10

レウリオが、彼は昼の…と、睨んだ。

そのレウリオに、エイヴァリが視線を投げた。

「やめて!!!!」

レウリオはカイの悲痛な声に驚き、黙ってカイとエイヴァリを見た。

カイは、唇をかみ締めた後、低い声でエイヴァリに言った。

「明日…」

と一言だけ。

エイヴァリは、冷たく笑いレウリオに一瞥をくれ、ゆっくりと立ち去った。


「何だ?アイツ」

カイは、それらには答えずに、いつもの表情でレウリオに向きなおった。

「別に。何でもないわ。ごめんなさい、大声出して」

そして、やっぱり今夜も歩いているのね、と言いたげに苦笑しながら

「こんばんは」

と、ごく普通にあいさつをした。

「本当に、懲りないというか…諦めが悪いというか…」

カイは、そうため息をつきながら、笑った。

「あのね……お願いだから、今日と明日…ううん、明日の夜だけでいいから大人しくしていてもらえないかしら」

にっこりと笑いながらそう言って見つめた。


…レウリオは4日間、この入り江付近に来ている…

自覚症状がなくても、あの洞窟から出ている毒素が身体に入っていっているはずだ。

明日は入り口が全開し、洞窟の中まで、歩いて行けるくらいに潮も引く。その時、抗体を持たない人がこの付近にいたら、いくら身体が丈夫でも…。


カイは本気で彼を心配していた。

「明日?」

レウリオの問いにカイは微笑みを消さずに続ける。

「明日…一時だけ入り口が全開しするのよ。外にいると本当に危険よ」

「だから、何故?」

また首をひねられたので、やれやれと首を振る。

そうよね…呪いを信じていないんだし、信じていたとしても、なぜ、明日が一番危険なのか、理由も知らずにでは不思議に思うわよね。

カイは、一つ息をついて座った。

「少し、長い話になるわよ」

そう言って微笑み、隣に座るように促した



この島にある、財宝と呼ばれるものは、古い遺跡である。

それは、歴史的価値が高いだけではなく、遺跡にある「モノ」が大切なのだ。



「オリハルコンって聞いたことはある?」

カイの言葉にレウリオは頷く。

古代の幻ともいえる金属。

「オリハルコンっていうのは、燃える火のような金属であるって言われていて…

その価値は、金の何倍にもなるというわ」


その金属は、確かに値打ちものである。

20年ごとに入り口が現れるのであれば、それを取り出せるだけ取り出せばいい。

そうすれば島だって潤うだろうし、20年ごとに現れるその遺跡を島の目玉にでもすれば、街だって大きくなるだろう。

しかし、そうもいかぬ事情がある。



「事情?」

「そう…島の人や、私が、何度も言っている呪いの正体がオリハルコンなの」



燃える火のような金属…オリハルコン。

どんな金属よりも強く固いらしいが、それは「人をも燃やしかねないほど危険な金属」でもあるらしい。

人に害をなす物質を含んでいて、空気中にもわずかににじみ出てくるという。


明日の夜、入り口は全開する。

そんな時、出歩いていたらどうなるか…



カイは、真顔でレウリオを見た。

「空気中にもにじみ出てくる、ということは…」

カイは頷いた。

「この浜にも、夜、少しずつだけど流れてきているわ。だから、夜出歩くな、と言っていたのよ」

守り人の家系ではない島民のほとんどは、毒の正体を詳しくは知っていない。

故に呪いと呼んでいるのだ。

「だからか…。入り口が出ている期間、島の人間は出歩かないし、この近くに来たがらないのは」

レウリオの言葉に、カイはええと答えつつ、肩をすくめた。

「夜は濃度が濃くなると言われているし、島の人ならば、昼だってこの浜辺へ近寄ろうとは思わないわ」

軽くレウリオを横目で見ながら、カイはそう言った。

レウリオは、それに対しいつものように笑う。


…なぜ、笑うの…何を考えているのよ…

小さく息をついた、カイに重ねて尋ねてきた。

「しかし、明日、入り口が全開してオリハルコンの毒がここいら辺に充満するのだとしたら、それはどれくらいで消える?すぐに消えるわけじゃないのだろう?」

「ええ、そう。それを中和する物質をここに撒くの。それが私の役目」

「それが、入り口を閉じる時の、見張り役の役割だと?」

カイは、そうよ、と答えた。

ただ少し説明が足りないだけで嘘は言っていない。


中和物質は洞窟の中の遺跡にある…20年前の前の見張り役が作ったものだ。

そして、やはり前の見張り役が作った抗体を取ってきて、この浜へと置いておく。

その後は、入り口を閉じ、自分が20年後のために中和物質と抗体を作る。

たった一人で、ひっそりと…


けれど今回はあのエイヴァリいる。

どうしたものか…


カイは、その金色の目にわずかに憂鬱そうな光を宿らせた。

自分の目と髪の色が変わる前から調べている守り人の運命も合わせて、どうにか出来ないものかと。

あきらめない…何か何か方法があるはずだもの…。

その決意を表すかのように、キラッと金の瞳が輝く。

気がつくとレウリオがカイを凝視していた。

「どうしたの?」

カイは、その視線を受け止め微笑みながら尋ねた。

「いや、何も」

何も、という目ではなかった気がするが、まあいい。

「わかってもらえた?明日だけでも大人しくしていて欲しい理由。絶対に出ちゃダメよ」

カイは、そう言って歩き去ったのだった……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る