マネージャーの章 其の九 自分で出来ない事は他人にやら……任せよう

 まさかの大阪2連泊

 スッカリ日は暮れた。道頓堀の派手なネオンが道行く人を活気づけている。ボクってば、夕べ美波みなみに連れて行って貰ったお店で、ひとりたこ焼き丼をかっ食らっていた。


 見栄を切ったものの、週刊誌の出版を止めるなど出来んのか、ボク?

 あのキツネ目記者のことだ、明日の『白黒歌合戦』までには発表するだろう。ただ、現実的に今印刷をしていたとしても到底間に合わない。そうなると、十中八九Webサイトでのだろう。

 ハッカーを雇うか?はたまた、事務所に殴り込みをかけようか?イヤそれ犯罪な……。


あんちゃん、夕べ美波ちゃんと来た子やろ?そんなにたこ焼き丼を気に入ってくれたんか?」

「はい、そうです!マネージャーやってます。たこ焼き丼は初めてたべたんだけど、まさかの衝撃で!また、来ちゃいました」

「ハッハッハ!そうか、ほなぎょうさん食べてってや」

「ところで、道頓堀から少し外れた立地ですけど、あっちに移転しないんですか?結構儲かってるでしょ?」

 決して綺麗なお店じゃないし広くも無いが、店内はお客さんで埋め尽くされているのだ。

「まぁ、ぼちぼちや。でもおんちゃんの貯金だけじゃ道頓堀に店なんか出せんわ」

「あー、そうなんですねぇ。まぁ、でもお店は繁盛し……」

 ん?ちょっと待てよ……おおっ!イける、これならイけるぞ!!

「うおおおっしゃあああっ!!」

「オ、オイどないしたあんちゃん!?」

 ボクってば、たこ焼き丼を光の速さで完食すると、おんちゃんにまた大阪に来る事を約束し、店を飛び出した。


 プププ、プププ……RRRRR……

「あ、もしもしボクです。艶島あでしまです……」


 12月31日 15:46

 某出版社……


「おい!兄貴はどこほっつき歩いてんねや!?急がなと『白黒歌合戦』始まってまうわ!!」

「僕らだって知りませんよ!黒崎くろさき社長、何にも言わずに出て行ったし!電話も繋がらんし」

「ったく、役に立たない従業員やな!給料減らすでホンマ!はよ、社長のGOサイン貰わな大スクープをアップロード出来んやろがいっ」


 ったく、やかましいやでホンマ……ブツブツ


「ただいま〜。皆、仕事サボってへんやろな〜」

「兄貴!どこほっつき歩いてたんや!?何ヘラヘラしてんねん、気色悪い!はよGOサイン出さな、間に合わんで!」

「まぁまぁ、そんな目くじら立てんと。皆、手ぇ止めて聞いてくれ」

 ザワザワ……何や?倒産か、ついに倒産なんか?

「実は、本日付けで我が社は買収された……いや、してもろたんや。ホンマ有難いことやで、こんな万年赤字経営の会社ウチを」

「はぁ?何言うとんねん兄貴……」

 ザワザワ……

「それと、紹介したい方がおる。あ、どうぞお入り下さい」

「……え?」


「皆さん初めまして。本日付けでここのを務めさせて頂く事になりました艶島 斗威あでしま とういです。以後、ボクの許可無くして勝手は許しません。あ、そこのキツネ目君。コーヒーを頼む。インスタントはダメだぞ。ニチャァ」

「……」

「ん?おいキツネ目君、何だねこの記事は?クソつまんねぇデスネ。廃棄ね。あ、そこのキミ、坂井君だったかな?このノートパソコンとUSBをハンマーで破壊して入浴させてくれたまえ」

「ハイ!承知致しました!」

「ほほぅ、坂井君は元気が良いね!来年からボーナス2倍だ」

「ありがとうございます!!」


「……ォォイ!どういうつもりや!?このガキャァ!!」

「オイオイ、最高顧問のボクに対して暴言を吐くとは……黒崎社長、教育が行き届いてないようだが?」

「顧問!申し訳ございません!オイッ!土下座して顧問の靴を磨けや!!」

「あ、兄貴……」

「顧問!例の物をハンマーで処理し、入浴させてついでに焼却しました!」

「おお、ご苦労だったね。仕事は早いし気も利くようだ。さて、皆聞いてくれ。本日付けでボクは最高顧問を退任する事になった。後任は坂井君、頼んだぞ。黒崎社長、今後の売上げ次第で道頓堀へ移転も考えている。頑張ってくれたまえ。では、ボクはこれで」

「短い間でしたが、一緒に仕事が出来、光栄です!ありがとうございました!」

「あ、そうだ!キツネ目君……あ、やっぱいいや。じゃ」

「イヤ何もないんかいっ」

 ……

 ……


 12月30日 未明

「あ、もしもしボクです。艶島あでしまです。ワンコールで出ろよ、苑田そのださん!」

「クッ……何用だね?艶島あでしま……君。何も悪さしてないぞ」

「あー、そうじゃなくて。良い話がある。単刀直入に言おう。とある極小出版社を買収してくれたら、例の動画を削除しよう。億を支払うより余っ程お得やん?」

「何だ?そのエセ関西弁は!その話、本当だろうね?」

「あれ?疑うんですか?じゃあいいですぅ」

「イヤ、ちょっ待っ!受ける、受けようじゃないか!」

「ありがとうございます。苑・田・監・督」


 12月31日 16:12

 最高顧問を退任したボクは、特急列車へ飛び乗った。『白黒歌合戦』のスタートには間に合わないが、『ななイル』の出番までには何とかなる!それに、少しでも早く美波を安心させたい!


 19:48

 『白黒歌合戦』を収録中のMHT放送局に到着。しかし、やってもーた……スタッフパス忘れたやん。

「警備員さん、ボクってば関係者なんだ!中へ入れてくれ!ハァハァ」

「では、パスを確認します」

「忘れたんや!何とか入れてくれ!『ななイル』の武元美波たけもとみなみがボクを待ってるんや!ハァハァハァ」

「オイ!変質者だ!取り押さえろ!」

「イヤ、ちょっ、違っ!マネージャーなんや!『ななイル』の!」

「嘘つけー!!変態め!」

「ああっ!分かった!じゃあ、誰か男性スタッフを呼んでくれ!証明するから!」


 クッソォ……間に合ってくれぇ!


「あれ?艶島じゃないか?!何してる?」

「おっ、助かった!美波を呼んでくれ!パスを忘れて中に入れんのだ!」

「もう無理だよ、スタンバイに入ってる!ここから走って戻っても5分はかかるぞ」

「ああ、しゃあない!伝言を頼む!艶島が『もう大丈夫、心配ない!』と言ってたと伝えてくれ!急いで!」

「いや、別にいいんだけど俺、先輩な」

「あぁもう!すみませんッシタ!先輩お願いしまぁす!!」

「よし!任せろ!こう見えて実は学生時代陸上部のエースで、県体会まで行」

「はよ行かんかいっ!!」


 結局、ボクってば自分のミスで『ななイル』のステージを観る事は叶わなかった。けれど、後にスタッフづてに聞いた話では、今日のステージは武元美波が1番輝いていたとの事だった。




















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