悪魔の記憶ⅲ
※時空名『アナザーアース』
名もなき悪魔の、あったかもしれない可能性。
黒百合のアトリエとはまったく別の世界の、別のリリルカの物語。
ダークなお話です、ご注意ください。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
目の前にそびえるのは、
どこまでも高く、頂点の見えない――塔。
「無限の塔。
正確な高さを測った者はいない。
共和国の飛行船で高さを見たことはある――
それでも、飛行船よりもずっと高い位置まであって、
頂点を見ることはできなかった。
誰が作ったかは、不明。
でも、心当たりが一つある」
ごくり、と息をのむ。
こんな場所に、今からたった二人で登るのか。
大陸の東にあった山脈を下り、
悪魔には危険極まりない
ぐるっと迂回。
大陸北の広い雪原を横断し、
その北端にたどり着いたのがここ。
一つだけシャノワールに、わがままを言った。
髪がざっくばらんなままなのが耐えられないから、
リボンが欲しいと。
彼女から、小綺麗なピンク色の櫛と、
小型の折り畳み式の鏡を手渡され、
その後に黒いリボンを二本、ゆずってくれた。
話していて気づいたことがある。
この人、まだどこかで人間をやめていない気がする。
ただ、この引っ掛かりの正体に気づくには、
あまりに遅すぎたんだ。
私は、いつもそうだ。
「これを見てほしいの」
突然、変な物体を手渡される。
何かの金属の部品にしか見えないが、
複数の歯車が組み合わさった何かだ。
しかし、錆びてはいないのに、
とても古ぼけている。
「俗にいう『オーパーツ』。
本来なら錆びていてもおかしくないのに、
何千年、何万年経っても錆びない金属。
この正体は未だに分かっていない――ただ」
ここで一度区切ってから、
塔を見上げて、彼女は語った。
「古代魔法文明よりも前にあった、
超魔導文明――イシュ。
邪竜の侵攻と、魔王の襲来によって滅ぼされたと、
獣人たちの大陸の文献にあった」
「ほええー……」
完全に、塔の高さに圧倒されていた。
星にも届くのではないだろうか。
本当にこれ、登れるの?
「鏡を貸した後で悪いけど――。
オシャレはあきらめて」
手慣れた動きで、黒縁の眼鏡と、
二本のリボンがすっと髪から抜き取られる。
「え?」
眼鏡がなくなったことで、
視界が大きく変わる。
何もかもが見通せる。
ハッキリすぎるくらいに、全てが見えてしまう。
塔の中に、何かいる。
両開きの金属の扉は、しっかり締められているのに。
気配だけで、わかってしまった。
突然の、飢え。
魂の叫び。
「好きにやっていい。
上までいければ――ね」
簡単に言うな!
怒りのエネルギーをシャノワールにぶつけようとした――が、
あっけなく回避される。
繰り出した爪はそのまま扉に激突するが、
その怒りのエネルギーを止められず、
とうとう扉の一部がへしゃげ始める。
勢いを殺し切ることができず、
そのまま扉は穴を開ける形で、
無理やりこじ開けられた。
「本当に開くと思ってなかった……」
シャノワールが、
ぽかーんと見ている。
はめられた!
悔しいが、おそらく本来はこの塔、
入るのに鍵か何かが必要だったのかもしれない。
悪魔の力、
おそるべし。
「これ、案外本当に行けちゃうかも……」
「エ?」
本能がむき出しのまま、
シャノワールの言葉を耳に入れる。
しかし、己の本能には逆らえなかった。
飢え。
飢え。
飢え。
己の中に足りないものを足す。
生物としての本能。
悪魔なのに?
いや、悪魔だからこそ、
あらゆるものを食い尽くせる。
それだけを信じ、
そのまま突っ込んでいく。
入口の中はロビー状になっていたが、
その奥の扉を蹴破り。
その奥にいた魔物たちを
全て食らい尽くす。
どうやってこんな閉鎖空間で
生き続けていたのかはわからないが、
動物系と植物系の魔物たちだった。
もう、それしか覚えていない。
緑と赤。
茶色と黒。
そして、
赤と茶色と緑。
喰らい続けていくうちに、
どんどんそれらが元の形をなくし、変質していく。
その間、わずか数秒。
シャノワールがゆっくり歩いてきた時には既に。
周りが全部赤と緑の何かに染まっていた。
ああ、まだ足リナイ。
「階段」
シャノワールが一言。
つぶやくや否や、部屋の左側の扉を蹴破る。
少女の見た目には想像できない脚力で、
扉が吹っ飛ばされていく。
その扉は階段の横の壁にぶつかり、粉砕される。
どれほどのパワーで
蹴飛ばしたの?
階段にそろりと近づいて、眺めると。
四角に描かれたらせん階段が、
上のほうへ続いている。
こんなものでは足りない。
階段を駆け上がろうとして、
そのまま面倒になって、階段を蹴った。
階段の一部が粉砕し、
高く高く跳躍する。
扉も入るのが面倒だ、と思って
次の階の床ごとぶち壊そうとして――
激突した。
ほどなく、階段の一番下まで転落する。
出来上がる、悪魔の形のクレーター。
「……」
「無謀……」
いつぞやの自分と、
同じ言葉を返された。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます