第66話 一年次パートナー戦 14
俺から見れば、マシロはまだまだ荒削りだ。
確実に強くなっていることは認めるが、それでもまだまだ上位人に及ぶほどではない。
各貴族にはそれぞれ姉がいて、ミルディン家のレティシア姉さんなどは可愛い方だ。ブルームの姉であるアイスさんなどは、厄災の魔女ベリベットと相性がいいというだけで撃退できてしまうほどに強い。
厄災の魔女は乙女ゲームの中でも最強クラスに位置しているのにだ。
戦い方や相性なども戦いにはどうしても生まれてしまう。
「そして、今回の相手は」
イゾルデ。
アスタルテさんと同じ立場の人間で、グリーンの護衛を務める女性だ。
幼い頃から、グリーンを守るためだけに鍛えられてきた彼女の強さは本物だ。
「どっ、どちらが勝つと思われますか?」
「トゥーリも気になるのか?」
「はいです! 今までの戦いをアンディ様は観に来なかったであります。ですが、イゾルデさんとマシロさんの戦いだけは観にいくというので、私を連れてきた理由と同じぐらいに興味がありました」
イゾルデは、正確無比な殺し屋と呼ばれている。
彼女は唯一、この一年生しかいない大会で上位クラスと対等に戦いができる実力を持つ選手なのだ。
今のマシロで対処ができるのか、それが知りたくて見にきた。
「多分だけど、カグラが負けるとしたらイゾルデ選手だろうな」
「えっ? カグラ様でも勝てないのですか?」
「ああ、彼女はそれほどまでに強い」
「そんなに!」
イゾルデの戦いを一度は見ていたくて、クロード王子とミドリさんの戦いを見に行ったが、開始と同時に終わってしまって見れなかった。
「トゥーリが興味があるなら、開始と同時にマシロのことを見ているといいよ」
「マシロさんを?」
「ああ、そこにイゾルデがいるから」
「えっ?」
俺の宣言に応えるように、グリーンとクロード王子が何か話をして、離れると試合が開始される。
「準決勝第二試合を開始します」
開始の合図と共にイゾルデの姿が消える。
次の瞬間にマシロの横に現れて、決着をつけるために短剣が振るわれる。
だが、それをマシロはトンファーで受け止めた。
「なっ!」
「第一試合を見ていて良かったよ。知らなかったら今ので終わってたね」
「ふっ」
イゾルデはマシロの言葉を聞くと同時に消え失せる。
彼女の能力は瞬間移動と呼ばれる特殊魔法だ。
どのような原理なのかわからないが、一瞬で空間を移動することができる力はかなりの脅威だ。
普通に使うのに難しい魔法ではあるが、幼い頃から鍛え続けてきたイゾルデは、瞬間移動を使った戦いを完璧にできるようにできている。
「あなたの動きについていけないことはわかっているから、待ち構えたりはしない」
マシロの判断は正解だ。
待ち構えて仕舞えば、相手の瞬間移動に対処ができなくなってジリ貧で負けてしまう。だが、姿が見えている場所を追いかけ続けることで、イゾルデは逃げるのか反撃するのか二択を迫られる。
手数が限られていれば、マシロは見失った場合は反撃を警戒して、姿が遠くに見えている間は追いかけ続ければいい。
ただ、これにはイゾルデの魔力に対して、マシロは集中力と体力が必要になる。
どちらにしても長期戦が望める戦いではない。
イゾルデの魔法も特殊魔法なだけあって、魔力の消費が激しい。
これはどちらが我慢比べに耐えられなくて魔力と体力を切らしてしまうのか? それを競うための戦いだ。
「どうしたの? もう移動しないの?」
「うるさいですね」
マシロの言葉に反論をしなかったイゾルデが大量の汗を流しながら反論する。
瞬間移動ができる回数が限界に近づいているのだろう。
マシロの攻撃を受け止めて、その顔には焦りが見える。
涼しい顔で戦いを見ていたグリーン。
拳を握ってマシロを応援するクロード。
正反対のパートナーと同じく決着が着こうとしていた。
「魔力は私の方がまだあるよ」
「うるさいと言ったのです」
マシロがさらに追いかけるために加速の魔法を使う。
強化魔法を得意として、さらに冒険者として近接戦闘を得意としているマシロは、体術でもイゾルデに負けないほどの力を見せた。
イゾルデは魔力を消費したことで次第にマシロに押され始める。
誰もがマシロの勝利を確信した瞬間……。
イゾルデが消えた。
「使えないと思いましたか?」
「ううん。信じていたよ。最後は絶対に瞬間移動するって」
イゾルデがトドメを刺そうと瞬間移動した先にマシロが待ち構える。
だが、それをイゾルデも読んでいた。
「私もです。あなたなら私の瞬間移動を見極めると」
「えっ!」
イゾルデの体が消えてマシロが視線を彷徨わせた。
しかし、イゾルデは同じ場所に出現して、短剣をマシロの首に当てる。
マシロはその瞬間に罠を仕掛けてきた。
光が放流して、イゾルデの短剣を弾き飛ばした。
二重三重の駆け引きが行われた攻防は、マシロに軍配が上がる。
「やりますね」
「うん。決勝で待っている人がいるから」
「そうですか。ご武運を」
汗だくのイゾルデさんが倒れそうになるとグリーンがそれを受け止める。
「グリーン様、申し訳ありません」
「構わん。十分だ」
言葉少なめにグリーンは、イゾルデを抱き上げて退出していった。
マシロも息も絶え絶えでクロード王子に肩を借りて退出していった。
「さぁ戻ろうか、俺たちの試合は一時間後だ」
「あの状態のマシロさんと!」
「本来のクイーンバトルでも連戦が強いられる時がある。それを乗り越えるための戦いは絶対にいるんだ」
マシロの状態は万全ではない。
それでも決勝を迎えることになる。
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