悪魔の記憶ⅳ
※時空名『アナザーアース』
名もなき悪魔の、あったかもしれない可能性。
黒百合のアトリエとはまったく別の世界の、別のリリルカの物語。
ダークなお話です、ご注意ください。
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「パワーはすごいけど、行動が問題外ね」
「う”~」
完全に感情を利用された形なので、
先ほどからシャノワールのことをにらみつけている。
確かに必要だったのは分かるけれど、
さっきのはひどい。
六千歳の悪魔のおばあちゃんが、
今日、悪魔になりたてのリリをいじめている。
……今日?
そっか。
まだ一日も経ってないじゃん。
あれから。
「何か、気づいたみたいね」
「もしかして、悪魔の力って――
簡単に、操れないものだったりする?」
「大半は魔力に飲み込まれて、
暴走した挙句に死ぬ。
コントロールできても、
普通は、半月くらいはかかる。
さすがは、アポフィスの悪魔といったところね。
眠れる『黄昏の魔王(アスタロト)』さえ、
永い眠りから起こせるほどの――
最強の滅びの力が使える悪魔。
器としては、
本気で言うことがない」
「ほええ……」
本人は全く自覚ないんだけどな。
がむしゃらに魔物を食べてしまったので、
顔も血と樹液でべとべとだったはずが、
いつの間にか、全て消えている。
シャノワールの左手には、
黒紫色の結晶が握られている。
黒いものが薄く渦巻いており、
先ほど魔物がいたあたりから、魔力を吸い取った跡が見える。
「倒した魔物は全て、
黒い粒子になって消える。
魔物――
闇の因子によって本来の生物の理から外れ、
魔法生物化したものたちの、末路。
人間は通常、
魔物になることは絶対にないけれど。
残留思念を残して死んだり、
魂を持たない死体になれば別」
「倒されたら、リリたちも黒い粒子になるの?」
「多分ね」
ぞっとすることを言う。
生物のままであれば、そのまま腐って、
土に還ることができたのに。
眼鏡をかけて、正気に戻されてから、
改めて階段を登り直し、部屋の扉の前に立つ。
すると、見慣れない何かをシャノワールから渡される。
まがまがしい装飾がついた、重そうな弓。
しかし担いでみると、思ったより軽い。
弓をつがえる部分に、
魔力を込められる黒紫色の宝石がついている。
先ほどシャノワールが持っていた石と、
まったく同じ色。
魔力を込めてみると、
石弓のように発射することができそうだ。
試しに発射してみると、
紫色の魔法の矢が発射されて壁にぶちあたり、
貫通された穴を開けて消える。
魔導弓――
この世界に存在する、魔力を込めるだけで、
自動的に魔法の矢が撃てる、特殊な弓。
どうやら、先ほどの部屋の登り階段とは真逆の、
右の扉の中に置いてあったもののようだ。
撃つのに少しコツが必要そうなので、
弓をつがえる姿勢を崩したくなくて。
腕をそのままにしていたら、
シャノワールが後ろに回ってきて、
ささやくように喋ってくる。
「魔物は全部、魔力に変換できる。
魔力を一時的にでも暴走できれば、ほぼ永久機関が可能。
さて、試してみよう――か」
その瞬間、
眼鏡をすっと抜かれる。
なんかむかつく!
その瞬間、巨大な紫の光の矢が発射され、
密着していたシャノワールごと、
反動で後ろに突き飛ばされる。
扉を一瞬でぶち抜いて破壊し、
その向こうにいたはずの『何か』ごと全てを、
紫の闇の力で焼き尽くした。
そいつが消える前に駆け――つけようとしたら、
眼鏡を再セットされる。
えー。
「これ、なんかひどくないですか?」
「一番いい方法だと思うけど」
「なんか、納得行かない……」
衝動だけを利用されている感じ。
すごくもやもやする。
確かに一番効率はいいんだけどね。
戦闘時間も、一秒以内で終わっているし。
でも、不完全燃焼感がすごく残る。
気が付いたら、シャノワールが魔物のほうに歩いていってて、
魔力を全部、黒い結晶に吸収しているし。
「上の階でまた、これやるの?」
「うん。慣れるまでね」
えー。
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これで何回目だろうか。
巨大な魔法の矢を何度も発射した後に、
何回目かにたどりついた、階段の先の扉。
今までとは少し違う構造で、
扉の前のスペースが広く取られている。
「いわゆる、ボス部屋?」
「その言い回し、なんかメタフィクションっぽいわ」
「???」
「敵の親玉(ボス)がいるんじゃないですか?
こういうところに、
なんか強そうなやつが」
「そのはずなんだけど……」
シャノワールの様子が、少しおかしい。
でも、様子がおかしいのは、この扉の向こうもだ。
何の、気配もない。
扉を開けたら、
その真相が理解できた。
「何、これ……」
フロアの入り口から最奥。
床の端から端を、全てえぐり取ったような爪跡。
おそらくは、直線状の何か(?)を発射したのだろう。
描かれた直線は、たったの一撃。
それが衝突した先の壁が、
丸ごとひび割れて、
派手に破壊され、
瓦礫が山積みになっている。
それでも壁の向こうの、
外の風景は全く見えない。
この塔。どれほど分厚い壁してるんだろう。
対象となった敵は、
一瞬で死んだのだろう。
瓦礫をいくら掘り返してみても、
何一つとして、
生物の跡形が残っていない。
かろうじて、瓦礫から離れたところに
『何か』が転がっているだけだ。
しかし、この痕跡もかなり風化されていて、
その何かももはや、謎の石になってしまっている。
魔物自体は倒れると、
時間経過で粒子になって消えるはず。
であれば、おそらくこれは、
その魔物から採れる収集品になったはずの、
身体の一部だろう。
本体から遠く吹き飛ばされて拾われなかったそれは、
置き去りにされており、
保存状態が悪ければ、
収集品も当然のことながら変質する。
本体の死亡、
腐敗、
微生物による分解、
石灰や固形物だけが残されてからの、化石化。
一体いつ、
この戦闘が起きた?
「……前の訪問者、人間技ではない」
「悪魔でも、来たんですか?」
「この軌道に、全く焦げ跡が見られない。
魔力は一切使われていない。
ただの、衝撃波」
「ほえええ……」
悪魔よりやばいものが、
この塔を通過していったようです。
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