5

「まったく、いくら言っても聞いちゃいないんだから…」

宿の主人が、道でそう立ち話をしているのを耳にして、サナはその方向へと近寄っていった。

「迷信だと思っているんだろうよ、きっと。所詮、この島の住民じゃないし」

「だろうなぁ…。もう一人は大人しくしているらしいってのによぉ」

「いや、昨日一日だけだろう。わからんさ」


…そうか、昨夜エイヴァリは外出しなかったのね…ということは、あの気配は…?

気のせいだったと言うのだろうか。

しかし、レウリオもまた誰かがいたと言っていた。

レウリオは、なかなか感覚が鋭そうだから、誰かいたのは確かなのだと思われる。

サナはその場を離れ、どこへ行くわけでもなく歩き始めた。

島民の誰かが歩いていると言うのだろうか?

それは、あり得ない…と思う。

考え込みながら歩くサナは、うつむきがちになり、どこも見ていないような危なかしい足取りになっていた。



レウリオは、見慣れた濃茶の長いおさげを目の端に止めた。

うつむきがちに歩いていて、危なかしい事この上ない。

…また、誰かにぶつかるぞ…

と思っていると、サナは高く積まれた木箱の方へ、フラフラと歩いていく。

まったく気付いていない様子だ。

「ったく……」

足早にサナへと近寄った。


「今日は木箱とぶつかる気ですか?」

と、サナの肩に手をやり立ち止まらせた。

「え…?」

驚いて顔を上げると、わずか数歩のところに高く積まれた大きな木箱の山が見えた。

「きゃぁ!!………あ…ありがとうございます」

驚いてから、立ち止まらせてくれた事に対深々と頭を下げる。

「毎日、人や物にぶつかっているんじゃないか?」

そう言われて、サナは、え?と顔を上げた。

「あ…あなたでしたか」

そして、ずれかけていた丸い眼鏡を直す。

手には今日も何かの本を抱えている。

「どうしたんですか?買い物ですか?」

「いや…昨日、見張り役のことを聞きそびれたから」

サナは、一瞬、目をしばたいた。

「ああ!そういえば!」

「…忘れてたね…?」

あきれたようなレウリオの声に、サナは申し訳なさそうに謝った。

「ご…ごめんなさい…ひょっとして、探していたんですか?私のこと」

ああ、まぁ…と、レウリオはあいまいに頷いた。

実際のところ、図書館に行こうとしたところで目に止まっただけだったのだが…。

聞きたいことがあったのは事実だからそういう事にしておこう、と。

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