”~」


完全に感情を利用された形なので、

先ほどからシャノワールのことをにらみつけている。


確かに必要だったのは分かるけれど、

さっきのはひどい。


六千歳の悪魔のおばあちゃんが、

今日、悪魔になりたてのリリをいじめている。


……今日?


そっか。

まだ一日も経ってないじゃん。

あれから。



「何か、気づいたみたいね」


「もしかして、悪魔の力って――

 簡単に、操れないものだったりする?」



「大半は魔力に飲み込まれて、

 暴走した挙句に死ぬ。


 コントロールできても、

 普通は、半月くらいはかかる。


 さすがは、アポフィスの悪魔といったところね。

 眠れる『黄昏の魔王(アスタロト)』さえ、

 永い眠りから起こせるほどの――

 最強の滅びの力が使える悪魔。


 器としては、

 本気で言うことがない」



「ほええ……」


本人は全く自覚ないんだけどな。



がむしゃらに魔物を食べてしまったので、

顔も血と樹液でべとべとだったはずが、

いつの間にか、全て消えている。


シャノワールの左手には、

黒紫色の結晶が握られている。


黒いものが薄く渦巻いており、

先ほど魔物がいたあたりから、魔力を吸い取った跡が見える。



「倒した魔物は全て、

 黒い粒子になって消える。


 魔物――

 闇の因子によって本来の生物の理から外れ、

 魔法生物化したものたちの、末路。


 人間は通常、

 魔物になることは絶対にないけれど。


 残留思念を残して死んだり、

 魂を持たない死体になれば別」



「倒されたら、リリたちも黒い粒子になるの?」

「多分ね」


ぞっとすることを言う。

生物のままであれば、そのまま腐って、

土に還ることができたのに。



眼鏡をかけて、正気に戻されてから、

改めて階段を登り直し、部屋の扉の前に立つ。

すると、見慣れない何かをシャノワールから渡される。


まがまがしい装飾がついた、重そうな弓。

しかし担いでみると、思ったより軽い。


弓をつがえる部分に、

魔力を込められる黒紫色の宝石がついている。

先ほどシャノワールが持っていた石と、

まったく同じ色。


魔力を込めてみると、

石弓のように発射することができそうだ。


試しに発射してみると、

紫色の魔法の矢が発射されて壁にぶちあたり、

貫通された穴を開けて消える。



魔導弓――

この世界に存在する、魔力を込めるだけで、

自動的に魔法の矢が撃てる、特殊な弓。


どうやら、先ほどの部屋の登り階段とは真逆の、

右の扉の中に置いてあったもののようだ。


撃つのに少しコツが必要そうなので、

弓をつがえる姿勢を崩したくなくて。


腕をそのままにしていたら、

シャノワールが後ろに回ってきて、

ささやくように喋ってくる。



「魔物は全部、魔力に変換できる。

 魔力を一時的にでも暴走できれば、ほぼ永久機関が可能。

 さて、試してみよう――か」


その瞬間、

眼鏡をすっと抜かれる。



なんかむかつく!



その瞬間、巨大な紫の光の矢が発射され、

密着していたシャノワールごと、

反動で後ろに突き飛ばされる。


扉を一瞬でぶち抜いて破壊し、

その向こうにいたはずの『何か』ごと全てを、

紫の闇の力で焼き尽くした。


そいつが消える前に駆け――つけようとしたら、

眼鏡を再セットされる。



えー。



「これ、なんかひどくないですか?」

「一番いい方法だと思うけど」


「なんか、納得行かない……」


衝動だけを利用されている感じ。

すごくもやもやする。


確かに一番効率はいいんだけどね。

戦闘時間も、一秒以内で終わっているし。


でも、不完全燃焼感がすごく残る。


気が付いたら、シャノワールが魔物のほうに歩いていってて、

魔力を全部、黒い結晶に吸収しているし。



「上の階でまた、これやるの?」

「うん。慣れるまでね」


えー。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 



これで何回目だろうか。

巨大な魔法の矢を何度も発射した後に、

何回目かにたどりついた、階段の先の扉。


今までとは少し違う構造で、

扉の前のスペースが広く取られている。


「いわゆる、ボス部屋?」

「その言い回し、なんかメタフィクションっぽいわ」

「???」


「敵の親玉(ボス)がいるんじゃないですか?

 こういうところに、

 なんか強そうなやつが」


「そのはずなんだけど……」


シャノワールの様子が、少しおかしい。

でも、様子がおかしいのは、この扉の向こうもだ。

何の、気配もない。



扉を開けたら、

その真相が理解できた。


「何、これ……」


フロアの入り口から最奥。

床の端から端を、全てえぐり取ったような爪跡。

おそらくは、直線状の何か(?)を発射したのだろう。

描かれた直線は、たったの一撃。


それが衝突した先の壁が、

丸ごとひび割れて、

派手に破壊され、

瓦礫が山積みになっている。


それでも壁の向こうの、

外の風景は全く見えない。

この塔。どれほど分厚い壁してるんだろう。


対象となった敵は、

一瞬で死んだのだろう。


瓦礫をいくら掘り返してみても、

何一つとして、

生物の跡形が残っていない。


かろうじて、瓦礫から離れたところに

『何か』が転がっているだけだ。


しかし、この痕跡もかなり風化されていて、

その何かももはや、謎の石になってしまっている。



魔物自体は倒れると、

時間経過で粒子になって消えるはず。


であれば、おそらくこれは、

その魔物から採れる収集品になったはずの、

身体の一部だろう。


本体から遠く吹き飛ばされて拾われなかったそれは、

置き去りにされており、

保存状態が悪ければ、

収集品も当然のことながら変質する。


本体の死亡、

腐敗、

微生物による分解、

石灰や固形物だけが残されてからの、化石化。


一体いつ、

この戦闘が起きた?



「……前の訪問者、人間技ではない」

「悪魔でも、来たんですか?」


「この軌道に、全く焦げ跡が見られない。

 魔力は一切使われていない。

 ただの、衝撃波」


「ほえええ……」



悪魔よりやばいものが、

この塔を通過していったようです。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

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