第6話

「悪いねぇ~こんな時に」

「いやいや、コータローさんの頼みは、断れないからなぁ」

 玄関先で、何やら話し込んでいるようだ。

アオイが、ひょこっとのぞくと…

それは、よくお世話になっている、島にたった一つだけある、

診療所の女先生だった。

「先生も、大変なんじゃないの?」

「そんなこと、気にしなくてもいいって」

雨合羽を軽く振ると、老人はそれを傘立てに引っ掛けた。


 じいちゃんは、この先生のことを、見上げた人だ…

と、いつも手放しで褒めている。

こんな田舎に来たがる医者なんて、中々いないからだ。

「それより…赤ちゃんを、拾ったんだって?」

濡れた身体を乾かす間もなく、先生は家の中をのぞき込む。

「来た早々、悪いねぇ」

老人はそう言うと、女先生を家の中に招き入れる。

 そんなに部屋数があるわけではない。

玄関と居間、そして台所と仏間くらいだ。

アオイは首を引っ込めて、赤ちゃんの側に行くと、いつの間にか

おとなしくなっていた。


 座布団に寝かされている赤ちゃんをひと目見るなり、

「あぁ、この子はまだ、生まれて間もないわねぇ」

先生はそう言う。

「先生、あのね、この子は…ボクたちのことが、わかるの?」

すぐにアオイが聞く。

「いや、まだだろうなぁ~

 これはまだ、見えていないはずよ」

先生の専門は、小児科ではないけれど、ここではお産から骨折まで見るから、

一通りのことはわかるのだ。

「なぁんだ」

つまんないなぁ~

アオイはそう思う。

「アオイくん、お兄ちゃんになるんだなぁ」

先生は、ニコニコしながらそう言った。


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