第8話 翔太の恋模様

「工藤くん。今日はどうする?」


放課後の部活終わり、いつものように

部長に声をかけられる。


音楽室の鍵をどうするかの確認だ。


「今日は…大丈夫です。」


「そう?」


「んじゃ、帰る準備しようか。」


 星矢は、バックを肩にかけて、

 部長と一緒に音楽室を出た。


 他の部員たちは部活終了とともに

 そそくさに帰って行った。


 ガチャと鍵を閉めた。


「職員室に戻すけど、一緒に行く?」


「え、あー。

 部長、俺、代わりに持って行きますよ。

 先帰っててもいいですから。」


「え、そういうつもりじゃないよ。

 一緒に行こうとしただけど。」


「大丈夫です。

 任せてください。

 ほら、外がだいぶ暗いですし、

 お先にどうぞ。」


 星矢は、部長から音楽室の鍵を預かって、

 職員室に向かった。


「そう?

 んじゃ、お言葉に甘えて、

 よろしく頼むわ。

 んじゃ、また明日。」


 部長は手を振って別れを告げた。


 星矢は鍵を預かると、

 いつも翔太先輩と会話していた 

 教員駐車場の花壇に座ってみた。


 もうここでフルートの音色を聞いてもらうことはないんだろうなとしみじみと目をつぶる。


 真っ暗な外にぼんやりと光る電灯が

 あった。



 遠くでフクロウが鳴いていた。



「あれ、工藤。

 もう帰るのか。」


 偶然にも校舎の方から、

 駆け寄る翔太先輩がいた。


「あれ、先輩。

 どうしたんですか?」


 嬉しくて声が裏返った。


「え、えっとぉ、

 ちょっとトイレにね。」


「ん?」


 星矢は罰悪そうな翔太に

 疑問を感じた。


 部室にトイレあるはずなのになっと

 思った。



「何かあったんですか?」


「うん、聞いてくれる?」


「実は…。」


 翔太は、花壇に座り、星矢の隣で

 あーだこーだと野球部の不満を

 言い始めた。内容的には部員じゃなくて、

 ごく一部の女子のことに思えた。


「先輩、さっきから聞いてると、

 その話ってマネージャーのことですか?」


「え、そう。

 そうなんだよね。

 告白されたのいいんだけど、

 付き合ってる人いないって言ったら、

 なぜかその一言でいいよみたいな流れに

 なって、すごく困ってる。」


「え、それって、付き合ってるわけ

 じゃないんですか?」


「俺がはっきり言わないのが

 良くないんだよね。

 でも、今更言うのは気が引けて…。

 いつも逃げてる。」



「……。」


 付き合っているわけじゃないってことが

 わかってかなり星矢は喜んだ。

 ニヤニヤがとまらない。


「本当、なんでこうなったのかな。

 翔子と星矢と一緒に

 お昼ごはん食べるの

 楽しみにしてたのにさ。」


「…?」


 その話を聞いて、ドキッとした。


 素直に嬉しかった。


 これは期待しても良いのか。


 やっぱ、明日も練習続けようかな。



「そ、そうですよ。

 一緒にご飯、楽しみにしてました。」


「だろ?

 いっそのこと、翔子に頼んで

 付き合ってることにしようかな。」



「それ、僕じゃだめですか?」



「え?どういうこと?」



「えっと、僕と付き合ってるって

 言ったら、女子はたいてい 

 引いちゃうじゃないですか。」



「なんで?引くの?」



「だって、男と男が付き合ってたら、

 引くでしょう。」



「別にいいじゃね?」



「え、先輩、受け入れ可能なんですか?

 柔軟性ありますね。」



「本人同士が好きならいいだろ。」



(これって、期待していいのかな。

 いやいや、自惚れてはいかぬ。)



 首をブンブン振り回した。

 


「工藤、そういう系なの?」



「え?」




 風が強く吹いた。


 なんだろうこの感覚。


 星矢はなんとも言えない気持ちになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る