おもてなしの章 後編 恐怖!市松人形

「う、ううっ……あれ?」

 気が付くと、ボクはリビングのソファーの上で横になっていた。

「あ!お姉ちゃん、斗威とうい君が目を覚ましたよ!大丈夫?お風呂で倒れてたのよ」

 のんちゃんは、眉を八の字にして、心配そうにボクの顔を覗き込んだ。あぐちゃんは、何故か赤面しながら不機嫌な表情で寄って来た。

「そうだったのかぁ。それはご迷惑をお掛けしました!」

「え?てか、艶島あでしま君覚えて……ないの?」

「はい?うーん、龍が食中毒を起こしていたのは覚えてるのだが……」

 何だ?双子ふたりは何をそんなにドキマギしている?

「あっ!まさか!ボクのを見たンでしょ?!やだぁ、2人ともエッチっ」


 双子ふたりは、何故か少しだけ怪訝けげんな表情を浮かべた。けど、その後直ぐに顔を見合わせて、ホッとした笑みを浮かべた。ボクってば、お風呂でのラッキースケベも、のリトル斗威を見られた事も、全く覚えちゃいなかった。良いんだか悪いんだか……まぁ、双子ふたりが微笑んでくれたので、良かったのだろう。


「艶島君、別の部屋にお布団用意したから、今晩はそこで休んでね」

 あぐちゃんに案内されて、部屋へと向かった。やっぱ、まだ実感湧かねー!目の前に推しメンがいるとか……ごめんな、『けやき』のみんな!


「あぐちゃんは、明日仕事?」

「んだっちゃだれー」

「え?……ああ!」

『そうだよ』って事か。あぐちゃんは無意識なのだろう。仙台なまりに慣れる必要がありそうだな。

「さ、着いた。ここだよ」

「え……?いや大宴会場!」

 冗談だろ?たたみ50じょうはある。そのド真ん中に布団がぽつんと……ちょっとシュール。

「あ、あぐちゃん、ありがとう」

「いえいえ、ではごゆっくり!また明日ね」


『また明日ね』?……そうだ!ボクってば、明日から杜宮もりみや家のお手伝いさんなんだ。未だに夢のようだ。部屋が広すぎて落ち着かないが、早めに寝ておこう。

 シーン……なんか、こう、視線を感じる……

「ヒィッ」

 とこにいらっしゃる市松人形いちまつにんぎょうさんが……。ほんのりと照らされてて、不気味過ぎる。仕方がない、せめて後ろを向いて頂こう。床の間まで畳10枚はあるし、大丈夫だろう。しかし広い。ここってば、ウチのボロ団地3軒分はあるな。失礼しまーす。市松さん、今夜は後ろを向ててね。ふぅ、これで良いだろう。さて、早く寝なきゃ!


 シーン……カタッ

 ビクッ!

「何何何?……え?い、市松さん、こちらを向いた?」

 えーっと、アレだ、確か回転式台座に置いてあった。そうだろ?なぁ、斗威。大丈夫、背を向けて寝よう。


 シーン……カタッ、コトッ

 ビクッ!!

「え……ちょっ、待っ」

 床の間からぁ、畳みの上にぃ、うまく直立のままぁ、落ちた。やだもう、だるま落としもビックリだよねぇ。

「さぁ、寝よう……」


 シーン……カタッカタッ

「zzz……寝てますよぉ。ボクってば、何も気が付かず朝までグッスリですよ〜」


 カタッ……カタカタカタカタカタ!!

「ギャアアアっ!無理無理無理無理!!来るな、来るなって言ってるでしょうがっ!!こっち見んなっ!!」

 逃げろ、逃げるぞ!!

 あれ?えっと……四方八方、ふすまぁ!どこだ?出口どこだっけ?

 ガラッ!

 押し入れ!!

 ガラッ!

 押し入れ!!

「うわぁぁん!来るな、怖いヨォォ!!」


 ダッダッダッ……!!

 カタカタカタカタカタカタ……

 リレーかよっ!!てか、何周目!?

 バリリッ

「痛ったぁ!誰だよ、布団の横に眼鏡置いた奴は!ダメだ……もう走れん。イヤァア!来ないでぇ!クソォ……こうなったら!詠唱えいしょうっ!南無南無南無南無南無!止まれ、破阿阿阿はあああっ!!」


 カタカタ……カタッ……ぴたりっ

「と、止まった?!よっしゃあ!ボクの呪文を、ナメるなよ!ざまぁ!」

 カタッカタッ……ぎゅおんっ!ブゥーン!

「いやぁあ!目ぇ光らせて、飛ぶなぁ!!」

 嗚呼ああ……これが代償か!だよな、推しのアイドルと出逢い、家にお邪魔するなど、人生全ての運を使い果たしたでしょうが……ボクってば、一般の『けやき』どもに呪い〇されるんやな。

「母ちゃん、親父、さよぉな……」

 パチンっ

 え?部屋の電気がついた。あれ?でも、市松人形は飛んでる……ちょっとシュール

 ガラガラッ

「テッテレー!ドッキリでした!きゃははっ」

 あ、あぐちゃん?のんちゃん?ド、ドッキリ……?

「超人気アイドル『ななイル』あぐの裸を見た、罰でーす!」

「裸を見た?んなラッキーあるかいっ!!」

「ふぅーん、ホントに覚えてないのぉ?狂言じゃないのぉ?」

 いや顔近っ!!その距離わずか数センチ!うーん、きめ細かなお肌……いやいやそうじゃない。

「見てないって言ってるでしょうがっ!」

 ボクってば、思わず声を荒げて顔をそらした。


「あれぇ?どうしたの?真っ赤になって顔を逸らしてぇ。ニカッ」

「お姉ちゃん、やっぱりやり過ぎだよぉ!斗威君、本当に記憶飛んでるんだよ」

「うーん……そうみたいね。じゃあ、許してしんぜよう」


 一体何なんだ?この、修学旅行的なノリは……


「てか、何ですか、この市松人形は!?」

「ああ、これね!人形型ドローン『お松ちゃん』よ。可愛いでしょ?」

「……何を作ってんですか!全くぅ」

「ごめんなさい、可愛いと思って作ったんだけど……」

「イヤ、のんちゃんが作ったんかいっ」


 まぁ、何かよう分からんが、どうやら双子ふたりはボクを歓迎してくれたらしい。輝かしいステージとは違い、イタズラ好きなあぐちゃん。オドオドしてるけど、いざと言う時はしっかり者ののんちゃん。性格は全く違うけど、どちらも魅力的で……


「ようこそ、杜宮もりみや家へ!」

 あぐちゃんは、イタズラに微笑んだ。


































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