第61話 一年次パートナー戦 9
闘技場で、女性同士が向き合って舌戦で張り合いながら距離をとる。
俺の視線にはクロード王子が収められていて、少し不思議な気分になる。
これまでクロード王子には接点がなかったが、彼は俺に興味がないとばかり思っていた。
だが、その視線は、どこか俺に対して敵意を向けているように感じる。
だから、俺はゆっくりと近づいて握手を求めた。
「お互いのパートナーが活躍できるように健闘を祈りましょう」
「断らせてもらおう。今から戦う者と組む手はない」
「そうですか」
俺は差し出した手を宙に彷徨わせて、自分のポケットへ戻した。
「一つ貴殿に問いたい」
「はい?」
「マシロは我が貰っても?」
「なぜ、俺にそんなことを聞くのですか?」
「マシロは、いつも貴殿とハインツの話をする。我の指示に意見する時もある。その時は決まって貴殿の話が持ち出されるのだ」
うむ、これまで一緒に戦ってきたマシロが、俺の考え方を持っていても不思議ではない。
「……それを決めるのは、マシロであって、俺ではありませんよ」
「本当にそうだろうか? 誰もが女性ならば強いというわけではない。マシロは誰かの指示を貰いたいと思っているような女性だ。我が指示を出すことで彼女を輝かせる。それで良いと貴殿は思っているのか?」
なるほど、天然タラシのクロード王子が、俺にどうして敵意を向けてくるのか、やっとわかった。マシロが俺の名前を出していたからだ。
単純に俺がマシロの幼馴染だからという理由だと思っていたが、意外な答えに俺は面白いと思ってしまう。
「その答えもこの大会が終わればわかるのではないでしょうか?」
「なんだと?」
「俺は、カグラ王女に優勝をプレゼントすると伝えました。あなたはどうですか?」
「我だって!」
「本当に? マシロに優勝を? 他にも二人の女性がいるのに?」
「……」
クロード王子がどこまで本気でマシロに気持ちを持っているのかわからない。
だけど、俺から言えることは、結局は同じだ。
選ぶのはマシロであって欲しい。
マシロが俺やレオと共に戦いたいと思うのか、それともクロード王子と新たな縁を結んでいくのか、それは彼女の人生であり、彼女自身が選ばなければいけないことだと俺は思う。
「答えられないあなたに何かを語る資格はない」
俺はクロード王子の側を離れてカグラ王女の横に立った。
「なんの話をしていましたの?」
「カグラ」
「なっ! あなた呼び捨てなどしていいなどと!」
「俺は君に優勝をプレゼントするよ」
「……何を当たり前のことを言っていますの? 私は最初から優勝しか見ていませんわ」
カグラは獰猛な戦士を思わせる瞳をして相手を見据える。
「ああ、それを一緒に目指すと宣言したんだ」
「ふふ、いいでしょう。同じ気持ちになれたことを嬉しく思いますわ」
「ああ、だから、ここは余裕で勝ちたい。相手は水を使う自然魔法使いだ」
「そうですわね。策はあるんですの?」
「もちろんだ」
俺はカグラに戦い方を指示して、それを聞いたカグラは驚いた顔を見せる。
「そんな単純なことで?」
「ああ、信じられないか?」
「いいえ、あなたのことを信じています。それと」
「それと?」
「あっ、あなたが私をカグラと呼ぶことを許してあげます。ですから、私もアンディと呼ばせなさい」
「もちろんだ。俺たちはパートナーだろ?」
「ふん。行って参りますわ」
カグラが、闘技場の中央に向かう途中で顔を赤くしていたような気がするが、気のせいだろう。
彼女は強く気高き人間だ。
愛する者(クロード王子)が手にはいらなくて壊れてしまう、ヤンデレに落ちるシナリオが存在するが、今ではちゃんと自立している。
それにマシロがクロード王子以外を選んだ際には、気高き魔導士として、もっとも誇りと魔法に真摯に向き合う女性として、俺はゲーム内でも好きなキャラだった。
ヤンデレに落ちると厄介だが、それ以外の彼女は常にマシロの前に立って戦闘を行う素晴らしい女性なのだ。
「カグラ様、一瞬で終わらせてあげますわ」
対戦相手が、水で作り出した矢を飛ばしてくる。
一瞬で倒すと言いながら、その実、堅実な魔法を使ってくる相手。
乙女ゲームの中に登場するネームドキャラならどんな戦い方をしてくるのか、ある程度は知識を持っている。
そして、決勝大会に勝ち上がってきた女性たちには個性があり、ネームドキャラとして戦い方を知っている。
「あなたは昔から姑息ですわね。堅実で面白味のない」
「なっ!」
まずは、カグラに相手を挑発させる。
挑発の仕方は、褒めるの三割、それを貶すの七割だ。
「貶しているのではないですよ。堅実で手堅い性格なのは素晴らしいですわ」
「褒めていないじゃない!」
「いいえ、褒めていますわ。私にとっては戦いやすくてありがたいですもの」
肉体強化魔法を使ったカグラが距離を詰める。
「甘いです!」
挑発を受けても真面目な彼女は型通りの魔法を選択する。
いや、挑発したからこそ、自分の慣れた戦い方に固執してしまう。
「甘いのは、あなたですわよ」
近づいてくるカグラに、二つの水魔法を発動した。
カグラを近づけさせないように水の壁を作り、さらに、その壁から発生させる水蛇を使ってカグラを襲わせる。
「来るとわかっている攻撃は簡単に対処できますわ!」
「アオノ!」
クロード王子が叫んだ時には遅い。
水の壁によって歪められた視界の前に、真っ黒な壁を作り出して、姿を見失わせる。
カグラは真っ暗な壁の後ろに踏み台を作り出して、水の壁を越えるように跳躍した。
カグラを見失った相手の上から狙いを定める。
「操作魔法は得意ですの」
黒い弾丸が、頭上から降り注いでアオノ・ハーラー・マックーロは意識を失った。
「やりましたわ!」
単純な目眩しの応用に過ぎない。
だが、真面目で堅実な相手ほど、意表に弱くて通じやすい。
「くっ!」
「勝者カグラ・ダークネス・ヤンデーレ!!!」
クロード王子の悔しそうな顔と、カグラの勝利宣言で会場は大いに沸いている。
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