マネージャーの章 其の五 たかが豚の生姜焼きで満足する美人双子

 この時期の太陽は早々に店じまい。あっという間に南の空にオリオン座が輝き出す。クリスマスが過ぎると、街は一気にせわしくなる。

 無事(?)にマネージャーとしての初仕事を終えると、頭の中は杜宮もりみや家の衣替え。門松にしめ縄、鏡餅も用意しないと。なんて考えてしまったけど、そうだ……今のお手伝いさんは、黒田響子くろだきょうこさん。ボクじゃない。なんか、こう、ちょっと寂しいような気持ちになる。


「おっし、帰宅〜」

 門扉を開けると、日本庭園に立ち並ぶガス灯がほんのりと灯っている。それが目に入ると、無事に一日を終える事が出来たと心がホッと休まる。緊張してカラダが萎縮していた数ヶ月前とは、180℃違う。不思議なものだなぁ。

 ふと、玄関先にふたつの影が見えた。そう、双子ふたりだ。


「おーい!双子ふたりともぉ、ただいま!」

 ボクが大きく手を振ると、双子ふたりもそれに応える。のんちゃんはおしとやかに手を振る。それに対して、あぐちゃんは両手を広げ、カラダいっぱいに応えてくれる。双子でも、こういう差はある。ボクってば、目が悪くてもどちらがどっちか直ぐに分かるんだ。


「おかえり、斗威とうい君」

艶島あでしま君お疲れ〜。で、マネージャー初日はどうだった?」

「あははっ、いや、実は……カクカクシカジカ云々」

 ボクは、今日の出来事をありのまま伝えた。果たして双子ふたりはどんな反応をするのだろうか?

「ええっ!あの美羽みうちゃんが、斗威とうい君にホントの自分をさらけ出したの?!」

 どうやら、美羽ちゃんは相当人見知りらしい。しかも、真面目過ぎて絶対にクールキャラを崩さないので、初対面のボクに対して、泣き虫な自分を晒すなど有り得ない事のようだ。そして……

「ええっ!艶島あでしま君が、あの苑田そのだ監督を干したって事?!確かに業界では有名なクズ男だけど、あの人に逆らえる人なんてほとんどいなかったのに……。で、貰うの?」

「イヤ貰うかいっ!正確に言うと、干したワケでは無く、今後悪さを働いたら動画をSNSにアップロードするという契約を結んだだけさ」

「イヤソレ脅しな……」

「ところで双子ふたりはお出掛け?もう暗いけど……」

「今日は響子さんがお休みだったので、お姉ちゃんとラーメンを食べに行こうと思って。斗威とうい君も一緒にどう?」

「え?いいの!是非」

「だーめーだ」

「え?お姉ちゃん?」

 え……ちょっ、待っ……あ!そうダヨネ……双子しまい水入らずが良いさね!危うく邪魔者になるところだったぜ!

「あ、ボクってば夕食済ませて来たんだった!今日は双子ふたりで行」

「ちーがーう。艶島あでしま君がいるなら、艶島あでしま君の手料理が食べたいのだよ、私は」

 ハゥア!なんか、こう、嬉しいかも。まさか推しメンがボクなんかの料理を食べたいとか言ってくれるなんて……幸せだぁ!

「それじゃ、3人でスーパーへ行きましょう!ね、斗威とうい君」

 うひゃー!夜のお出掛けというだけでテンション上がるのに、この双子ふたりと食材を買いに行けるとは……母ちゃん、産んでくれてありがとう(と、初めて思いました)


 当たり前だが、夏とは打って変わってスーパーのヒーターが冷えたカラダを包み込むと、心まで暖かくなる。まぁ、眼鏡が曇るのはご愛嬌。

「うーん、ところで何が食べたい?」

斗威とうい君が作るものなら何でも。ね、お姉ちゃん?」

 イヤ嬉しいけど困るやつぅ。どうすっかなぁ……お、豚さんがお買い得じゃん!ヨシッ!

