第71話 女王死去
突然の訃報に学園では動揺が走っていた。
年越しを迎え、気分は年明けの浮かれ模様だったにも関わらず、あまりにも大きなニュースによって雰囲気は全てが壊された。
王国を支え牽引してきた女王の死はあまりにも大きな衝撃を与えた。
近衛魔導騎士53名と共に女王の死が伝えられ、それを行なった名前として厄災のベリベットの実行犯と報じられたのだ。
厄災の魔女ベリベット自身も女王の反撃を受けて、大きな痛手を受け、追撃隊としてマックーロ家とカーン家が協力して行っているが消息は判らない。
訃報を受けて、俺はすぐにカグラの部屋に向かった。
ノックをしてから入室すると、クロード王子に出迎えられる。
カグラの姿は部屋の奥に見えて、窓に向けられていた。
声をかけるのを躊躇われる。
「ミルディン。すまないが、今は妹と二人にしてくれないか?」
二人の姿に言葉をかけることができなかったので、俺は立ち去ろうとした。
だが、そんな俺をカグラが呼び止める。
「お兄様、申し訳ありませんが、お兄様が外へ出てもらえませんか?」
「なんだと!」
「彼と話をしたいのです。お兄様も今後について話し合いを行うべき方がおられるのではなくて?」
悲しんでいると思っていたカグラは、窓の向こうを見つめたままでこちらに振り返ることはない。
むしろ、その声は強く凛とした物だった。
「……わかった。ミルディン、妹を頼む」
クロード王子がカグラ王女の部屋を出ていくのを見送って、俺は部屋の中へと入っていった。何て言葉をかけていいのか戸惑ってしまう。
「母上は負けたのです」
「そのようだ」
カグラが発した言葉に、俺はただ肯定することしかできなかった。
近づいて彼女を抱きしめるのが正解なのか? それとも慰める言葉を掛ければ良いのか? 本当にそれがカグラの望むことだろうか?
今の俺にはどうやって声をかけて良いのかわからない。
本来、あと2年後に女王は病気のため退位するはずだった。
すでに、病気で戦う力もなかったはずだ。
それでも娘が学園を卒業するまではと、気丈に振る舞っていた。
女王の事情を思い出しながら、カグラと女王の別れをさせてあげられなかったことが本当に悔やまれる。
「母上は病気でした」
「そうだったのか」
「ええ、それでも誰にも見せないで気丈に振る舞い、女王であろうとされました。ですが、厄災の魔女ベリベットは気づいていたのかもしれません」
「……」
「一度だけ問わせてください。これより王国は一年の準備期間を設けるように働きかけます。それはクイーン戦を行うための準備期間です」
「ああ」
カグラが何を求めているのかわかっている。
クロード王子を外に出して俺を残した理由。
そして、俺が、彼女に告げた言葉。
互いにわかり合っているからこそ、こんなにも早く選択を迫られることになるなど思いもしなかった。
「エントリーするまでに半年間があります。私はあなたとクイーンバトルに参加したいと思っています」
本当なら、残された二年間でクイーンを譲っても良いと思える人間を見極めて、カグラは自分が女王にならなくても良いと考えていたのかもしれない。
そうすれば、ずっと側に居れるから。
だが、こんなにも早く女王が死んで、クイーン戦が行われるとは思っていなかった。
「俺は」
「今、返事をしなくても構いません。半年後、あなたの気持ちを私が掴んでいれば、その時にはパートナーになっていてくださいませ」
「……」
「アンディ」
「ああ」
「ワタクシは母が死んだことで覚悟が決まりました。そして、それは決意になりました。厄災の魔女ベリベットは私が倒します」
賢い彼女の宣言は美しく、強い瞳に俺を映して告げられた。
それは俺がマシロの父であるアネモネ師匠を殺された時から決めていたことだった。いつか、マシロとレオの三人で厄災の魔女ベリベットを倒す。
乙女ゲームの作中でも様々な敵が現れるが、最終的なラスボスは常に厄災の魔女ベリベットだった。
「時間をくれるか?」
「もちろんです」
「一つだけ」
「はい?」
「俺も厄災の魔女ベリベットを倒したいという思いがあることだけはわかっていてほしい」
俺がアネモネ師匠のことを思い出しながら告げる。
そんな俺の言葉に、カグラは驚いた顔を見せた。
「……意外でしたわね。あなたにそのような思いがあったなんて」
「厄災の魔女ベリベットが、動いた理由が俺にあるかもしれないからな」
「どういうことですの?」
若干の怒りを含んだカグラの声に、俺は二年前に起きた事件の話をした。
遺跡で厄災の魔女ベリベットに遭遇したこと。
マシロの父であるアネモネ師匠が殺されたこと。
そして、厄災の魔女ベリベットが俺自身を狙っているであろうことを話した。
だからこそ、俺は学園に入った際に力を隠して己を磨くことに心血を注いでいた。
全てカグラに伝えた。
この話をしたのは、レオ以外ではマシロにも伝えていない。
「あなたを狙っている? 厄災の魔女が?」
「ああ、俺に死の匂いを感じるそうだ」
「ふぅ〜」
カグラが大きく息を吐いた。
「全く、一人の男性によって世界が狂うことがあると聞いたことはありますが、まさか厄災の魔女があなたを求めて女王を殺す暴挙に出るなど……」
「厄災の魔女ベリベットの考えていることはわからないが、わからないからこそあり得るんじゃないかと思っている」
「そうですわね。ならば、私が戦う理由がもう一つ増えましたね。アンディ、あなたは私が守ってみせます」
彼女の強い瞳に全てを委ねたくなる。
だが、彼女一人に全てを委ねて良いのか、俺はカグラを選んで良いのか……。
半年間で、それを決めなければいけない。
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