第83話 

 キャサリンに伝えられたことで、俺はマシロとカグラにも同じことを伝えることを決めて、その前にトゥーリの元へやってきた。


「トゥーリ、すまない。時間をもらって」

「いえ! アンディ様が、私に気を使う必要はないです!」

「そんなことはない。トゥーリも俺にとっては大切な存在なんだ」

「えっ?!」


 トゥーリは、とても意外な顔をする。

 それは、初めて見る顔で不思議な印象を受けた。


「わっ、私なんて何にもないです! アンディ様に大切なんて言われるような存在ではないですよ?!」


 トゥーリはいつも自信がない。

 

 他の女性たちよりも自分のことを劣っていると思っているからだ。

 だけど、それは個性であり、他の三人とは違う価値が俺には存在する。


「トゥーリ、君が自分のことをどう思っているのか、それは正直にわからない。だけど、俺のことを大切にしてくれて、君の笑顔を見ていると落ち着けるんだ」

「ハゥ!? そっ、そんなことを思っていたんですか?」

「ああ、迷惑だったか?」

「いっ、いえ! そんなこと言われたことがなくて……。私は本当に鈍臭くて、何もうまくできなくて、好きな絵を描くことばかりやっていて……」


 俺はトゥーリの絵を見たことがないが、シンシアの調査では、人気の漫画であると判明している。

 ミルディン家も裏から、後押ししたいほどだとシンシアが言っていた。


「トゥーリといる時が一番穏やかでいられるんだ」

「……アンディ様」


 トゥーリはいつも控えめな態度で俺を優先してくれる。


 女性が強いこの世界の中で、控えめな女性というのは、かなり貴重で珍しいタイプだ。強く、賢く、美しい女性が好まれると言われる世の中で。


 トゥーリは小柄で可愛く、控えめで、胸が誰よりも大きい。


「俺は、誰か一人を選ぶんじゃなく全員を選びたいと思った。キャサリンにはもう伝えている。マシロには、告白をしてもらった。カグラには最後に伝えるつもりだが、トゥーリの気持ちを聞きたい。俺はトゥーリも側にいて欲しい」


 これは俺なりの告白だ。


 キャサリンは、答えを先延ばしにした。


 マシロには、カグラにも伝えてから答えたい。


 だけど、トゥーリを蔑ろにして最後に伝えればいいなんて思えない。


「……嬉しいです! だけど、私がその中に入るのは恐れ多くて……」

「俺が側にいて欲しいじゃダメか?」

「ダメじゃないです! ダメじゃないですけど、自信が、ないんで! 私は……ただ、側にいるだけの存在なんて嫌なのです!」


 あ〜そうか、彼女にも意思がある。


 その意思を尊重しなければいけないんだ。


「トゥーリ。この世界は女性が男性を養っていることは知っているか?」

「はい。もちろんです。カグラ様なら王女様ですから、アンディ様を養うのも全然大丈夫だと思います」

「ふふ、それでいうなら資産が一番多いのはトゥーリ君なんだ」

「えっ? どういうことですか?」

「それが君の自信になるのかわからないが、トゥーリのことを家の者が調べてくれた」

「わっ、私のことをデスカ?! まさか!!」


 どうやらトゥーリは自分が漫画家として働いているのを知られるのを恐れているのかもしれない。


「ああ、漫画家として活躍しているんだな」

「ハウっ! そっ、それは決して、アンディ様に知られたくなかったのです!?」

「えっ? そうなのか?

「はい! 乙女にも隠したい部分はあるのです!?」

「あ〜それはすまない」


 資産の話をして、自信をつけてもらおうと思ったが、逆効果だったか?


「うーん、だけど、トゥーリが凄いってこと俺は知っている」

「えっ?」

「トゥーリの漫画は、王国だけでなく海外でも人気が出て、重版出来を繰り返すほどに売れに売れていると聞いたぞ。ただ、編集さんは、作家さんの秘密主義を大切にして、突き止めないようにしているが、感謝と報酬をもっと渡したいとな。我ミルディン家もトゥーリを後押ししたいとシンシアも言っていた」


 言い訳をしているように聞こえるが、トゥーリが凄いことをどうしても伝えたい。


「私が凄いのですか?」

「ああ、君の描く絵は大勢の人たちに認められている。それはカグラや、マシロ、キャサリンではできないことだ。トゥーリ、君には誰にもない才能がある」

「……本当に、私には才能がありますか?」

「ああ、間違いない」


 俺は手を伸ばした。


 自分で言っても途中から何を伝えたいのかわからなくなってきた。


 ただ、トゥーリに自信を持ってもらって、俺と共に歩んでほしい。


 それを伝えたい。


「私もアンディ様の支えになりますか?」

「ああ、もう支えになってくれている。これからは俺にできることがあるなら、トゥーリを支えたい」

「アンディ様が私を?!」

「変か?」

「いえ、アンディ様が言ったことは本当になります! だから、信じています」


 そう言ってトゥーリは俺の手を取ってくれた。


 そのまま俺はトゥーリを抱きしめて、一人目の正式な彼女になってもらった。

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