第81話 親友との語り

 悩んでいた。


 マシロの想いを知り。

 キャサリンへの断りを告げた自分の心に揺らぎを感じていた。

 多分、トゥーリは俺が選んだ道を応援してくれると思う。


 そして、カグラは俺を欲しいと言ってくれた。


「アンディ、いくぞ」

「こい! レオ」


 互いに剣を持って訓練所にいた。


 貸切にしてもらったので、レオと二人きりだ。


 二人でこうやって剣を交えるのはいつぶりだろうか? 学校に入学してからは一度も剣を合わせて戦いをしたことがない。


 レオが剣を振るう。

 今日は互いに模擬戦用の木刀を使用している。


「はっ!」

「ふん!」


 剣術はやっぱりレオに敵わない。

 だが、俺だって、ここまで何もしないでいたわけじゃない。

 剣以外の拳や足を使って、応戦するが……。


「くっ!」

「小細工が多いぞ、アンディ」

「ウルセェよ。お前みたいに剣術バカじゃねぇんだ」

「迷いがあるから、そんな剣になるんだ」

「わかるのか?」

「剣筋に迷いがあるからな」


 悔しいが、今のレオは強い。

 オレオとよろしくやっているんだろうな。


「お前は逆に強くなったな」

「そうか? 自分でも驚いているんだが、迷いはない。オレオと共に強さを手に入れて、突き進むだけだ」


 今のレオは清々しい顔をしていて、元々中性的で綺麗な顔をしていたこともあり、イケメンだと思える。

 誰が、レオのことを悪役貴族になるやつだと思うだろう?


 いや、今のレオをそんな風に思う者はいないと思う。


「お前はバカでいいな」

「誰がバカだ?!」

「くくく、お前だよ」

「そんなことをいう奴はパワースーツで倒すぞ?!」

「おっ? 本気でするか? だけど、建物を壊すのは無しだぞ?」

「魔法結界が張られているから大丈夫だろ?」

「ほどほどにな」


 俺たちは互いにパワースーツを纏った。俺は未だに胴の部分だけがパワースーツを纏うことができていない。


 腕、足、背部、頭には纏うことができたが、何故か全面部だけは今でも出現しない。


「まだまだだな。獅子王!」


 レオがパワースーツを召喚すると、全身に獅子の姿をしたパワースーツが生み出される。


 ジャバラの剣を引き抜いて構えた。


「パワースーツなら、お前に負けねぇ」

「それはどうかな?」


 レオの剣が俺を襲う。

 俺も炎を生み出して応戦した。


 一進一退の攻防が数分続くと次第に、ジリジリと俺の方が押され始める。


「なっ!」

「言っただろ? 俺に迷いはない! 戦いでは迷いをもった者が負けるんだ」

「うわあああ!!!」


 俺はレオの一刀で吹き飛ばされる。


 命のやり取りなら、まだやりようはある。

 だが、単純なパワー、スピード、テクニック。


 全てが、レオの方が上だった。


「はぁはぁはぁ!」


 パワースーツを解除して、俺は地面に倒れて息を吐いた。

 息を切らした攻防をしたわけじゃない。

 だけど、緊張と、敗北した自分の不甲斐なさで息が切れた。


「アンディ、お前はいつも先のことを考えている頭の良いやつだ」


 俺の隣に座ったレオが、パワースーツを解除して語りかける。

 

「だからこそ、余計な気遣いをして本質を見誤ることがある」

「本質を見誤る?」

「そうだ。結局は、お前がどうしたいかでいいんじゃないか?」

「俺がどうしたいか?」

「ああ」


 レオは木刀を持って立ち上がって素振りを始める。


「俺様は、バカだ。それは認める。だけどな、バカだから余計なことを考えないで、一つのことだけを大切にできる。俺様は、アンディを親友だと思っている。マシロを妹のように思っている。オレオを愛している。そして、母上を大切にしたい。それだけだ」


 レオが素振りをやめて俺を見た。


「お前は誰が大切で何をしたい? 相手が望むことをしているつもりでも、自分がしたいことをしていないなら、それは後悔することにならないか?」

「俺がしたいことをしなくちゃ後悔するか……」

「お前は俺様が不甲斐ない姿を見せても、親友を辞めなかった。もしも逆の立場なら、俺様はお前を見捨てていたのかもしれない。俺様には、お前を助ける方法が思いつかないからだ」


 レオは俺が動いていたことを知っているようだ。

 実家に帰っていたと言っていたから、ハインツ家で聞いたのかもな。


「だけど、お前は俺様を助けてくれた。だから、俺様から言えることは、お前がどんな未来を選択しても、たとえ全ての女性から嫌われるようなことをしたとしても、俺はお前の親友で、困った時には手を貸そう」


 そう言って寝転んでいる俺にレオが手を差し出した。


 俺はその手を取って体を起こした。


「だから、お前はお前の好きに生きてみろ。そこに女の気持ちも、俺様の気持ちも考えなくていい。お前が選びたい道に進めばいいんだ」

「やっぱりお前はバカだな。レオ。マシロをもらうぞ?」

「だから、言っただろ。俺様の気持ちも考えなくていいって」


 コツンと木刀を当てられる。


「お前はずっと全員を大切にしてきた。俺様はそんなお前を誇りに思う。それにもしも厄災の魔女ベリベットが来たとしても、俺様とオレオがエンゲージを結んで倒してやるから安心しろ!」


 本当に心強い親友だよ。


「わかった。好きにさせてもらう!」

「ああ、お前は小難しいことを考えないで突き進め」

「おう!」


 レオに励まされる日が来るなんて思っていなかったが、俺は気持ちを決めることができた。

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