マネージャーの章 其の二 デビュー戦『大園美羽』
「
12月28日
遂に、ボクってば
マネージャーの仕事は激務。担当のタレントをメディアに起用して貰う為、テレビ局や出版社に交渉。
ボクのデビュー戦、栄えある1人目のメンバーは、メンバーカラーイエロー、関東エリア代表『ななイル』のクールビューティー『
本日はチョコレート菓子のCM撮影。美羽姉さん、ソロのお仕事。頼りののんちゃんは別の現場。ボクってば、おひとり様での初仕事となった。のんちゃん
イザ、楽屋へ!
コンコンコンッ
「失礼しやっス!」
うおおおっ!艶のある長い黒髪、色白でスレンダーの長身、
「ボ、ボクってば、新しく『ななイル』のマネージャーになりました
……チラッ……すんっ
えええっ!チラ見しただけで挨拶は無し。威風堂々、長い足を組み椅子に座っている。手にはパックのオレンジジュース、ストローを口に加えて上下させている。
「あー、えっと、早速ですが今日の段取りを確認しまっス。まずはAスタジオでグリーンバックの撮影です。雲のように軽いチョコレート『ふわふわり』のイメージで、美羽姉さんが雲の上を飛び跳ね……え?」
えっと……何故、二本指をこちらへ向けていらっしゃる?イヤまさか……
「あの、美羽姉さん18っスよね?
「アタシがこうしたら、チュ○パチャプ○だろうがっ!」
「ヒィィッ!スミマセンスミマセン!」
棒付きの飴かよっ
えっと、ドコだ?よし、あった!
「ど、どうぞ……」
美羽姉さんの指の間に飴を挟み、段取りの説明を再開した。のんちゃん、本当に皆イイ人なのか……?前途多難じゃね、コレ?
「えー、その後はBスタジオでイメージキャラのフワリ君との撮影で……」
コンコンコンッ
「大園さん、スタジオ入り時間です。よろしくお願いします!おい、新人!さっさと動けよ、時間押してんだよ!」
「あっ!ス、スミマセン!急ぎます」
ったく、何でこの業界はいつも時間押してんだよ?だから皆ピリピリイライラしてんだろうなぁ。
撮影は順調に進んだ。美羽姉さんはどんな事もそつ無くこなす。楽屋ではあんな感じだったが、きっと台本を何度も読み返し、撮影に挑んでいるのだろう。NGは一度も無かった。『ななイル』のコンサートでも、歌詞や振り付けを間違えるのを見た事が無い。かなりプロ意識が高い、仕事熱心な人のようだ。
午前中の撮影が終わり楽屋へ戻った。ボクは、美羽姉さんと弁当を食べる事になった。
「ん」
「え?」
美羽姉さんは、ボクの目の前にペットボトルのお茶を突き出した。
「あ、自分の分あるんで大丈夫です」
「……違うだろ。フタを開けろ」
「え……あ、スミマセン」
クハァ、それくらい自分で開けて欲しいよ。まさか、こういうのもマネージャーの仕事なんか?
「はい、どうぞ」
「おう」
フタを開けたお茶を渡すと、ボソッと返答してきた。なんだソレは?『ありがとう』って意味なんか?まぁいいや。さて、早いとこ食べないとまたスタッフに怒られてしまう。
「いただ……き」
え……?今度は、目の前に弁当を突き出された。何?何なの?『あーん』すればいいの?ワケ分からんのだが……
「輪ゴム」
輪ゴ……イヤイヤそれくらい自分でやれよ。ちょっと美羽姉さんの印象が悪くなってきたわ。
輪ゴムを外し、念の為フタも取って弁当を渡した。ったく、『けやき』が知ったら応援減るぞ。まぁいい、さっさと食べるか。
「いただきま……」
えっと……美羽姉さん、割り箸をボクの頬をグイグイと押し当ててるのは、まさか……ですよね?
「あのぉ……」
「割れよ、分かるだろそれくらい」
「……」
ふぅ〜。落ち着け、ボク。これもマネージャーの立派な仕事なんだ。大した事じゃないし。そうだよ、ボクってば、温厚なタイプでしょうが……
……
……
「って、ちょっと美羽姉さん!これくらい自分でやったらどうなんです?いくら何でもこき使い過ぎだろ?オイッ!!」
し、しもーた……ついキレてもーた。
「あ、あのスミマセン!ボクってば初仕事なもんで!あ、割ります!自分に、割らせて下さい!」
……って、俯いてプルプルしてるのだが?長い髪で表情見えんのだが?ヤバいっしょ、コレ。
「う、うう……うえーんっ!!」
「え……?え、え?いや、ちょっ……泣っ」
めっちゃ泣いてるぅ!!ちょっと何なん?何が起きた?ヤバい、ボクの方がパニックを起こしそうだ!とにかく泣き止ませねばっ!
「ああ、あの、スミマセン!ちょっと大きな声が出てしまって……申し訳ございません!」
「うえーん!うう、うえーん!」
ちょっ……過呼吸とか起きちゃうから!どどどどうしよう??
「ああ、ス、スミマセン!ボクが悪かっ」
「……ヨシヨシして」
「え……?ヨシヨ……」
ボクってば、初仕事で緊張してた。神経がビンビンになってた。だがしかし……今は冷静だ。冷静なハズだが、何故か『ななイル』のクールビューティーにヨシヨシしている。
……ナニコレ?
暫くして、美羽姉さんは泣き止み落ち着きを取り戻した。
「あのぉ……スミマ」
「ごめんなさい!あの、アタシ……本当は、クールじゃないんです。でも、キャラを崩しちゃイケナイと思って、つい失礼な事を……うえーん!」
「ドゥワッチ!あああ、大丈夫です!全然大丈夫なんで!泣き止んで下さい!」
ボクってば、再び彼女にヨシヨシするのであった。大園美羽は……泣き虫ちゃんだったのだ。再び落ち着きを取り戻すと、失礼な行動についてを説明してくれた。
「アタシ、ペットボトルのフタ……開ける力も無いんです。ぐすんっ」
「え、イヤイヤ。そういう女子、結構いるみたいだし!ねぇ?!」
「それと、輪ゴム……パチンッてなるの、怖くて。割り箸も真っ二つに割れず……ぐすんっ」
「あー、そうだよね!輪ゴム怖ぇよね?割り箸もそうなるよね!ボクも中々上手くは割れないっスよ!アハハッ」
ク……クッソ可愛い!!これがギャップ萌えってヤツか!ヤバい……落ち着けボク!マネだ、ボクってばマネージャーなんだ!美羽姉……美羽ちゃんの秘密をバレないようにしなければ!
「
美羽ちゃんは、長い黒髪を指でクルクルしながら、頬を赤く染めていた。よう分からんが、ボクのマネージャー意識は初日から高まった。
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