マネージャーの章 其の八 スキャンダルとかやめーや

「どないしよ……」


 武元美波たけもとみなみよ……やってくれたな?

「てか『彼氏』ってどういうこっちゃ!?『なな色イルミネーション』は任期中(2年間)の恋愛は禁止やぞ!」

「すまん……」

 うっ!ショボン可愛よっ!イヤ、そうじゃない!

「何よりも応援してくれる『けやきファン』に失礼だわ!」

「ホンマにごめん……」

「ったく、もう!で、どんな状況をパパラッチされた?」

「えっと……彼氏としたところを」

「え……?そんなんは警察イケヤ!」

「ぷっ!路チューは、って意味やで」

「何笑ってんねん!!そんな事より相手は誰?」(路チューだと?なんてハレンチな……知らなかった)

「超絶イケメン俳優の藤堂蔵之助とうどうくらのすけ君です」

「オイオイ……それじゃ相手方もスキャンダルじゃんよ!大体にしてイケメンなぞ性格クソしかいないだろうが!遊ばれてんだよ絶対」

「そんな事ないねん!蔵之助君はホンマに優しくてエエ子なんや!うちの事、『本当に愛してる、3番目に』って言ってくれたんや!」

「オィィイ!美波……お前、アホやろ?」

「え……?そう?でもホンマやねん。自販機で缶コーヒーとか買ってくれるんよ?」

 ダ……ダメだ。完全にハマってる。恋をすると周りが見えないタイプじゃん。しかし、こりゃ一大事おおごとだよ。『なな色イルミネーション』始まって以来のスキャンダル……ボクってば、マネージャー歴3日なのだが。

「とにかくその記者に電話してみる!番号教えて!」


 汗をかいたグラスがカランと音を立てた。

「いやぁ、おまっとさんです!あ、お姉ちゃんホットひとつね」

 キツネ目に黒縁メガネの記者は、野崎のざきと名乗った。

「ここの喫茶店、よく利用するんやけど、ホットサンドが絶品なんや。是非食べ」

「ボクってば艶島 斗威あでしま とうい。無駄話はいいんで。まずは、写真見せて貰えます?」

 ボクの言葉に、野崎は口角を上げて封筒から数枚の写真を取り出した。それをテーブルの上に並べると、鼻先を指で擦った。

「どうや?上手く撮れてるやろ?」

 そこには、繁華街のレストランから出てきたカップルがキスをするところまでが、スライド映写機のように連続で写っていた。武元美波たけもとみなみは顔を歪めて俯いた。

「単刀直入に言います。この写真を買い取らせて頂きたい」

「うひょー!流石は『DAIKIプロダクション』様や。なんぼで買い取ってくれるん?……なぁんてな、残念!ワイは金より名誉が欲しいんや。大スクープやで?億でも売らんわ」

 クッソォ……腹っ立っつ〜!!

 仕方が無い、嫌だけど美波の為だ!マネージャーがタレントを守るんだ!


「野崎さまぁ!!この通りです!お願いしますお願いします!!さぁ、頭を踏みつけて○を吐きつけて下さい!!」

「いや、あのなぁ……金で動かんのに、アンタの土下座で何とかなるかいっ!はよ頭上げーや」

 クッソォ……やはりダメか。

「あ、野崎さんそのコーヒー、ボクが払」

「アホかー!!」

 クッソォ……やはりダメか。

「ウチはな、兄貴を社長としたっさい出版社なんや。従業員も3名しかおらん。こんな大スクープを絶対に逃すわけないやろ。大体にして、アイドルのくせに恋愛してんのが悪いやろ、このビ○チが!」

 美波は小刻みに震えている。膝の上においた小さな手は、涙で濡れていた。

「おい!最後のは悪口だろ!美波に謝れ!!」

 ボクってば、思わず野崎の胸ぐらを掴み罵声を浴びせてしまった。

「アデシー!やめて!」

「おお、怖っ。何や、マネージャーは暴力かいな?追加で書いたろ」

「クッ……ス、スミマセンでした」

 ああ、ボクってば最悪最低だ。状況を悪化させてどうする?

「うーん、そうだなぁ?美波ちゃんがワイのカキワ○になるっちゅうんやったら、考えなくもないで?」

 野崎は、そのイヤらしいキツネ目で、美波のカラダを下から舐めるように見た。

「野崎……テメェ……。もういい!行くぞ、美波!」


 ボクってば、美波の手を引き喫茶店を後にした。最悪だ、一体どうすれば……

「アデシー、ありがとう。もういいよ、全部うちが悪いけん。『ななイル』は辞める。メンバーには頭下げる事しか出来んけど……」

「美波、藤堂蔵之助を呼んで貰える?」

 一応彼氏なんだ。何かしら手助けしてくれるはず……。


「やぁ、美波。どうしたの?急に呼び出して。今日、撮影入ってて忙しいんだけど?」

 藤堂は、気だるそうにやって来た。眼鏡とキャップを被り変装しているけど、溢れ出るオーラは半端ない。道行く人もチラリと彼を見て通り過ぎて行く。

「初めまして。ボクってばマネージャーの~自己紹介~。実は……云々。どうか力を貸して下さい!」

「う〜ん、それは参ったな」

 藤堂は腕組みをして首を傾げた。暫く口をつぐんだ後……

「まぁでもさ、僕は役者だし事務所も恋愛NGじゃないんだよね。だから、別に写真誌に載っても『お付き合いしてました』で、済むよ」

「そうですか。けど美波はアイドルですし、彼氏として何とか助」

「は?彼氏?勘弁してよ。たかがキスしただけで彼女ヅラされてもねぇ。ま、そういう事で。意味分かるよね?それじゃ僕、忙しいんで。、お疲れ様でした」

 藤堂は美波に顔を近づけ、捨て台詞を吐き半笑いで去って行った。


「ごめんな、アデシー。迷惑かけてもうて。うち、やっぱり辞」

「ボクってば、杜宮もりみや家のお手伝いさんだったんだ。でも、ダディは『ななイル』のマネージャーなんて大役をボクなんかに預けた。だから、少なからず信頼してくれてるんだと思う。タレントを守れないなんてマネージャー失格なんだ。美波が辞めるなら、ボクも辞める」

「そ、そんな……」

「美波は、ボクを信じて!ボクってば、必ず何とかする!明日は大晦日、『ななイル』は『白黒歌合戦』に出場だろ?それまでにケリを付けるから、先に東京へ行ってて。美波はリハーサルの事だけ考えて、明日最高のパフォーマンスを見せてくれ。『けやきファン』も楽しみにしてるはずだから!」


 美波はボクに抱きついた。

 顔は見えないけど、もう涙は乾いていた。もうカラダも震えていない。ボクの胸にぎゅっと腕を絡めていた。


 美波は、やっぱり大きて綺麗な瞳をしていた。そして、ボクに力強い眼差しを送ると東京へ向けて出発した。


 さて、ここからはボクの戦いが始まる!




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