第77話 家族の交流
入学式で味わった恐怖に、身を震わせて講堂を出ると、体当たりを受けた。
「えっ?」
「兄様! お会いしたかったの!」
そう言って抱きついてきたのは、一年ぶりに会う妹のシンシアだった。
マシロやレオと過ごすようになって、たまに交流は持っていたが、学園に新入生として入学する一年間は会っていなかった。
「シンシア、入学おめでとう」
「兄様のことはすぐにわかりましたの! またカッコよくなられて素敵ですの」
俺が俺として目覚めた時からずっと変わらないシンシアのラブコールは、今でも変わってはいない。
「ありがとう。シンシアは少し大人っぽくなったね」
幼い見た目をしていたシンシアは、胸が成長して、妖艶な雰囲気を纏っていた。
「そうですの! 私は兄様のために綺麗になりましたの」
「俺のため?」
「もちろんですの! 全ては兄様のためですの!」
そう言って俺の腕を自分の胸へと押し当てるシンシア。
「ウォッホン!」
「あわわわわ」
わざとらしく咳払いをするカグラ。
カグラの態度にオロオロとするトゥーリ。
二人の態度に俺は苦笑いを浮かべてしまう。
「シンシア・ミルディンですわね。ワタクシは!」
「知っていますよ。カグラ・ダークネス・ヤンデーレ様。それとトゥーリ様ですの」
「なっ!」
「王女殿下を知らない貴族はあまりいないと思うのですの」
「わっ、私のことも知っているでありますか?」
「ええ、兄様の周りにいる女性は全て把握していますの」
ミルディン家の情報を取り仕切る人物。
それが実は母上ではなくシンシアだった。
彼女は、操作系の能力者で、生き物を操ることができる。
しかも操られた者たちが見たり、聞いたりしたことを自分が見知ったように解析して知らせる魔術を使う。
虫は人とは違う思考回路や視線なので、どうやって感覚のチャンネルを合わせているのか知らないが、ミルディン家の情報を集める中核を担っているのがシンシアだ。
「改めまして、シンシア・タクト・ミルディンですの。どうぞよろしくお願いいたしますの」
微笑むシンシアの威圧は、これまで他者を圧倒してきたカグラですらも、笑顔をひくつかせる。
「さぁ、兄様! 私に学園を案内してくださいですの」
「ああ、そうだね。今日はシンシアに付き合うよ。カグラ、トゥーリ、すまないが今日はここで」
「えっ、ええ。ワタクシはトゥーリと過ごしますわ」
「はっ、はい! 凄い妹さんですね」
二人ともシンシアの態度に圧倒された様子で、承諾してくれた。
「兄様、どちらかお一人を選ばれるのですか?」
「どちらかと言うよりもカグラからプロポーズはもらっているよ」
「そうですか、ならばミルディン家一同、カグラ王女を見極めるようにいたしますの」
「それは怖いな。だけど、よろしく頼むよ。俺だけでは彼女を支えることはできないからね」
「もう、兄様! 支えるわけではありませんの」
「ふふ、二人とも楽しそうだな」
そう言って、シンシアとは逆の腕に抱きついてきた女性がいる。
「レティシア姉様」
「シンシア、久しいな」
姉妹が会うのは、二年ぶりのことだが、ミルディン家は連絡を密に取り合っているので、それほど久しぶりな感覚はなかったりする。
「レティシア姉様、私の兄様との時間を邪魔しないでくださいの」
「そういう言い方をするものではないぞ。私もあまりアンディとは話せる時間がないのだ。こうして公の場でアンディと話をできる機会は少ないのだ。学年事に行われるイベントや時間の設定が異なるからな」
「む〜もっとずっと兄様と居たいのに」
シンシアとレティシアの両方から腕を組まれて歩くのは、少しばかり歩きにくいが、美人な姉と美少女な妹に挟まれるのは悪い気はしない。
それに彼女たちは、今後のクイーンバトルで重要な仲間だ。
邪魔扱いをすることなど絶対にしてはいけない。
むしろ、最上級のおもてなしをしなければいけない人物たちでもある。
それぞれの魔法は戦闘でトップに立てるものではないが、それ以外ではかなりの有用性があり、特にシンシアの情報網は、今後の戦いにかなりのアドバンテージになる。
「兄様、今日はいっぱい甘えてもいいですの?」
「もちろんだよ、シンシア。それとレティシア姉さんのことも許してあげてくれよ。今日は久しぶりの家族水入らずでいたいんだ」
「仕方ないですの。兄様が私たち二人をご所望なら受け入れますの」
「ふふ、アンディは優しいな。私は弟と妹の二人から愛されて嬉しいぞ」
入学式から家族がいるものたちは、家族の元へ。
友人知人がいる者は、友人の知人の元へ赴いている。
キャサリンの姿は結局見えないまま、マシロも姿を見せなかった。
レオが帰ってきても、マシロは俺たちの元へ顔を出すことはなかった。
彼女はクロード王子の申し出を受け入れたのか? それも俺にはわからない。
だが、ここからはそれぞれの道を歩むことになるだろう。
「兄様、ランチにしましょう」
「ああ、そうだな」
「それと、夜には一緒にお風呂に入りましょう」
「えっ?」
「うむ。それはいいな。姉弟妹水入らずで、裸の付き合いも良いものだ」
「いや、二人とも成長したよね?」
「ふふふ、家族ですから問題ありませんの」
「うむ。問題ないな!」
グイグイ来る姉妹は、どうしてそこだけはそっくりなんだろうか? 俺はため息を吐きながらそれを受け入れる。やっぱり兄弟姉妹なのかな?
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