第63話 一年次パートナー戦 11

 強化魔法を解いたマシロの気配が強くなる。


「光よ」


 眩い光が、マシロから発せられる。


 自然魔法の強い光。


 これがマシロの覚醒一段階前だ。


 マシロは自分一人で、覚醒に至ったのか、それともクロード王子と共に至ったのか、それはわからない。


 だが、俺が知らないマシロの姿に、ここからはキャサリン次第の戦いになる。


 俺がキャサリンを見れば、キャサリンは微笑んでいた。



《sideキャサリン》


「提案があるのですが?」

「提案?」

「ええ、私はアンディウス様の子供が産みたいと思っております。カグラ王女様にも勝利して、パートナーになりたい。ですから、今回の戦いで私が勝ったなら、二度とアンディウス様に近づかないでいただけないでしょうか?」

「なっ!!」


 これは私とマシロさん二人だけの契約。

 だって黒髪の雌豚よりも、この白髪の元気っ子の方が、幾分もアンディウス様と親しいのですもの。


「もちろん、あなたが勝利した暁には、なんでもいうこと聞きましょう」


 もしもアンディウス様に近づくなというなら、絶対に殺すでしょうけどね。


「……キャサリンさんが、アンディのことを好きなのはわかったよ。だけど、友情を引き裂くなら私は絶対負けない。そして、別にキャサリンさんの恋路を邪魔するつもりもない。だけど、私の邪魔もさせない。だから私が勝ったなら正々堂々と恋愛でも戦ってもらう」

「あら、それはあなたもアンディウス様のことが好きってことかしら?」

「ごめんね。まだそれもわからないの。だけど、好きになる可能性がある人を最初から諦めるつもりはないよ」


 忌々しいですが、どこかで面白いと思ってしまう私がいます。


 いいでしょう。


 まずは魔法で正々堂々戦って差し上げます。

 アンディウス様が考えてくれた作戦を試したいですからね。


 互いの魔法を駆使して相手を翻弄していく。

 

 ああ、面白い。


 本当に強い


「光よ」


 彼女の雰囲気が変わった、全身から発光されることで、視界が奪われた。

 霧で多少は眩しさを軽減しているが姿が見えない。


「あなたのお株を奪ったよ」

「面白いですわね」


 私は杖を操作して、彼女の奇襲に防御をした。

 それが精一杯の抵抗です。


「くっ」

「大丈夫か?」

「アンディウス様!」


 私は壁に激突すると思った瞬間に、アンディウス様が抱き止めてくれました。


 その右腕にパワースーツを纏っていることから、それほどの衝撃で飛んできた私を受け止めるのは、アンディウス様自身にも危険があったことでしょう。


「ありがとうございます! ですが、大丈夫です」

「まだやるのか?」

「もちろんです。ここから女の意地をお見せします」

「そうか、存分にやってくるといい」


 きっと今の私ではマシロさんに勝てないとアンディウス様は思っているでしょう。


 だから、我慢ならない。


「精神魔法の真髄を見せて差し上げます。霧よ」

「それはもう見たよ。光よ」

「いいえ、あなたは霧の恐ろしさをまだ知らない」


 私は霧の中に幻影を混ぜて、実物と幻影の両方に魔力を流し込むことで、全方位からウェーブを作って超音波を発生させる。


 超音波は、精神魔法の効果を何倍にも上げてくれる。


「なっ!」

「時間が経つにすれて、三半規管がやられてあなたは立っていることもままならなくなってくる」

「ううう」


 今頃脳が揺れて、気持ち悪いと思っていることでしょうね。

 だけど、それで終わらせては私の勝利は確実にならない。


 だから、追い討ちをかけさせてもらう。


「精神魔法、汚染!」


 ごめんなさいね。あなたの心を壊させてもらう。


 そうすることで、あなたをアンディウス様が選ぶことがなくなることでしょう。


「ごめんね。大技を撃つのを待ってたんだ。反響反射」

「なんですって!」


 私の超音波を使った精神魔法が、反響するように自らの元へと返ってくる。


「霧の中じゃ見えなかっただろうね。私は光の中に鏡を作り出していたんだよ。あなたが精神魔法使いだから、最後は絶対に精神魔法を使ってくるってかけていたんだ」


 立っているのも辛くなっていく私に、辛そうな顔をしたマシロさんが解説をする。


 耐える時間にも蝕まれていたでしょうに。


「私が!」

「ごめんね、提案されたからには絶対に負けてあげられない。光よ!」


 マシロさんの杖先に光が集まり放たれる。


 身動きができない私に追い討ちをかけるマシロさん。


 やられた! 私がするはずだった全てを返されてしまった。


「俺たちの負けだ」

「えっ?」

「あっ!」


 倒れる私の前でアンディウス様がマシロさんが放った光の魔法を弾いた。


「アンディ」

「マシロ。強くなったな。認めるよ。キャサリンはここまでだ。そして、決勝でカグラと待っている。その時は勝てるとは思わないでくれ」


 私はアンディウス様にお姫様抱っこされてしまう。


「キャサリン。よくやった。とても良い戦いだった」

「ありがとうございます!」


 精神魔法使いはお世辞にも綺麗な戦いではない。

 だけど、アンディウス様はわかってくださっているのだ。


 やっぱり大好きです。アンディウス様。


 私の全てはあなたのものです。

 

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