落日
第68話 親友が消えた日
パートナー戦を終えて、年度末の最後を迎える学園では、年越しのパーティーが開かれていた。
学年の垣根を超えて集まった女性たちが、着飾ってパーティー会場で飲めや踊れやと騒がしい。
男性の参加者もいるが、パートナーとなった女性と親衛隊らしき者たちがしっかりとガードして騒ぎには近づかせないようにしていた。
「皆さん、本日の我々に課せられた任務はアンディウス・ゲルト・ミルディン様の護衛です。しっかりとそのことを肝に銘じて行動してください」
カグラが陣頭指揮を取り、キャサリンが細部を固める。
トゥーリは二人から戦力外通告を告げられたので、俺の隣で一緒に食事をとることにしていた。
「トゥーリ、大丈夫かい?」
そんな俺たちは喧騒から逃げるように、カグラが護衛してくれているので、トゥーリと二人でテラスの出て二人で休憩をとらせてもらう。
「はい」
トゥーリの親友であるオレオも、レオガオンと共に姿を消してしまった。
落ち込んでしまうのも仕方ないだろう。
「アンディ様も大丈夫ですか?」
「正直にいうならキツイな」
こんなイベントはゲームの中に存在しない。
悪役貴族であるレオの行動や言動、付き合う人間などには目を光らせていた。
厄災の魔女や、闇の結社、貴族令嬢たちなど注意する相手は全て抑えていたつもりだった。
だが、レオは俺の前から姿を消した。
誘拐されたのか、それとも自分の意思で消えたのか、それはわからないが学園全体からいなくなってしまったことは事実だ。
マシロも、カグラも、キャサリンも、みんなが協力してくれて探したが、学園の敷地内にレオを見つけることはできなかった。
闇の結社がどこかに連れ去ったことも考慮したが、今の段階で彼らがそこまでの行動を起こすとは思えないのだ。
女王が退位するか、死なない限りクイーンバトルは始まらない。
彼らが行動を起こすのは、女王がいなくなった後だからだ。
「アンディ様」
「うん?」
「私はオレオちゃんに呼びかけてみようと思うです」
「呼びかける?」
「はいです。私にはそれができる術があるのです」
トゥーリについては、あまりわかっていない。
平民出身で、ゲーム内にも登場はほとんどしていない。
俺自身が側にいることで安心する相手だと思えているんだ。
「無理はしてないか?」
「してないであります。私は私のできることをしたいと思います」
真剣な顔で俺を見上げるその瞳は、メガネ越しでもキラキラとしていて美しい。
カグラやキャサリンがいるからキスをすることはできないけど、もしも二人きりならキスをしていたと思う。
「ありがとう。それとトゥーリ」
「はいであります?」
「もしも、俺が君を欲しいと言ったら受け入れてくれるかい?」
「えっ?」
呆然とするトゥーリの頭には、ハテナが浮かんでいるようだ。
そんなトゥーリを頭を撫でて、夜空を見上げる。
「アンディ様」
「うん?」
「アンディ様はどうして女性が好きだと思えるのですか? この世界は女性が多くて野蛮な姿を見せることもあります。前回の盗賊襲撃を受けた時のように男性を強引に奪って行こうとする人もいます」
トゥーリに前世の記憶があると言えば信じてもらえるかもしれない。
だけど、今は俺自身の記憶よりも乙女ゲームの世界に生きる人たちを俺自身が好きになりつつあるということだ。
ミルディン家の家族は暖かくて、レオという親友がいて、マシロやカグラのようなゲームに登場していたキャラたち。
まるで自分が夢見た人たちと一緒に生きている。
それが最初は戸惑いばかりだったが、楽しいと思えるほどに生活が切り替わりつつある。
レオの行方は気がかりだが、どこかでレオを信頼している自分もいる。
今のレオなら困難に見舞われても自らの力で立ち向かっていけるだけの力を持っていて、俺はそれを手助けしてやる親友としての立場を守り続けるだけだ。
「明確にこれだと言えるわけじゃないけど、俺は女性の可能性を見ているんだと思う」
「可能性でありますか?」
「ああ、カグラに感じるカリスマ性。マシロに感じる成長力、トゥーリに感じる癒し。キャサリンに感じる狂気。それぞれから見える魅力がとても可能性に見えるんだ」
俺はテーブルに置かれていた飲み物を口に含んで、室内の警備を担当しているカグラを見る。キャサリンもどこかにいるだろう。
「だから全員を魅力的だと思うし、一人を選ぶことができないと思ってしまう。それを優柔不断だと怒られるのも仕方ないと思っているよ」
「お優しいのですね」
「優しい?」
「はい。この世界の女性は強さ、美しさ、賢さを求める傾向にあります。私は全てを持つことはできませんでした。強さも美しさも賢さもカグラ様は一番であることを証明しました。キャサリンさんもカグラ様に及ばなくても証明したと思います。だけど私だけは遠く及ばない。それでもアンディ様は私を側に置いてくれています。カグラ様もキャサリンさんも受け入れてくれて」
トゥーリの瞳に涙が浮かんでいる。
オレオがいなくなって悲しいと思っているのだろう。
それでも健気に強くあろうとするトゥーリを抱きしめる。
今だけは、彼女のパートナーでいよう。
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