マネージャーの章 其の三 億を動かす男(前編)
「お前らも『ふわふわり』食べて、ふわっとしようぜ!」
「はいカット!OKでーす!」
何がOKだよ……『ふわっとしようぜ!』って『お菓子な薬』かよっ。誰だ、考えたヤツは?これマジで全国放送のCMで流すんか……
「あ、美羽さんお疲れ様でした!」
「お、おう」
それは、楽屋へ戻る為スタジオの廊下を歩いている時だった。
「あら?大園さんじゃない?!」
声を掛けてきたのは、別事務所の先輩アイドルグループ『すいーとホイップ』の
イヤめっちゃ気まずーい。
「デビューして1年も経たずにソロでCM?流石は天下のDAIKIプロダクション『なな色イルミネーション』ねぇ。なんと言っても……大園さんは関東エリア人気1位のアイドルですものねぇ」
ハイ、キタコレー。
うん、分かるよ、分かる。確かにキツいよね。これ人気商売の辛いトコよね!何だかなぁ……。でも、
「……まぁ、なんて嫌味を言っても仕方ないか。私もまだまだ負けないぞ!大園さん」
オィイイ!かのんちゃん、めっちゃイイ人じゃん!そりゃ人気ありますわ!!フゥー、ひと安心。
「あれ?かのんちゃん、それに大園ちゃん?あらまっ!1位2位が揃って談笑とは奇跡的だねぇ!」
イヤ、オイッ!!何言ってんだよジジイ!!○すぞ!!てか誰だよ?
「と言っても、大園ちゃんは初対面だよね?僕、
そ、苑田秀雄ォ?!日本映画界を代表する監督のひとりじゃないですかぁ!!
「苑田監督、おはようございます!あ、来春の件よろしくお願い致します」
「かのんちゃん、丁度良かった。あれ?その映画主演の件、事務所から聞いてないの?」
「え?っと、ウチの社長からですか?私はまだ何も……」
「あちゃー!参ったな。その件さ、白紙。ていうか、無しだわ」
「え……?何で、どうしてですか?私、役作りの為に髪も短くしたのに……冗談ですよね?」
「イヤ、ホントホント。何だよ、かのんちゃんの事務所、横の繋がりどうなってんの?酷いね、髪まで切ったのに。恨むなら自分トコの社長にしてくれよ?」
「そ、そんな……」
こりゃあ気まずい。聞かなかった事にしよう。さ、長居は無用だ!
「美羽さん、ボクたちはこの辺で……」
「おい、待ちなさい。大園ちゃんに話があるんだよ!てか、キミは誰?豆もやしみたいなキミ」
ハイ出たー。てか、会う人皆が言ってくるけど、そんな似てんの?それ
「初めまして。新しく『なな色イルミネーション』のマネージャーを勤めさせて頂いております
「マネージャー?!タイミング良いね、キミ!実はその映画の主演、大園ちゃんを起用したくて、ダイキ社長に連絡しようと思ってたところなんだ」
「……えええっ!何だって?!あと、まだ苗字の途中な」
かのんちゃんと美羽ちゃんは顔面蒼白で視線を合わせていた。
「何だ『ええ』って?僕が監督する映画の案件などそうは無いぞ。新人のくせに最高のマネジメントになるだろ!感謝して欲しいな?それとも何か?断るの?」
「え?!イヤ……あ、イヤってその嫌じゃなくて、断るなど滅相もないのだがでござりまするが……えっと、何と言いますか」
苑田監督は、ボクの視線が一瞬かのんちゃんに向いた事を見逃さなかった。
「ああ、かのんちゃんに……ね。気まずい?新人君、ひとつ教えてあげるよ。飛び上がって喜べ。優越感に浸れ。負け犬を見下してやれ。ここは、そういう世界だ」
確かに、言っている事は分かる。でも、『負け犬』とか『見下す』とか、それは違うだろ?何を楽しそうな顔してんだジジイ?
「オイ!その目は何だよ新人?どうせしょうもない給料で不味い飯食ってんだろ?こっちはな、億動かしてんだよ!僕に向けたお前の生意気な目つきで、その金が飛ぶ事もあるんだぞ!代償出来るのか?」
「しょうもない?イヤ、ウチの社長頭お菓子いんで、高校中退のボクに月25万ッスよ!流石に頭にきて、ようやく月20万まで落として貰いましたよ。全く常識が無いよ、彼は」
「いやお前もな……」
「ちょっと待って下さい!私、大園さんより何倍もキャリアがあるし、お芝居で賞を頂いた事だってあります!なのに、どうして?」
「はぁ?かのんちゃんさ、実力や実績があるのは勿論認めてるよ。でもさぁ、『人気落ち目でギャラが高いアイドル』と『人気急上昇中のギャラが安いアイドル』……キミならどっちを使う?僕、間違ってるかなぁ?」
かのんちゃんは口を閉ざした。真っ青になって俯く彼女の顔は、とてもじゃないが見ていられない。しかし、このジジイが言っている事は間違いでは無い。もしボクが監督だったら、やはり後者を選ぶだろう。
だが、このジジイ……何か胡散臭い。正論を述べている筈なのに、どうも気持ち悪い。かのんちゃんの反応にも違和感がある。単純に落ち込んでいるようには思えない。
臭ぇ……なんか、こう、臭いますよ。
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