第9話 「星矢と翔太の交差点」

翔太が星矢に


「お前、そう言う系なの?」


その一言聞かれて、風が強く吹いた。


しばらく、口を開けることができなかった。

口が乾いてる感覚がある。


どうすればいいだろう。


チャンスのような気がする。


星矢は、勇気を出して、

声を出そうとした。


「翔太せんぱーい。

 いつまで、トイレに行ってるんですか。

 みんな、部活終わらせていいか

 困ってますよ。」


 噂をしていれば、野球部のマネージャーが

 やってきた。


 言いかけた星矢の口がまた閉じて、 

 下唇を噛んだ。



「あ、わるいわるい。

 今行くところだったよ。

 星矢、ごめんな。

 また明日な。」


 申し訳なさそうに両手を合わせて、

 謝る翔太先輩にきゅんとなる星矢。


 今、自分のことを工藤じゃなくて

 星矢って呼んでなかったかなと

 思い出す。


(おかしいな。

 最初、工藤だった気がする。

 せ、星矢って言ってくれた。

 うわ、すっげー嬉しい。)


 野球部マネージャーは、

 翔太先輩の左腕をさりげなく、つかんだ。


 チラッと星矢の顔を確認して、

 すぐに翔太先輩と話している。


 何となく、目が合って、

 気まずくなった。


 星矢は、職員室に行くことを思い出し、

 鍵をにぎりしめて、渡り廊下を歩いた。




◇◇◇




 翌日の昼休みに

 教室に部長が迎えに来た。


「工藤くん!」


「あ、先輩。」


 1年の教室に初めて来た翔子先輩は

 ドキドキしていた。

 ジロジロとこちらを見る生徒が

 多かったからだ。


「どうしたんですか?」


「昨日、話聞かなかった?

 翔太くんがまたお昼ごはん 

 一緒に食べようって。」


「あー、ああ、

 あれ、本当の話だったんですね。」


「そうだよ。

 嘘言ってどうするの。

 だから、私が迎えに来たの。

 一緒に行こう。

 お弁当持って。」


「あ、はい。今行きます。」


 すると、クラスメイトの金髪

 ツインテールの女の子が、

 興味津々で近づいてきた。


「先輩?」


「え?はい。どなた?」



「え、えっと。

 工藤くんの友達です。

 名前は、香穂って言います。

 先輩は?

 部長って言ってましたけど…。」


「そう、私。

 吹奏楽部の部長だから。

 ごめんね、行かないと。

 ほら、工藤くん。」


「え、工藤くんって

 吹奏楽部だったの?

 知らなかった。」


 香穂は驚いた様子で口をおさえた。


 何も話したことがないのに

 友達扱いされて複雑な表情の

 星矢は、何も言わずに

 翔子先輩に着いて行った。


 その様子を最後まで追いかける香穂は、

 教室でずっと静かに過ごす意外な

 星矢の一面を知れて嬉しかった。



 中庭に翔子先輩と一緒に入っていくと

 ごくりとつばを飲み込んだ。

 

 翔太先輩の隣には

 野球部マネージャーの

 あの人が座っていた。


 3人でお弁当を食べるもんだと

 思っていた星矢は少しその場から

 後退した。


 翔子は、立ち止まる星矢を気にして

 声をかける。


「先輩、先に行っててください。

 ちょっとトイレ行ってきます。」


「あ、うん。わかった。

 待ってるね。」


 トイレに行くんだろうなと見ていた

 翔太は、星矢を追いかけるように

 トイレに向かった。


 翔子先輩と野球部マネージャー。


「あ、はじめまして。

 翔太くんと

 3年でクラスメイトの佐々木翔子です。

 よろしくね。」


「あ、いつもお世話になってます。

 野球部マネージャーの2年 坂下郁美です。

 よろしくお願いします。」


「翔太くんと付き合ってるの?

 よく一緒にいるの見かけるから。」


「私は付き合ってると思うんですけど…。」


「ん?

 疑問系?」



「先輩は翔太先輩のこと

 どう思うんですか?」


「かなり直球で聞くよね。

 そうだなぁ。良き友人だけども。」


「先輩も初対面でガツガツですよ。 

 あ、さっきいた男子は何年の子ですか?」


「あーあの子は、

 私と同じ吹奏楽部で1年なのよ。」


「昨日、部活終わりがけに見かけました。

 女の子みたいで可愛いですね。

 肌白いし…。」


「ん?それは嫉妬かな?

 てか、男子に嫉妬するのね。」


「うーん。

 一緒にいる時間少ないですから。」


「……。」


 お弁当を広げるタイミングを失った翔子は、星矢と翔太が来るのを待った。




「星矢もトイレか?」


中庭からトイレに向かうところを見かけた

翔太は後ろから追いかけた。


「翔太先輩、そうです。

 トイレ行こうと思って…。

 先輩もですか?」


「ん?まぁな。

 ちょっと、息苦しくて…。

 抜け出したい。」


「そんなに嫌なんですか?」



「俺、女子と何話せばいいかわからない。

 特に付き合うって言われたあとの

 対応に苦しむ。

 友達付き合いなら話しやすいのに、

 ちょっとブレーキかかるんだよな。

 俺の中で。」


「翔太先輩って面白いですね。」


「どこをどう思って?」


「ははは…。」


 お互い会話をするのに

 リラックスしていた。


 自然とできるならこれでいいのになって

 星矢は思ってしまう。


 お互いにトイレで用を済ました。


 洗面台で手を洗っていると。


「なぁ、星矢。

 昨日の話。

 マジでしてもいい?」



「え?何の話ですか?」



「俺らが付き合ってるってこと。」



「・・・え? ど、ど、どういうことですか。」



「いや、断る理由が欲しいだけだから。

 頼む、今日だけ相手役してくれよ。」


 まんざらでもない。

 これが本当になってもなんら困らない。


「え、まぁ、そこまで言うなら

 いいですよぉ。」


「マジで?!

 いや、神様、仏様。

 星矢様!!」


 星矢は翔太に洗ったばかりの手をきつく

 握られた。



 中庭に戻って、

 なんやかんや話してる間に

 星矢と付き合ってるという

 説明をすると、郁美は中庭から

 走って逃げた。


 バックに広げた荷物を突っ込んで

 慌てて逃げていった。


 

 吐き捨てた言葉は


「気持ちわる!!」



 一瞬、その場が凍りついた。


 見事、郁美を弾き飛ばすことができた。


 翔太は良かったと安堵したが、

 気持ちわるの言葉に重くのしかかった

 星矢は頬に涙が伝った。


「星矢くん、大丈夫?」


「あ、目にごみが入ったみたいで、

 ちょっとまたトイレ行ってきます。」



 星矢は泣いてるところを見られたくないと

 トイレと行っておきながら、

 バックをそのまま中庭に残して

 屋上に続く階段を駆け上がっていった。


 カザミドリがカタカタと鳴っていた。





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