第76話 新入生
長い休みが終わりを迎え、新年度が始まろうとしている。
だけど、それは新たな歓迎の雰囲気というよりもどこかでどんよりとした、暗い影を落としているように見える。
皆が、わかっているのだ。
今年の一年間は準備期間であり、来年からクイーンバトルが開始されることを。
参加を表明したい者。
参加するのが決まっている者。
傍観者を決める者。
それぞれがそれぞれの想いを持って、学園生活を過ごすことになる。
「アンディ」
「レオ!」
数ヶ月ぶりに見るレオは、身長が伸びて見上げるほどに大きくなっていた。
俺も高い方だと思っていたが、高身長のグリーンと変わらないほどに大きい。
俺たちは拳をぶつけ合う。
「偉く成長しているじゃないか!」
「ここ数ヶ月、母上の元で修行をしてきたからな」
「それで?」
俺はレオの後に控えるオレオ嬢に目を向ける。
彼女もどこか雰囲気が、前にやった時とは違って魔力の充実を感じる。
俺は実際に魔法を使えるわけではないが、気配でそういうのがわかるようになった。
「改めまして、アンディウス・ゲルト・ミルディン様。オレオにございます」
貴族の女性が取るような礼儀作法を見せるオレオは、どうやらハインツ家で相当に鍛えられてきたようだ。
「レオ」
「ああ、女王の話は聞いた。俺様は自分が情けない姿を見せたことが恥ずかしい。レオが救ってくれたんだろ?」
「実際は、オレオ嬢が命をかけてお前を取り戻してくれたんだ」
「わかっている。オレオには一生をかけて共に歩んでもらうつもりだ」
「そうか、決めたんだな」
「ああ、俺はオレオを女王にする」
レオの言葉に、俺は胸がチクリと痛むのを感じた。
俺が知っている乙女ゲームの世界では、レオは、常にマシロのことを想って、マシロを愛していた。
悪役貴族として、闇の結社に利用されるはずだった。レオを救うことはできた。
だけど、マシロとの恋路は別の女性を愛するという形で変わってしまった。
だが、それがレオの決めた道だというなら、俺はそれを後押しするだけだ。
「後悔はないな」
「ない! むしろ、嬉しいんだ。俺様にこんなにも好きな人ができるなんて思いもしなかったから」
レオが、オレオを見れば、オレオも嬉しそうな表情で、レオを身返していた。
「なら、俺がいうことは祝福だな。二人ともおめでとう。俺は二人を応援する」
「ありがとう。アンディ」
新学期になってレオが復帰したことは喜ばしい。
だけど、学園の雰囲気が重いことに変わりはない。
何よりも、俺はキャサリンの姿を探したが、彼女の姿を見つけることはできなかった。俺の隣にはカグラとトゥーリが並んでいる。
「トゥーリ、よかったな」
「はいなのです! オレオ氏が元気になって戻ってきてくれたのです。私はそれだけで嬉しいです」
新入生を迎えるために講堂に集まったはずなのに、トゥーリはオレオの姿に涙を流して、少しおかしかった。
カグラにも彼女たちの事情を話しているので、カグラはトゥーリを気遣うように接している。
「トゥーリ、よかったわね。ワタクシもとても嬉しくてよ」
「ありがとうございます! カグラ様!」
カグラとトゥーリの中でも友情は芽生えていると思う。
身分の差はあるが、二人の絆は、ちゃんとできているんだ。
「新入生代表、主席アビス・メフィストさん」
そう言われて壇上に上がった女性を見て、俺は一気に自分の背中が冷たくなるのを感じた。
闇の組織は、一人一人が顔がなく個性がない存在だと言われている。
だが、一人だけ教祖を務める人物だけは、闇の組織の代表として、厄災の魔女と並んでこの世界の悪役として登場する。
「新入生代表を務めさせていただきます。アビス・メフィストと申します。現在の王国は大変な危機に見舞われています。そんな王国であっても強く、美しく、賢く成長できるものだけが、この世界で生きていけるのだと、私は信じています。どうぞ、男性方々、私のような女性を選んでいただけるのなら、たくさんの愛を伝えたいと思います」
年下とは思えない慈愛に満ちた笑顔を向けられて、男性たちはその美しさに目を奪われる。
俺だけは彼女の姿に震えを覚えていた。
厄災の魔女ベリベットが、一騎当千の武人とするならば。
闇の教祖アビス・メフィストは、カリスマの煽動士だ。
彼女の言葉一つで、人の心は動かされ、彼女の行動一つ一つに人は注目する。
「皆様に愛を伝えるため、私は天からこの身を授かったと想っております。どうぞ、皆様の愛を私にお与えくださいませ」
彼女が頭を下げると、男性だけでなく女性たちから拍手と歓声が上がる。
俺の隣にいるトゥーリとカグラも拍手を送っていた。
不意に、視線を感じれば、壇上から俺を見つめるアビス・メフィストがいた。
その視線は光を映しておらず、俺だけに見えるように口が動く。
「あ・な・た・ですね」
それは何を意味するのか? メリッサたちのことなのだろう。
闇の組織を相手に俺が行ったことを想い。
背中に冷たい汗が流れた。
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あとがき
どうも作者のイコです。
いつもお読みいただきありがとうございます!!!
本日は宣伝です。
明日、4月10日に書籍が発売します。
道にスライムが捨てられていたので連れて帰りました。
カドカワBOOKS様より、発売されます。
ほのぼのとしたオジさんとスライムの交流を、癒しと笑いをお届けしながら、阿部さんの生き様を書いております。
どうぞ店頭で見つけた際には、手に取って表紙を開いてみてください。
ほのぼのとした雰囲気が伝わってくると思います。
ご購入いただければ嬉しく思いますので、よろしくお願います(๑>◡<๑)
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