第7話 星矢の胸の鼓動と片想い

ある日の昼休み

星矢は、中庭で仲良くランチタイムを

している翔太とその彼女を教室の窓から覗いて見てた。


どうして急にあんなかわいい彼女と付き合うってことになったんだろうと気になった。


最近まで翔子先輩と一緒に3人で

食べていたのに、どのタイミングでそうなったのか。


星矢は悔しくて、舌を噛みそうになった。

4つ折りにしたランチョンマットの上、

母の作った唐揚げ弁当を頬張り、耳にはしっかりとイヤホンをつけていた。


外部との関わりはシャットアウトだ。


ぼっちめしでかわいそうだと

思われたくない。


強気でいられるパワーアイテムは

イヤホンの他に書店のブックカバーをつけた小説だ。これをクラスメイトに

見られたら恥ずかしい。

少しエロ要素が含まれた

ライトノベルだからだ。


まぁ、活字だから想像しないとわからない。

見ただけでは今の高校生には気づかないだろう。表紙さえ見なければ。



「ねえねえ。工藤。」


 突如、ツインテールに金髪の女子が、

 机に頭から目まで出して、

 話しかけてきた。


「……。」


 音楽を聴いてるふりして、

 無視をした。


「工藤が無視した。」


「……。」


話しかけられるのが不快だった。


食べていたお弁当を急いで、閉じて、

片付けた。


バックの中に乱暴に放り込む。


「ちょっと!工藤。

 話しかけたのに無視するの?」


嫌になって、走って教室から逃げた。



やっぱり、教室で食べるのは

ものすごく不愉快だ。


せっかく、翔子先輩と翔太先輩で

仲良く過ごせると思ったのに、

それができない。



無我夢中で目的をなく、走り抜けた。



前髪が伸びてきて、目が痒くなっていた。



こんなに嫌な思いするなら

教室じゃない場所で食べればよかったと

後悔する。



目的を決めずに必死に走っていたら、

無意識に中庭につながる渡り廊下まで

歩いていた。



さっきよりも近くから翔太先輩を

眺められた。



ラウンジで飲み物を買う生徒が近くを

通り過ぎる。



自分も飲み物を買って落ち着こうと、

ズボンのポケットに入れていた小銭を

取り出した。



何にしようか自販機の前で

じーと見ていると

賑やかに星矢の後ろを翔太とその彼女が

通り過ぎる。


分別されたゴミを捨てに移動していた。


星矢は全然気づいていなかった。


買ったばかりの缶ジュースが間違って、

コロコロと転がって、渡り廊下まで

行ってしまった。


コツンと誰かの上靴に当たった。



「ほら。」



 星矢は缶ジュースのことばかり見ていて、

周りを見ていなかった。

 缶ジュースをとってくれたのは、

翔太先輩だった。



「あ、翔太先輩。

 ありがとうございます!!」


「お、おう。工藤。

 気をつけろよ。」


「はい!」


 目の前にいて、顔を合わせて話せた。

 今日の収穫はそれだけでも救いだった。

 胸のあたりが苦しくなった。


 昼休みは話せないと思っていた。


 ぎゅっと缶ジュースをにぎりしめた。



 翔太先輩の隣にいた彼女は腕を

 さりげなく伸ばして、くっついていた。


 筋肉質の翔太先輩。

 触れるなんて、羨ましい。

 しかも急接近。


 こんなに近くにいるのに

 近づけない。


 先約がいる。


 

 はじめて人を憎んだ。


 いなくなればいいとひどいことを考えた。


 気持ちを切り替えて、

 きっと部活おわりのあの時間だけは

 一緒にいられるはず。

 今に見ておけよと心底思った。



 数時間後、


 いつものように今日は、

 部活が終わった後、自主練習をした。


 フルートの吹き方もだんだんと

 上手くなって慣れてきていた。


 窓を開けたまま、練習していると、

 外でキャキャという声がする。


 まさかと思って、フルートを持ったまま

 外を見る。


 デジャブだろうか。

 昼間見た光景と同じじゃないだろうかと

 錯覚する。


 翔太先輩は、彼女と隣同士に

 校舎の方へ歩いてくる。


 野球部グラウンドのフェンスの鍵を

 いつも返す先輩は、1人じゃなかった。


 そう、彼女というのは、

 野球部のマネージャーだったというのが

 今ここでわかった。


 星矢は一気にテンションが下がり、

 持っていたフルートをゆっくりとした

 動作で片付けた。


 その間にも彼女の嬉しいそうな声が響く。



 翔太先輩と一緒に職員室に行くという

 時間を奪われた。



 星矢は音楽室の電気を消して、

 ドアを施錠した。


 もう、ここで自主練習するのは

 やめようと決めた瞬間だった。


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