マネージャーの章 其の四 億を動かす男(後編)

「あの、アタシ……監督の映画に使って頂けるなんて身に余る光栄なのですが、主演をするような立場ではありません。苑田監督作品の主演なら、やはりかのんさんだと思います。生意気言ってスミマセン」

 美羽ちゃんは、言葉を選びながら監督に素直な気持ちを伝えた。


「おいおい、冷たいね大園ちゃん。役者を選ぶのは僕だよ、キミが決める事では無い」

「あのー、苑田監督。億を動かす男が、ギャラを気にするってウケるんですけど。だって、かのんちゃんの人気は全く落ちてないですよ。SNSのフォロワー数はウチの大園より断然多い。このご時世、SNSの人気ってかなり大事だと思いますが?」

「あのさ豆もやし、誰に口聞いてんの?お前ごとき潰すのは訳無いんだよこっちは!因みに、ダイキは僕の後輩だからな、意味分かるよな?」

 ヨッシャー!乗って来たなジジイ。正体を暴いてやんぜ!

「あ、ごめんなさい。答えになって無いので、質問の答えを貰えます?」

「いちいちかんに障るな、お前よ!業界の事何も知らないガキが!いいか、僕くらいになると全て思いのままなんだよ!例えば、こんな事も!」

「キャッ!!」

 事もあろうに、苑田は汚い手で美羽ちゃんに無理やり抱きついた。その薄ら笑みの気持ち悪い事この上無い。ボクってば、絶対に許さない!だが、ここは冷静にいく!


「ちょっと!ウチのタレントに触らないで下さいよ!キモティワルイ」

 引き寄せた美羽ちゃんの腕は、凄く震えていた。目には涙を浮かべていたけど、その表情は決して苑田に屈してはいなかった。ボクは怒りに震えたが、ここは耐え忍ぶ。

「ったくよ。分かんねぇガキ共だな」

「分かってますよ!私が、監督のマンションに行くのを拒否したからでしょ?!」

 かのんちゃんも涙目だった。声も震わせている。けど、その瞳は力強く彼女の気持ちを映し出していた。

「チッ!分かってるなら何で来ないワケ?皆やってる事よ?何、まさか純情気取ってんのか?二十歳ハタチも過ぎてアイドルにしがみつきやがって!」

 クッソ!やっぱ、そういう事ね。このゲス野郎め!

「僕の作品に出たい女は星の数ほどいるんよ?あ、そうだ!大園、お前を筆頭に『ななイル』全員イッてやる。嬉しいだろ?メンバー揃って出演出来るんだから!イヒヒッ」

 美羽ちゃんは、もう耐える事が出来ず声を上げて泣き出した。かのんちゃんは直ぐさま寄り添い、崩れ落ちる美羽ちゃんを抱きしめた。ボクってば、女子を虐める奴ガチで許せん!

「えっと、苑田監督。イッてやるってナンデスカ?どこに行くの?」

「豆もやし……ハァ、僕は怒りを通り越して呆れるぞ。『ななイル』全員抱いてやるって言ってんだよ!何なら7人いっぺんに、ってか!イヒヒッ。後、お前もうこの業界に……いや、社会的に抹殺してやるよ」

「それだけは勘弁して下さい!無礼を詫びますからぁ!うわぁぁぁん」

「フフッ。もう遅いって!残念」

 苑田は高笑い。気持ち良さそうに……勝ち誇って……負け犬のボクを踏み潰すように。


「う、うう……監督、いや。これナーンダ?」

 ボクってば、シャツの胸ポケットからスマホを取り出した。

「は……?」

「テッテレー!」

 ボクは手首を回し、赤くなったシャッターボタンと、タイムカウンターが動いているスマホの録画画面を見せつけてやった!!

「監督ぅ、いや巨匠きょしょう!ボクってば、『ドキュメンタリー動画えいが』を撮ってみたのだが。デュフッ」

「このガキ……ふざけやがって!直ぐに消せ!」

「ハイむり〜。社会的に抹殺されるのは、どっちかなぁ?苑田巨匠、ボクの作品ってば……が動くぜ?」


 マネージャー初日……ボクってば、業界の大物をひとり抹殺した。






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