マネージャーの章 其の五 たかが豚の生姜焼きで満足する美人双子
この時期の太陽は早々に店じまい。あっという間に南の空にオリオン座が輝き出す。クリスマスが過ぎると、街は一気に
無事(?)にマネージャーとしての初仕事を終えると、頭の中は
「おっし、帰宅〜」
門扉を開けると、日本庭園に立ち並ぶガス灯がほんのりと灯っている。それが目に入ると、無事に一日を終える事が出来たと心がホッと休まる。緊張してカラダが萎縮していた数ヶ月前とは、180℃違う。不思議なものだなぁ。
ふと、玄関先にふたつの影が見えた。そう、
「おーい!
ボクが大きく手を振ると、
「おかえり、
「
「あははっ、いや、実は……カクカクシカジカ云々」
ボクは、今日の出来事をありのまま伝えた。果たして
「ええっ!あの
どうやら、美羽ちゃんは相当人見知りらしい。しかも、真面目過ぎて絶対にクールキャラを崩さないので、初対面のボクに対して、泣き虫な自分を晒すなど有り得ない事のようだ。そして……
「ええっ!
「イヤ貰うかいっ!正確に言うと、干したワケでは無く、今後悪さを働いたら動画をSNSにアップロードするという契約を結んだだけさ」
「イヤソレ脅しな……」
「ところで
「今日は響子さんがお休みだったので、お姉ちゃんとラーメンを食べに行こうと思って。
「え?いいの!是非」
「だーめーだ」
「え?お姉ちゃん?」
え……ちょっ、待っ……あ!そうダヨネ……
「あ、ボクってば夕食済ませて来たんだった!今日は
「ちーがーう。
ハゥア!なんか、こう、嬉しいかも。まさか推しメンがボクなんかの料理を食べたいとか言ってくれるなんて……幸せだぁ!
「それじゃ、3人でスーパーへ行きましょう!ね、
うひゃー!夜のお出掛けというだけでテンション上がるのに、この
当たり前だが、夏とは打って変わってスーパーのヒーターが冷えたカラダを包み込むと、心まで暖かくなる。まぁ、眼鏡が曇るのはご愛嬌。
「うーん、ところで何が食べたい?」
「
イヤ嬉しいけど困るやつぅ。どうすっかなぁ……お、豚さんがお買い得じゃん!ヨシッ!
「
「あー!私大好きぃ!それがいい、決まりね!」
ヨッシャ!即決有り難い。嫌だと言われたらパニくるところだった。
「ではでは、ロースタイプと豚バラタイプ、どっちがお好み?」
「うーん、どっちも好きだけど……どうする?お姉ちゃん」
「うーん、どっちもかな」
「イヤおいっ!どっちかにしてくれ!作り方が違うんだし」
「え?お肉の違いだけじゃないんだ?」
「そりゃそーでしょ!誰でも知ってるわ!じゃあ、女子だしアイドルだし、脂身の少ないロースにします!独断と偏見で!」
「あ!
「コラッ!やめなさい。全くぅ」
あれ……?ふと、目の端に見えたのんちゃんの顔が、どこか沈んでいる。
「のんちゃん、どうしたの?」
「え……!……うぅん、何でも無いよ。ただ
のんちゃんは、何故か苦笑いを浮かべた。ボクってば、何かやらかした?どうしよう……嫌われたら。
スーパーから外へ出ると寒さが身に染みた。芯から冷えるやつ。そして、また眼鏡が曇るやつ。帰宅すると早速調理にかかる!
「てか、何でいつも見に来る?やりづらいでしょうが!」
「……」
えええっ!
「まず『豚バラ』と『ロース』の違いだけど、前者はジャジャっと焼いて脂身をジューシーに味わえるタイプ。男子が好むやつね。今日作るロースタイプは、肉の旨味を堪能するって感じかな」
「……」
イヤまた無っ視!!真剣に見学し過ぎぃ!
「まずはタレを作っておきまーす。よく、味を染み込ませる為、タレに漬け込む人もいますが、調理の過程でタレが染み込むようにすれば問題無し!」
さて、砂糖、みりん、酒を混ぜ混ぜしてと、生姜、ニンニク、玉ねぎをすりおろして投入。ハイ、タレ完成。
「えー、ロースの場合お肉がパサつくという難点があるので、小麦粉をサッとまぶすよ。こうしておけば、タレも絡みやすくなるのだ」
「……」
なんか、こう、無っ視に慣れてきた自分がイヤ……。
「次。フライパンにサラダ油を入れて中火で裏表をじっくり焼き焼きします。こんがりしてきたら玉ねぎをドーン!混ぜ混ぜせず、蒸し焼きって感じで、これがポイントね!そして、玉ねぎがしんなりしてきたらタレをドーン!ちょっとだけ混ぜ混ぜして、タレを絡める。後は煮詰めればOK。美味しくなぁれ!」
「わぁ!!出た、
「そこは反応するんかいっ!ハイ、盛り付けは定番キャベツの千切りの上に並べて完成!さ、ホカホカご飯で食べましょう!」
「ん〜、いい香り!食欲を
「はむっ、モグモグ……ん!ロースなのにパサついてないし、タレがしっかりと絡んでる!これが小麦粉の効果ね。美味しぃ〜!」
「ご馳走様でしたぁ!!」
ハイ
「あー、腹くっちぃ」
「え?何?G○CCI?」
「お姉ちゃんったら、また仙台
「あー、ごめんごめん!『お腹いっぱい』って意味だよ。ハハッ」
「へぇー、そうなんだ」
それよりも、語尾の『ハハッ』はダディ譲りなのか……?
いつものように、
そして翌日……ボクってば、また驚きの展開をむかえる事となる。
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