(つづき)夢のような大SNS運営企業を立ち上げた!

 必須条件として、この社会の主な脳を形成するものは、あらゆる産学官のみならず、それぞれの政党や思想家、宗教家のあらゆる団体を代表する人たちがネットワーク構造を築いていなければならない。そしてそれらの社員は単に寄書家という格で大統領のような待遇を受けるのではなくて、その社の仕事の全体に参与しかつ責任を負うものでなくてはならない。これらの記者たちはそれぞれ専門の方面で一般のために有益となるあらゆる重要事項の正確な報道紹介や、災害の防止に関する適切な注意やアドバイスを提供し、また公共事業にたいする問題を提出して最善の法案を人々に求めることを努力しなければならない。もちろんこれらの人々は一方ではそれぞれの本来の職務に従事しているが、その職務時間を少し削って公衆のためにこれらの記事を執筆するということは少しも不都合ではない。のみならず、むしろそういったことは職務に付帯した義務の一部と考えることもできる。またそういうものを記述することによって各自の職務の遂行上有益なヒントを得る場合もかなり多いと思われる。

 こういう大SNS運営企業の経営を少数の資本家の手にゆだねるのは、穏当ではない。全国民自身、少なくともその大部分の共同経営によるものとしなければならないだろう。そうするためには経営維持に必要な費用は税金に似たような方法で一般から集め、記者や編集員らも適正に組織された選挙制度によって定めるべきだろう。しかしこういう選挙制度にいつも付きまとう弊害を防止するためにはこれらの記者の地位を決して物質的に有利なものにしてはならない(記者になればお金が稼げる、のような)。記者たることによって一身の利益を計るに便宜を得るような可能性は初めから除去するような制度設計* が必要である(*具体的にはどんなものがあるか、読者が応援コメントに書いてみていただけるというのも一つ面白いかなと思います)。社会の公益のためだけを思って行動する人たちしかいない善良民の集いなら問題は無いが、そんなことは多分ないだろうから、どうしても用心しなければならないのである。

 もしこのようなSNS運営企業が現れたなら、それは従来の意味のSNSとはだいぶ違ったものになる。むしろ国民社会一般の幸福安寧に資すべき調査研究報告機関のようなものに変化するだろう。こういうものは日本のどこか(おそらく東京)に本拠地を置き、各地には適当に支局を分配して、中央を通じて互いに連絡し合えばよい。

 政治経済、教育、宗教、学芸、産業、軍事(大正時代に書かれている文章なのでこの言葉が記載されている)、その他ありとあらゆる場面にわたる現実の正確な知識を与え、一般の信頼や期待をもとにして各当局の手の回らないところを研究し補助して国家社会のあらゆる機関の円滑な融合を図るがために、こうした特別な一大組織を設けるということは、むしろ一国の政府自身としても当然考えなければならないと思う。地方の小さな役所の何々課に任せておくようなことではないと思う。

 もっというと、そもそもSNS記事しかりSNS全般は本来この仮想的な一大機関と同じような役目を果たすために生み出されたものだろう。ただそれが遺憾ながら理想的にいってないために、ここにこのような問題が起こったわけである。

(つづく。そしていよいよ次が最終話である。いままで述べてきたことがらを通して、大正時代に寺田寅彦先生が指摘した新聞の問題と現代のSNS社会にはびこるSNS記事の問題の一致、すなわち問題が大正時代から令和の今まで一向に解決している気配が無いということに関して、次回、私が先生の文章を訳す)

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