お手伝いさんの章 其の十 その男、マサムゥ

「と、斗威とうい君。お、お方付けしましょう、か?」

「ハイリョーカイシマシタ……」


 じー……くんくんっ

「匂う、匂いますねぇ……」

 あぐちゃんは、渋い顔で腕組みをしている。

「え?ごめん!玉子?昨日買ったばかりなのだが」

「イヤイヤ、違うよ。艶島あでしま君が匂う……」

「ええっ!ナンデストォ!毎日風呂入ってますけどぉ?」

 あぐちゃんは、手を上げ脇の下を嗅ぐボクに、顔を近づけた。いや近っ!いつも近過ぎて興奮……いや、緊張するんだわ!

「脇の下じゃないのよ。キミとのんちゃん……昨夜の一件から、どうもぎこちない」

 ビクゥッ!!ナニコレ?女の勘とかいうやつ?


「もしかして、キミたち……ヤッ」

「チョチョチョッ!ヤッ……とかアイドルが言う言葉じゃない!」

「え、何が?私は、キミたちがな事に巻き込まれたのでは無いか心配してるのだが?」


 ボクってば、勘違いもはなはだしい。本当に失礼極まりない。昨日の今日でガチのクビになるところだったぜ。だがしかし、確かにぎこちなくなっている。何とかしなければ。


 あぐちゃんが仕事に出かけて直ぐ、のんちゃんの方から話を持ちかけてきた。


「あの、斗威とうい君ごめんなさい!夕べの事は忘れ……出来れば、頭の片隅に置いて頂けると助かります」

 ボクってば、強ばったカラダを縮めているのんちゃんに、自然と手を差し出していた。のんちゃんはそれに応え、恐る恐る手を前に出した。

 ボクは、こんなにお互いの気持ちのが伝わる握手は初めてだった。それに、女子に対して自然な笑顔を見せる事が出来たのも初めて。全ては双子ふたりのおかげ。ボクってばたぶん、ほんの少しだけ成長している……かも?



 季節は移り変わり、夕方になると玄関に落ち葉が溜まるようになった。

 ボクがソレをかき集め、ゴミ袋に入れている時、ヤツは現れた。


「ちわッス!」

 サラサラの金髪イケメン……ボクの苦手な、いや、嫌いなタイプだ。

「あ、浄水器とか間に合ってます。見ての通り、ボクってば忙しいので」

「は?ここって杜宮もりみや家でしょ?いる?オレ結構んで、早く家に入れてよ」


 ボクってば、思わずソイツを二度見した。よ、呼び捨て……仙台なまり……嫌な予感しかしねぇ。絶っ対、入れねぇ!!


「ここはお前の来るような場所じゃねぇだぁよ。早く故郷へ帰りなされ」

「は?てか、お前は誰なんだよ?マジがおるわぁ……」

 ぐぬぬ……何か腹立つ、コイツの訛りは腹立つのだが。

艶島あでしま君〜。ちょっとのんちゃんとコンビニ行っ……あれ?じゃん!」

 マ、マサムゥ……だと?ニックネームゥ!!

「おう!お久〜。あぐ、芸能人のオーラ出てるし!いやぁ、可愛さが増し増し〜!のん、イヤイヤそんなにしちゃって!」

 っんだと!この野郎、どこ見て話してんじゃ!!

「え〜、そうかな?わたし、そんなに伸びてないよ?」

「ハハハッ!相変わらず天然ちゃんだなぁ」

「ホント久しぶりよねぇ?ちょっとコンビニ行ってくるからさ。あ、艶島あでしま君悪いけど、お茶でも出してあげてて」


 ぐぬぬぬぬ!!

 分かってる……ボクってばお手伝いさんだから、お茶も出すさ。けど、コイツには、出したくねぇぇえ!


 そういう訳にはいかず、ソイツをリビングにあげてお茶を用意した。○入りのお茶を出したいところだが、下手は打てない。とりあえず、熱湯のお茶を出した。

「なるほどぉ。キミはお手伝いさんか、フフッ。俺は青葉政宗あおばまさむね、よろしくぅ」

 おいっ!フフッってなんだ?クッソォ……ボクの居場所が汚れる。

「ボクってば、艶島 斗威あでしま とうい。さっさとお茶飲んでお帰り下さいね?君」


「ただいまぁ。ポティトティップス買ってきたから一緒に食べよう。ほら、艶島あでしま君も座って」

「あぐ、のん、こっちに座りなよ」

 えっ、ちょっ……

 あぐちゃん、金髪、のんちゃん

 何じゃその並びは?両手に華ぁぁ!!おのれ金髪!早いとこ帰さないと絶対に引っ掻き回される……どうする?どうすればいい、ボク。


艶島あでしま君ごめん、私にオレンジジュースお願い」

「う、うん。今持って来るね」

斗威とうい君、わたしも手伝うよ」

 ううっ、のんちゃん!やっぱり女神や!

「まぁ、のん座りなよ。使が持って来るよ。お仕事奪っちゃ可哀想でしょ?」


 オイオイオイ!!コイツは……コイツだけは、絶っっ対にDeleteする!!

 ……って、しかも双子ふたりの肩を抱くなぁ!!


「あれ?どうしたの?使用人。小刻みに震えちゃって。あ、オレお茶オカワリね。30秒で持って来て……なんてね!」

「やだぁ、マサムゥ。冗談キツイィ!艶島あでしま君、この人こんなだから気にしないでね?」

 あ、あぐちゃん……


 プルプルプルプルプルプル……


「そうだ!マサムゥ、今日泊まっていけば?斗威とうい君もたまには男友達も良いでしょ?わたしも食事の準備お手伝いするし」

「と、泊……」

 のんちゃんまで……

「えー!いいの?悪いね!という事で、宜しくね使用人君」


 プルプルプルプルプルプル……


「アハハ、こちらこそ夜露死苦。マサムゥ君」

「え、初対面だしな」


 母ちゃん、親父……ボクってば、彼を○しそうです。親不孝を、許してね。






















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