第1章 嵐の子

第1話

「なんで、こんな日に…」

 こんな嵐の日に、誰が来たんだ?

失敬なヤツだなぁ、と老人は不機嫌な顔になる。

「まさか、アイツが…金の無心に来たわけじゃあなかろうな」

てっきり、不肖の息子が、金をせびりに来たのではないか、

と思ったのだ。

「いいから、放っとけ」

そうは言ったものの…

「ダメですよ!

 こんな大雨よ!

 あの子が濡れているだろうに、入れてあげないのは、可哀想…」

普段はおとなしい妻が、珍しく強く言うので、老人は仕方なく

玄関に立つ。

「まぁ、もしかしたら、風で何かが飛んできたのかもしれないしな」

そう言うと、ゆっくりとカギを開けて、扉を開いた。


 また、風が強くなってきたようだ。

ガラスの扉が割れそうなくらい、ガタガタと大きな音を立てている。

「いけない!

 玄関を段ボールか何かで、ふさいでおかないと」

ふいに妻が、老人に声をかけるので、

「そうだな、割れてからでは遅いしな」

ここではハッキリとうなづく。

「そうしてくださいな」

とだけ言うと、老婆は誰かいないかと、扉の外に顔を出した。


「どうだ?誰もいないだろ?」

 妻が何も言わないので、老人はしびれを切らす。

「いいから、早く閉めろ。

 雨が中に入る」

裸足のまま、ぼぅっと突っ立ったままの、妻の隣に立つ。

「あの…おじいさん」

妻はハッとした顔をして、何か言いた気に、足元を指差す。

「なんだ?さっさと閉めろよ」

イライラしながら、首だけ扉の外に突き出す。

すると…大きなバスタオルの中に、何か小さなものが、入っている

のが目に入った。

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