お手伝いさんの章 其の五 広島風お好み焼き風お好み焼き

「おかえりなさい。あ!青色のフレーム!お姉ちゃんが選んだんだね!斗威とうい君、似合ってるよ」

「いやぁ、それほどでもぉ……(あるよ)」


 家に帰り着くと正午を回っていた。

 ボクは、お腹を空かせたあぐちゃんに急かされ、キッチンへ直行した。と、そこまではいいのだが、何故か双子ふたりは見学したがる……。なんか、こう、普段何気にやっている事も、人に見られているとやりづらい事って、ない?


「しゃー!では『広島風お好み焼き』作りまぁす!」

 何故か、双子ふたりの尊敬の眼差しと拍手を頂き、最初の作業。

「普通のお好み焼きとは異なり、生地をクレープのように薄く焼く。早速だが、ここで重要ポイント!生地の上に昆布茶の元を適量振りかける!隠し味的なやつぅ」

「おおっ、流石艶島あでしま君!」

「いや何が?次に、もやし、天カス、豚バラ、千切りキャベツをモリモリ乗せて裏返し、蒸らすように焼く。せーの、ヤァー!」

 パチパチパチッ


「えっと、いちいち拍手いら……結構です。そしてぇ、本体の隣りで牡蠣かきを焼きまぁす!次に麺!ここも重要。牡蠣を焼いていた場所で焼く。そうすることで、牡蠣の身から出た旨味たっぷりのエキスが麺に絡むんだ!そして、パリパリになるまで焼く!出来たらその上に、お好み焼き本体を乗せてぶっ潰す!美味しくなぁれ!最後に、薄焼きにした卵と牡蠣を乗せて完成!ソースと青のりをお好みで!」


「わぁ、美味しそう!やっぱり斗威とうい君凄いよぉ!」

「てか、『美味しくなぁれ』って何?めっちゃ可愛いんだけど?」

 あぐちゃんは、小さな口に手を添えてクスクスと笑った。

「は?美味しくなるおまじないでしょうが。誰でも言うでしょ、普通」


 シーン……


「えっ、ちょっ、待っ……普通言わない感じ?みんな言うのでは?」

「それって、きっと斗威君のママが教えてくれた大切なおまじないだと思うよ」

「そうね!でも、すっごく可愛いから止めちゃダメよ!」

 し、知らなかった……確かに、母ちゃんに料理習ったの小2だった。まさか幼い子どもが使うおまじないだったとは!くぅ〜、恥ずかしイィ!!しかし、双子ふたりも気に入ってくれたし、その後も癖が抜けず、料理の度にボクだった。


「うーん、美味しい!私、『広島風』初めて食べた!まさか牡蠣まで乗ってるなんて、贅沢ぅ」

「わたしも!普段食べているお好み焼きとは違って、具材と生地に混ぜ込んでないから、キャベツがシャキシャキしてる!」

 まさか、こんなに喜んで貰えるとは……作った甲斐があるなぁ。いや待てよ。お世辞、とかないでしょうね……?ブツブツ……


「艶島君、また心の声出てるよ。お世辞じゃないない!本当に美味しいよ!広島へ行くと、やっぱこんなに美味しいのが出てくるの?地元民アゲアゲだよねぇ、羨ましい」

「広島?行ったことないのだが?」

「え……?あ、地元のお好み焼き屋さんで食べたのかな?」

「は??」


 シーン……


「ちょ、待っ……えっと、コレは〜?」

「この前テレビドラマでヒロインが食ってたのを見て、美味そうだから作ってみたのだが?やっぱ不味かった?味付けが違ったのか……てか、最初に言ったよ?広島風お好み焼きって」

「はい?ドラマで見ただけ?レシピも無し?」

「レシピ?無いのだが?普通、見れば分かるでしょ、

 暫くの間沈黙が続き、その後双子ふたりはこっちを見ながらヒソヒソと話している。あー、それ知ってる。陰口な。何故?何故なんだ……


「艶島君、あの〜さ、改めて聞くけど将来の夢って、何だっけ?」

「勿論、ラノベ作家ですが?ボクにはそれしかないのだよ」

「ふ、ふぅ〜ん……もうちょっとだけ、視野を広げたらいいかもね?のんちゃん……」

「そ、そうだねお姉ちゃん……」

 え?何なん?意味分からん!双子ふたりは何故、苦笑いを……?


「そういう双子ふたりの夢はなぁに?あ、あぐちゃんはドームでコンサートでしょ?知ってた」

「いや勝手に決めないで貰えるかな?私も夢くらいありますぅ」

 膨れっ面も可愛い。一体どうなっているのだ?同じ人間とは思えん。てか、今更ながら推しメンと一緒に飯食ってるなんて信じられん……。しかも、普通に会話したりなんかして。まして、女子とまともに会話した事ないボクがあぐちゃんと……。


「のんちゃんの夢は何だい?あ!分かった、お嫁さんでしょ?」

「えっと、わたしはこれからもお姉ちゃんのお手伝いが出来れば、それが一番かな」

「またまた!お姉ちゃんの事は気にしないの!やりたい事、あるんでしょ?本当は」

「うぅん、本当にないんだ。だから、お手伝いしながら何か見つかればいいかな?」

 そう言って、のんちゃんは微笑んだ。本当にあぐちゃんの事が大好きなんだなぁ。夢は無理やり作るものではないし、きっといつの間にか、頭の中いっぱいに思い描く事が夢なんだと思う。今は何もなくたっていい。無理やり考える事でもない。きっと、のんちゃんにも自然とそれは現れる。ボクってば、柄にもなくそう思った。だって、のんちゃんは何事にも一生懸命な人だから。


「あ!そうだ!お姉ちゃん達がお出掛けしている間に、斗威君のお部屋を用意したの」

「ナナ、ナンデストォオ!」

 DIY、ものづくりが得意なのんちゃんは、空き部屋をリフォームをしていてくれた。必要最低限な机やベッド、ドアに付ける『斗威の部屋』ネームプレート、キャットタワーをリメイクした棚まで作ってくれていた。元は物置き部屋だと、恐縮する彼女だったが、ボクには贅沢な程広くていい部屋だ。

 この日ボクは、大宴会場から新しい部屋に引越した。何だか愛着の湧いた市松人形の『お松ちゃん』も連れて行き、棚へ飾った。


「そういえば、来週『けやき』限定のコンサートがあるんだけど、艶島君チケット取れた?」

「う、ううっ……取れなかったッス。無念」

「あのさ、良かったら……コレ」

 あぐちゃんは、ボクにストラップ付きのパスケースを手渡してきた。

「え?何コレ。……えっ?うぉぁあっ!ススス、スタッフゥパスゥ?!」

 そう、あぐちゃんは関係者だけが持つ、スタッフの通行証をボクにくれたのだ。


「観客席からは観れないけど、舞台袖とか普段入れない場所で観れるから、良かったら来てね」

 こんな事があっていいのか?やはり、ボクってば死期が近づいてる?嗚呼ああ、まぁいい。本望だ!来るなら来てみろ死神め!コンサート観るまでは絶対に死なねぇからよぉ。





















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