マネージャーの章 其の六 近畿エリア『武元美波』

 本日は大阪にてお仕事。

 ここのところ、のんちゃんは映画主演が決まったあぐちゃんに付きっきりの為、新人のボクが出張なのだ。ボクが今日お世話するのは、メンバーカラーオレンジ『武元美波たけもとみなみ』。間違いなく『なな色イルミネーション』のムードメーカー。そのトーク力はズバ抜けていて、コンサートのMCでは笑いが絶えない。背丈は小さいが、大きな瞳にカールした長いまつ毛。クセのある髪はトレードマークだ。今日はそのキャラを活かし、ゲスト出演する正月のお笑いバラエティの収録だ。


 さてと、楽屋はここか。

 コンコンコンッ

「失礼します!新しく『ななイル』のマネージャーに就任しました艶島 斗威あでしま とうい18……って、いない」

 トイレかな、はたまた打ち合わせとか?とりあえず待つか。

 ……1時間

 ……2時間

 えっと……?収録時間なのですが?

 コンコンコンッ

 お、来た!

「君、マネージャー?武元さんどうなってるの?もう収録始まるぞ!ちゃんと時間伝えてんだろうね?早く連絡して!」

「あ、はい、スミマセン!」

 オイオイ……『どうなってるの?』は、ボクも聞きたいのだが。もう収録時間2分過ぎてる!参ったな、連絡先知らないし、のんちゃんに電話して聞くか!出てくれるかなぁ?忙しいだろうなぁ。

 バンッッッ!!

「セーフ!!あ、そこのキミ!うちの荷物を頼むで!ほな!」

「えええっ!」

 イヤイヤイヤ、楽屋にいる知らん男にリュック投げつけて『頼むで』って……危機管理なさ過ぎ。後、全然セーフじゃねぇよ、アウトな。


 ボクがリュックを抱えて3時間……彼女は、やり切った顔で楽屋に戻って来た。

「フゥー、しんど。あ、お疲れさん!荷物おおきに。で、キミ誰?」

 キュートだ……めっちゃ可愛い。だがしかし、ナニこの人……。

「ボクってば、新しく〜自己紹介~」

「おお、そっか!よろしゅうお頼もう。なんか知らんけど、うちの担当するマネージャー直ぐ辞めんねん。キミは頼むで、

 なるほど、美波ちゃん……キミか、マネージャーが減った原因、イヤ元凶は。んで、って誰よ?

「早速で悪いんやけどジュースうてきてくれる?甘いやつがええ」

「は、はい」

 イヤ参ったな、会って2、3分だけど既に疲れた……。


「武元さん、買って来ました」

「あいや〜!うち、それ嫌いやねん!言い忘れたから、さっきテレパシー送ったんやけど届かんかったなぁ。あ、ギャグやで?うち、自分で買うてくるけん、ソレはアデシーに1億円で売ったるわ!あ、ギャグやで?飲んでてな!あ、あと硬っ苦しいの嫌やけん、美波みなみでええわ!『さん』とか『ちゃん』もいらんで。じゃ、買うてくる!」

 じょ、情報量半端ねぇ……。もはやマシンガン。でも『買うてくる!』の時のお目々めめぱちくりウインクは卑怯だわ……思わず推してしまいそう。


 こうして、マシンガンのように日も暮れた。明日も朝から収録がある為、東京へは戻らず、ボクってば初めてひとりでホテルに泊まる。大人だぜ!

「なぁ、アデシー今日泊まりやろ?一緒に夕飯食べへん?美味しいたこ焼き屋さん知ってんねん」

 ナナナ、ナンデストォォ!!

 これはもはやデートのお誘いじゃないですかぁ!!のんちゃん、えらいすんまへん。これは仕事上のお付き合いなんやで(分かる人には分かると思うが、関西弁は伝染しやすい)


「さ、着いた。ここやで、どや?」

 ほほぅ、何ともおもむきのあるお店。ここに『ななイル』の武元美波が来るとは誰も思うまい。

「オッチャン、いつものヤツ2つ頼むで〜」

 へぇー、常連さんなのか。あ!壁にサイン貼ってるぅ。なんかスゲー!ここに『ななイル』が来たと思うと興奮するぜ(隣に座ってるけど)

「お待ち〜」

「さ、食べよう、美味いで〜!」

「うん。では、いただ……えええっ?!ご飯の上に、たこ焼きが乗ってますが?」

「ん?当たり前やろ。『たこ焼き丼』知らんの?」

 はわわっ……合うのか?ご飯とたこ焼き、うまく付き合ってんのか?ちょっと不安なのだが……しかし、『郷に入っては郷に従え』だ!

「いただきます!あむっ……モグモグ。え?!う、美味っ!」

 警戒しながら口に入れたけど、タコがコリコリしてて、ソースとマヨネーズ、それと生地の出汁が効いて関西風タコ飯的な?!

「美波ちゃ……美波、これ男子が好きなヤツだね!マジ美味っ!」

「やろ?エヘヘっ」

 むほっ!まるで、自分が作ったかのように褒められて照れてるのめっちゃキュートやん!!やはり『ななイル』最強説は間違ってないんや!

「ところでアデシー、『あぐのん』の家に同居してるんやろ?」

「うん、お世話になってるんだ」

「で、どっちが好きなん?」

 ブフォッ!ナナ、ナンテコトヲ!!ちょっ……キュートなお顔が悪女に変わってるやん、口角上げてるやん。

「ど、どっちって……どっちだし。もっと言うなら美波の事も好きだし」

「ぷっ!アデシーってオモロいなぁ。そのちゃうで」

 え……?

「あのぉ、美波のアネキ……『好き』って、やっぱ種類があるの?」

「ぷぷっ!!アデシー可愛いなぁ。そや、『好き』には大まかに2種類ある。ひとつは『親』『友達』『推し』とかな。もうひとつは、お付き合いしたい、デートしてみたい、結婚したい、それと……Hやで」

 ブフォッッ!!

「オイィッ!エ、エッ……チ……アイドルが口にしてはイケナイワードや!!ボクってば、一応マネージャーでしょうがぁ!」

「まぁ、プライベートやし硬いこと言わんで。あと、口から噴射した水……うちに全かぶりやで」

「え?うわぁぁ!ごめんなさいごめんなさい!」


 大阪初日

 ボクってば、『好き』の事と初めてのホテルで一睡も出来なかった。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る