第69話 二人きりの祝杯
パーティーが解散して、それぞれが帰宅していく。
パーティー会場を離れると騒がしさがなくなり寂しくなる。
寮の近くまで帰ってくると、月明かりが見える中で、一息吐くことができた。
「トゥーリのことを抱きしめていましたわね」
「見てたのか?」
「見たくて見たのではありませんわ」
寮に送ってくれるというカグラと共にベンチに座って持ち帰ってきた飲み物で乾杯をする。
優勝したカグラと共に二人きりで祝杯をあげる。
授賞式や、お疲れ会のパーティーなども開かれたが周りには誰かが常にいた。
二人きりになれる時間が取れていなかった。
「随分とトゥーリを可愛がっておられるのですね」
「どうしてだろうな? トゥーリの側にいると落ち着くんだ。どこか自分と似ているような感覚がするからかな?」
「まぁ! 私の前でヌケヌケとよくも他の女性を褒めれますわね。いいですわ、それで? あなたとトゥーリが似ているというのですか?」
何故なのかはわからない。
だけど、トゥーリといる時間が一番無理をしない自分でいられるような気がする。
「カグラはこの学園の中で一番綺麗だと思う」
「まっ! きゅっ、急になんですの?」
「強さは一年次最強を証明をしてみせた。賢さも幼い頃から学び続けているだけはあるだろう。美しさも怠ることなく磨き続けている」
「あなた、酔っていますの?」
成人している俺たちは酒を飲むことも許されている。
酒の力を借りれば、普段は言えないこともスラスラと言えてしまう。
「そうかもな。カグラ、優勝おめでとう」
「ふん、酔って言われても嬉しくはありませんわ。それに、あなたの力も大きいですわよ」
「そうか? カグラは努力し続けてきたからだろ? それにマシロは魔力が尽きかけて、カグラには及ばないことがわかっていても手を抜かないで戦っていた」
「あっ、当たり前ですの。相手を軽んじることはしませんの」
照れたように飲み物を一気に飲み干すカグラ。
顔を赤くして、恥ずかしそうにしている姿はとても可愛い。
トゥーリとは違う意味で、彼女は理想的な女性だと思う。
もしも、元の世界で女性と付き合いたいと考えたなら、彼女は誰よりも高嶺の花として手が届かない存在に思えたと思う。
そんな女性が俺のことをパートナーとして見てくれていることはとても光栄だ。
「君は気高くて美しく、そして強くてカッコいい」
「なっ、なんですの? そんなにも褒めて何もしてあげませんわよ。ベッ、別にあなたが求めるのであれば、抱きしめてあげるぐらいはしてあげても良いですが」
そう言って両手を広げるカグラ。
俺はそんなカグラの薄い胸元に顔を埋める。
「こっ、コラ! ハグですわよ。 誰があなたの頭を抱きしめると言ったのです!」
「これじゃダメか?」
胸元から顔を上げて覗き込むようにカグラを見つめる。
「うっ!」
トゥーリの胸元は狂気じみて大きさがある、だがカグラの胸元は薄くて固い。
だけど、女性らしい良い匂いがして俺の頭を包み込む腕は優しかった。
「あなた、甘え坊ですのね」
「嫌いになったか?」
「ふん、そうですわね。あなたのような甘え坊は私のような完璧な女性しか支えられないと思った程度です」
カグラは最初から最後まで愛情深い人だ。
だからこそ、クロード王子からの愛情が得られなくて、ヤンデレ落ちしてブルームと一緒にマシロへ復讐するために動き出してしまう。
深い愛情を持つが故にその反動はどうしても大きくなってしまうのだろうな。
「カグラ」
「なんですの?」
「俺は誰か一人に縛られるつもりはない」
「えっ?」
「もしも、カグラが女王を目指した時に、一人の伴侶を求めているなら、俺は相応しくない」
「……バカですわね」
「えっ?」
ワシャワシャと髪の毛がグチャグチャにされてしまう。
「あなたは自由にしなさい」
「いいのか?」
「ええ、元々あなたは自由な人でしょ? 私のような完璧な女性を相手にしても物怖じするどころか、邪気に扱って、無視して、寝る始末です。ブルームなどは必死に私のご機嫌をとるのにです。お兄様も私を怒らせてないようにしています。それなのにあなただけは私の顔色など伺うことなく好き勝手にしていたじゃありませんか」
俺はそっとカグラの胸元を離れて彼女を強く抱きしめた。
「アンディ?」
「ありがとう、カグラ。今のこと以外で君に報いられるなら、俺はどんなことでもしよう」
「ふん、当たり前ですわ。言ったではありませんか、私以外にあなたを支えられる人間はいないと」
互いに強く抱きしめ合う。
トゥーリを包み込むように抱きしめたのは違って、カグラは互いに支え合うように抱きしめあった。
それはマシロやレオといる時とも違う絆に思える。
「さぁ、そろそろ帰りましょう。あなたが風邪を引いては困りますわ」
「ありがとう」
「それと、ハインツのことは心配しなくても良いのでは?」
「君もそう思うか?」
「アンディもそう考えていたのね」
「ああ、レオはオレオと姿を消した。それに、能力の覚醒もしていた。だから信じているんだ。強くなって帰ってくるって」
「ふふ、本当に良き友なのですね」
「ああ、親友だよ」
そっとカグラと唇を合わせて、部屋へと戻った。
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