お手伝いさんの章 其の十四 誕生日はやっぱ鍋でしょ?


 秋麗あきうらら、昼間はポカポカと暖かい日が多い。庭の手入れをしていると、少し汗ばむくらいだ。しかし、黄昏時から一気に冷え込む。この時期になると恋しくなるのが『鍋料理』。皆でひとつの鍋を囲むと、何だか気持ちまでポカポカしてくる。これは持論だけど、他のお料理と違って『また鍋食べよう』では無く『また鍋』と言うのは、単に美味しいからだけではなく、きっと楽しいからだと思うんだ。

 今日は11月22日、そう!杜宮もりみやあぐ、のん、双子ふたりの誕生日だ。

 晩ご飯は何が食べたいか?と聞いたところ『斗威とうい君のお任せで』と、双子ふたりは声を合わせて答えた。だったら、美味しくて楽しい『鍋』しかない!ってなワケです!


 今夜は、双子ふたりの出身地東北の『鍋』トップ3に入っている(自分調べ)秋田県の『きりたんぽ鍋』を作るぅ!!

『きりたんぽ』というのは、すり潰したご飯を竹串などに握りつけて、焼いたもの。因みに、視力が裸眼で0.1のボクが、遠目からきりたんぽとミルク味の棒アイスを並べられても分からないのである!


 さて、はじめにメインのきりたんぽを作る。使うお米は『あきたこまち』。これ重要な!この品種はふっくらモチモチで、おにぎりを作るのにも適した秋田県自慢の娘なのだ!温かいあきたこまちを、冷凍保存パックなどの厚手の袋に入れて、しゃもじなどですり潰す!(まぁ、1番はすり鉢使用な)。粒が半分くらい残る感じになったら、お手々に塩水を付けて割り箸に握りつける。んで、まな板などでコロコロして形を整えたら、茶色い焦げ目がつく程度焼くぅ!あとは割り箸を抜いて、斜め切り。はい、完成!!うわっ、美味そう……かぶりつきてぇ。うーん、そう、これは味見だ、味見なんだ!……ハフゥ、もぐもぐ。美味ぁ!

 し、しまったぁ!1本食うてもーた……。

 さぁ、気を取り直して、もうひとつの主役は日本三大地鶏がひとつ『比内鶏ひないどり』!秋田県から取り寄せた、最高級品だ!その赤身は締まりが良く、『噛めば噛むほど』タイプ!旨味成分タップリなので、鍋は勿論、スープにも合う。

 さてさて、コイツのガラでとった出汁に濃口醤油、砂糖、日本酒でお鍋つゆを作っておく。これで下ごしらえ完了!後は双子ふたりが帰ったら具材を入れてグツグツするだけだぁ!

 ……と、間もなくして仕事を終えたあぐちゃんと、その付き人をしていたのんちゃんが帰宅した。


「ただいまぁ。ううっ、寒かったぁ」

「えっ!ちょっと!双子ふたりともスゲェ!」

 双子ふたりは、花束やらプレゼントを山ほど抱えていた。

「いやぁ、流石『なな色イルミネーション』のあぐ様だわ」

「フフフッ艶島あでしま君……まだよ。明日、2tトラックいっぱいに届くから!ねぇスゴいでしょ?ねっねっ!」

 ク、クッソゥ!可愛い……この姫君ひめぎみけがれがまるでない。

斗威とうい君、今日はごめんね。家の事任せちゃって」

「イヤイヤ、ボクってば、お手伝いさんなので!あ、双子ふたりともお風呂に入っておいでよ!その間に夕食準備しておくから」

「ありがとう。楽しみ!さ、お姉ちゃんお風呂行こっ」


 よし!こっちは追い込みをかけるぜ!

 下ごしらえした鍋つゆの中に、ゴボウ、マイタケ、人参、その他諸々、そして比内鶏!煮えにくい素材から中火で煮立てる!

 グツグツ……

 よし!次!きりたんぽとネギだ!そしてラストを飾るのは『ななイル』ならぬ、『七草がゆ』メンバーのひとり……宮城県産の『せり』!この子は食べる直前にサッと煮て、シャキシャキで頂く!


