おもてなしの章 前編 お風呂といえばこの展開な

 つい、一昨日まで高校中退引きこもりニートドルオタだったボク艶島斗威あでしま とうい


 たかが普通のネギチャーハンで就職内定。別に料理に自信があるワケでも、好きでも無いのだが。両親が共働きの為、毎日イヤイヤ作ってただけ。けど、『継続は力なり』ってのは、満更嘘でも無いようだ。

 しかも、たまたまモブに絡まれていた女子を助けたら、超人気アイドル杜宮もりみやあぐちゃんの双子の妹だった。やはりおかしい……次に浮かんでくるのは……『死』

 しかし、怯えて過ごしても仕方がない。死を迎えるその瞬間まで、人生を謳歌してやるのだ!!


「艶島君、先にお風呂どうぞ」

 嗚呼ああ……推しメンのあぐちゃんが、ボクなんかにお風呂どうぞって、やっぱり逝くのは確定だな、こりゃ。


「あ、あざーす!でも、ボクなんか最後でいいッス!ほら、ボクってばお手伝いさんだし。先、どうぞ」

「ダメだよぉ。今日まではお客様だよ!のんちゃんを守ってくれた勇者だからね……」

 なな、何ですとぉ?!勇者、このボクが勇者!!嗚呼ああ、なんてもったいないお言葉。

「あ、それと……私が入った後の残り湯を飲まれたらイヤだし」

「のの、残り湯を飲……?!」

 なんてイヤらしい事を!!

 あぐちゃんってば、そんな卑猥ひわいな事を想像出来るとは!!むむ、残り湯を飲……うん、悪くない。イヤイヤ、ダメだ!速攻クビ切られるぅ!!


「なんて、冗談だよぉ!遠慮しないで。先にどうぞ!あ、タオルはこれを使ってね」

「ハハァ、有り難き幸せ!」

「いや、泣きながら正座しなくていいから。じゃ、後でね」

 なんて優しいんだ!頭のひとつも踏みつけてくれても良かったのに。

 では、遠慮なくお先に頂こう。あ、そういえば、母ちゃん心配してるよな。一応電話しとくか。

 プププ……RRRRR……

「あ、母ちゃん。ボクだけど……イヤ詐欺じゃねぇよ!本人だわ!え?どこって、東京だよ……あー小説は、ダメだった。絶対に諦めないけどな!……いや、帰らないよ……え?……いや、自死しねぇわ!実は、住み込みの仕事が見つかってさ。ボクも自立するのだよ……は?闇バイトじゃねぇよ!まぁ、落ち着いたら一度帰省するから……うん、約束する。じゃあ、また。父ちゃんにも宜し……え?303号室の佐藤さん?いや、まぁ知ってるけどそれが?……長女が離婚して出戻った?いや、どうでもいいわ!もう切るぞ、こっちも忙しいんだわ……」


 30分後……

 ったく、何でこうBBAの話は長いのかね?さてと、風呂に入って疲れを癒そう!ええっと、お風呂は……遠いな、大邸宅恐るべし。お!ここか……

 カラカラカラ……

 脱衣所も無駄に広いな。さてと、お風呂は……っと!

「え……?ちょっ、待っ!大浴場かよっ!」

 ファー!龍の口からお湯がドバドバ出てるし。食中毒かよ。しかし、この程良い薄暗さ、湯気も相まって神秘的だ。

 さて、カラダも洗ったし風呂に浸かろう。ふぅー、最高じゃん!温泉貸し切り。うーん、ボクってば『大浴場にひとりだと泳ぎたくなる病』なんだよなぁ。

 ざぶんっ……パシャパシャパシャ

「あー、犬かき気持ティー!」

 流石にのぼせてきたな、そろそろ上がるか。

 ん?……人の話し声?!あれ?脱衣所に人影が……あー!あぐちゃんとのんちゃんだ。ホント仲が良いなぁ……って、違ぁうっ!!

 オイッ!!こんな在り来りな展開を迎えるか、普通?ヤバい……マジでヤバい……ああ……ダメだ。どうしよぉ?

 っ!そうだ!石だ!ボクってば、お風呂を取り囲む石になる!奥の暗がりならバレんだろ?!そう、仕方がないんだ……ボクってば、メデューサに石にされたんだ!ボクは悪くない!いざ、石化!


 カラカラカラ……

「そしたら、その監督がさぁ……」

 ペチャクチャ、ペチャクチャ……

 キャッキャッ……

 ううっ……ダメだ、見てはイケナイ!艶島斗威!ボクってば良識ある男なんだぞ!!だろ?……だよな?……そのハズ?だよね?

 ドキドキ……

 1秒……1秒なら良くね?見た内に入らなくね?イヤ!何を言ってる!ダメだ!ダメダメ!ボクってば、ただの石なのだ!


「あー、いいお湯っ」

「うん、気持ちいいね。お姉ちゃん」

「あ!そういえばさ、艶島君って……」

 うわぁぁぁ!聞きたくない!悪口だろ?!絶対!!

「……めちゃくちゃ料理上手いよね?」

「うん!シンプルなチャーハンをあんなに美味しく出来るなんてスゴいと思った」

 ハフゥゥ〜、まさかの絶賛!!ううっ、泣けてくるぜ〜。

「あ!のんちゃんの胸……」

 っ!ついに来たな!知ってる、知ってるぞ!あれだろ?『また大きくなったんじゃない?』とか言って、ぷにぷに……『キャッ!やめてよお姉ちゃん!』……みたいなやつ。

 ボクってば、そんな事では動揺しないのでありまぁーす。


「……いいなぁ、相変わらず大きくて。えいっ!」

 ぷちっ、ボヨヨォ〜ン。

「キャッ!やめてよお姉ちゃん。!」


 ォォオオィッ!!引っ張っ……

 あぐちゃん!なんて卑猥ひわいな事を!!それは卑怯だろ!ボクの想像の斜め上ぇぇ!!くそっ、想定外や!

 むくっ……

 落ち着け、斗威とうい!!無だ、心を無にするんだ!!

 スーッ……


 ぷちっ、ボヨヨォ〜ン。

「キャッ!ダメだってばお姉ちゃん!」


 むくむくむくむくむくむくっ!!

 パシャ……

「熱っつ!!がお湯に浸……」

「え?今、『先っぽ』って聴こえなかった?」

 何でだけ聴こえた?!

「そうかな?わたしは何も聴こえなかったよ?」

「気のせいか……そろそろ上がろうか」

 カラカラカラ……


 シャッアー!!何とか乗り切った!良かった、本当に良かった。1秒も見てないし、ボクってば自分を褒めてあげたい。さて、ボクも上がるか。


「お姉ちゃん、わたし洗顔フォーム忘れちゃった」

「あ、いいよ。私まだ服着てないし取ってくるね!」


 カラカラカラ……


「え?」

「あ……」


 むくむくむくむくむくむくっ!!


 ブシュッ……


 ボクは、鼻血の勢いで仰向けに倒れた。そう、勇敢に立ち上がったリトル斗威を、全裸のあぐちゃんにさらけ出しながら……


 そこからの記憶は、ない。






























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