お手伝いさんの章 其の七 大物の苦悩
「終わっつぁああ!!ハァハァ……」
今更ながら、家、デカ過ぎ。掃除だけで午前中が終わる勢いなのだ。よく分からん武将の
気が付けばもうお昼。ひと息入れて、午後は『大』日本庭園のお手入れ(草刈りマシンは楽しい)。邸宅の離れには家1軒程の
「さてと、お邪魔しまぁす……え?」
重い扉を開くと、そこに広がるのは鏡張りのフローリング。これって……レッスンスタジオ?!隣接するのはガラス張りのレコーディングスタジオ!蔵じゃなかったのか!
あれ?ガラスの向こうに人影が……一応、掃除に来たと言っておくか。不審者と思われるのも面倒だ。おおっ、防音扉重っ!ん?ちょっと暗いな、間接照明しか付けてない。
「あのぉ、すみません。掃除に来た者です。レッスンスタジオからやっていきますね」
こちらに背を向けて椅子に座る男が、首だけ傾け振り向いた。
「やぁ、足手ま君か」
「あ、オジサ……ダディ。お仕事中でしたか!すみません」
様子がおかしい。いつもの明るく陽気な姿はなく、話す声も呟きのようだ。ダディにも、こんな時があるのか。そりゃそうか、
「あのぉ、何かお手伝い出来る事ありま」
「実はね……出来ないんだよ、曲が」
ダディは、またガクッと俯いた。大きなため息で、肩がゆっくりと上下した。スランプってやつか……。分かる、分かるよダディ。ボクってば、万年スランプ作家さ。
「来春、『ななイル』の1周年コンサートがあるだろ?そこで新曲披露する予定なのだが……」
「え……っと、ほら、まだ9月ですし余裕ぅ!みたいな……」
ボクってば、自分に驚いた。他人を慰めるような事、出来んだ?
しかし、ダディは無言のまま暫く動かなかった。
「くっ、ううっ……」
「えっ!ちょっ……泣」
まさか泣いてる?今、嗚咽したよね?どうすんの、これ!?こんな大物プロデューサーの抱えきれない悩みをこれ以上慰める事なんて……。嗚呼、ボクってば、改めて凄い家庭にいるんだ。務まるのか……こんなボクに家事手伝いが務まるのか?いや、
「ダディ……」
ボクは、ゆっくりと彼に近づいた。プロデューサーだろうが、アイドルだろうが、一般人であろうが、コレを嫌う大人はいないはず!
「良かったら、肩を揉……」
ポチポチ……ポチポチ……
……ス、スマホでRPGゲームやってんじゃねぇ!!しかも無課金んんっ!!
「え?なぁに?足手ま君」
「なぁにって……曲は?曲が出来ないのでは?」
「あー、それね!まぁ、そのうち出来るっしょ!ノープロブレム!あ、夕方から『ななイル』がスタジオ入るから、それまでに掃除お願いね」
「ナ、ナンデストォー!!『ななイル』が、ココにぃ?!」
「Hey!足手ま君、そりゃそうでしょ。『ななイル』は、『
「盲点っ!確かにそうだよな……がけど、まさか家の敷地内にレッスンスタジオがあるとか分かんねぇし!」
「Hey!足手ま君、そのまさかがアイドルを守るのだよぉ!アンダースタンッ?」
ボクは、壁一面の鏡とフローリングを鬼のように磨き上げた。会える、『なな色イルミネーション』に会えるかもぉぉお!!
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