双子ふたりとも、豚さんがお買い得なので、生姜焼きなんてどうでしょうか?」

「あー!私大好きぃ!それがいい、決まりね!」

 ヨッシャ!即決有り難い。嫌だと言われたらパニくるところだった。

「ではでは、ロースタイプと豚バラタイプ、どっちがお好み?」

「うーん、どっちも好きだけど……どうする?お姉ちゃん」

「うーん、どっちかな」

「イヤおいっ!どっちかにしてくれ!作り方が違うんだし」

「え?お肉の違いだけじゃないんだ?」

「そりゃそーでしょ!誰でも知ってるわ!じゃあ、女子だしアイドルだし、脂身の少ないロースにします!独断と偏見で!」

「あ!艶島あでしま君見て!この鶏ガラ、キミにそっくり!アハハッ!」

「コラッ!やめなさい。全くぅ」

 あれ……?ふと、目の端に見えたのんちゃんの顔が、どこか沈んでいる。

「のんちゃん、どうしたの?」

「え……!……うぅん、何でも無いよ。ただ斗威とうい君とお姉ちゃん、息が合ってるなぁって思っただけ」

 のんちゃんは、何故か苦笑いを浮かべた。ボクってば、何かやらかした?どうしよう……嫌われたら。


 スーパーから外へ出ると寒さが身に染みた。芯から冷えるやつ。そして、また眼鏡が曇るやつ。帰宅すると早速調理にかかる!

「てか、何でいつも見に来る?やりづらいでしょうが!」

「……」

 えええっ!双子ふたりとも、無っ視……。まぁ、しゃあない。気を取り直してさっさと作ろう。


「まず『豚バラ』と『ロース』の違いだけど、前者はジャジャっと焼いて脂身をジューシーに味わえるタイプ。男子が好むやつね。今日作るロースタイプは、肉の旨味を堪能するって感じかな」

「……」

 イヤまた無っ視!!真剣に見学し過ぎぃ!

「まずはタレを作っておきまーす。よく、味を染み込ませる為、タレに漬け込む人もいますが、調理の過程でタレが染み込むようにすれば問題無し!」

 さて、砂糖、みりん、酒を混ぜ混ぜしてと、生姜、ニンニク、玉ねぎをすりおろして投入。ハイ、タレ完成。

「えー、ロースの場合お肉がパサつくという難点があるので、小麦粉をサッとまぶすよ。こうしておけば、タレも絡みやすくなるのだ」

「……」

 なんか、こう、無っ視に慣れてきた自分がイヤ……。

「次。フライパンにサラダ油を入れて中火で裏表をじっくり焼き焼きします。こんがりしてきたら玉ねぎをドーン!混ぜ混ぜせず、蒸し焼きって感じで、これがポイントね!そして、玉ねぎがしんなりしてきたらタレをドーン!ちょっとだけ混ぜ混ぜして、タレを絡める。後は煮詰めればOK。美味しくなぁれ!」

「わぁ!!出た、メイおまじない!!」

「そこは反応するんかいっ!ハイ、盛り付けは定番キャベツの千切りの上に並べて完成!さ、ホカホカご飯で食べましょう!」


「ん〜、いい香り!食欲をそそられるわぁ」

「はむっ、モグモグ……ん!ロースなのにパサついてないし、タレがしっかりと絡んでる!これが小麦粉の効果ね。美味しぃ〜!」


 双子ふたりとも、豚の生姜焼きで満足してくれて良かったぁ!いや、待てよ……お腹が空き過ぎて何でも美味く感じてる可能性も……。


「ご馳走様でしたぁ!!」

 ハイ双子ふたりのハーモニー頂きました!

「あー、

「え?何?G○CCI?」

「お姉ちゃんったら、また仙台なまりが出てるよ」

「あー、ごめんごめん!『お腹いっぱい』って意味だよ。ハハッ」

「へぇー、そうなんだ」

 それよりも、語尾の『ハハッ』はダディ譲りなのか……?


 いつものように、双子ふたりが後片付けをしてくれた。その間にボクはお風呂。嗚呼ああ……何だ、この安らぎは。この生活がずっと続けばいいなぁ。なんて思いながら、明日に備えて早めに就寝した。自分じゃ気づかなかったけど、初仕事で色々疲れてたのだろう……ベッドでスマホを弄ってたら顔面に落下してきたのも気が付かず眠りについていた。


 そして翌日……ボクってば、また驚きの展開をむかえる事となる。



























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