14

洞窟の天井が壊れもせず落ちていき、そのまま洞窟をふさいでいく。

オリハルコンを内へ閉じ込めたまま、洞窟は閉じた…。


サナは、誰かのぬくもりを感じて目を開けた。

遺跡は完全に埋まったらしくほのかな光もなかった。

真っ暗な闇しかないのだが、誰かが、しっかりと自分の肩を抱いているのがわかった。

「だれ…?」

震える声で問いかけると

「おれだ」

と言う声が返ってきた。

聞き慣れた声…

顔が見えなくても、自身ありげに笑っているのがわかる。

サナは、ほっと安心感を持った。

「レウリオ…」

ほっと息を吐きつつ、その名を呼んだ。そして口をついたのは

「……生きてる……」

という言葉だった。

「あぁ、生きてる…ったく君は、最後の最後に妙にきっぱりと諦めようとしてくれて…こっちが死ぬかと思った」


サナは、ここまでだ、と思った自分を思い出した。

あの時は覚悟を決めたはずだったが、今はなぜあんなふうに思ったのか、自分でも不思議だった。


「あの爆発は…何?」

「ああ。おれの家に毒素を出す物質と古い遺跡の事、島の様子を書いて送ったんだ。そうしたら、父と次兄が、そんな危険なものは対処がわかるまで入り口を閉じて埋めてしまえ、と大量の爆発玉をくれた。爆発玉を扱う専門家をこの島にやれないが、自分で目算してきれいに埋まるようにがんばれ、だとさ」

とおもしろそうに笑って語る。


笑いごとなのだろうか……古代遺跡を埋めろなどと…。

下手すると、自分の息子、弟が怪我でもしかねないだろうに。

信頼されているのだろう。


「それで大怪我したりするくらいなら、そこまでの人間だとみなす、ってことだろう多分」

…信頼、されているのだろうか…?

洞窟は天井がきれいに落ちた形で、すっかりと埋まってしまったようなのだが、わずかな空間を残したらしく、そこに自分たちがいらしい。


「…エイヴァリは?」

サナは、先ほどの自分の足を捕らえていた、銀の髪と瞳の青年を思い出した。

遺跡と共にこの下敷きになったのか?

「やっぱり、あの銀色はエイヴァリか…生きてるし、その辺にいる。意識はないみたいだが」

「そう……」

よかった…、とため息をついた。

どんな相手であれ、死んで欲しくはない。


「せっかく足の怪我が治ったってのに、また怪我したんじゃないのか?」

レウリオの言葉に、サナは、何のことだろうと首をかしげた。

「君の膝。おれとぶつかって転んで怪我をしたよな」

そう言われ、あのことが妙に昔のことに思え涙がにじんできた。


「…どうして、わかったの?サナとカイが同じだって…」

サナの問いに、レウリオは笑った。

「君が黄色の花をブチブチとむしっていた時に、あの、ぼーっと何かを考えている表情が誰かに似てると思ってね」


ぼーっとは余計よ、サナは声に出さずに静かに笑った。


「次の日、見張り役のことを聞いた時に、君はエイヴァリにからまれただろう。その時、話していて君が見せた表情…何かを隠したような笑顔が、金色の髪のヤツの顔によく似ていると気付いた」


そうか…だから、あの日の夜、私のことを色々聞いてきたり、嘘つき呼ばわりしたのね…

サナは、それすら、なんだかおかしくて、また静かに笑った…笑いながら、涙が伝ってきた。

あの日…そうだ、レウリオに酷いこと言ってしまって…


「そうか…助けて欲しいって、言われてないんだっけな」

レウリオも同じ事を思い出したらしく、からかうような口調でそう言った。

「あれは…言い過ぎたって謝ったじゃない」

カイの時のような口調でそう言い返すが、声が震えていて涙声だ。


でも…そうなのか…髪の色や瞳の色がどうであろうと、レウリオにとって私は私だったのだ…

それを一人であせってみたり、怒ってみたり…

「…騙されたとかは、思わなかったの?」

「まぁ、そうだな。正体を隠そうと必死なんだなと思って、おもしろかったが」


酷いわね、面白がっていたの?

言い返したいが、言葉は出てこなかった。


この人を守ろうと思ったのに、今、ここにこうして閉じ込められていても、何故か安心しきっている。

大きな手と、ぬくもりがある…

それだけで、怖がることも、不安がることも何もないと思えてしまう。

騙していた後ろめたさも、冗談交じりの言葉のおかげで、軽くなる。

涙は、次々と頬を伝った。


レウリオは、頭に手を載せ、子供をあやすようにポンポンと軽く叩いた。

何よ、子ども扱いして…と憎まれ口を叩こうと思っても、声が出ない。

ただレウリオの優しさが感じられ、嬉しかった。

「……ありがとう」

呟くようにそう言って、涙をぬぐった。



「ところで…どうやって出ようかしらね…」

サナは、思い出したようにそう言った。

「ああ、そうだな。上から潰れるような感じになっているからな…下手に掘ったりすると、また崩れてきそうだな」

レウリオがため息混じりに言う。

「でも…一か八かやってみた方がいいわ」

サナの言葉に

「そうだな…」

と、すぐ近くで答える声があった。レウリオの声ではない。エイヴァリだ。


「起きたか…」

レウリオの言葉に、エイヴァリは低い声で答えた。

「ああ……なぜ助けた…」

エイヴァリの問いに、レウリオは、さぁな、と答えた。

「強いて言えば、サナを助けたついでだ」

「……」

少しの間、エイヴァリは黙した。


「……あの時、なぜ、お前の足を掴んだおれの手を振りほどこうとしなかった…?」

低い声は、サナに呼びかけたものであった。

「一人は…辛いものだから…」

サナは、そう呟いた。


見張り役として、一人でずっと浜にいる辛さ…自分の運命を知りつつ、一人でいる辛さは、知っている。

例え、エイヴァリであろうとも、サナは、その一人で死ぬ怖さは軽減してやりたかった。


「それに、私が……見張り役で守り人だもの」

上手く言えずに、そう答えたのだった。

その答えに、エイヴァリは、ふっ、と鼻先で笑った。


「あの状況では見張り役も何も関係なかっただろう…まったく…。出て行くならば、早くしたほうがいい」

「何故だ?」


レウリオの問いに、軽く呆れたように続けた。

「わからんか?この狭い、埋まった場所に3人も居るのにさほど息苦しくならないということは、どこかに隙間があると言うことだ。」

納得したサナは、大きく頷いた。

「この洞窟は、今日を境にまた海に潜っていくはずなんだもの…ぐずぐずしていたら、ここにも海水が入ってきてしまうのね」

そうだ…もう、潮は満ち始めているのかもしれない…。


エイヴァリが、動く気配がした。



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