お手伝いさんの章 其の十一 金髪野郎に食わせる鶏ちんたんは、無ぇ!

 クソゥ!!

 金髪サラサライケメンに、我の料理を食わす羽目になろうとは!!仕方がない、作るか……


 今日の夕飯は、横浜ご当地グルメ『サンマーメン』だぁ!!


 まずは人参、玉ねぎを薄切り。白菜とキクラゲは食べやすい大きさに。にんにくをだと思い、あらめにみじん切り!

「ウォリァァァ!!」タァァンッ!

 牛肉は細切りで。熱々のフライパンでごま油とにんにくを炒め、香りが立ったら強火で牛肉を炒める!

 そして、野菜どもも投入!最後にサンマーメンの主役『もやし』をサッと炒め、塩コショウで軽く味付け!ハァハァ……疲れた。

 さて、ここで隠し味……『マル秘スープ』を沸騰させる!そのスープを半分だけ先ほど炒めた具材に注ぎ、(水溶き片栗粉)でとろみをつける。

 さぁ仕上げだ!よく水切りしたゆで麺を丼に入れて、マル秘スープを注ぎ、最後にあんかけ野菜を乗っけて完成!美味しくなぁれ!!


「お待たせ〜。今夜は『サンマーメン』です!」

「うわぁ!お野菜がもりもり」

「ホントだ!私、あんかけ大好き!」

(知っていたよ、あぐちゃん。ボクってば、あぐ推しだからね。デュフッ)

「おい使用人。心做こころなしかオレの少なくないか?」


「さぁ!召し上がれ!」

「いただきます!!」

 あ〜、ボクってば双子ふたりの『いただきます』ハーモニーの為に頑張ってる!


「んー!お野菜シャキシャキ!」

「あんが濃厚でお野菜に絡むから熱々で美味しい!斗威とうい君、なかなか麺にたどり着けないよぉ」

「アハハッ!でしょでしょ!麺も楽しみにしててよ〜のんちゃん」


「あ!艶島あでしま君、私麺にたどり着いたぁ!え、凄い!スープが透き通ってる!綺麗〜!」

「お姉ちゃん、わたしもたどり着いたよ!アッサリ系スープかな?」

 じゅるじゅるっ

「え?!アッサリしてるんだけど、鶏の旨みが効いてる!!斗威とうい君、このスープは?」

 双子ふたりは、目を丸くしてボクを見た。うーん、欲しかった反応!待ってました!


「実は夕べから仕込みをしておいたのだよ。これは『鶏清湯とりちんたん』というスープなんだ。まずは、下処理した鶏がらに、長ネギや生姜などの野菜を加える。これを煮るんだけど、ポイントは!」

「水……?」

艶島あでしま君!私分かったかも!天然水とか?」

「へへっ。残念!正解は……でした〜」

「軟水!?どうして?気になるぅ、教えて斗威とうい君」

「んとね、硬水こうすいは元々ミネラルが多く溶け込んでいて、その分が少量しか溶けないんだ。逆に、軟水は鶏の旨味がたっぷりとスープへ溶け込むんだ!」

「スゴーイ!流石は斗威とうい君!」

「やっぱり料理人を目指すべきでは……」ボソッ


「それからもう1つポイントが!白湯ぱいたんスープは強火で煮る事で、油脂が染み出て乳白色になるのだけど、鶏清湯とりちんたんは真逆!弱~中火でアクや油脂を取り除きながら、じっくりコトコト煮る。それが透き通ったスープを作るコツなのだ!」

斗威とうい君……カッコイイ」ボソッ

「じっくりって、昨夜どれくらい煮てたの?艶島あでしま君」

「12時間張り付いて、アクをすくっておりました……」

「徹夜じゃん!!でも、その苦労があってのこの味なんだねぇ。私、ちょっとリスペクトしちゃう」


 双子ふたりは、サンマーメンを残さず綺麗に平らげた。そして、興味を持ってくれた。こんなに喜んでくれるなんて……ボクってば、徹夜した甲斐があったよ!クビにならなくて本当に良かったぁ。


「ところで金髪……政宗君は、どうだったかな?」

「え?あー……まぁ、不味くはなかったな」

 不貞腐れたようにセリフを吐き捨てた彼だったが、スープ1滴も残さずに食べてくれたようだ。ちょっとだけ、勝った気分。デュフッ


斗威とうい君、サンマーメンもやっぱりNOノーレシピなの?」

「いや、流石に横浜で食べたよ。その時、仕込み中の寸胴鍋を覗かせて貰ったんだ」

「それはつまり、見ただけで分かったんだよね?艶島あでしま君」

「いやそれ普通じゃん。まぁでも、小2の時だったから、昨夜思い出すのに苦労したよぉ。今回初めて作ってみたんだ!」

「へ、へぇー……」

 ……?何、何なのその反応?なんかボクってば変な事言った?本当は不味かったのか?ヤダもう……。いや、大丈夫!金髪だって残さずに食べたんだ、失敗はしていないはず。


「あ、ところで政宗君は双子ふたりとどんな関係?仙台訛り使っていたよね?」

「3人で風呂に入る関係だよ」

 ナナナ、ナンデストォ!!そんな天国あるか!!この嘘付き金髪め!

「懐かしい、よく3人で入ってたよねぇ。マサムゥと私たちは幼なじみなんだ。家が隣りだったのよ。」

 「どうだい?久しぶりに3人で入ろうぜ!あぐ、のん」

 ナナナ、ナンデストォォ!!

「オイ!!おま……ぶっコロ……」

「ヤダァもう!3人で入ってたのは幼稚園の頃でしょ〜」

 

 くっ!何なんだ、この疎外感は?蚊帳かやの外……ホームなのに完全アウェイじゃないか……もう意味分からん。

「あれ?なんで泣いてんだ、使用人」

「るっせぇ!鶏清湯が目に入っただけだわ!!」

「おい、あぐ。使用人のヤツ泣いたり怒ったり、情緒不安定か?」ボソッ


 その後すぐ、ボクってば洗い物をすると言い残しキッチンへと逃げ込んだ。おじゃま虫がいなくなって、さぞ楽しいだろうさ。


斗威とうい君。わたし、洗い物手伝うね」

艶島あでしま君〜。本当に美味しかった!また作ってね。ご馳走様!」


 嗚呼ああ……のんちゃん、あぐちゃん……


 ボクってば……今度は幸せ過ぎて泣いた。あれ?もしかしてボクってば情緒不安定なのか?









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