出逢いの章 其の三 業界用語的な?……あ、訛りね

 ちりーんっ


 ああ、風鈴の音色ってこんなに綺麗だったのか。クソボロ底辺団地では気付けなかったわ。

 こんなに穏やかな午後は、これまた初めてなのだが。うるさ……いや、陽気なもお出かけしたし、両手に花とはこの事でしょうが〜!

「ところであぐちゃん。ダディはどんなお仕事してるの?」

「あ、えっと『DAIKIダイキプロダクション』の社長兼音楽プロデューサーだよ。『ななイル』の作曲をしてるの」

「え……?社長って、アイドル界隈を牛耳ってるDAIKIって人だよね?」

「うん。パパ、杜宮大器もりみやだいきって名前だから」

「チョチョチョ、えええっ!!あの派手なオッサンが?!『ななイル』の可愛い曲の作詞作曲もしてるって?どんな思考回路してんだよ、オッサン!てっきり若い男の人だと思ってたわ!」

斗威とうい君、心の声出てるよ……」

「どうして顔出ししないの?やっぱ派手なオッサンだから?」

「と、斗威君……もはや心の声じゃないよ」

「ほら、私『ななイル』でしょ。だから、『合戦』は出来レースだとか、あぐは娘だから選ばれたとか、そう言われるの……嫌だし、悲しいし、何より悔しいからさ」

 そうだったのかぁ!大スクープじゃないかっ!!

「てか、ボクなんかに話して良かったの?」

「まぁ、艶島君誠実そうだし、秘密とか守ってくれそうだし。ね?のんちゃん」

「うん。そうだね、お姉ちゃん」


 ボクってば……ボクってヤツは、ものの数時間で超絶美人双子の信頼を勝ち取っていたとは!!やるじゃん、ボク!うん、ありがとうボク。


「ところで、あぐちゃんは今日オフなの?」

「オフっていうか、学校の試験近いしお勉強休暇?的な。ガッカリしたでしょ?こんな、上下ネズミ色ジャージで黒縁メガネのアホ毛アイドル……『ななイル』のあぐとは思えないよね?」

「そそ、そんな事ないっス!『あぐの休日』とかで、雑誌に載せても大丈夫なくらい!」

「そっか。優しいんだね、艶島君」

「いやぁ、それほどでも……こんなに無防備な杜宮あぐを知る『けやき』は、ボクだけなんだ!悪いな、一般のけやき諸君。フハハハハッ!」

「艶島君、また心の声が……」

「お姉ちゃんは、学年1位なんだよ。アイドルと学業を両立してて、わたし尊敬してるんだ」

 のんちゃんは、自慢げに、そして嬉しそうに微笑んだ。それを聞いたあぐちゃんも恥ずかしそうにはにかむ。ふたりは仲が良いんだなぁ。なんか、ほっこりする。ボクまで笑顔になるよ(こういう心の声は、出ない)


「のんちゃんも同じ学校?」

「あ、えっと……」

「のんちゃんはね、中退したんだ。『ななイル』のあぐとソックリだけど、お前は劣化版だとか、ダークサイドあぐだとか、どうだこうだ言われてさ。要はいじめ……私のせいで実は双子ですなんて言えないしね」

 あぐちゃんは、申し訳なさそうな顔で目を伏せた。


「それは酷いね!ボクってば、虐めとか大っ嫌いだよ!実は、ボクも中退してるのだ」

「そうなんだ。やっぱ虐められたんだね。艶島君、弱そ……真面目そうだしね!」

「いや今、『弱そ』って聞こえたような……まぁ確かに虐められてたけど。でも、やめた原因はちょっと違って、ボクが大切にしていた『ななイル』の限定クリアファイルに落書きされてさ……ブチ切れてソイツをボッコボコにして、ろっ骨を2本○って、顔面踏みつけて、○を吐きかけたら、何故か被害者のボクが退学になったんだ。理不尽な世の中だよね、ハハッ」

「へ、へぇー……大変だったね(相手の子)。あ、私そろそろ勉強するね。じゃ、また後で」


 夜の帳が下りた。

 日本庭園に立てられたガス灯に、ほんのりと灯りがつくと、まるで明治時代にタイムスリップしたような気分だ。


 勉強を終えたあぐちゃんが戻ってきて、ソファーに倒れ込んだ。

「あぐちゃん、お疲れ様」

「ありがと。あー、ぁ」

「え?ガオ……?」(業界用語?)

「いや、マジでわぁ……」

 ボクはワケも分からず、苦笑いを浮かべた。

「あ!お姉ちゃん、また出てるよ!『仙台なまり』」

「え?嘘?ごめんごめん」

「お姉ちゃん、油断するとたまに出ちゃうんだ。お仕事の時に出ないか心配なの」

「あー、そう言う事か!で、って何?ライオンかな?」

「うぅん。『疲れた』って意味なの」

「ごめんね〜艶島君。たまに出るけど気にしないで〜」

「あ、うん。全然っ!あぐちゃん、もしかしておばあちゃんっ子とか?」

「っ!!……ンダッチャ誰?」

「あ、ごめんごめん。『そうだよ』みたいな意味。また出ちゃった」

「アハハッ。いや、全然大丈夫!」

 ふと、のんちゃんを見ると、やはり苦笑いを浮かべていた。しかし、あぐちゃんは訛りも可愛い!


「のんちゃん。そう言えば、今日鈴木さん遅いね?」

「うん。もうそろそろだと思うけど」

「鈴木さんとは?」

「あ、お手伝いさんなんだけど。今日は、お夕飯だけお願いしてるの」

 なるほど。お手伝いさんかぁ、流石大金持ちや!改めて、ボクってば場違い感いなめねぇ……


 ガラガラガラ……


「あ!噂をすれば!」

「たっだいまぁ!ダディのお帰りだよ!さあ、2人共ハグしておくれYoヨー

「なんだ、パパか……」

「お父さん、鈴木さんがまだ来ないの。どうしたのかな?」

ohオゥNoノー!ダディは、家事代行サービスとの契約更新するの忘れてましたっ!SorryBabyソーリーベイベー

「ええっ!そんなぁ!」

 ったく、このオッサンは……。本当にあのDAIKIなのか?信じられん。

「えー!お腹空いたぁ。夕飯どうする?ウーハーミートゥ?」

「お姉ちゃん、わたし作るよ」

「えー!のんちゃんの料理美味しいけど、作るの2時間くらいかかるじゃん。待てないよぉ」

 あぐちゃんはクッションに顔をうずめて、足をバタつかせた。よほどお腹が空いているようだ。

「あのぉ……簡単なもので良ければ、ボクが作りますが?」

「え?艶島君、お料理男子なの?!スゴーイ!是非お願いします!」

「わぁ!わたし、楽しみ」

 まさか、引きこもりが役に立つ日が来るとは……そう、ボクってば引きこもりニートな上、幼い頃は鍵っ子だったので、共働きの両親に代わり炊事担当なのだ。まぁ、めんどくさいが仕方がない。


 よし!いっちょ、作りますか!













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