お手伝いさんの章 其の十六 お誕生日に……

 12月24日 クリスマスイブ

 外の空気は冷たい。けれど、街の中心部は色を変え、温かい雰囲気に包まれる。デパートのショーウィンドウはクリスマス一色。どこからとも無く聴こえて来るクリスマスソング。装飾された大きなクリスマスツリーの前ではしゃぐ子供たち。その様子をスマホにおさめ微笑むママやパパ。サンタでケーキを売る学生のアルバイト。腕を絡めて歩く幸せそうな恋人たちは、いつもより増えているように感じる。目を輝かせてショーケースの中の指輪を見ている彼女。それを見て微笑む彼氏。12月24日は、皆が作り上げ、皆が幸せになる特別な日なんだ。


 ……が、それは一部の人間な。仕事が忙しくてそれどころじゃないヤツ。受験を控えてピリピリしてるヤツ。恋人たちのの字も知らない純真無垢なヤツ

 クリスマスを派手にやって、その後1週間やそこらで神社にお参りするとか、どんだけ開放的な民族なんや……ブツブツ


 と、こんな風に捻くれまくったボク艶島 斗威あでしま とういは、18年前のこの日に誕生した。誕生日ケーキは当たり前のようにクリスマスケーキ。唯一親に感謝する事は、クリスマスに関連する名前を付けられなかった事だ。本当に良かった。

 本日、杜宮もりみや家にはボクひとり。あぐちゃんは、歌番組のクリスマスライブ生出演。のんちゃんはその付き添い。ダディは……知らん。ボクってば、聞かれもしないのに自分の誕生日を公表する程アホでも無いので、3人とも知らない。まぁ、元々親にしか祝って貰った事が無いし、特に問題は無い。朝、母ちゃんから『おめでとう』のL○NEがあっただけで良しとしよう。全然悲しくない。何とも思わない。そう、ボクってば『無』だ。大体にして仕事が忙しいし、恋人のの字も知らん。無いのは受験くらいか。あ、少しだけ盛った……今日は忙しくない。早朝から夜までひとりなので、食事の用意がいらないのだ。そもそも炊事は好きじゃないし、得意でも無い。今日は朝昼晩、ご飯と味噌汁のみだ。午前中、掃除が終わるとフリータイムに突入した。


 あー、全然寂しくねぇー。


 ……さて、ボクってば野心家だ。必ずや夢を叶える!いや、夢では無い!目標だ!来年、ラノベ作家デビューするのだ!!

 そうだ、ボクに自由時間など無い。今日はひたすらペンを走らせる!今日の目標は2万文字……いや、5000文字にしておこう。無理は禁物、いいモノが書けなくなる。


 フゥー、だいぶ進んだぞ。えーっと……430文字。

 ……さてと、気分転換だ。市松人形型ドローン『お松ちゃん』と遊ぼう。おおっ、流石に外は冷えるね。よしっ!起動!

 ハタハタ……ブゥーン……

「さあ、飛べ!お松ちゃん!」

 おおっ、黒髪がなびいて綺麗だよお松ちゃん。ほほぅ、こうして上空から望遠でカメラを覗くと、御用達のスーパーがちょっとだけ見える。凄い物を作ったな、のんちゃん。

 あ!雪……どうりで冷えると思った。

「今年はホワイトクリスマスかぁ……クソが」

 さ、風呂に入って温まろうっと。結構風呂でエピソードネタが浮かんだりするタイプなんだよね、ボクってば。


 あー、いい湯だった。麦茶飲んで、続きを書こう。


 フゥー、結構進んだぞ……860文字。気が付けば外は真っ暗じゃん。今日はこれくらいで勘弁してやるか。そろそろ『ななイル』が出演する歌番組が始まるしな。

 確か19:00から20:00枠だったな。流石『ななイル』、ゴールデンタイムじゃないか!おっ!ほほぅ……KーPOPのグループも嫌いじゃないぞ。つい振り付けマネてしまうぜ。

 あ!出ました『なな色イルミネーション』!I.L.Yアイ・エル・ワイ(ILoveYou)!いやぁ、改めて破壊力半端ねぇ!あぐちゃんってば、やっぱプロなんだよなぁ。ボクってば、杜宮もりみや家にいるのが未だに信じられん。しかも、今日独り。あー『ななイル』の出番終わっちゃった。

 何だこのバースデーは。まぁ、しゃーない。もうひと筆やっとくか!


 フゥー、ヤバッ!4740文字まで書けたわ。やればできる子なんだよなぁ、ボクってば。もう22:48かぁ……トイレ行って寝よ。


 バン!

「ヒィィィ!え?停電?停電なの?」

 何も見えねぇ……だが、耳が敏感になる人体の不思議。

 カサ、カサカサ……タッタッタッ

「ヒィィィ!!」

 ちょっ、誰かいるじゃん。確実にいるじゃん……何なんだよ。泥棒さんなの?それとも、この世の者では無い系?ヤダ、どっちも怖い!!

 えっ!ちょっ……近い、絶対3メートル以内に、いる!

 嗚呼ああ……バースデーがデーになるんか。クソゥ……しかし、タダではやられん!

「誰だ!かかって来いオラァ!」


 パッ

「えっ、眩しっ!」

Happy birthdayハッピーバースデー!足でま君!ハハッ」

「ダ、ダディ?!」


 まさかのダディ……しかも、台車の上にやたらデカいプレゼントの箱。これ、あれだ……人、入ってるわ絶対。

「ん?てか、何でボクの誕生日を知ってるんスカ?」

「何で?って、雇用契約書に書いてあるよぉ!ハハッ」

 あー、そうね……そりゃ知ってるわ。

「足でま君に、バースデープレゼントを用意したよ!ハハッ」

「イヤ、やたらデカいッスね……」

 あ!こりゃあれだ!双子ふたりが入ってる?飛び出して『おめでとう』言ってくれるやつ?!ハァア、ダディやるじゃん!

「さぁ、ではオープン!ハハッ」

 ばんっ!

艶島あでしま様、お誕生日おめでとうございます」

 え……?

 黒髪ロングのお姉さん……誰?しかも綺麗な女性ヒト

「えっと……ダディ、コチラの方は?」

「よくぞ聞いてくれた!」

 イヤ聞くだろ確実に……。

「この女性は、黒田響子くろだきょうこさん。新しいお手伝いさんだよ!ハハッ」

「お、お手伝……あー!最近のんちゃん忙しいから?!代わりに?!」

NonNonノンノン違うよ!響子さんはの代わりさ!足でま君、ご苦労さまでした!お手伝いさんは……だよん!ハハッ」


 ……


 ……ハァア?!!?今って言った!?

「イヤ、ちょっ……待っ!ボクってば、誕生日に?!!」


 杜宮もりみや家へ来ておよそ5ヶ月……ボクのお手伝いさん人生は、アッサリと幕を閉じた。









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