艶島あでしま君〜!お風呂あがったよぉ!あっ!これはきりたんぽ鍋ぇ!!」

「わぁ、凄い!美味しそう!」

 ハゥウ!!嗚呼ああ双子ふたりお揃い色違いのパジャマ……ボクってば、祝う側なのに双子ふたりよりも幸せ。


「ではでは、あぐちゃん、のんちゃん……お誕生日おめでとうぉ!!乾杯ぃ!」

「ありがとう!!」

 グラスの音色と、双子ふたりのハーモニー……てか、いいのか?ボクなんかが生誕祭に参加してて?双子ふたりとも、きっとお呼ばれとかあったろうに……。

「あのー、双子ふたりとも、今夜ご予定とかあったのでは?その、パーティみたいな……やつ?」

「うん、あったよ。『ななイル』のメンバーと事務所のスタッフさんたちで。なんで?」

「イヤ『なんで?』じゃねぇでしょ!そっちに行かずお手伝いさんと祝うって、逆になんで?でしょうが!」

 双子ふたりは、同じ方向、同じ角度、同じタイミングで小首を傾げた……クッソ可愛いぃぃい!!

斗威とうい君。わたしたち双子ふたりとも、迷わずお家で斗威とうい君に祝って貰おうって……」

「そうそう、双子だからね。思考回路も同じなのかも……ああっ!がフニャフニャにぃ!!」

「え?うわっ!ごめんなさい!双子ふたりとも器を貸して!」


 双子ふたりの気持ちはよく分からんが、どうやらボクに気を使ったワケでは無さそうだ。だったら、精一杯祝ってあげたい!良かった、プレゼント用意しておいて。


「セーフ!せりがまだシャキシャキだぁ!美味しい」

「比内鶏につゆが染み込んで凄くジューシー!そして、きりたんぽ……」

 のんちゃんは、きりたんぽを箸でつまみ上げると、あぐちゃんと視線を合わせ頷き合った。

「せーの!!」はむっ……

 双子ふたりは、きりたんぽを口いっぱいに頬張った。

「んー!もっちもち!!」


「ご馳走様でしたぁ!!」

「フゥー、めっちゃ美味しかったぁ!」

「3人で鍋を囲むと、何だかとても楽しかった!」

 美味しかった、楽しかった……最高だよ、ボクってば本当に幸せ者だぁ!!

「え?なんで艶島あでしま君が?幸せ者それは私たちだよ」

斗威とうい君、また心の声が出ちゃったのよね?」

 ぐぉっ!危っねぇ!!いやらしい事考えてなくて良かったぜ……

「あ!えっと、あの……ボクってば、双子ふたりにプレゼントを用意したのだが……」

「えー!何何っ?」

「イヤそんな期待されると出しづらいでしょうが……今持ってくるね」

 な、なんだこの緊張は?なんか、こう、アクセサリーとか期待されてたらどうしよう?いざ、渡して苦笑いとかされたらヘコむどころじゃないぞ……ええい!もう後には引けない!行くぞボク!了解ボク!


「はいこれ、改めて誕生日おめでとう!!」

「……」

「……」

「えっ……ちょっ、待っ……」

 やったか?やっちまったか?苦笑いすらされねぇとか……ううっ


「あ、あのぉ……ちょっと期待ハズレだったかな?ハハッ。失敗、失っ……え?あれ?」


 ボクってば、ワケが分からんかった。夢とか妄想……?いや、現実逃避?あれ?でも、やっぱ……

 双子ふたりは、両側からボクの首に手をまわし……ぎゅっと、ハグしていた。いや違うな、ハグしてくれた。

 鍋のあとで、少し汗ばむくらいだったのに、凄く心地の良い温もりだった。やっぱ……ボクの方が幸せ者でしょうが。


 双子ふたりを表す『∞』の形をしたボクの手作りケーキ。今、ボクってばその真ん中にチャッカリいるんだ。お邪魔で無ければ……幸いです。

斗威とうい君、本当にありがとう」

 のんちゃんの優しい微笑みは、いつも隣りでボクを癒してくれる。

艶島あでしま君、サンキューね!」

 あぐちゃんの照れたような笑顔、『ななイル』あぐの時には見せない、ボクにとって特別な笑顔だ。


「ところで艶島あでしま君……ケーキ、どうしての形なの?性癖かな?」

「ヤダお姉ちゃん!そこは聞かないの!」


「あー……あー……ぶ、ぶら……」

「あれ?艶島あでしま君、動かなくなっちゃった。のんちゃんキスしてみなよ!動くかも」

「ヤダお姉ちゃん!やめてよ!恥ずかしい……」


 Happybirthday !Sweet twins!!
















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